「源氏物語」(1995/07/18執筆、1997/06/16号)
今私が源氏物語を読んでいることは何かのおりにお話しましたが、
ようやくとその上巻を読み終わりました。

いやあ、長い長い。
1冊で普通の文庫本の3冊分位有るので量も多い上に、
翻訳が少し古いので、言い回しがちょっと現在と違っていたりして、
そのあたりを解釈しながら読むのもたいへんです。
(与謝野晶子の訳は、1つの文章が「、」で長く続くので文章の切れ目が
わかり辛い。)
これでもまだ上中下巻の1/3なのですから先は長い。

で、源氏物語とはどういう話しかと言えば、上巻だけを読む限りで要約すると、

「非常にハンサムな源氏が、理想の妻を探すために、
そこらじゅうの女性を口説きまわる。」

ということになりますか。

源氏のハンサムさに関してはこと有るごとに書かれていて、
顔はもちろん、その身のこなし、歌・絵・楽器等、すべてに於いて美しいと
されています。この源氏、よく「光源氏」と言われますが、事実
光輝くような美しさを持つということで「光源氏」と呼ばれたとありますが、
この名前は最初の方で1回か2回しか出てきません。

これだけ聞くと何か好色物語のようですが(少なくとも前半はそのとおりだが)、
女の子を自分の理想の妻に育て上げる「紫の女王(にょおうと読む)」とか、
「末摘花」(顔の不自由な人)との関係とか(昔は女の人の顔を余り見ずにやったり
したようです。話は机帳越しで、暗い部屋でいきなり押し倒したようですので。)
帝の側室をも寝取ったりとかで都所払いになったりとか、
一度関係を持った人には、後々までちゃんと世話をしたとか、
いろいろな話しがあります。年を取ってから(というか、紫の女王を
正式な妻にしてから)の源氏の行動は、必ずしも好色家という者でないように
描かれています。しかし、好色癖が時に出たと有りますが。

読みにくい部分はあるとはいえ、なかなかに読んでておもしろいものです。
少なくとも引き込む要素はあります。
暇と御用でない方は一度読んでみてはいかがでしょうか。
長さの割には安価ですし。

        ・・・

実は、この源氏物語、原作は平安時代のものですし、
訳者の与謝野晶子も死後50年だっているので、
著作権は切れていたりします。

著作権は、基本的に作者の死後50年で切れるのです。
ということは、夏目漱石の作品はみんなフリーのデーターになり得ます。
クラシック音楽もしかり。だから、番組などでクラシックがよく使われるのは
そういう理由もあります。

もっとも、編曲をされたとか、翻訳されたとかいうものには、
そうした人の著作権がかかりますから、そのあたりにはちょっと注意が必要です。

        ・・・およそ2年の時間が経った・・・
とうとうというか、やっとこさと言うか、与野野晶子全訳「源氏物語」上中下巻を
読み終えた。(原作者は誰だか知ってるかい?紫式部だ。)

以前読み始めた時は中巻の途中で挫折していたが、
今回は以前に紹介した漫画の「あさきゆめみし」と平行して読むことで
何とか読み終えたのであった。

それにしても長い長い。全54帖というだけでも長いが、
描写が細かいし、現在はなくなった物や習慣の名称が多く出てくるし、
それに代表的な人以外は名前でなく官職名で呼ばれるので、
その官職が変わると呼ばれ方まで変わってしまうのが一番厄介であった。
名前の付いている人でも、最初から名前があるわけではなく、
途中から「愛称」が付けられる場合がほとんどなので、
誰が誰だかちゃんと書いておかなかったら解らなくなる。
主人公クラスから脇役まで、登場人物そのものも多いし、その関係も複雑だから、
漫画なら顔形で判断がつくが、文章だけだと本当、判別が難しい。
(昔の人は実名を知られること=相手に支配されること、ということで、
実名は親兄弟、それに夫くらいしか知らなかったそうで、ほとんどは
このように官職名か地名、生まれた順番で呼ばれたそうだ。)

        光源氏(後に六条院)
        紫の上明石の上花散里
        夕霧匂宮薫大将浮舟

昔の物語だからちゃちいと思ったら大間違いだぞ。
非常に複雑と言うか技巧が凝らしてある。

恋愛の心理描写もそうだが、宮廷の暮らしを知る上でも重要な価値があろう。
暮らしぶり、食べ物、官職名、人間関係(誰と誰が血縁で、誰が子供でとか)、
催し・儀式、調度品名、宗教概念など。
当時、仏教の教えが広く生活の中に浸透していること、
出家と言うものがそれほどとっぴょうしもないことではない、ということが解る。
実は源氏物語の根底にも仏教の教えとの対比と言うものがある。
(仏教の教えを説く話ではないが。)このあたりを押さえておかないと、
正しく読めないであろう。

単なる物語に止まらずに、平安宮廷を知る上での貴重な資料となるわけで、
これ1つだけで学問になるというのもうなづける。

絢爛豪華ではあるが自然を巧みにいかした庭作りや歌のやりとりなどは、
今の日本人に一番書けたものではないかと思わされる。
何かことが有った時に、とっさに歌を作って返すなんて、できまい。

ところで、源氏物語は実は終わり方がちょっと中途半端である。
完結していると言うにはちょっと物足りない終わり方に思える。
あまりに長いので、まあいろいろ有ったのだとは思うけど。
途中、光源氏が主人公の部分の終わりなんも、完全にカットされている。
(原作がそうらしい。)そういう意味では、読み終えてもすっきりしないかも
知れないが、日本人なら読まねばらん本の1つにあげてしまおう。
別に与謝野晶子の訳本でなくてもいいが。

そうそう、前回紹介した「あさきゆめみし」は全13巻であった。
非常に良く出来た漫画であるが、全54帖のうちいくつかは抜けている。
(わかったところでは「竹河」の章はまったくない。)
それに、細かい部分だが重要な部分が抜けているところもあるので、
やはり文章だけのものと対比しながら読むのが良かろう。
いえ、漫画の方が優れた部分もあるので、お勧めはお勧めである。
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