「ときめきの科学講座−2」(本誌未公開ネタ)
今回は時間と距離と速度の話である。
私たちが日頃何気なく考えている、時間とは何か、距離とは、そして速度とは
何なのか。その本質をとらえようという、なんとなく高尚なお話である。

これを「巷にあふれている現象」としていいかどうかはともかく、
絶対にそれから逃れて生きることは出来ない。

    ・・・

私たちが速度の話をする時、普通は移動した距離をかかった時間で割ることで
求める。式で表すなら、次のようにでも書けるか。

    V=L/T  V=速度、L=距離、T=時間

ここで「距離」についてもう少し厳密に定義しておけば、
それは2つの地点の空間座標の差といえる。

おそらくほとんどの人が、これは速度の定義であり、当たり前だ、
と考えているだろう。今までそれで問題無かったし、それに疑問を抱いたことも
ないだろう。
確かに普通の生活をする限り、それは問題無い。
ところが、それがあらゆる速度、あらゆる条件において不変であるかということは
解らない。

さて、この場合、基準となるのは距離と時間であって、速度はそこから求められる
計算上の数値ということになる。裏返せば、距離と時間という2つの基準は決して
ゆらいではいけないことになる。

ところが、この考え方、すなわち時間と空間位置を固定として速度をそこから
導かれるものととすることに疑問を抱いた者があった。
それがかのアインシュタインであり、それが彼の「特殊相対性理論」である。
(ちなみに、相対性理論には「特殊」と「一般」の2つがあるが、
先に発表されたのが「特殊」であり、それをさらに一般的に=全般的な事象に
適応出来るようにしたのが「一般」である。従って名前とは裏腹に、
一般相対性理論の方が難しい。)

この中で基準とされているのは、時間でも空間位置でもない。
基準は速度であり、しかもそれは「光の速度」なのである。

    ・・・

ここで特殊相対性理論が正しいかどうかを問うのはやめにしよう。
少なくとも私たちの「常識的概念」を覆させないためには
それは正くなければならない。

そこで、この特殊相対性理論がいうところの「時間」「空間」「速度」について
述べてみたい。

    ・・・

特殊相対性理論では、絶対なのは「光の速度」であり、時間も空間位置も相対である。
これが相対性、と呼ばれる所以である。
そして、私が一般的に計っている速度というものもまた「相対的」なものなのである。

まずこの速度の相対性に付いて考えよう。
わたしたちが不断何気なく「速度」と言っているものは、実は絶対的なものではない。
走っている列車を考えた時、その速度というものは停止している地面に対しての
「相対的な」速度である。この時、私たちは地面は停止している物=速度0と考えて
いる。

ところが、実際には地面は停止していない。考えてみよう。地球は自転しているのだ。
ということは、宇宙的視野で見ると、地面は動いているのであるから、速度を持って
いる。さらに、地球は太陽の周りを回っている。公転である。さらに太陽は
銀河系の中で移動している。その銀河系も宇宙の中で移動している。
とすると、この地球上で言う「速度」が、実にあいまいなものであることが解る。

このような宇宙の中で絶対的な基準となるのは何なのだろうか。
その基準としてアインシュタインが考えたのが光の速度なのである。

    ・・・

さて、最初に速度の定義をした時に、

    V=L/T  V=速度、L=距離、T=時間

という式を出した。
わざわざ光の「速度」というものに基準をおかないでも、距離と時間さえ
何等かの方法で計ることが出来れば良いのでは?と思うかも知れない。
ところが、実はこの2つ、「距離」も「時間」も相対的なものなのである。
正確に言えば、速度が一定であって、距離が可変なので時間も変わってしまうと
いうべきか。

    ・・・

距離とは何だろうか。
最初に定義した通り、それは空間座標の差である。これは相対性理論でも同じだ。
でも、その「座標」とは何だろうか。
それを説くには、まず「次元」に付いて知らなければならない。

私たちの住む世界は3次元である。
一般に言われるように、点が0次元、線が1次元、面が2次元、立体が3次元である。
でもこれでは正確には次元を定義していない。
この3次元というものを考える時に重要なのが「質量」である。

中学の時の物理を思い出して欲しい。
「質量」と「重さ」という言葉の定義をしたはずだ。
「質量」とは分銅の両方に同じ重さのものを乗せて釣り合った時のもので、
それは重力に左右されないが、「重さ」は重力によって変わると。
だから、「質量」は地球でも月でも同じだが、「重さ」は月では地球上の1/6に
なると。

ここで1つの事実に気が付かなければならない。
この定義のままでは「質量」は相対的なものになってしまうのだと。
相対的なものは基準には出来ない。

物体はその「質量」によって3次元的に歪む。
これは次の例で考えるとよく解る。
スポンジマットの上にビー玉を置くとする。
すると、スポンジマットはビー玉の重さによって歪む。

2次元の平面の上に「質量」が存在すると、その質量によって2次元平面は空間的に
歪む。平面で高さがなかった世界に「高さ」という次元が加わろうとする。
(それは3次元に住む我々だからこそ感じられることであって、平面的な2次元の住人
にとってはその歪みは感じられない。)
これは2次元的に見た質量による3次元的歪みであるが、同じことを3次元的に
考えれば、3次元空間は質量によって4次元的に歪んでいるといえる。

見方を変えれば、質量とは、次元空間を+1次元に変化させる力だといえる。
質量=力=エネルギーなのである。

実はこの関係こそがアインシュタインの一般相対性理論である。
質量こそが力である。質量は力と等価(と言うより同意)である。

これだけだと何のことだか解らないかも知れないが、実はこれがいわゆる「原子力」の
基本理論である。原爆や原発では核分裂に起こる質量欠損を使う。

「原子」に付いて細かい話を書き始めると話が長くなりすぎるのでここでは簡単に
書くが、原子核が2つに分裂する時、単純に考えれば質量は1+1=2になるはず
だが、実際にはわずかに質量が減る。この欠損した質量がエネルギーとなって放出
される。それがあの莫大な熱エネルギーとなるわけである。
この時欠損する質量は極わずかだが、それでもあれだけのエネルギーを出すのである
から、質量のエネルギー等量がいかに大きいかが解る。
(放射能はこの質量欠損とは完全に無関係ではないが、半分は関係無い。)

質量のエネルギー等量は次の式で表される。

    E=MC^2  E=エネルギー、M=(欠損)質量、C=光の速度

質量は、光の速度の2乗倍のエネルギーの変換されるわけで、
光の速度自体が非常に大きな数値であるから、いかに大きなエネルギーが
質量から得られるかが解る。

このように、核爆弾はアインシュタインの一般相対性理論の賜であり、
アインシュタインがいなければ核爆弾は出来なかったのである。
(事実、アインシュタインはアメリカによる核爆弾開発計画に賛同した書簡を大統領
宛に出している。もっともそれは、騙されたから=「ナチスドイツが原爆を
作っている。先にアメリカが作らなければ危ない」ということを吹き込まれたからだ。
ところが実際にはドイツにはその力はなかった。そしてそれは日本に使われた。
親日家のアインシュタインは非常に悲しんだそうだ。)
原爆の構造に付いてや、原爆とは逆の核をくっつける時に起こる質量欠損を使った
核融合も書くことが出来るが、また別の機会にしよう。

    ・・・

話が横道に逸れてしまったが特殊相対性理論に戻そう。
空間は質量によって歪むと言った。

では「重さ」とは何かというと、歪んだ空間に物が落ちる時の加速度だといえる。
加速度とは速度の変化の割合で、
    a=V/T
であり、単位時間あたりの速度の増分である。
スポンジを裏側から引っ張ってへこませ、そこにビー玉を
近づけるとそのへこみに落ちる。この落ちる時に付く速度の変化、
いや、物Wをそこに落とそうとする力が「重さ」である。

さて、空間は質量によって歪むということは、質量が存在するとその間の距離が
変わってしまうということになる。即ち、質量が存在する限り、空間距離もまた
相対的となってしまい、絶対値が求められない。

    ・・・

もう一度この式をあげよう。

    V=L/T  V=速度、L=距離、T=時間

この式を時間の式に変形すると、

    T=L/V

となる。ここで、この式を光の速度を基準とする式に書き替えよう。
全ての速度は光の速度に対する相対値として求めるのである。

    T=L/(C−v)

となる。ここで、Cは光の速度であり、vは光の速度に対する相対速度である。

時間は経過しかしない(過去には戻れない)から、正の値にしかなり得ない。
従って、C>vであり、またvは絶対にCと同じにはならない。0での割り算は
出来ないのだ。
ここから、光の速度の絶対性が解る。
時間が過去に遡らないということを保証するためには、光の速度は越えてはいけない
壁なのである。我々は、技術の発達によって越えられた音の壁と違い、光の速度は
どんなに技術が発達しても絶対に越えられないのである。

実はこの式の説明にはうそがある。Cをある絶対的な速度とすることには問題無いが、
それを光の速度としていいかどうかである。結果的にはそれは良いのだが、
私にはそれは説明出来ない。しかし、そうであるとするなら、上に書いた通りであり、
時間的に矛盾を起こさないためには、光の速度は絶対である。
それこそがこの特殊相対性理論なのである。

私たちが時空間を「旅」していることが基準なのであって、
そのある一瞬をとらえて空間的、時間的固定を計ろうとしたのが
時間であり、空間位置なのである。
だから、それらの方が特殊なのである。

    ・・・

さて、この式を見て、あることに気づかなければならない。
もし距離が一定ならば、時間はvの関数として一意に決定出来る。
もっと正確に言えば、一定の距離を進むのに使う速度を上げれば上げるほど
時間が長くなるのである。

vが大きければ大きいほどTは大きくなる。
即ち、相対速度が光の速度に近づけば近づくほど時間が延伸されるのである。

それは式上の空論ではなく、実際に光速に近い速度で動く素粒子
(原子と思えば良い)の寿命が、そうでない速度のそれの寿命に比べ長い
ということが確認されている。

光速に近い速度で移動するものは時間の延伸がある。
ということは、光に近い速度で生活出来れば永遠の命を得られるのでは
ないかという考えが浮かぶ。

この考え方は半分正解で半分はずれである。

この時間の延伸は、実はその移動物体に対しては行われない。
速度的に遅い速度で動いているものに比べて、「相対的に」発生する。
例えば、光速に近い速度で飛ぶロケット内で暮らす人を地球上で暮らす人から見た時、
その寿命は非常に伸びているように見える。
ところが、ロケット内にいる人にとっては、実際にそれだけの時間しか経っていない。
ということは、ロケット内の時間としてのがそれだけ経てば、
その人の寿命もそれだけ短くなるのである。

ということで、他の人と同じ速度で生きて、自分だけ寿命を延ばそうという
ことは、少なくとも相対性理論を使っては実現できない。

実は、光速に近い速度を達成出来れば、わずか数十年で今知られている宇宙の全部を
旅することが出来るが、その間に地球では数百億年経っており、
地球は消滅しているだろう。
(太陽の寿命はおよそ100億年。)

    ・・・

そうすると、人類は永遠に光に捕らわれたものであり、
その制約の内に空間的距離を飛び越えて移動することはかなわないように思える。
(ある距離を移動するには、もっとも速い光速でもTの時間がかかる。)
これを可能に出来るのでは?という理論がある。

アニメではワープと呼ばれているものがあるが、あれは空想の話である。
ところが現実的は話があって、それがワームホールの理論である。

先に質量によって空間が歪んで距離が変わると書いた。
この歪みが非常に大きくなったどうなるのだろうか。
実は、質量が非常に大きかったために穴に落ちようとする力=「重さ」をささえ
きれなくなったものがブラックホールである。

その生成過程の話は別の機会にするとして、ブラックホールの中心では、
質量が非常に大きかったために空間が歪みでは済まずに陥没してしまっている。

その陥没の先はいったいどこにつながっているのか?
それが別の空間であるとするのがワームホールである。
あまりに質量が大きいために空間座標が歪んで別のところとくっついてしまうのだ。

このワームホールを通り抜けることが出来るなら、我々は
光速から定義される空間の制約から解放され、通常では光速でもってすら
移動出来ない時間で距離を移動出来るのである。

ちなみに、この関係の話は以前に紹介した映画「コンタクト」にも出てくるし、
昔のディズニー映画「ブラックホール」でも―寸触れられている。

    ・・・

時間の延伸やワームホールの通過による次空を越えた旅行は、
理論上では可能であるが、現実の地球上の技術ではそれは夢のまた夢の話である。

地球人が作り出したもっとも速い物体は宇宙船ボイジャー等であり、
それでもせいぜい時速20万キロ程度である。
光はたった1秒で30万キロ移動する。まだ60*60*30/20倍も遅い。
時間の延伸が得られるほどの速度というものは、最低でも光速の90%位であり、
秒速27万キロを越えなければ成らない。
もちろん、そんな速度を作り出す装置は地球上にはまだ無い。

また、ワームホールを通過するには、莫大な重力、そこを通過する放射線に
耐え切れる乗り物が必要であるが、これもまた今の地球の技術では作れない。
どちらにしても、今の技術の延長線ではない、画期的な技術革新を待つしかない。

    ・・・

ということで、今回は非常に難解なネタであった。
私自信100%理解しているわけではないのでうそもあるだろうし、
なんとなく抜けている気もするが、基本的な部分ではきっと
・・・うそもあるかも知れないが、結果的には正しいのである。
こんなもん、100%理解出来たら会社人なんてやってませんて。

さて次回は何を解説しようか
今回説明が中途半端になった核分裂/核融合、ブラックホールについて説明するかな。
しかし、今回の話を書くのでちょっと疲れたので、ちょっと先のことである。
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