「良い音を求めて」(1997/11/04〜11/10号)
MDを買ってから、うちではMIDI楽器の演奏をそれに録音して聞くことが多い。
そして、それは「良い音だ」と思っていた。
(えーと、「MIDI」とはコンピューターで制御できる楽器と思えば良い。)

うちのスピーカーで聞いている時には確かにそう感じた。
しかし、以前に書いた通り、MDを買う時の店の高級ステレオで聞いた時の、
家で聞く時との音の違い、そして、家でもヘッドフォンで聞いた時との音の違い。
今まで良いと思っていた音が実は非常に陳腐なものであることが解ってきた。
いつも聞く音に慣れてしまって、満足していたのだ。

ここでいう良い音とは、周波数的に低音から高音まで出ており、
また、その音楽なり自然の音なりを生で聞いた時に比べて
遜色無いバランスがあるものをいう。
(自然の音以外では、ライブでは聞けない場合もあるので「生」との比較が
難しい。この場合には、その音楽を聞いて心地よい音が、周波数的、
音量的に出ているかどうかで判断すれば良かろう。)

スピーカーで良い音を出すことは、実は難しい。
スピーカーの質(それはたいてい値段となって出てくる)もあるし、
その置き方一つでも音が変わってくるからだ。
スピーカーから出た音が耳に届くまでの間の空間も考慮しなければ、
スピーカーで良い音を聞かせることは出来ない。
名のあるコンサートホールでは音の反響なども十分に計算して設計される。
それだけ、空間による音の響き(残響)、逆の吸収などは重要なのだ。

        ・・・

部屋にはこの音の反響や逆の吸収が思いの他多く存在するから、
スピーカーの真前で聞く音と、ある程度離れたところで聞く音とで変わる。
もっと簡単な例を上げれば、お風呂場と普通の部屋とで歌う声の違いといえば、
音のまわりから受ける影響の大きさが解るだろう。
この他に、前にも少し書いた周波数別の音の強さの問題もある。
これは大音量を出せればそれはある程度改善出来るが、一般の家庭では難しい。

これに比べてヘッドフォンは音を鳴らしている振動版から耳までの間には何もない。
正確にいえば空気しかない。
このため、途中での音の変化はほとんど無い。
だから、元の音源が良い音がどうか、非常にはっきりする。
(もちろん、それなりに良いヘッドフォンを使っていればの話。)

でだ。最近スピーカーでなくヘッドフォンで音を聞き始めてから、
今まで良いと思っていた音がなんだか満足いかなくなったというわけだ。
それからはどれが良い音か、どれはそうでないか常に思いながら聞くようになった。

パソコンに付属していたマイクで録った波の音が聞くに耐えない音であったことは
書いた。それは元の音を録音する時の問題であったが、
いずれにしても音というものは、記録する前後で音が変わってはいけないのだ。
何を良い音といって、これが一番の条件かも知れない。

いつもの慣れた環境で記録された音を聞いていると、本当の良い音、いや本当の音が
どういうものであるかが解らなくなってしまう。
これで十分だとか、これが本物の音だとか、勝手に思い込んではいけないのだ。
そうでないと、耳の持っている力を鈍らせることになる。

これは音だけでなく、映像でも言える。
美しい写真などを見たら感動する。
でも、本物はもっと美しいかも知れない。
また、同じ所を移した写真でも、綺麗そうでないはある。
それはカメラ、レンズ、フイルム、写し方の差によるのだが、
撮るからには、いかにしたら綺麗になるか考えて写すと、
対象物の見方が今までとは変わってくると思う。

そして時には、自分の耳で本物の音や映像と接した方がいいのだ。
思い込みによる感性の鈍化を防ぐために。
夏なら花火なんて良いぞ、あの美しさと音のすごさはどんなものにも記録出来ない。
それは人の心にのみ記録されうるから。

        ・・・

余談。
良く写真を撮るのに熱中する人がいるよね。
いえ、プロとか言うわけでなく、いろんな場所に行ったら写真ばかり撮っている人。
記録に残したいと思うのは解るけど、あれってとてももったいないことだと思う。

なぜなら、写真で見るより、いやもっと前にカメラのレンズを通してみるより
肉眼で見た方が綺麗なことってあるもの。
シャッターチャンスを狙うあまりに、折角の美しさを逃している。
(花火を撮ろうとする、さらにそれにフラッシュ焚くなんて滑稽なだけだぞ。
あんなもん、普通の人に撮れるはずがない。)

連続性もそう。多くの映像は連続だから、それを細切れに撮っても感動は薄い。
もちろん連続の中の一瞬をとらえたすばらしい写真はあるけど、
それはプロにお任せすれば良い。
普通の場合は連続性を楽しまなければ。
(ビデオで撮っても基本は同じだ。)

また、写真に撮れる風景なんてしょせんは狭いもの。
雄大な風景は撮り切れない。
そういう意味でも、ぜひ肉眼で見て欲しい。

まずは肉眼で見る。まずは直に感じる。
その中で、どうしても残しておきたいものと思ったら、
少ない枚数だけ撮る。これが、後で見た時に感動を一番呼び戻す
最良の方法であると思う。
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