「アンパエモンの心」(1995/05/30、07/10執筆)
日本では、アニメは夜のゴールデンタイムの花形であり、
非常に多くのものが次から次へと出てくる。
このような状況は、世界ではあまり例がないようだ。

この日本のアニメは、今や世界中で放映されている。
それは新しいものだけではなく、昔のものもそうだ。
ロボットアニメのボルテスVはタイで人気だそうだし、
ベルサイユのバラはフランスで、ドラエモンに至っては全世界であるという。
(イタリヤ語のドラエモンはけっこう笑える。
「ボンジョ〜ルノ、ジャイヤン」とか。)
さすがにサザエさんを海外でやった、という話は聞かないが。
(あの情景は日本以外では通用しまい。)

そもそも日本でなぜこんなに多くのアニメが作られたのかというのと、
その制作費が非常に安かったからである。
これは、かの手塚治虫が「アトム」をアニメ化したくて、
非常に安価で請け負ったということによるらしい。
それ以来、アニメの制作費、特に声優の賃金は非常に安く押えられていた。
最近ようやく改善されたそうだが。
(数年前に、賃金アップ交渉のため、アニメ声優がストをおこしたこともあったのだ。
溜撮りがあったため、実際の放映にはほとんど影響はなかったそうだが。)

このような要因もあって、日本では非常に多くのアニメが作られたのだ。
今はけっこう高くつくので、色塗りなど手間のかかる部分は、
中国など海外で行なわれている部分も多いが。

日本のアニメが世界で受け入れられるもう1つの理由は、
「緻密で、きれい」という点もある。
これはアメリカのアニメと比べれば一目瞭然だろう。
アメリカンのは実に大ざっぱだ。
例えば、日本の昔のアニメ、「マッハGoGo」がアメリカで放映され
実に好評であった。その続編がアメリカンアニメで作成されたが、
まさに「アメリカン」で、大ざっぱ、色使いが派手ということで敬遠され、
また日本の最初のが再放送されたといういわく付きである。

このような日本アニメであるが、世界のアニメに比べ1つだけ劣っている点がある。
それは、子供の情操教育に対する配慮である。

これはアニメに限ったことではないが、日本では子供に対する保護という面では、
世界に大きく遅れている。
日本では18禁映画を子供が見ても怒られるだけであるが、
アメリカではX(もしくはR)指定を受けたものを見ることはできないし、
見せた大人は厳罰に処される。
車の中に赤ん坊をおいて買い物をしていた日本人夫婦が逮捕された
という事件が日本で大きく取り上げられたが、これも
アメリカの子供に対する保護政策の1つである。
(行き過ぎの気もするが・・・。)

こういう面で日本のアニメを見た場合、確かによろしくないものもある。
また、そういうものは人気がないかといえば、そうではないから困ったものなのだ。
例えば、「ドラゴンボール(Z)」はその典型であろう。
これほど内容がなく、下らないアニメは他にない。
「おりゃ〜!」「うわぁ〜」「悟空!!」この3語+破壊ですべてが表現できる
アニメである。
しかし、いまや絶大な人気を誇っている。
(原作は終わったらしいが。)
一般に、ジャンプ系のアニメはだいたいそうだ。
暴力中心で、間違いなく子供に良くない。

このアニメで得られることは何もない。
まあ、ストレス発散になるならと思うが、子供のうちからそんなことを
言われても困る。

これに対して、ドラエモンやアンパンマンは非常にいい。

ドラエモンやアンパンマンというと、「低学年」向けと思われるかもしれない。
しかし、その映画などは大人が見ても十分おもしろい。
さらに子供の情操教育のために非常にいい要素をもっている。

ドラエモンは昔の良い時代の子供の付き合いがあるし(いじめっ子もいるが、
そういう人は別のいじめっ子が現れた時には守ってくれるとか)、
いろいろな道具は想像力をつくる。
アンパンマンは勧善懲悪ではない正義感を教えてくれる。

アンパンマンには仏教の心があると思う。
自分の身(アンパン)を分け与えるとことなど、まさに「布施」の心ではないか。
アンパンマンの作者が、歌「手のひらを太陽に」をつくった人である、
ということを聞けば、なるほどうなずけるところがある。
(アンパンマンの原作は、実はかなり古くからあるものである。)

        ・・・

アニメにはアニメにしかない良さもある。
その1つは、実写ドラマにはない、想像を中心とした良さだ。
実写では、どうしても演じている人の個人的な動向などにも興味が出てしまい、
物語にのめり込めなくなる部分があるが、アニメではまずない。
ましてや、同じ人物がまったく別のものに登場することなどほとんどない。
(手塚アニメには多いかな?)

アニメ=子供の見るものというイメージは、今や崩れている。
特に宮崎駿の作品は大人でも十分に見るに耐える作品だし、
逆にぜひ見てもらいたい作品である。
そして、これは世代を越えた共感を得られるものでもある。
かつて、悪く言えば子供騙しの映像でしかなかった「アニメ」は、
今や映画にも耐え得るものにまで成長したのである。

世代を越えた共感を持たせやすい、というのもアニメの特徴なのだ。
作り手が、その表現したいことを表現しやすいといってもいい。
アニメの登場人物は調子の悪いこともないし、
金銭的交渉で出られなくなるとか、そういうこともないのだ。

アニメが日本で放映されはじめてからもう35年位か。
それは日本のテレビの歴史とそう変わらない長さである。
そして、今世の中の中堅と言われる世代も、実はアニメや特撮を見て
育った世代である。もちろん、今の若者もそうだ。
そういう意味でも、アニメというものは人が受け入れ易い表現法になっている。

そのためだろうか、現在ではアニメは子供向けだけではなく、
大人向け、いわいる「How to」ものも多く出来ている。
よくわかる税金とか、いろいろあるようだ。
変な堅苦しい説明本より世ほどわかりやすい。

わかりよく噛み砕かれたものしか吸収出来ないようになった人間、というものも
どうかとは思うが、事実、今の世の中の構造は複雑怪奇でわかりにくい。
したがって、こういうものも必要なのであろう。

        ・・・

私もアニメは好きだ。この年になっても。
ドラマに見るに耐えないものが多いから、ということもある。
幼いと言われてもかまわない。
ここは素直に「おもしろいから」と答えよう。

しかし、「アニメは子供のものだ」などと言わずに一度見て欲しい。
子供向けだと思っているアニメの中に、けっこう大人向けの
深い心理描写や思いが込められているものだ。
いや、そういうものを感じるように見ればいいのだ。
同じアニメであっても、子供と同じ見方をする必要はないのだ。

大人には、大人のアニメの楽しみかたがある。
それでいいではないか。
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