「車の格」(1996年06月03日〜06月05日号)
最近は輸入車が安くなったせいか、外車を乗る人が増えた。

まあ、それ自体は別に良いことだ。

しかし日本での事情を考えると、外車を購入することを
安易にはおすすめはできない。
1つ目は、日本の道路事情にあっていないということ。
日本の道路は狭い。そこに大きな外車で走ったどうなるだろうか。
狭い路地、山道などで往生している外車を見ることがある。
(miniのような小さな外車もあるが。)

多くの道路設備は右ハンドルに合わせて作られている。
高速道路での自動発券をみると、最近でこそ左右両方あるが、
左ハンドル用は少数だ。さらに、ドライブスルーなどではほとんどが
右ハンドル向けだ。
要するに不便なのだ。

2つ目はメンテナンス。
日本の車なら、ほぼ日本中どこでも修理などのサービスが受けられる。
部品の調達も早い。
ところが外車ではこうはいかない。車種によっては1月以上部品取り寄せにかかる。
車検が1月かかるなんてよくあることらしい。

3つ目は性能。
最近でこそ良くなったが、外車の燃費は悪かった。
特にアメリカ車は悪く、リッターあたり2キロくらいもよくあったらしい。
さらに故障しやすい。アメ車ではアメリカ縦断できないが、日本車では出来るとか、
イタリアのアルファロメオなんか、壊れないで長距離走れる方が珍しいと聞く。
その点、日本車の故障率は実に低い。
それに先のメンテナンスのしやすさがからむとどうなるか。

アメリカで日本車がよく売れたのは、この性能の差があったからだと言われる。
安いからではない。実際、ホンダ(アキュラという名前でも売られている)の
アコード(2000cc)はアメリカでは高級車だったのだ。
それでも売れたのは、やはりアメリカの消費者は馬鹿ではないということだ。
ビッグ3や一部の馬鹿議員はそうは思わなかったようだが。

        ・・・

今は輸入車でも右ハンドルは増えたし、ディーラーも増えた。
性能も上がったので上記3点は当てはまらない、と思う人もいるかもしれない。
しかしまだまだである、と私は思う。
まあそれはそれ、それを承知の上で外車に乗るというなら
私は別に止めはしない。

        ・・・

今回の話はそういうことを言いたいのではない。
「外車に乗っているに人に風格がある(金持ち)」かどうかである。

外車に乗る意味には主に2つ有ると思う。
1つはスタイル・内装が良いということ。
確かに輸入車には日本車にはないスタイルや内装を持ったものもある。
元々同じ車なのに、日本で組んだものと外国で組んだものとで味付けが
違う場合もある。(名前を忘れたが、元は同じホンダ車が日本とヨーロッパで
別の会社で内装をされた結果、全然違う感じを持ったことがある。)

女性の中には日本車のスタイルがいやだと言って、デザインだけで
ヨーロッパ車を買う人もいる。その後のメンテナンスが大変なのも知らずに。
ベンツやシトロエンにも固定的なファンがいるらしい。
私には解らないが、そんなもんらしい。
(一種のブランド志向だと思うが。)

数年前までは日本の車は性能が良くても風格がないと言われた。
確かにベンツのSクラス(一番上)に乗ると、その乗り心地、
静粛性には驚かされる。内部にもどこと無く風格がある。
走る応接間という感じだ。
日本にはそういう車はなかった。
が、今はトヨタのセルシオなどがいい線を行っている。
そして、性能的にはベンツよりずっと上だ。

外車を選ぶもう1つはステータスシンボルとして。
今も少し高いが、昔は外車は国産よりずっと高かった。
そこで、外車を買える=金持ちというイメージが未だにあるらしい。

ところが困ったことに、最近外車や国産でも高級車に乗っている連中に
品のない連中が実に多い。
こういう連中は明らかに「外車=高級=金持ち」と思いこんでいる。

        ・・・

よく考えてみるとこれはおかしい。
外車に乗っていなくては金持ちではないのだろうか。
そうではない。本当の金持ちというのはケチなものだし、
風格というものは乗っているもので決まるものではなく、
さりげないしぐさや持ち物、思考で決まる。
乗っている車は一例であって、すべてではない。
(家が小さく狭いからせめて車だけでも、と大型/高級車に乗る輩も
多いと聞く。)

結局、外車=金持ち思考をしている奴等は車に乗られているのだ。
車というものでしか自分の格をアピールできない、
持っているものでしか自分のイメージを決定できない、
実は自分というものを持っていない人間なのだ。

実際そういう連中の行動を見ると、どれほど低俗か。
やたらと飛ばす、無謀運転、路上駐車。
サービスエリアではゴミを散らかし、煙を吐き散らして空気を汚す。
本人は乗っていることをアピールするために目立たせようと
しているのだろうが、実に愚かしい。
高級車を路上駐車している人間を見ると、
「駐車場に入れる金もない貧乏人」に見える。

人間の格というものが、見た目ではないと言うことは、
かの一休さんも言っている。(この逸話は知ってますよね。)
昔からわかっていることなのに、未だにそういう奴等が後を絶たないのが
嘆かわしく、それが日本人の浅はかさだと思える。
日本人の浅はかさについては、また別の例を挙げて話すことにするが、
とりあえず、「高級車に格を感じ、あえて高級車に乗るなら、
それにふさわしい人間になれ」ということである。

ベンツに乗っていても馬鹿は馬鹿、
軽に乗っていても金持ちは金持ちなのである。
乗っている人によって車の格が決まるのである。
車の格で決まるのではない。

そのところを決して間違えてはいけない。
よするに「心がけ1つ」なのである。
<戻る>