「アルカリイオン水の発生原理」(2002/10/28、11/04号)
ホームページの雑記にも書いたが、会社でアルカリイオン還元水なる物を作る
機会のデモ(と凱旋販売)があった。

それを告知した電子掲示板上でとある野郎が「そんなもんうさんくさい」等と
言ったので、その発生原理を調べたのが以下の文面である。

せっかく調べたので、ここでもネタにすることにした。

    ・・・

酸とアルカリであるが、定義によって若干異なるが、広義には
H+を生じる物質を酸といい、H+を受け取る物質を塩基(アルカリ)という。
(食物の酸性アルカリ性とは定義が異なる。)
塩基にはOH-とかCl-とかSO4--等がある。
(ここまでは中学の科学の範囲。)
なお、酸や塩基を水に溶かしても全てがイオン化するわけではない。
イオン化する割合を電離度という。
電離度が低い物質を水に溶かしても酸性やアルカリ性の度合いは変化しにくい。

pH(ペーハー)とは水素イオン濃度の略。
水素イオンがどれだけ多いかを示す=酸性度を示す指標。
名前からするとちょっと変だけど、数値が大きいほど(8〜14)アルカリで、
小さい(1〜6)ほど酸性となる。7が中性。
http://global.horiba.com/story/ph/ph01_02.htmによると

    [H+][OH-]=10の-14乗(一定)

    pH==-log10[H+]

と言うことらしいので、
対数というか10のマイナス何乗という指数表記なので小さいほど濃度が濃い
となるわけですな。

ここで、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウムを水に溶かした場合、
    NaOH →Na+ + OH-
    Ca2OH→Ca++ + 2OH-
となるため、塩基(水酸基)が出来、水としてアルカリ性にはなるが
「アルカリイオン水」商品の定義からすると、これはアルカリ"イオン"水ではない。
水の中では両方が等量存在するからである。

アルカリイオン水の生成においてアルカリ性物質を混ぜる必要は、本質的にはない。
にもかかわらず混ぜるのは、純水が電気を通さないためである。
そのアルカリイオンそのものを使うわけではない。
H+を発生する物質でも良いのだが、多くの場合それは危険な物質となったり、
電解の過程で有害な物質を発生させるので使われないだけである(HCl=塩酸とか)。

イオンを含む水に電気を通した場合、
+イオンは陰極側に行き、そこで電極から電子をもらって(金属)原子となる
−イオンは陽極側に行き、そこで電子を渡して塩基となる。

ところが、ここで高電圧をかけた場合、水そのものも同時に分解される。

陰極では2H2O + 2e- → H2 + 2OH-
=2つの水分子が2つの電子をもらって水酸基を発生し、
陽極では2H2O → O2 + 4H+ + 4e-
=2つの水分子が4つの電子を放出してH+を発生する。

ゆえに、
    陰極側  H2、2OH−、+イオン
    陽極側  O2、4H+ 、−イオン
となり、陰極側がOH-=アルカリ性イオンの多い水=アルカリイオン水となる。
逆に、陽極側でマイナスイオンがOH-の場合はH+とOH-は反応して水となるので少しの
H+が残る弱酸性水となる。

これらをイオン交換膜により分離選択することで、目的の水が取り出せる。

ちなみに、陽極側の弱酸性水は、アストリンゼン等とも呼ばれ化粧水等に使われる。
ゆえにこちらも有用である。

    ・・・

もともとその「うさんくさい」といった奴が書いた、間違った化学的解釈を
打破するためにこれを調べたのであるが、
私も最初理解していた方法では間違いがあったので、勉強にはなった。
何かのきっかけによって勉強するのは良いことである。

で、その「奴」に対するコメントは、ホームページの雑記に書いたので
ここではあえて書かない。10/17〜18あたりなので読んで欲しい。
一言で言えば、「実践を伴わない机上の空論はむなしい」ということ。
なおのこと、それが間違っていると非常に恥ずかしいのでやめた方が良いぜ、
と言うことである。いや、本当は間違っていることは問題じゃなくて、
それを受け入れないと言うことが恥ずかしいんだけど。

アルカリイオン水は基本的には電解によって生成されるが、
世の中には天然水なのに同様の性質を持っている水も
発見されているらしい。

世間には、ミネラルウォーターとアルカリイオン水を混同している場合もあるので
要注意である。「これを入れたらアルカリイオン水が出来ます」などと言っているのは
たいてい間違っている。単にアルカリ(性)水だったり。
(アルカリ性の水を作るだけなら、水酸化カルシウムや水酸化ナトリウムでも溶かせば
一発。)

で、このように生成原理はわかったけど、
じゃあこの水が本当に体に良いかどうかは不明。
聞いた話によると、機械メーカーも、本当に聞くかどうかわからないけど
とりあえず売れるから作っている、ということであった。
私にはそれを試す金銭的余裕はないが。
(件の機会は定価10万円以上の物を7万円で売ると言うことであった。)

じゃあ効果はないのかというと、そうでもない。
この水を飲んだら結石が溶けて無くなった、という実体験も聞いたし、
私の体験で言えば、アルカリイオン水は汚れを落とす効果があるとは言える。
「ただの水だけど汚れが落ちる」という機能水が売られていたりするのだが、
これを吹き付けると、たしかに普通の水道水より汚れが落ちる。
特に水性インク汚れの落ちがよいようだ。
音楽CDやDVDの汚れ落としにも使える、というかそういう物が売られている。
相変わらずオーディオ用と呼ばれると価格が数倍になるが。
ただし、この時には毛羽(布ゴミ)の出ない布で拭くとか、
必ず円周に垂直方向に拭くとか注意が必要である。

なにはともあれ、なにやら怪しい物に出くわした場合、
まずはそれを科学的に解釈しようとする心がけが大切である。
すべてが現在の科学で解き明かせるわけではないだろうが、
あからさまな嘘に引っかかることもなくなる。
多くは偽物かもしれないが、中には本物のあるかもしれないからだ。、
自らそれを見つける権利を放棄してはいけない。

ということで、久々の科学ネタはおしまい。
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