「MDって知ってるかい?」(1997/02/25〜02/28号)
「MD」は単純に「Mini Disc」の略で、簡単に言えば、カセットテープの
代わりにパソコンのフロッピーに音楽を記録したものだな。
本当は基本記録原理はフロッピーとは全く違うけど、理論的な記録方法は
そういうこと。

MDの長所はいろいろ有るけど、ざっとあげてみると、
 1、メディアが小さい
 2、デジタル録音なので何度聞いても音の劣化がない
 3、編集が楽
 4、扱いが楽
に要約出来ると思う。

メディアの小ささは持ち運びが楽と言うことだが、実は、置き場に困らないと言う方が
実際的である。VTRでVHSより8ミリの方が小さくて良い、というのと同じ。
だいたい、カセット1本分の幅でMD2枚は置ける。横幅も狭い。
私も以前はカセットを200本以上もってたけど、置き場がないので今は20本位を
残して処分した。そういう面でこの小ささはポイント大だ。

デジタル録音で音の劣化がないと言うのもいい。何度聞いても心配無い。
カセットなどは何度か聞くと少し高音の伸びが弱くなるなどの問題があるが、
MDではない。これはレコードとCDの関係に似ている。

周波数特性的にはCDと同じ20〜20000Hzの領域が記録出来る。
まあ、普通の人にはこれで充分であろう。CDで充分と思っている人、
FMの音に不満がない人にはこれで充分である。(FMは30〜15000Hz
位しかないし、カセットは高級機でやっと20〜20000Hz出るところで、
ウォークマンレベルでは30〜18000Hz出れば充分。)

非接触なのでノイズリダクションも不要。ほら、「ドルビーなんとか」とか
いうじゃないですか。あれは、接触メディア故に生じる走行音ノイズ=ヒスノイズを
軽減するものだけど、MDにはいらない。

記録メディアと再生装置が非接触というのもいい。メディアもしくは再生装置が
すり減らないのだ。レコードは何度も聞くと劣化する。カセットはテープだけでなく、
ヘッドもすり減る。MDは光学式読み取り(CDと同じ)なので劣化しない。

これは、扱いが楽というのにも繋がっている。剥き出し部分がないので、
MDをケースに入れずにほっておいても(ほぼ)大丈夫。カセットならテープが
出ているのでケースに入れずの保存は良くないし、磁気物の近くには置けない。
MDはよほど強い磁石でこすらない限り大丈夫。磁気による記録ではないからだ。
(この表現は本当は嘘半分。)

扱いが楽というのには、頭出しが一瞬というのもある。
テープのように物理的にテープを巻き戻す必要がなく、ほぼ一瞬で終わる。
終わったら巻き戻し、などということは全く必要ない。
でも、再生位置は覚えているから、メディアをプレイヤーに入れている限り、
前回止めた位置から再生は開始される。だから、カセットと同じ感覚である。

編集が楽と言うのも素晴らしい。(途中の)曲を消す、曲順を入れ換える、
曲名(番号は曲順ごとに自動的に付く)やディスク名を付けられる等の機能がある。
曲を消した場合、カセットなら同じか短い曲しか、その部分に入れることは出来ない
が、MDなら消した曲と同じ時間などという制約はない。曲を消したら、その分の時間
は、全てそのMDの残り録音可能時間になるのだ。だから、自由に録って消してが
繰り返せる。

そうそう、ほとんどの機種ではCDからのデジタル録音も可能だ。
CDに光デジタル出力があればデジタル信号のまま録音出来る。
録音レベル合わせ不要、スタート・ストップ不要と本当に楽だ。
先の編集機能と合わせれば、オリジナルのCDもどきを作ることも簡単なのだ。

とまあ、ここまで聞けば素晴らしいけど、それなりに欠点もある。

        ・・・

と、まあ、いいことずくめのようなMDだけど、実際は欠点がある。
それをまとめてみると、
 1、メディアが高い
 2、記録時間に長いものがない
 3、電池が持たない 4、音は圧縮記録されている
ということになる。

MDの本体も高いが、メディアの価格の高さは困ったもんだ。
倍以上高いのではないだろうか。74分のMD1枚が一番安くても200円。
それ以上安いものはない。カセットなら探せばもっと安いものがある。
MDはメタルテープ並の音質があるということを考慮に入れれば、こんなものかも
知れないが、やはり「高い」という感は否めない。

MD録再機器本体の値段は、カセットと比べ、それほど高くはない。
むしろ録音機器は、その音質を考えれば安い。カセットで、MD並の周波数特性
を持たせようと思ったら、7万円以上出さなければ駄目だろう。
(ちなみに、私が持っているカセットデッキはMD以上ではあるが、価格は
MD機器の3倍高い。)

再生機器は、まだちょっと高い。そのあたりは供給量の問題で、今後大量生産されれば
安くなるだろう。ただ、カセットに比べどうしても内部構造が複雑(精密)な分、
割高になるのはしょうがないとも思える。ミクロンオーダーの精度が必要だし、
メモリーも必要だし、ハード的にはカセットよりずっと複雑になるのだから。

機器の大きさも、ポータブル機種で言えば、ちょっと前まではMDの方が大きかった。
MDそのものがカセットより小さいのになぜ?というところだが、
これは、主に電池の問題なのだ。MDはレーザー光線を使って読み書きする。
レーザー光線というのは、その発生に電力を使うので、どうしても電池の消費が
はげしい。そのため、大きな電池が必要で、なおかつもたないのだ。
ポータブルCDが電池が持たないのもこれと同じ理由だ。
電池が大きいと当然匡体もでかくなる。

カセットは、簡単に言えばテープを動かすモーターさえ回していればよい。
ヘッドにテープが擦れればそれで音が発生するのだ。磁気記録メディアの
最大の利点はこの再生の簡単さにある。勿論、電池も持つ。
だから、連続60時間再生などというとんでもないことも出来るのだ。
MDではせいぜい10時間が限界だ。
最近は、だいぶ軽くて小さい機種が出てきた。しかし、電池の寿命を考えると、
まだカセットには及ばない。

記録時間の短さも欠点だ。最長74分。通常は60分か74分のものしかない。
カセットのように90分や120分はいくら待っても出てこない。そういう規格
だからだ。CDからのまるごと録音だけなら74分でいいが、編集を考えると、
ちょっと物足りない。せめて90分は欲しかったところだ。
(CDも74分までというのが規格。最近はオーバートラックという必殺技もあるので
74分以上のCDもあるらしいが。)
モノラル録音モードにすれば2倍録音も出来るが、普通の状態では74分までだ。

あと1つ、MDには音の圧縮の問題もある。

        ・・・

で、MDの欠点の1つの音の圧縮について。

MDは、その小さなメディアに音を記録しなければ成らない故に、
そのデータを圧縮して記録する。

圧縮しないとどうなるかといえば、メディアの大きさがCDと同じ位になってしまう。
CDはまったくの非圧縮記録だ。

それではいけないので、なんとかデータを減らし、メディアの大きさも減らすのだ。
それは、大きさだけの問題ではなく、コストの問題にもつながる。
小さい方が安く出来るのだ。

データの圧縮といっても、後で圧縮すると言うわけにはいかない。
だからパソコン上のデータ圧縮と同じ方法は使えない。
録音しながら、リアルタイムで行う必要があり、なおかつ、音質を出来るだけ下げない
必要がある。そこでは、「音」の特質を使った方法を使う。

CDやMDでは音をデジタルで記録する。これは、音の波を微小時間で区切って、
その時々の音の大きさを定量して記録する。これをPCMという。
パルス・コード・モジュレーションの略である(あえてアルファベットではでは
書かない)。CDやMDではこの微小時間=サンプリングレートは44.1KHz、
1秒間を44100回/2に区切のだ。/2するのは・・・あれなぜだっけ?
(音波には正負の波があるので、それぞれに対して行うから、だったような。
いかん、以前CDを作ってた時に覚えたはずなんだが・・・。)

このサンプリングレートで周波数特性も決まる。サンプリングレート/2が
周波数特性=聞こえる音の領域だ。(下限は基本的には0Hzから。)
サンプリングレートが高ければそれだけ高い音まで記録出来るが、データ量が増えて
記録しにくくなる。スピードも必要になり、機械の精度が上がるため値段も上がる。
だから、そのへんの兼ね合いと、平均的人間の聞こえる周波数から決定される。

サンプリングによる録音は、そのサンプリングレート以上の周波数の音は絶対に
記録されない。仮に広い音域を持つ楽器があって、44.1/2KHz以上の音を
出していても、それ以上の領域の音は無条件にカットされる。これがCDでも
言われる「音が変になる」という理屈だ。

デジタルだから、音を細切れにしているから音が変、という人もいる。
でも、現在の録音メディアはプロ用も含め、ほとんどがデジタル機器だから、
デジタルだから、というのはあまり関係無いだろう。
プロは、そういう面の妥協はしないはずだ。
それに、アナログメディアの劣化/ノイズと比較して考えて、どちらがいいかだ。

が、周波数的な問題は言われる。確かに、CDで高音が伸びる楽器の音が
「ちょっと?」と思うことはある。高級なプレイヤーではその分を予測して出して
くれる機器もあるが、予測であり完璧ではない。
DAT(デジタル・オーディオ・テープ)のようにサンプリングレートを上げて
周波数特性を上げた機器もある。(DATでは96KHzサンプリング機種もある。)

アナログメディアでは周波数特性というのは、その領域の音なら、聞こえる音量の
音として記録出来るという、いわば保証領域で、それ以上であってもカットされる
わけではない。だから、それより高い音が出てもなんとか「聞こえるかな」程度には
なるのだ。

で、PCMではそのサンプリング時間ごとに、音を何ビットで記録するかで
データ量が決定される。このビット数は、周波数に対して音量と思えばよい。
音量の変化を何段階で記録するかだ。CDでは16ビットサンプリングなので、
音量の違いは16ビット=65536段階に分割される。

ここから計算される、CDの1秒間のデータ量は、16(ビット)/8(ビット/バイト)
*44100*2=176400バイトである。*2はステレオだから。CD1枚には
74分入るから、176400*60(秒)*74(分)=783216000バイト
=746Mバイト。これがCD−ROMの最大容量ということになる。

あっと、話が大幅にずれた。音の圧縮についてだっけ。

音声のデータには連続性がある。音声の波形=(基本的には)サインカーブを
見たことがあるだろう。音はほとんどの場合、前の音に比べて大きいか小さいという
連続性を持つのだ。勿論突発的に出てくる音もあるので、ある時間を見た場合に、
必ずしも連続であるという保証はないが、その可能性は非常に高い。

であれば、前のデータからどれだけ増減したか、その差分だけを覚えておいても
いいはずだ、となる。これが差分圧縮という考え方で、DPCMとかADPCM
とかいう方式になる。例えば、テープのいらない録音装置、留守番電話などに
そういうのがあるけど、そこでの音声の記録には多くの場合ADPCMが使われて
いる。人の声ということでサンプリングレートをおもいっきり下げて、ADPCMで
圧縮すると、CDレベルより、1/32位になる。(計算違いかも知れないけど、
それ位にはなる。)

ADPCMでは前回との音の差を何ビットで記録するかによって、そのビット数を
減らすことで圧縮出来る。が、この差で表せないほど急な大きな音の変化があったとき
はエラーになる。というか、データ圧縮が破綻する。音が変になるのだ。
ADPCMには、理論的にこのような欠点がある。

        ・・・

MDの欠点の1つの音の圧縮についての続き。

最初に言っておくと、これから先の話は、実はうろ覚えなので、
全くでたらめかも知れない。気になる人は、後で専門書を読んでくれい。

MDの音の圧縮法は、単純なADPCMではない。
もっと目新しい方法で、音楽を音波の集合ではなく、人の聞く上での「音の集合」と
いう観点で圧縮している。
それはどういうことかといえば、「人には聞こえる音と聞こえない音がある」
ということである。

勿論、周波数の問題はサンプリングレートで解決済みだから、ここでいう
「聞こえる聞こえない」は音量の問題だ。
大きい音にかくれた小さな音は聞こえない。
ある特徴的な音に隠れた微妙な音は聞こえない。
これなのだ。

この聞こえないであろう音をすっぱり削除、もしくはこれに特徴的な音に対する
差分だけを記録してデータ量を減らすのがMDのデータ圧縮法であるATRAC
(アダプティブ・トランスフォーム・アコースティック・コーディング)なのである。
これによって、MDはカセット以下の小さなメディアに74分ものデジタル録音を
可能にしたのである。

問題は、どういう圧縮をされてもいいが、それによって音がどう変わるかだ。
「劣化」というほどの音の変化では意味はない。
で、実際に聞いてみての感じだが、CDをMDに録音して聞く比べると、
やはり若干音が違って聞こえるところがある。
それを表現するのは難しいが、次のように言ったら、なんとなくニュアンスは
伝わるだろうか。

 CDは暗闇の中もはっきり見える
 カセットテープは暗闇の中に何か有りそうだがはっきりしない
 MDは暗闇の中は真っ暗で何も見えない

という感じである。まあ、よほど良く聞き込まなければわからないだろう。
少なくとも、ウォークマンで外で聞いている音で満足している人には、
全く問題にはならない音の変化だといえる。

・・・で、これで全て書き終わったと思い気や、1つ忘れていたことが有った。
高級機と普及機の違いだ。

デジタル機器では、理論的には、高級/普及で記録出来る音の周波数には違いが
ないはずだ。ところが、実際には機器比べると差がある。これはCDでも同じで、
メーカーによって音が違うと来ている。同じ記録されているCDを再生して
なぜ音が異なるのか。

これは、人間の耳はデジタルのままの音は聞けないということなのだ。
デジタル録音された音を聞くにはDA(デジタル・アナログ)コンバーターと
いうものが必要である。

簡単に言えばデジタルを音波に直す回路があるのだが、この装置の善し悪しで
聞こえる音が違ってくるのだ。前に書いた、カットされた周波数部分を予測して
補うかどうかとか、16ビットサンプリングを20ビット位に拡大して
音の変化をより滑らかに再生するとか、いろいろある。(どうやって16ビットを
20ビットにするかは、一言で言えば、音量変化を予測して20ビットに置き換える
ということをする。こちらの方が周波数予測より楽なのでやっている機種は多い。
たった4ビットの差だと思うことなかれ、音の変化の差で言えば、2の4乗の差、
つまり16倍も違う。)

後、アナログになって外に出てくるまでのアナログ回路の善し悪しも影響する。
高級アンプと普及アンプの音の違いといえば分かりやすいか。
もちろん、これは再生段階だけでなく、録音段階も同じ。
アナログメディアから音を録音する時には、ADコンバーターの善し悪しで音が
決まる。もっとも、CDからのデジタル録音などの場合にはCD全く関係無いけどね。

デジタル機器とは言え、結局は、アナログ部分の善し悪しで決まるなんて、
皮肉というか、面白い話だ。

そうそう、パソコンに付いているCDで聞いて喜んでいる人がいるけど、
あんなもんで満足しちゃいけないよ。パソコンのCDなんて最低のアナログ回路
だから。そこらへんのCDラジカセ以下じゃない?

ということで、値段の差はそれなりなんだよ、ということ。

まあ、結局、ポータブルMDでもそれなりにいい音だし、
充分他の人にもお勧め出来る、ということですな。

という、結論を持って今回の話は終わり。
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