「意外かも知れないCPUの話」(1995/05/10執筆)
現在パーソナルコンピューターに使われているCPUはそのほとんどが
86系と言われるインテルのものだ。
そして、パソコンという物がこの世に誕生して以来、
世界のメジャーなパソコンのCPUは、ほぼ全て80〜86系のCPUである。

日本で見れば、最初の国産パソコンと言われるSHARPのMZ−80K
がZ80、その後の8ビットパソコンは富士通のものを除きほぼZ80(互換)、
98は86系、8ビットでは68系を使っていた富士通も16ビットでは
86系に寝返った。

86系と対局にあるとして有名なのがモトローラーの68系である。
8ビット時代には6800〜6809へと続き、
16ビット(以上)では68000〜68060へと続いているシリーズである。
(PowerPCはぜんぜん系列が違う。)

80系とは8ビット時代の一番使われたCPUで、
インテルの8080から始まりザイログのZ80へと
続いたシリーズである。
(Z80は8ビットとしては完成されており、私も好きだった。)
16ビット(以上)の86系も、実はこの80系の子供だと思っていい。
事実、アセンブラー(機械語=CPUの理解出来る唯一の言語:を記述するもの)
レベルでは86系は80系にとても近い。
86系のソフトがなかったころには、80系アセンブラーソースを
86系のそれに自動翻訳するものが有ったほどなのだ。

86系CPUの広まった理由は世間ではいろいろ言われるが、
ソフト屋から見た時には、この類似性は移植のしやすさという面で重要だ。
そのCPUが広まるかどうかは、ソフトの移植しやすさで決まってくるのだ。
残念ながら、そのCPUの基本的性能などは2の次なのだ。
(個人的にはこういう風潮は嫌いだが、仕事の面ではこれは仕方ないとも思える。)
そういう意味では、8ビットの80系から16ビットの68系への移植は
簡単ではない。
慣れれば出来るのだが、機械的に出来るものではない。
(私もしようとして諦めたことがある。)

そうした移植面の理由、IBMの採用、マイクロソフトの強力なバックアップ、
それによって、86系が世界のパソコンCPUを牛耳っていったのである。
(マイクロソフトはDOS供給者というよりも、開発言語供給者として
バックアップした。当初はね。)

いと、かなし。

        ・・・

さて、68系CPU(モトローラーはMPUと呼ぶ)は
アップルのマッキントッシュ等に使われているため、
そこそこたくさんパソコンに使われている。
(日本でもSHARPのX68000というマシンがある。)
しかし、その数は86CPUを使ったMS−DOSマシンとは桁が違う。
それでもこのマシンには重要な意味がある。
それは「独占禁止法の適応除外」である。

アメリカの独占禁止法は、日本のそれとは違い非常にきびしい。
(最近は日本もきびしいが。)
独占的にものを販売しているところは、ほぼ全てチェックされると思っていい。
IBMしかり、インテルしかし、マイクロソフトしかりである。
このうちマイクロソフトが、MS−DOSの利権に関して
先頃「クロ」判定されたことは、知っている人も多いかも知れない。

実はIBMとインテルは「シロ」判定されている。
それはなぜかというと、アップルのマッキントッシュがあり、
モトローラーのCPUが有ったからである。

現在は協力関係もあるIBMとアップルだが、
かつてはライバルであった。
IBMが本気を出せばアップルはつぶれたかも知れない。
でも、しなかった。
それはIBMにとって自殺行為であったからだ。
マッキントッシュがなければIBM−PCは間違い無く「クロ」に
なっただろうといわれる。
IBMは片方では歯がゆい思いをしながらも、
マッキントッシュの存在によって助けられていたのである。

マクロソフトがWindowsと言うものを作り、その普及を勧めながら、
一方でマック用のソフトを作っているのにも、こういう事情があるのかも知れない。
マック用のソフトも作って、マックの売れ行きも支えておく。
これで独占禁止法に引っかかりそうになった時の言い訳を作っておくわけだ。
「私たちはマックのためのソフトも作っている。
        決して、Windowsで市場を独占しようとしてはいない」と。
(MS−DOSの「クロ」判定はこれとは全く別の話し。)
もっとも、マイクロソフトがマック用のソフトを作っているのは、
マックOSの先進的技術を学び取り、Windowsにも
反映させようとしているためとも思うが。

        ・・・

もう1つ面白い話しをしておこう。
もし今、全世界から86系のCPUが全て消え去ったとしたら
我々の生活にどのような影響が出るだろうか。

先にも述べた通り、今の世界のパソコンのCPUのほとんどは86系だ。
ということは、そんなことがあれば世界は大パニックに陥り、
生活出来なくなるのだろうか。

私が思うに、しばらくはパニックになるが、基本的なところで、
人の生活に重大な影響はないのではないかと思う。
なぜか?
それは86系のCPUが、実はパソコン以外では余り多く使われていないからだ。

以前に話したことがある通り、CPUというものは決してパソコンだけの物ではなく、
今や身の回りの物、その多くに入っている。
そして、そのほとんどが8ビット以下のものなのだ。
16ビット以上でも86系は以外に少ない。

電化製品はよほど複雑でない限り4または8ビットだ。
車のエンジン制御は68系(の8ビット)が多い。
(最近の高級車のエンジン制御では、16ビットもあると聞く。)
ホンダだけは80系と言うが、86系ではない。
自動券売機は68系。

テレビゲームはファミコン、スーパーファミコンを始め、
3DOもアンソニーもセガールも(この宣伝知ってます?)86系は一切ない。
アーケードゲームも86系はほぼない。
(NAMCOの「源平倒魔伝」のスプライトボードに86が使われていたらしいが。
これももう10年も前の古いゲームだが。)
(これにはそれなりの理由があるのだが、それに付いてはまたの機会にでも。)

かたや、汎用機以上のコンピューター(パソコンにあらず)は86系ではない。
大型機やスーパーコンピューターは言うに及ばずである。

だから、銀行でお金がおろせないわけではないし、
自動車が作れないわけでも、
天気予報が出来ないわけでもない。
高層建築や橋、工場が建てられないわけでもない。
音楽は奏でられるし、飛行機も飛ぶし、新幹線も走るのだ。

(自動車の衝突シュミレーションソフトとしては、非常に有名なものが
スーパーコンピューターCRAY上にある。だから日本の自動車メーカーが
みんなCRAYを買うのだ。
日本の天気予報はスーパーコンピューターでデータ処理されて作られている。
今や、天気予報は予報官の感で作られているのではない。
最近の大きな建築物は、たいてい地震や台風などに対する揺れのシュミレーションを
計算機上で行う。
今の電子楽器はたいていCPUを積んでいるが、68系か最近はRISCが
ほとんど。
飛行機の機体設計もそう。空気の流れを計算する流体計算はスーパーコンピューターの
得意分野。有限要素法と言うものを使う。
新幹線の運行制御もコンピューターによっている。
そう言えば、東京方面にスーパーコンピューターを3台も持っていて、
それを企業に貸しているという流体計算研究所と言うところがあったっけ。
どうでもいいけど。)

ということは、意外と、86系CPUというのは重要でないのかも知れない。
人の命にかかわるようなところでは使われていないということだ。
(反例:ワープロはその多くが86系。シャープの「書院」だってそうだ。
NECの電子ブックも86だな。あんまり売れてないけど。)

もっとも、今やパソコンでやっていることは多いし、
やはりそれがなくなると非常に困るだろう。

しかし、インテル嫌いの私としては、そういう世界もいいんでないかい?
などと思ってしまうわけである。
合掌。
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