「バス先払い事件」(1995/06/29執筆)
大阪のバス、私の知っているのは阪急バスくらいしかないが、
後ろ乗り、前降り、後払いである。うちの田舎の新潟の越後交通もそうだ。
ところが、東京方面のバスは、「前乗り、先払い、後ろ降り」である。
私はちょっと前にそのことを聞いていたので「おお!」と思いながらも
そつなく対応したのであった。(聞いてなかったらきっと戸惑っていたであろう。)

(そういえば、私は小学生の頃、世の中には阪急バスしかないと思っていた。
だから、そのほかのバスを知ったときにはショックだった。もう20年以上も
前の話だけど。)

この問題、単なるシステムの違いといえばそれまでだが、もっと深い、
ものの考え方の違いがあるのではないかとにらんでいるのである。

なぜ後払いになるのか、これをシステム的に解析すると、
「料金が一定でない」ということに帰着する。
要は距離に応じて料金が上がるのだ。

新潟もそうだが、大阪でも1路線のバスがかなりの距離を走る場合がある。
新潟では15キロ以上の路線バスもざらだし、大阪でも能勢方面に行くものは
結構距離が長い。そのため、市内料金というか1区の料金ではだめで、
順々に上がっていく。このため先払いでは対応できなくなる。

先払いということは「市内料金のみ」ということだ。ということは、走行距離が
短いと想像できる。
「後払いは田舎や!」と言われたが、確かに都会では走行距離が短く先払いでいい。
でもそれは裏返せば、狭い土地にみんながひしめき合っている=ごみごみしている
という証拠でもある。せせこましいということだ。
そんな卑屈な状態を誇ってなんになる、と言いたい。

後払いの場合、走行距離が短かろうが長かろうがそのまま対応できる。
実に合理的だ。見栄でなく合理的な考え方を貴ぶ大阪人には
後払いが似合っている。

そういえば、後払いなら、とりあえず乗ってから小銭の用意が出来るという
利点もあるな。飛び乗り可能と言うわけだ。乗る前にお金の用意をするのは面倒だ。
せっかちな大阪人にはこれも良い。

        ・・・

先払い・後払いにはもう1つ精神的な問題もあると思える。
それは「信頼」という問題だ。

先払い、すなわち先に金を払わなければ乗せない。
とりあえず信用して乗せるということが出来ないのだ。
先払いなら、お金のないものは乗ることが出来ない。
後払いなら、お金がなくてもとりあえず移動は出来る。

どちらがいいということは判断しにくいが、「門前払い」より
「しょうがないなあ、今度乗るとき払らったってや」の方が
人情味があっていい。

もう1つある。それは感謝の気持ち。
後払いの場合、降りるときに運転手のところに行く。
そして、お金を払うと同時に「ありがとう」と声をかけることもできる。
先払いではそれができない。
いつも「ありがとう」と言うわけではないが、
それが出来ないというのは悲しい。

「お金を払ってやったから乗せろ」「着いたから降りるわ」。
そういうのが先払いのように感じる。悲しい。
これが東京人の発想の端的な現れだとすれば、
東京人とはいかに個々が疎遠なのか、ということが知れる。
人は多いがバラバラの集まり。
これでは何のために同じ土地にいるのかわからない。

        ・・・

ここまで深読みする必要はないのかも知れない。
しかし、何となくそう思った東京出張であった。
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