「MDの最後」 (2001/05/07〜05/21号;執筆は2000年6月頃)
1つ予言をしておこう。

        「MDは10年以内に廃れる」

MDが出て以降、カセットテープは日本では衰退の傾向にある。
MDの最大の利点はその小型による携帯のしやすさにある。
録音後に曲の入れ換えや曲名を付けるなどが出来ることもあろう。
この点においてテープに対して圧倒的な利便性がある。
また、普通に聞く分には十分な音質がありそれが維持される。
だからカセットが廃れてしまった。

しかし、音は決して良くない。
MDでは音を「圧縮」してあの小さなディスクに入れ込んでいる。
簡単に言えば「圧縮」しているから音が悪いのだが、
さらに言えばその圧縮方法に問題があるから音が悪くなるのである。
ミニコンポやポータブル機では聞き分けは難しいかも知れないし、
普通に聞いているとなかなか気づかないが、ある特定の音や
CDとの比較をするとばれる。
しかし、多くの人は音の劣化の無さを良さと勘違いしているので
これでも良しとされてしまう。

でもMDが廃れると予言するのはこの音の悪さ故ではない。
音が悪くても携帯性などにおいて他に代わる物がなければそのまま続くはずである。
遅くとも10年以内に代わる物が出てくるから廃れるというのである。

低音質で良いなら、そのメディアの発展性は主に携帯性によって左右される
ということはMDによって証明された。
昔で言うなら、オープンリールテープからカセットテープの時にも
それは証明されたとみて良い。
ならば、MDよりもっと携帯性に優れたものが出ればそれが廃れるのは自明の理
である。では、そのMDに代わる物とは何か。

        ・・・

それは「半導体メモリー」である。
PCにも使われているそれらは、全く物理的駆動部分を持たず、
MDに対して圧倒的に小型である。
物理的駆動部分を持たないということは、それだけ振動に強く、また消費電力も
少ないということを意味する。
MDは現在以上に記録時間を延ばすことは(技術的には不可能ではなくても価格面で)
難しいが、半導体メモリーは毎年倍々のペースで記憶容量が伸びている。

半導体メモリーは、―寸前までは記憶容量の点でカセットのような磁気や
MDの様な光磁気媒体にかなわなかったが、最近はそれに近い大容量の物も
夢ではなくなってきた。
また、低音質でも売れるということが解った現在、
MD以上の圧縮率を実現すれば少ない容量でも同じ長さの曲が記録出来るので、
一層それによる記録機が現実味を帯びてきた、と言うより現実になった。

現在はまだ録音がしにくい(ほとんどの場合PCが必要)、同じ長さの録音をする
ために必要な単価が高い、音が悪いなどの問題がありすぐにMDに換わるものでは
ないが、それはいずれ解決されるだろう。
また、カセットやMDの様に高級/普及品と言った媒体の質の違いもあり得ない。
単一の種類で良いだけに、一層量産効果は望める。
録音も何とかなるだろう。
そうなれば、もはやMDに頼る必要はない。

また、MDの普及の実体もその衰退に影響する。
日本ではMDはメジャーになったが、実は海外ではほとんど売れていない。
事実上、日本だけのものと考えて良い。
メーカーの売り込みのやり方の性か、それとも外人の方が音にうるさいからか。
いずれにしても、日本人は新しい物が便利と解れば、それまで使い慣れたものでも
直ぐに棄ててしまうところがあるから、一旦廃れ始めたらあっという間だろう。

それは遅くとも10年以内にやってくる。
もっと早いかも知れない。
そのとき、もはやMDには使い道はない。
カセット以下の音質しか持たず、半導体メモリーより大きく消費電力も多い
MDに生き残る道はない。

        ・・・

では高音質録音機はないのだろうか。
カセットがなくなり、MDもなくなると何に録音すれば良いのだろうか。
今一番注目されているのが「CD」である。

CD?そう、あのCDに自分で録音してしまうのである。
正確には「CD−R」とか「CD−RW」とかいう物だ。
録音出来るCDである。

CD−Rは1回切りの録音が可能な物。CD-Rewritableの略である。
1回切りではあるが、ほとんどの従来のCDプレイヤーで聞くことが可能である。
CD−RWはCD-ReadWriteの略だと思う。
1000回ほど書き替えが可能であるが、聞けるプレイヤーが限られる。
主に録音練習用である。

これらのメディアや機械はすでにPC用としてかなり普及しているが、
オーディオ用として考えた場合、CD丸ごとのコピー以外ではほとんど使い物に
ならない。またそれで作ったコピーは音が悪い。

ここにオーディオ専用のCD−R/RWの機械が登場しつつある。
これらはMDとは違い音声圧縮などしない。基本的にはCDと
同等の音質を実現出来る。
(実際には少し音が落ちるという話もあるが、MDに比べれば天と地ほどの
差があるらしい。)

これもデジタル録音だから経年変化による劣化はほとんどない。
大きさはCDサイズだから少し大きいから携帯性は良くないが、
メディアの将来性を考えると、すでに全世界で普及しているCDが
なくなることはあり得ない。

何より「自分でCDを作った」といえばかっこ良いではないか。
MD程度で異性を落とせた時代はとっくの昔に終わったのだ。
(そんな時代が本当にあったかどうかは不明。)

実は、CD−Rは元々は「CD−WriteOnce」という物であり、
それはもう10以上前から存在した。私は一時期CD−ROMという物を
作る現場にいたのだが、そこにはその機械があった。
当時はまだ1台100万以上であり、編集装置に至っては1000万以上、
媒体も1枚1万円した。
それが今や機械は5万円台、メディア(音楽用)は1枚800円である。
急激に値段の下がったMDに比べればまだ高いが、CD−R/RWは
PC用途で急激に普及しつつあるので値段が下がるのは時間の問題だろう。
そうなると、MDなみの価格で、それとは比べ物にならない高音質の
録音が可能になるのだ。

        ・・・

しかし、そもそも録音と言う行為自体が少なくなるのでは、と思う。
少なくとも、私は10年前に比べ、録音機会が圧倒的に減った。
今は年に数回録音すればよい方である。

昔はレコードは高かった。
だから、AMやFMのラジオで録音した。
また、レコードは車の中では聞けない。
レコードは聞けば聞くほどすり減った。
だからカセットへの録音は必須であると言っても良かった。

ところがCDが普及し、車の中でも聞けるようになった。
携帯も不可能ではない。
その値段も、他の物の物価上昇の中ではむしろ優等生であり、
相対的には下がったと言える。
そうなると、携帯用途にはまだ録音が必要だが、自分が聞きたい曲を
手に入れると言う意味では、CDそのものを買えば良くなってきている。

いろんな曲を(レンタルCD屋等で借りてきて)手当たり次第に聞いて
かつ記録したい人には録音が必要だが、ターゲットを決めている人には
録音と言う面倒くさい行為より、買ってくるだけで良いならそうするだろう。
だから、「録音機械」は以前ほど売れないのではと思う。

やがて音楽はインターネットを通じて家にいながらにして手に入るようになるだろう。
それを「半導体メモリー」に入れる行為は一種の録音であるが、
そこでは今までの録音にあるような録音音量等の各種調節や開始・停止と言う
行為はない。単にデータを入れるだけである。
だから、従来の「録音」と意味は違うので、ここで語った「録音機」には
ならない。

手間をかけてまで録音するなら、やはり高音質を望むようになるだろう。
そういう面から考えても、MDの衰退は予測出来る。

        ・・・

CD−R/RWの推進メーカーは、MDには余り力入れていない
=高級機は作っていない。やはりMDの音の悪さを気にしているのだろう。
「売れればどんな物でも構わない」と言うような良心を無くした会社とは
一味違う。こういったメーカーは信用出来る。
パイオニア、マランツ、フィリップス、ヤマハなどがそういう会社である。

逆の会社?ソニー、松下、デンオン、シャープなどがそうか。
これらの会社はCD−R/RWは(なかなか)作らないだろう。
これらの会社がMDにも高級機を出しながらあっさりCD−R/RWを作って
出すようなことがあれば、それこそ信用出来ないと言うことになる。
(デンオンは最近作り始めた。と、いうことは・・・)

松下やソニーはすでに半導体メモリー装置も発表している(松下は発売はまだ)。
ということは、それらが安くなれば、直ぐにそちらへ移行しようといっている
ようなものだ。MDの生みの親であるソニーですらそうなのだから、
MDの将来は暗い。

そういうことである。
今からあまりMDに投資するのは無駄である。
高級機(買値で5万以上)を買うのも無駄である。
無駄な物に投資しないようにしよう。
ゴミを増やさないためにも。
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