「バスの話」(1999/08/23〜09/01号)
大阪のバスは後乗り・前降りで後払いである。
関西(京都、和歌山)、岡山、広島、松山、九州(福岡/別府/熊本)、金沢、新潟も
そうである。
私がそれまで知る限り、空港バスのような出発点と終点がほぼ決まっているバス以外は
すべてそうであった。
市電もそうだ。
全国のバス、どこでも同じだろう・・・そう思っていた。
ところが、横浜のバスはそうではなかった。
(後日談;東京も横浜型であった。)

横浜のバスは前乗り・後降り、前払いである。
そんなことは知らずにいたもんだから、驚いたし手間取ってしまった。
それはまあ表面だけの話。

そんなことだけではネタにしないが、これにある事情と分析が加わると
立派なネタになるのである。

        ・・・

まずはこの両者のバスを単純に比較した表を書いてみよう。

                        大阪型バス              横浜型バス
        -----------------------------------------------------
        乗車            後                      前
        降車            前                      後
        支払い          後                      先
        両替            あり                    なし
        -----------------------------------------------------

乗り降りの前後の違いなんぞ大したことではない、と思われるかも知れないが、
実はそうではない。この2つの違いは、両地の文化の違いを如実に
示しているのである。

        ・・・

後払い・前払いの差が、物理的にどこから生まれるかというと、
まずは料金が一定であるかないかの差からである。
もっと言えば、走行距離が長いか短いかの差といっても良い。
近畿圏や新潟などでは走行距離が結構長くなることがある。
もちろん、その距離に応じて値段が上がる。このため、先払いが出来ない。
乗客は出来るが、バス会社から見れば、それが正しいかどうかわからないので
やはり駄目である。
(距離が物理的には短くても、行政区を越えるために料金が変わることもある。
樟葉あたりの京阪宇治交通バスの枚方市内と京都府内での料金の違いや半壊電車
・・・もとい、阪堺電車の大和川境の料金変更を考えるとよくわかる。)
横浜のバスが前払い出来るのは、走行距離が比較的短く、料金が一定である、
という条件があるから出来る技である
(本当は料金は2つある。川崎市内料金と横浜市内料金である。
それぞれ¥200、¥210の違いがある。差が小さいので先払い可能なのだろう。)

物理的にはそれだけの差なのだが、実はここには物の考え方、理論的な違いも
考えられる。

1つは、大阪人は「せっかち」だからである。

実は先払いの場合、乗る時に料金を払うため、乗るのに時間がかかる。
特に最初のバス停や駅のバス停などでは人数が多いため、その時間は結構かかる。
この時間は結構長い。おそらく、この時間を大阪人は許せないであろう。
「そのかわり降りるのが早いから良いのでは?」と思うかも知れない。
ところ、乗る前にお金を用意するのは、それに慣れている人にとってはいいが、
そうでない人には乗るのに手間取ることになる。
後払いなら、車内でゆっくり準備出来る。
両替だって、降りるまでに済ませれば良い。
だから、降りる時に支払う方が早くなる。
この違いは結構大きい。

        ・・・

もう1つは、「先にサービスを提供する」「先に金を払う」の考え方である。
実はバス以外の公共機関では先払いである。列車、飛行機、船、みんなそうである。
ところが、それらはみんな切符というものを買えるか
もしくは目的地が一定で途中下車が不能だから可能なわけである。
バスのように直接お金を払うものの場合、後払いの方が多い。

これは根拠はないが、大阪人には後払いの方があっているように思う。
「良いことしてもらったから、お金払わしてもらいます」である。
何故そう思うかというと、牛丼では後払いの吉野屋の方が先払いの
なか卯より良く感じる、という事実からである。
金を払ってからまずかったら納得いかんが、食べた後やったら
食べてしもうたからしかたない、という割り切り出来るからであろうか。

後払いというものには、感謝の気持ちもしくは非難の気持ちを
相手に示す機会が、その都度あるという意味でも重要である。
バスなら、降りる時に運ちゃんに「ありがとう」の一言も掛けられる
というものである。逆に、そういう機会があれば、運転手も良い運転をしなければ、
という気持ちになるだろう。
それがない先払いは、「これから頼んまっせ」ということであろうが、
なんか味気ない。

後乗り/前乗りもここに絡んでくる。
前というのはもちろん運転手のところであり、後は誰もいない。
後降りの場合、誰もいないところから降りるのだから、
声の掛けようもない。

前乗り/後乗りの違いは、支払いの違いと合わせて、
実に大阪と関東の文化の違いを示しているようで面白い。

以上は概念上の分析である。これに実際に起こった事象を重ねると、
実にこの分析が的を得ていることがわかる。
(両替についても、その中で話をしよう。)

        ・・・

先日横浜に行った時のこと。バスに乗ろうとしたら小銭がなかった。
仕方無いので1000円を料金支払い箱の横にある両替機らしき所に差し込んで崩し、
そこから210円支払った。ところが、その後手に残っているお金を調べたら
足りないのだ。なぜだ?

その理由は、そこにあったのは両替機ではなく、1000円から料金を引く
機械だったからである。即ち、1000円入れた時に出てくるのは790円
というわけだ。

私はこれで料金の2重払いをしてしまった。
もちろん多く払った分は帰ってこない。
なんてこったい。

それならそれでもっと大きく書いとかんかい。
乗る時は後ろの人を待たしたらいかんと思って急いでいるので、
いちいち両替(らしき)結果は見ない。
それを逆手に取った、悪どい犯罪のようにも思える。

だいたい、他にそんな勝手にお金を引く機械なんてあるか?
ボタンもなんも押さずに引くようなものが。
1つ間違えたらピンはねする機械と言われてもしょうがないぞ。

さらに、このバスではこんなこともあった。
混んでいたため、降りる人がなかなか降り口まで移動出来なかったのだが、
乗客が降りる前にドアを締めて出発しようとしたのだ。
しかも、同じバス停で2回も、別のバス停でもやりやがった。
(さらにこのバスの運転手は、扉開けたまま走るという悪行もやってのけた。)
降りようとしていた人が怒りだしたのだが、それは当然である。

        ・・・

支払いが後なら、降りるまでに支払い方法に付いて運転手に聞ける。
降りるのが前=運転手の横なら、降りる人がまだいるのに出発したりはしない。
(「乗る人がまだいるのに出発」という事態は、実はほとんど無い。
というのは、そもそもそのバス停にいた人数は到着前にわかるし、
ミラーで見ていれば良いのでわかるからだ。ところが降りる人数は特定出来ない。)

どちらの話も、後乗り/前降りなら防げたことである。
また、両替機があれば良かったことである。

ここまでくれば、前乗り/後降りは効率が悪いどころか
危険であるし、怒りを作り出す元となってしまう。
わかってるか、臨海バスの馬鹿運転手!!

        ・・・

このようなバスが、横浜だけでなく、関東では一般的だとすると、
これはもう文化の違いとしか言い様がないが、
どちらが良いかという結論は、すでに書いた通りに出ていると思う。
明らかに大阪型の方が合理的、かつ親切で人間味がある。

こんな一見しょうもないような小さな点でも、関東圏の人の荒み方が
わかろうというものである(偏見?)。
関西の経済の地盤沈下だの言われるが、アメリカのように、人間を腐らせてまで
経済第一主義はやって欲しくない。と思うのであった。

全国のバスは、もれなく後乗り・前降り、後払いにするように。
紙幣から勝手に料金を引くような機械も付けるな。

クレームの手紙でも書いたろか、まったく。プンプン。
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