「表示板の秘密」(1998/03/30〜05/15、11/27号)
表示板。
ひょっとすると「ばん」の字が違うかも知れないが、
これは、消える魔球付きの「野球盤」とは何の関係もない。
ちまたにあふれている「電光掲示」の「板」の話である。
(中には光ってないものもあるけど。)

たとえば電車の行き先表示板。電車の側面や前にあるものだ。
昔、いや、今でもフィルム幕に文字を書いたものが多い。
が、最近は電光掲示板的なものも増えてきている。
特に行き先が多いJRでは、幕の作成も大変なのか
この電光タイプの掲示板が主流である。
特急のヘッドマークですら電光掲示式のものがあるくらいだ。
(スーパーひたちなんかがそうだな。)

私鉄でも、新しいタイプの車両では、社内の扉上部に行き先表示のそれが
あったりするし、新幹線では、通路扉の上にあって宣伝やニュースを
流したりしている。

もっと身近なところでは、CDやMDなどにも表示板がある。
これらは、なにかしらの動作状態を現物直接でなく、
分かりやすく表示するもの、と言えるだろう。

さてこの表示板、よく見るといくつかの「原理」タイプに分かれることがわかる。
これからそれぞれについて説明してみよう。

        ・・・液晶・・・

有名なのは液晶。最近はノートPCのディスプレイとして一般的で、
今では誰でも知っているものとなった。
かつては電卓や時計、ちょっと前でせいぜい携帯テレビだけだったが、
今では列車の行き先表示板(というか名前表示板)にまで使われていたりする。
今の花形表示板である。

液晶というものは、原理的には電力を消費しない表示板である。
それは、液晶の動作が電圧差によってのみ行われるからである。

ちょっと詳しく説明しよう。
液晶表示盤は、薄い2枚のガラスの間に液晶と呼ばれる物質を挟み込み、
その両端に電極を付けたものである。

            ガラス板            このガラス板は普通のガラスではなく、
           ----------           偏向板と呼ばれるもので、光の波の向きの中で
    電極---|液晶物質|---電極    一定方向に向いたもののみ透過する。
           ----------           普通の光は全方向の波を持っているので、
            ガラス板            偏向されても見た目には変わらない。

液晶は、電圧を掛けない状態では全方向の光を通すが、電圧を掛けると偏向する
ようになる。このとき、偏向ガラスと違う方向の波だけを透過するようにしておくと、
液晶に電圧を掛けると光が通らないようになって「影」になる。
この動作において必要なのは電圧だけであって電流ではない。
従って、液晶表示板は理論上は消費電力が0になる。
わかったかな?そこの君、読み飛ばしてはいかんぞ。

        ・・・

実際には若干の電流が流れるので電力消費があるが、
それでも他の表示板に比べて格段に消費電力は少ない。
液晶時計が小さな電池で何年も動作可能と言うのはこのおかげであり、
今液晶がもてはやされる理由もここにある。

また、液晶を閉じ込めている空間の形を変えることで、
どんな形の表示もできるのも利点である。
細かいドット上にして制御してもいいが、すばり絵の模様の表示にも出来る。
昔のゲームウォッチなんてまさにこれだ。

理論で書いた通り、液晶って光っているように見えて実は光ってない。
液晶が作り出せるのは「影」だけなのである。
影が見えるためには回りが光っていなければならない。
だから、時計の場合は裏に反射板を置いて光を反射させたり、
PCの場合は液晶の後ろに光る板(EL発光板とか)を置いて
後ろから光を出しているのである。
(だから液晶だけでは暗闇では全く見えない。)

PCの場合には液晶が結構電力を消費しているように思えるかも知れないが、
実際にはほとんどが液晶そのものの消費電力より、制御回路やバックライトの
消費電力である。

        ・・・

最近発表されたSHARPのカラー液晶は反射型と言って、
バックライトが不要であるらしい。
その分消費電力は少なくなり、携帯端末には有利になる。

基本的には外部光を反射しているだけだろうから、難しいようにも思えないが、
いままで出てこなかったと言うことは、どこかに技術的問題があったのだろう。
        ・・・

液晶の欠点は、細かいドットにすると製造コストがかさむ上に歩止まりが悪い
ということ(ドットに欠け=表示がおかしい部分が出る)と、
応答速度が遅いことがある。昔に比べれば両方ともだいぶ改善されたが、
価格面以外でテレビに完全に置き代われない原因がここにある。
(応答速度が遅いのは、液晶に電圧がかかってから偏向物質に変化するまでの間に
時間がかかるから。)

カラー液晶はRGBという光の3つの色をコントロールするために(理屈上)3枚の
液晶を制御しなければならないのでより精密になるし、大画面にすると
また細かい部分が多くなるので大変なのである。

モノクロ階調付き液晶とかカラー液晶の原理を書き始めると長くなるので省略。
「知らないだけ」と思われるかも知れないが、実は有る程度は知っている。
特にモノクロ階調付き表示は原理を知れば「膝ポン」ものである。
リクエストがあればまた別の機会に。

液晶は今の表示板の花形ではあるが、これらの問題があるので、
将来までこのままで行けるかどうかはわからない。
(今のところ、価格面も含めた場合に代わりになれるような新技術はないようだが。
価格を無視すればいくつか有るのだが。)

        ・・・発光ダイオード・・・

発光ダイオード(LED)は比較的以前から使われている表示板である。
昔は7セグメントと呼ばれる8のようなという形のものでしかも赤色だけであった。
        ┏┓    これで数字や一部アルファベットを表示していた。
        ┣┫    どのセグメントを点灯したらどういう文字になるかは
        ┗┛    考えてみよう。
最近は、発光ダイオードをセグメントではなく、面の中にドットのように並べ、
必要なところを点灯して自由な表示をさせている。
発光ダイオードではそのもの事態で自由は形を出すことは(ほぼ)出来ないので、
ドット制御になるわけだ。

発光ダイオードは自己発光体である。ちゃんと光を出しているので暗闇でも見える。
発光原理は・・・どうだったけ?
ダイオードそのものは、交流のように+−両方の向きに流れ得る電流の一方方向
のみを流すことで整流するものである。発光ダイオードは、このダイオードに逆向き
=通常は電流が流れない方向に大電流を流した時、降伏現象というものが起こって
その時に光りを発する・・・だったかな?以前覚えたけど忘れた。知りたい人は
自分で調べよう(手抜き)。
そう言えば、最近はこういう身近な物の動作原理を書いた本ってないなぁ。
私が書いたら売れると思う?

熱の発生も少ないし、電力消費量も発光体の中ではかなり少ない方である。
電球より圧倒的にサイズが小さい。

        ・・・

発光ダイオードの最大のメリットは、(定格さえ守れば)半永久的である点でもある。
交換が不要なのである。これが電球との最大の違いと言っていい。
光らない場合は、発光ダイオードそのものの故障よりも、回りの制御回路や電源を
見た方がいいのである。環境的強さも液晶以上である。
(液晶も基本的には半永久的だが、温度変化に弱いとか、条件によっては
液晶が変質することがあるとか、ガラス板を使うので衝撃に弱いなどがある。)

夜釣で使われる電光浮きの光はこれである。
あんな中に電球は入らないし、入っても電気をくいすぎて何時間もかかる夜釣では
使えない。たぶん夜の道路工事で使われている赤点滅ランプもこれ。
テレビのスイッチ部分で赤く光っているものもそう。
動作を示すランプ類は軒並みこれと思っていい。これも小ささと消費電力の少なさと
耐久性ゆえだ。

さらに、応答速度が早いのも利点である。
だから昔はオーディオのデジタルメーターに使われた。
最初にデジタルメーターを登載したのは、ナショナルのラジカセ
「ステレオMACムー」だったなぁ。いまでも宣伝を覚えている。
あのメーターの制御素子はたぶんSHARP製だけど。

この発光ダイオード、昔は赤色しかなかった。
赤色しかなかったのは、赤色の発光がエネルギーレベルで低いレベルだから=
発光するのに大きなエネルギーがいらないからである・・・というのもあるけど、
結局は他の色を出す物質が無かったからだと言える。明るく、長時間光る物資である。
(赤色という色での需要が大きかったというのもある。警告系の色は赤でいい
訳だから。)

        ・・・

で、最近実用化されているものは他に緑色や青色がある。
えっ、オレンジも見たことあるって?
実はオレンジは赤+緑の色である。1つの発光ダイオードのチップの中に
赤と緑の発光体を並べ、赤、緑、赤+緑=オレンジの色を出しているのである。
近づいて良く見るとわかるぞ。

青色はちょっと使いにくいので多くは使われていない。

その理由は、赤に比べ消費電力が多い、寿命が短い、価格が高いなどがある。
たとえば、青の発光ダイオードを暗く点灯する場合は長時間もつが、
明るく点灯するとわずか数秒で寿命がくる。明るく=電流量を多く長く流すと
だめなのだ。このため、電流を細切れにして、1回は1秒未満にすると
長持ちする。このような特別な制御回路が必要なことが「青」の欠点である。

それでも発光ダイオードは簡単に3色は出せるようになったので、表示板としての
利用度がぐっと高まった。
日本橋のマルゼン(古いな)OAシステムプラザ表店の前の交差点近くにある
通信機器屋の上のものや、天満橋近くのダイコロ(名刺屋)の屋上にあるものなどは
そうである。
居酒屋の前にある小さなやつなどはみんなこれだと思えばいい。
きっと安いんだろうな。
変わったところでは、道路などの工事現場に夜間光っている点滅する赤い光も
最近は発光ダイオードが多い。これは消費電力の少なさによるものだろう。
(あれってコンセントのないところで使うから電池なので、長持ちしないと
困るわけ。あっと、これは例の赤=警告色という意味もあるけど。)

        ・・・追記・・・

先日、JRのサンダーバートという特急(富山から大阪行き)に乗った。
この中にあった表示板はLEDのように見えたが水色や緑があり、しかも
それに2段階の濃淡があった。そういうLEDが開発されたのか、それとも別の
表示板か。スピードからして液晶ではないはずだが。

最近、表示板であざやかな白/赤/濃い青/緑/ピンク/水色/紫/薄緑を
出すものがある。近鉄京都駅の列車案内版や、500系のぞみの車内表示板が
これである。この表示板もLEDを使っている。

このタイプのLEDは最近開発されたようである。
今までLEDに比べて格段に明るく、色も鮮やかで見やすい。
まだ高価ではあろうが、おそらく、これからどんどん使われる範囲が増えるだろう。

        ・・・FL管・・・

FL管というのは、日本語で言えば蛍光表示管である(FLが何の略であるかは
これでわかるでしょう)。

これの特徴は、
        自己発光体なので暗闇でも利用可能
        自由形状も作り出せる
        応答速度が早い
などがある。色は水色っぽい色か白。

カラー表示は基本的に出来ないのか?蛍光物質を変えればなんとかなりそうだが。
形状は液晶と同じでどんなものでも作り出せる。ドット表示も可能である。
高級オーディオの表示板の多くはこれである。
おそらくは見た目の綺麗さと応答速度の関係でそうなっているのだろう。

でもFL管にも欠点はある。その最大のものは消費電力が大きいと言うことである。
FL管の基本表示原理は真空管などに近い。金属板をヒーターで暖めた時に出る
自由電子が蛍光塗料に当たった時に光を発するというものである。
この「ヒーターを使う」というのが癖ものなのである。
従って、消費電力を下げたいポータブル物には使われないし、
あまり大規模のものが作れない。

また、動作において若干のノイズを出すのも欠点である。
このため、オーディオ製品に使われる場合、そのON/OFF出来る場合がある。
特に高級品では必ずそのスイッチがある。

ちなみに、京阪の最新車両9000系内の電光表示板はこのFL管(ドット表示)
である(新幹線/北大阪急行ポールスター/阪急は発光ダイオード)。

        ・・・温故知新・・・

昔の表示板と言えば、それこそ電球であった。
電流量がすごいし熱や耐久性でも大問題であった。
ウルトラマンのコンピューターはほとんど電球だったようだけど。

ネオンサインも一種の表示板で、大規模の物が作れるとか光が強いなどの
良さもあるけど、自由形状に限界があるとか耐久性の問題もある。
(曲線自由形状では最高かも。)
今でも一番多いのかな?

後はニシキー管と呼ばれる物があったかな。基本的には数字のみだけど、
電球のフィラメントを数字の形に曲げた物が入っている電球と言えば
当たらずとも遠からじ。

あっ、半透明の板に絵を書いて後ろから照らすのが一番手っとり早いか。
形状を変化させることは出来ないけど。
表示を変えることでアニメーション的表示がしにくいのが昔の表示板の
特徴かな。ネオンサインだけは例外だけど。

そういえば、ブラウン管も表示板には違いないよな。

        ・・・その他・・・

実は、球場にあるでかい画面は何で出来ているかわからない。
これは調査中。情報があれば待つ。
甲子園のホワイトボードはFL管のような気もするけど。

この他にもいろいろな表示板があるが、今の流行は上記3種類だろう。
今見ているものが果たしてどれなのか、調べてみると、掲示を見る目も変わるかも
知れない。

        ・・・プラズマディスプレイ・・・

・・・と、以上の部分を書き上げてからすでに数カ月。
知ってはいたけど、動作原理もわからず、あまりメジャーでないので飛ばしていた
この技術。今年は少し出てきそうなのと、動作原理がわかったので追加。

技術的には昔からある(だいぶ前から知ってた)けど、最近ようやくきれいさでも
価格的にも手が届く(とは言え、43型で120〜140万位だから、出たてのころの
ハイビジョンくらい)なってきたこのタイプ。

で、どんなものかと言えば、まず長所を書けば分かりやすいかも。

        1、薄い(ほぼ同型のブラウン管テレビの1/4)
        2、軽い(〃1/2)
        3、液晶より広い視野(水平で1.5倍、垂直で4倍)
        4、大画面が作りやすい
        5、画面がフラット
        6、勿論カラー

ということで、次世代の大画面テレビの本命であろう。
薄型で大画面が作りやすいから、大画面では液晶より良いし。
今の問題は、消費電力が大きい(ブラウン管の2、3倍)のと値段が高い
(ブラウン管の2倍くらい)こと。液晶はここまでの大画面がまだないけど、
仮に作ったらこの数倍はするから、液晶よりかは安いけど。

現在は富士通とNECとが大きいのを作っている模様。
NECはテレビでも宣伝してたから知っている人もいるかも。
一番最初に製品化したのはたぶん松下だと思うけど。
10年位前に見たことがあるからなぁ。

        ・・・

で、基本動作原理。
動作原理は実は簡単で、蛍光灯と同じ。
空間に特定のガスを封入し、ここで放電すると紫外線が発生する。
この紫外線が、空間の表面に塗ってある蛍光物質に当たると色を発するというもの。
この空間を微細にし、電流を流してから放電するまでに速度をあげ、
蛍光物質として光の3原色である赤、青、緑のものを用意できれば
カラー表示板として使えるわけである。

でも今まで出てこなかったのは、たぶん、蛍光灯を考えてもわかるように、
スイッチを入れてからつくまでに時間がかかる、ということであろう。
あのスピードではテレビの速度にはついていけない。
それと消費電力も関係するのだろう。
蛍光灯そのものは白熱電灯に比べて消費電力は少ないけど、それが微細とは言え
何万という個数集まるのだからばかにならない。

いろいろな問題をクリアして、ようやくお茶の間にももってこれそうに
なったわけである。
一般家庭に普及するかどうかは特に価格にかかっていると思うけど、
後数年すれば50万くらいにはなるかな。
そうしたらうちでも考えよう。なんと言っても場所をとらないのがいい。
(うちはパソコンのモニターでも場所がないから液晶にしてるくらいだから。)

そうそう、球場にあるでかい奴はこれかも知れない。

        ・・・追記・・・

プラズマディスプレイは、先日書いた時にはまだマイナーな存在だったが、
ここに来て急にメジャーになりそうな気配である。
大画面の薄型ディスプレイとして各社とも開発を急いでおり、
何かそれの協会まで作られたようである。

薄型と言えば液晶が有望だが、あれは大画面が難しい。これに対して
プラズマディスプレイは大画面化が容易なので注目されるわけだ。
(最近は液晶にも新技術が開発されたので、これからはより安く、大画面も
出てくるようになろうが。)

もっとも、消費電力では液晶には遠く及ばない。今のブラウン管より大きい。
45型で500Wもかかるのだから、一般家庭では普及は難しいところ。
(この弱点に付いては、各メーカーともほとんど触れていない。カタログにすら
載せてないという悪いメーカーさえある。)
この低消費電力かもプラズマディスプレイの普及の鍵となるだろう。

        ・・・その他・・・

先に開かれたエレクトロニクスショーではパイオニアが面白いものを出していた。
有機発行素材を使った薄型モニターである。まだ色むら(多分寿命も)等の
課題があるようだが、面白い発想ではある。
意外と大化けする可能性もあるかも。

        ・・・

ということで、とりあえず今知っているネタは切れたので
おしまい。

・・・追伸
一部特殊用途にはウォータースクリーンなるものがあるようだけど、
あれは「表示板」ではないからねぇ。
遊園地向けの映画のスクリーンのようなもの。
興味があればまた書こう。
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