「COSMOS再び」(1997/07/15〜07/23号)
MDを買ってから、いつかやりたいと思っていたことをやっとやれた。
それは、「COSMOS」を再録音することである。

最近は火星探査船、「Mars PathFinder」のお蔭で
宇宙に関する関心が高まっている。
(「Mars PathFinder」、即ち「火星へ行くための小路を探すもの」
とは何ともしゃれた名前ではないか。)

何年に一回かこういう時がある。
最近(と言ってもここ15、6年位)で見てみると、
パイオニア11号やボイジャー1/2号の木星/土星/天王星探査や、
バイキング1/2号の火星探検、ガリレオの木星探査もあっただろうか。
ちょっと前、火星から飛来した隕石の中に、生命の化石らしきものを発見した
という発表が有った時には大ニュースになったものだ。

その度全世界の多くの人が関心を寄せるということは、
人間は本質的に宇宙に対して関心がある、ということを実感させる。
地球とは関係無い、普段の生活には全く関係無い宇宙のことなのに、
なにかしら興味をひかれる。
人間は、本質的に、自らを生み出したものについて知りたがっているのであろう。

それはそうと、今から17年ほど前、昭和の55年(再放送は56年)に
「COSMOS」という宇宙科学ドキュメンタリーが放送された。
(全13話。)

そこではアメリカ、コーネル大学のカール・セーガン博士をホストとして、
その当時の最新の宇宙に関する知識を体系だって、しかもそれを知るに
至った上で重要な先人達の話も含めて教えてくれた。

        ・・・

また、宇宙を知るということは、実はその他の全ての科学を総合する必要がある
ということもここでは教えていた。天文学はもちろん、物理、化学、生物学等が
必要で、数学、語学も例外ではない。もちろん一人ではそれら全てをまかなえ
ないので、結局、宇宙を知るということは、多くの人の力が必要であり、
また、宇宙はさらに多くの世代をかけて解析しなければならないほど広大である、
そういうことも美しい映像と、マッチした音楽によって教えてくれた、
非常にすばらしい番組であった。

当時の常識も、今となっては時代遅れとなっている部分もあるが、
一部さえ変えれば、今でも十分に通用する内容だと思う。
(放映直後に土星にボイジャーが行って新しい映像などを送ってきたから。)
にもかかわらず、それ以来1回も再放送されなかったのは残念である・
(1回だけ総集編のような形で放映されたことはあったが、13回のものを
1回にまとめたものだから、非常にわかりにくかった。)

・・・余談。
再放送ではない、本放送時のIBMのコマーシャルは実に秀逸であった。
「一、十、百、千、万・・・江戸の昔、遥か宇宙の果てまでも飛び越すような
壮大なスケールを・・・」というものと、「江戸の昔、太陽にみせられた一人の
日本人がいた・・・」というものである。どちらもよかった。
SONYのβマックス−J7のコマーシャルも良かったが、IBMのそれには
勝てなかったようである。ちなみにもう1つの提供社のホンダのCMは駄作。
ぜひとももう一度見てみたい。

未だに当時の感動は忘れない。
当時高校生だった私は、アメリカに留学してカール・セーガン博士に師事したい、
と真剣に考えたものだ。もちろん、それがなされなかったことは、今の私を見れば
解るのだが。(今、セーガン博士はどうしているのだろうか。)

        ・・・

そういえば、「COSMOS」の中で次世代の火星探査船の話が出てくる
回がある。SF「宇宙戦争」の話から火星の運河、ロケットの話、
そこから火星探査の話にまで至る回である。
この中で、火星の表面を動きながら探査するものの名前を「ローバー」と
言っていた。実際の「Mars PathFinder」のそれの名前も
「ローバー」である。16年も前にすでに名前が決まっていた、というか
開発が始まっていたということで、惑星探査がいかに長い年月をかけて
準備されているかを知ることの出来る一場面である。
(ちなみに、そこで映っていたローバーは確かタイヤを持っていたと思うので、
実際のそれとは少し異なる。)

さて、当時うちにはビデオデッキなるものはなかった。
いや、世間的に見ても、まだそれを持っている家庭は非常に少なかった。
まだVHS/βが均衡していた時期であり、ステレオビデオが出来たころであって、
その価格も20万円近くしたはずである。

昭和55年の本放送の後、翌年の春に再放送されるのを知った私は、
何としてでもその放送を録りたかった。音だけでも、せめてカセットに、である。
で、友人の強力も得て、全13話を録音したのである。
一部ミスも有ったが、全体として聞けるので大成功である。

        ・・・

この時の録音には、ちょっと特殊な方法を使っている。
当時の私にはカセットテープといえども高くてそうそう買えるものではない。
COSMOSの放送が、コマーシャルを切れば90分テープの片面に入ると
いうことは、本放送の時に一度録音した経験から解っていた。
とは言っても、13話録るには7本もいることになる。そんなには買えなかったので
ある。

そこで、当時うちに有ったLLの録音の出来るテープレコーダーを使った。
LLというのは覚えているだろうか、英会話などで、先生の声の入ったテープに
自分の声も録音出来てそれを比較して聞いて勉強する、というものである。

この原理は簡単で、ステレオ録音の右と左に別々の録音を出来るようにした
だけである。最初は左右同じものを録音し、後で右だけ消して別の録音をするので
ある。

そう、これを使ってテープの片面に左右別の回の放送を入れて、90分テープに
4回分入れたのである。これならテープは半分の4本で済む。

こうして全話録音されたテープは、今まで大切な宝物として、他の音楽テープを
全て(200本以上!)棄てた今までもずっと保管して、時折聞いていたのである。

        ・・・

が、さすがに16年も経つと痛みが気になる。音楽ものではないので音質の劣化などは
気にならないが、テープではいつ切れるか解らないし、保存状態が悪いと
かびが生えたりすることもある。
そこで、MDへ録音することを思い立ったのである。

以前、LPを録音するのに画期的なメディアである、とMDのことを書いたが、
実はこのCOSMOSのテープ保存についてもこのMDはぴったりなものであった。
それは、MDデッキの持つ「モノラル2倍録音」である。

MDに録ればいいのは解っていても、74分(60分でも同じ)のMDでは1枚に
1回分の放送しか入らない。これでは13枚必要になり、いくら何でも無駄が多い。
ところが、モノラル2倍録音なら1枚で74*2=148分入り、これなら
1枚で3回分も入るのだ。これなら5枚に収まる。テープよりかは増えるが、
それぐらいはしょうがない。(COSMOSの録音テープは、左右別々の録音=
モノラル録音である。)

ここに至り、実はMDデッキをDENONではなくSONYにしていたことの重要性が
発揮された。DENONのデッキはモノラル録音は出来ない。しかも、録音レベルを
左右独立で調整出来ない。SONYはその全く反対である。

        ・・・

モノラル録音はともかく、録音レベルの左右独立調整がなぜ重要かといえば、
テープでは左右別々の録音がなされているので、それぞれを取り出して録音する必要が
有るからである。

モノラル2倍録音では、左右から入ってくる音を交ぜて記録する。
この時、左右どちらかを音量0にしても構わない。その時は、他方の音だけが
モノラルとして録音されるのである。

テープからの録音では、録音したい方の録音ボリュームを上げ、他方は絞り切る
のである。後はこれは13回設定しては録ることを繰り返すだけである。

とはいえ、13回と言うことは、10時間以上もかかるのである。
丸2日に渡って、ぶっ続けの作業であった。
これによって、私の宝物、COSMOSの録音は、また長く保存されることと
なったのである。

・・・余談。

私の母校の高校には「COSMOS」の全話録画したものがあるということを
知ったのは、後日のことである。当時それを管理している先生と親しかったので、
「ぜひ見せてください」と言っていたのだが、結局なされないまま卒業してしまった。
まだあのテープはあるのだろうか。

実際には、当時同時期に放映されたNHKの「パノラマ太陽系」の放送なども
含めて録音し直した。実は、このパノラマ太陽系でホストをしていた人が
「Mars PathFinder」関係の番組に出ていたのを見て、
「おぉ!!」と思ったのであった。「COSMOS」の再録音をこの時期に
したくなったことといい、話というものは、妙につながっているものであると、
仏教の「縁」なども含めて考えてしまったのであった。

もし聞きたい人があればどうぞ。
宇宙は常に感動に満ちている。
<戻る>