「磁気活水」(2006/10/23号)
磁気活水と呼ばれる物がある。
水が磁気の中を通すとおいしくなるといううたい文句である。

この水を使うと水がおいしいというのはもちろん、肌荒れが少なくなるとか、
植物の生育が良いとか、水場のカビが発生しにくくなるとか
まあいろいろと良いことが書いてある。

多くの場合、磁石2個セットで水道管に取り付ければ半永久的に
「磁気活水」となるので、初期投資は高いが浄水器のように後でフィルターを交換する
必要が安いので結局安いと言っている。
その値段は千差万別で、3万円ほどから20万円ほどの物もあった。

理屈についても一応は書いてある。
大きく分けて2種類あるようだ。1つは水分子にくっついている不要分子(塩素や鉄)を
はぎ取ると言うもの、もう1つは水分子の「クラスタ」を細かくすると言うもの。

商品説明のところには書いてないが科学的に考えれば、
水分子は極性分子なので分子同士が固まってより大きな疑似分子を構成すると
予測される。後者のクラスタというのはこの疑似分子のことであろうと思われる。
これを細かくすれば浸透しやすくなりおいしくなると言うことだろう。
でもどうやってそれを細かくするのか。
また塩素や鉄分子をはぎ取るというのはどういう事であろうか。

言うまでもなく水は磁石にはくっつかない。また、本当に純粋な水(純粋)は電気も通さない。
不導体な訳だ。しかし、水道水の中にはいろいろな不純物がとけ込んでいるので電気を通す。
導体なのである。電化製品に水をかけると壊れるのはこれが理由である。

磁界の中で導体が動くと電気が発生する。
フレミングの法則である。
と言うことは、磁界の中を流れる水の中には電気が流れることとなり、
この時にクラスタの細分化や他分子の剥離が起こると考えられないことはない。
水に電気を与えて変質させるのはアルカリイオン水でもやられていることで、
何かしらの変化があるのは考えられる。

とまあ、まずは科学的に考察してみたが、宣伝に書いてある理屈はこういう事は
書かれておらず、どこぞの科学者の理論(の名前)を紹介しているだけだったりする。
で、素人でもよく読めば嘘とわかるものがほとんどである。

水分子にくっついている塩素分子などをはがす事自体はあり得るかも知れないが、
そのはがされた塩素分子が消えるように書いてあったりする。
密閉された水道管の中でどこに消えると言うね。
水分子と塩素分子は共に極性分子なので電気的に引きあうことはあっても化学反応はしない。

鉄分子は磁石にくっつくのでは?
鉄と言っても水にとけ込んだ鉄はイオンだから磁石にはくっつかない。
仮にくっつくとしたらその磁石のところに蓄積するわけだから、
そのうち管が詰まってえらいことになるぞ。

ということで水から不要分子が剥離されることがあっても、
そのまま水の中にとけ込んだままである。
それをそのまま飲んだら結局同じじゃん。
ということは、結局それを濾し取るための浄水器は必要と言うことである。
ほおら、ここでも嘘がばれた。
(中には浄水器は併用してくださいとちゃんと書いてあるのもあるけどね。)

しかし、磁気によって水の質が良くなるというという点については、
頭から否定は出来ない。電気的変質は考えられる。
であれば、理屈はどうあれ実験してその効果を確かめるのが一番である。

私自身、今まで数多くのものにだまされてきた経験から、
わずかなことであれ、宣伝に嘘がある商品は信用できない。
(オーディオには特に多いですな。この手のまがい物は。)
なれば出来るなら実験して確かめろ。それがオタクラ流である。

ここで必要となるのは基本的には磁石だけである。
しかし、かなり強力な磁石が必要であるらしい。
(その商品も磁力の強さをうたい文句にしている。)
ファラデーの法則が基本原理だとすると、電気が流れるのは磁束の存在する範囲だけ
であるし、水道管中の水の流れは不定で、蛇口のひねり方によっては
かなり早くもなるので磁束の中を通過するわずかな時間で電気を
発生させるには、磁石はかなり強力でかつ広い面積を持っていることが理想とわかる。
磁石という物は、弱い磁力の物を複数並べても決して強くはならない。
1個で強い物が必要である。
一体どれくらいの流速の時どれくらいの磁束があればいいのかは、
そもそもどれくらいの電気が流れればよいのかはわからないので、
まずはいろいろと試してみるしかない。

最近はインターネットで磁石会社から直販で買うことも可能だが、
今回は実験なので、費用はできるだけかけたくない。
そこで、とある廃品を使うことにした。

身の回りにある廃品の中に、強力な磁石を見つけることが出来た。
スピーカー?目の付け所は悪くないけど、今回は違う。
意外と言えば意外なものであるが、実はハードディスクの中にあるのである。

ハードディスクが何であるかは、もはや説明する必要もないであろう。
良い時代になったもんである。
PCに最初から入っている記録装置である。

これを分解すると(本当はここに図を表示したい)、ヘッドを動かすところに
磁石が配置されている。この自社には非常に強力な物が使われている。
メーカーによって違うが、最低1個(下だけ)、場合によっては2個(上下)ある。

しかし、入っているのがわかっていても、こんな実験のためにハードディスクを
破壊するのはあまりにもったいなさすぎる。
私の場合、仕事柄HDDを大量に扱い、また故障品も数台手元にあったからこそ
出来た荒技である。一般お人には当然お勧めできない。

ちなみに、どのメーカーでも同じような磁石というわけではない。
一番良いのはIBM。磁石が2個入っている。
次がMaxtorで1個。Quantumのは2個入っているが磁力が弱い。
他のメーカーは故障品がないので不明。
今回は、IBMとMaxtorで6台計7個確保できたのでこれで作成した。
1セットで2個使うから3セット分+片方磁石だけの物1つである。

余談であるが、HDDを分解すると各メーカーの設計思想がよくわかる。
Maxtorは一番安価だが、それだけに構造も単純だ。
でも一番きれいではある。
Quantumは手が込みすぎか。
結局、Maxtor以外はHDDから手を引いたのだから、
価格競争が過当に進んでいるHDD業界の一端をかいま見られる。

さて、これを水道管に挟むわけだが、鉄など磁性金属の水道管に挟むと
磁束がほとんど吸収されるので意味をなさない。
そこで非磁性=磁石がくっつかない部分を探して磁石のSとNを2つ向き合うようにして
取り付ける必要がある。

さらに、磁束を効果的に前に出すように、磁石の水道管の反対側
(磁石のSNで、N側を水道管側にした場合はSの側という意味)は
鉄を付けていた方がよいらしい。出来れば左右水道管との隙間も付けるべきだろうけどね。
これはちょっと難しいか。

うちの場合、水道管そのものは鉄管だったので、
止水栓(家の中にある)の前後(2カ所)が真鍮だったのでここと、
蛇口のところがステンレスだったのでここに付けた。
台所蛇口に2カ所、洗面所に1カ所。
結果、台所は4つを通過、洗面所は3つ、他は2つ通過という構成になる。
効果があるなら、台所が一番出てくるはずである。

強力な磁石なのでお互いにくっつくとはがすのには苦労する。
気を付けて管を挟み、スぺーサーとして硬質スポンジ(これも廃品)を
挟み込み、ガムテープで押さえる構造である。
見た目は悪いが、実験にはこれでよい。
さて、効果はいかほどに。

        ・・・

まず初めに感じたのは、浄水器からの水の出が良くなったこと。
クラスタの細分化が効いているのだろうか。

・洗い物のすすぎが早い?
 そう思う。洗剤の落ちがよい。これは一番思ったこと。

・油汚れが落ちやすい?
 水のみで洗ったときの油の落ちやすさ。
 少しそう思う。
 
・洗顔のすすぎが早い?
 これは一番最初の「洗い物のすすぎ」と基本的には同じようだが、
 ちょっと結果は違う。料理油と皮脂の違い。
 少しそう思う。

・肌のしっとり感が違う?
 洗った直後はそう思う。水が肌に親和する感じ。
 最近肌がしっとりすると感じるのは、水のおかげか最近洗顔を専用物
 でするようになったからか。

・味の変化は?
        お茶    特になし
        ご飯    特になし
 これは浄水器を通した水の結果。

・浄水器内の汚れのたまり方は?
 少し汚れのたまりが多いような気はする。特にさび。

・お風呂のかびの発生が遅い?
 人間の体に良いならかびにだって良いよな。
 ただ、汚れが落ちやすくなっているのでかびの栄養源が少なくなって
 かびの発生が遅れる可能性はある。
 特に変化なし。

・水垢の付着が遅い?
 そう思わない。

・トイレの汚れがつかない?
 変化無かったが、外したとたんにどっと出た。
 押さえられていた?

        ・・・

という結果であった。
この結果だけから言えば目に見えるほどの効果はなかったといえる。
まあ、水がそんな劇的に変化したらそれはそれで怖いのかも知れない。
長期継続試験が必要かも。
とはいえ、上の結果は3ヶ月以上はやった結果ではある。

まあただで出来るならやってみても良いが、これで3〜20万円となると躊躇する。
その値段ではやはりぼったくりとしか言いようがない。
せいぜい2万が限度か。

私の使った方法は少々特殊だが、先に書いたとおり磁石をインターネットで買って自作も出来るから
一度作ってみればよいだろう。5000円程度である(これでも高いとは思うけど)。
それで効果を感じて買いたい人は買えばいいのである。

私?もちろん買いません。今ので十分だから。
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