「ケンイチの言い分」(1998/02/04〜02/18号)
「ケンイチ」と言っても某社3バイトの彼ではない
(再編集時注;この彼に付いては、別のネタで紹介。)
竹村健一である。名前は知っているであろう。
ちょっと前に(かなり前?)「私はこれだけですよ、これだけ」という
CMに出ていたおっさんである。

このおっさん、経済評論家ということで、あちこちに呼ばれて講演しているらしい。
去年の始め、某SKというコンピューターソフトウエアの会社に呼ばれた時の
講演の内容を読む機会があった(注;ここを書いたのは去年なので、正確には去年
の去年)。その会社が出している広報誌の「飛龍」というものに書いてあったのだが、
それを読んで、一言書かなければならない気がしたので書くのである。
基本的には、それを読まずともわかるように書くが、
読んでいない人にはちょいとわかりにくい部分もあるかもしれない。
(原本はもうすでに手元にない。これを書き始めた時には持っていたのだが、
「何」したときに捨ててしまった。)

        ・・・

で、竹村の言い分である。
コンピューターソフト会社に呼ばれているので、やはりそれに良いように言っている
部分があるが、基本的な話の流れは、

        1、これから必要なのは大規模空港である
        2、今の社会の変革は50年に一度の大変革である

ということである。
2に関しては異論はない。50年に一度かどうかはわからんが、
確かにそうである。が、1に関してはどうだろうか。

彼は歴史を紐解いて、過去に置ける都市の栄枯盛衰を見て、
その時何があったのでその都市が繁栄・没落したということを言っている。

        ・・・

例えば、大阪は江戸時代は日本の商業の中心だったが、明治維新で大打撃を被った。
それは、大阪商人が大金を貸していた大名が廃藩置県によってなくなり、
さらに明治政府が「返さんでいい」と言ったために焦げ付いたためである。
しかし「これからは国際的な船の時代」といって、大阪湾に大きな港を作ったために
その後の船時代に乗り復興した。当時の大阪府にはそんなお金はなかったが、
今の富士銀行の前進の安田が当時の大阪20年分の予算を出してくれたために出来た。
今を持って、大阪府のメインバンクが大阪の三和ではなく、東京の富士であるのは
そのためで、富士銀行は、一時の出費の見返りに大きな富を得ている、
というのである。

そして、今の大空港時代、関西空港の滑走路を増やせないとはどういうことか、
というのである。滑走路を増やすのに必要な予算は、今の大阪府の2年分の
予算で済むのに、というわけだ。

その他の例としては、山口や栃木は列車を走らす際に、それを拒んだ
(汽車の煙で汚れる)ので今は田舎の小都市に過ぎないと、逆の衰退の例を
上げている。(そういえば、松屋町は市電や地下鉄が通るのを嫌がったために
人の足が遠のいて寂れてしまった、というのもある。
長堀鶴見緑地線の開通を待ちわびた関係者も多いはずだ)

確かに、この話は間違いではない。でも、正しくもない。
彼はもっと多くの話をしているのだが、それに一貫している論点がある。
それは「経済中心」である。

先に、さっきの例の間違いを指摘しておこう。
大阪の話は正解。実は神戸も同じにして繁栄した。
でも列車はそうではない。列車が通っていても小さな都市はいくらでもある。
大きな港があっても大都市に成りえなかったところもある。
交通手段は重要だが、それを生かす商売が結びついてはじめて都市は発達する。

お金を出した・・・の話だが、昔と今とは税金の制度が違い、
企業といえども一都市の年間予算ほどの大金を貯め込めない時代だ。
昔はそれが出来たから、出してやる、という豪気な人間もいたが、
今の時代、それは難しい。
だから、当時と今を比べて話しをすること自体ナンセンスである。

        ・・・

現在の世の中は1つの国の中での商売云々では収まらず、
国際的競争、もしくは国際市場への展開、国際市場の利用を考えなければ
いけない時代である。さらにその速度が問題となる。
そういう意味で、海外との窓口になる確かに空港は重要ではある。
海外とのやり取りなら船でも行けるが、スピードの問題がある。
特に物流の面ではそうである。

しかし、人の行き来=情報のやり取りについてはどうだろうか。
答はNoである。重要ではない。
なぜなら、今は人が直接動く必要は、どんどん減っているからだ。

国際的な通信手段の確立。
インターネットの実用化は国間での人の移動を不要にしている。
いや、もっと身近なところでは、SOHO(Small Office Home Office)という
ものがあり、在宅勤務が夢ではなくなっている。
会社に行くことすら不要になる時代が、近未来には有り得るのだ。

こういう状況で、物流だけが前近代的な大規模完成物移動でありえるはずはない。
いつかか成らず変わってゆくだろう。
現地組立が当たり前になれば、輸送費をカットでき、
さらにコストダウンも図られ、競争力がつく。
この手を逃すと、企業は将来的に痛い目を見るかも知れない。

結局、大空港を作る必要は、物流だけの面ではまだ数年はあるが、
もっと遠い将来を見据えれば、必ずしも必要ではない。
むしろ、あんな広い土地を必要とするものは、無駄なだけになるかも知れない。

        ・・・

彼にはきわめて近い未来を適当に言う力はあるが、
もっと遠い未来まで見通す力はない。

1〜20年先まではかろうじて読めているが、50年、100年後は全く
見えていない。
また、その視野にあるのは「人がいない」経済であり、「人のいる」社会はない。
それが限界である。

しかし、これは彼が経済学者、いや経済ジャーナリストであることを考えれば、
必ずしも間違った言い分ではない。

        ・・・余談・・・

こういう先を見据えるかどうかの話は、「原発賛成/反対」でもよく聞かれる。
原発は環境や危険性から考えれば反対されるはずだが、
それでも実際に建設されるのは、それによって多額の法人税と国からの補助が
出るからである。しかし、その補助も確か20年間くらいだけだし、
原発そのものは50年しかもたない(なぜかはよく知らないが、たぶん放射線の
影響だろう)。だから次々と作る必要がある。
電力事情だけで増設しているわけではないのだ(電力会社の嘘を見抜け!)。
50年以上先を見据えることが出来るなら「反対」であるが、それまでのしのぎも
必要だから、「賛成」せざるをえない部分もある。地元の人も「必要悪」と言って
いる。事実、原発が出来てから町はかなりきれいに整備された(柏崎の場合)。
他の地域の人がとやかく言うのは簡単だが、過疎の地域の「当座しのぎ」の問題は、
それほど甘くはない

        ・・・

経済では、少なくとも今の日本の経済では、目先の利益を追うのが主流である。
このため、目先の利益を表帽する彼のような者達がもてはやされる。
逆に言えば、そういうことを言わなければ、彼らは生きてゆけない。
夢物語では、誰もお金を出してくれないのだ。

        ・・・

これからの未来を見据える上でのキーワードは、
「情報通信」と「環境」である。
この2つをつかんでおかないと、未来の流れにはついてゆけない。

        ・・・

彼、いや彼と同類の「彼ら」は、大花火の打ち上げかたには熱心だが、
足もとに火が着いていることに気が付かない。
環境の重要性に全く気が付いていず、「今」儲けることだけに御執心である。
そんな奴の話も熱心に聞く奴らが多いと言うのも今の日本の愚かさではなかろうか。

20世紀は人を無視した時代であった。
戦争/公害・環境破壊/ストレス/病気の蔓延はすべてその結果として
起こったことである。

儲け中心で良いなら、病気をはやらせ、国土・自然を破壊すれば良い。
これからも。しかし、いつかはそのつけが来る。
いやもうすでにそれは出てきている。

まるで獣の様・・いや、獣の方がよほどまともである。
彼らは自分の住む環境、自分の子供達の生きる社会を破壊するようなことはない。

今の子供・人身心破壊は誰のせいか。儲け一辺倒で突き進んできた社会の
つけの現れだ。「最近の若いもんは」などと言うことを年寄りがいるが、
「おまえ達がそれを作ったのだ」そう言ってやりたい。
今の年寄りに必要なのは厚生年金ではなく、間違った方向にある若者を
正しい道へ戻すことであり、それはある意味義務でもある。
それができない奴らに年金を与える必要はないし、席を代わる必要もない。
危ない発言だが、そう思うことも多々ある。

        ・・・

21世紀は人を見つめ直す時代である。
本来人間があるべき世の中と環境を取り戻す、いや今となっては創り出す
時代なのである。
だからキーワードは「環境」となる。

嘘だと思うなら自動車業界の動向でも見ると良い。
三菱のGDIを初め、トヨタのプリウスのように、環境を重視した車が
出てきた。いや、今後はこういう車でないと売れない時代が来るだろう。
逆に言えば、そういう車を出さないメーカーは潰れる時代が来る。
(CO2削減に後ろ向きなアメリカが、そのエゴ故に衰退するのは
時間の問題かも知れない。)

        ・・・

「ケンイチ」は文明評論家と称しているが、結局は「経済評論家」に過ぎなかった。
しかも過去の延長上での話かできない、想像性の少ない話しかできない
者であった(想像性が少ないから今から類推でき、頭の固くなった連中にとっては
分かりやすい話である)。

こういう連中の言うことは「それはそうだ」とばかりに聞き入っている
ような奴がトップにいる会社は危ないぞ。
(はっ、ということは某SKは・・・。)

・・・一方の3バイト「ケンイチ」は1年後、いや半年先ですら見えていないのだが。
(例のリストには絶対に載っているはずだから、来年、某社には彼の席はない
・・・ということすら、ひょっとするとわかってないかも知れない。あぁ、おろかしや。)
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