3.弁理士試験への道

 弁理士試験は志願者が約4000人に対して合格者が約120名という合格率3%以下を誇る(誰が誇っているかはともかくとして)「難関」試験といわれています。一時期は、最難関の司法試験の倍率を下回ったこともありました。自分がエンジニアをしていて弁理士という職業の存在を知った時も、「合格率3%などという試験はどんな人が受かるのだろう?」と思い、弁理士先生は天才的頭脳の持ち主では、と考えたこともありました。但し、実際にどうであるかは残念ながら合格しないとわかりません(私の口からは言いにくい部分があります)。

 ……冗談はさておき、本題の弁理士試験の概要について説明します。

 弁理士試験には、
  ・予備試験
  ・1次試験(択一式)
  ・2次試験(論文式)
  ・3次試験(口述式)
があります。以下、順に説明しましょう。

 (a) 予備試験

 予備試験は、受験時点において4年制大学の教養課程を修了していない人が原則として受ける試験です。それゆえ、短大卒、高専・高校卒の方は予備試験からのチャレンジになります。たまに、大学在学中の最終合格を目的に、大学生が受験することがあります。
 予備試験は、受験年度の前の年の11月頃に実施されます。会場は東京のみです。予備試験の内容は一般教養(政治、経済、技術から2問選択の論述式試験)、および語学(英、独、仏の和訳)であり、合格率は20〜30%といったところです。但し、予備試験からチャレンジした私の友人の弁理士の話からすれば、満点を目指さなくても十分合格できる、とのことでした。
 予備試験は受験者も少なく、受験界に流通している情報も少ないのですが、基本的には就職試験における一般教養試験と同程度の準備をしておけばよいのではないかと思います。過去問はその年度毎に特許庁が公開していますが、これを集大成した書物は公に刊行されていません。どうしても知りたい方は、弁理士会の事務局に行くとよい、と私の友人が申しておりました。
 なお、予備試験を受験しなければいけない受験生は、予備試験に合格しないと1次試験を受験できませんが、予備試験に1度合格すると以降の予備試験は免除されます(願書提出時に予備試験合格証を提示すればよい)。

 (b) 1次試験

 1次試験は、予備試験合格者および予備試験免除者(4年制大学卒業者はすべてこれ)が受験資格を持つ試験であり、基本的にはこれが弁理士試験の入口になります。
 1次試験は、例年5月の最終日曜日あるいは6月の第一日曜日に実施されます。会場は、東京と大阪の2ヵ所であり、例年、東京は早稲田大学本部校舎、大阪は関西大学です。私は東京でしか受験しなかったので、東京の雰囲気しかわからないのですが、全て大教室で実施され、大学受験と同じような雰囲気をもっています(受験番号がポストイットで机に貼ってある)。合格者は、年度毎に微妙に増減するのですが、受験者4000名に対して600名強、合格率にして15%程度といったところです。基本的に、1次試験は論文試験のための足切り的性格を持っていますので、受験者が増えたところで合格者はあまり増加することはないでしょう。
 1次試験の内容はいわゆる択一式試験です。具体的には、1問につき5つの枝があり、この枝の正誤を判断していずれか1つの枝を選択し、あるいは選択すべき枝がない(俗に「ゼロ解」といいます)という解答をし、これを3時間で50問解答する形式の試験です。解答は、マークシート方式で選択します。内容は、弁理士の職務である特許法、実用新案法、意匠法、商標法およびこれらに関連した法律、国際的条約(数は少ないのですが)に関する問題です。合格のボーダーラインは近年とみに低下する傾向にあり、つい10年ほど前であれば45点、という比較的高得点にあったのですが、昭和60年以降は40点を切るようになり、平成5年度はついに!約30点がボーダーラインである、という噂も流れました(公表はされません)。その後、ボーダーラインは若干上昇し、近年は35点〜40点の間で落ち着いているようです。
 受験した実感としては、はっきり言って「時間がない!(短いのではない)」の一言です。単純計算すると1問に割ける時間は3分強、1つの枝には40秒足らずですから、ほぼ瞬間的な判断が必要です。しかも、近年長文問題が増加しており、問題文を読むだけで考える時間がない、という緊迫した状況になりつつあります。
 試験に対する対策としては、法学書院から過去の択一式試験の再現問題(問題用紙は持出禁止ですのでご了承のほどを)が出版されており、受験生の多くはこれをもとに勉強しています。但し、再現問題ゆえどうしても不正確な部分がありますので、致し方ない面もあります。特に、このところの本試験問題の再現率はよくない(平成4年度の本試験問題の再現率は最悪)ので、再現問題をやっていても確信の持てない部分が出てきます。具体的な勉強方法は今回のガイダンスの域を出るような気がしますので、別の機会に回させてください
 なお、1次試験の成績は翌年に持ち越されることはなく、したがって最終合格まで受験生は毎年1次試験を受験することになります。1発勝負の試験ゆえ、数多くの悲喜劇を生んできた試験です。1点差でも不合格は不合格ですから。現に、ベテランの受験生でも安定して多枝試験に合格できない人も少なからずいます。合格者は多枝試験の時期になると、もう二度と多枝試験の勉強をする必要がないかと思うとほっとした気持ちになるものです。それくらい精神的な負担は大きい試験です。

 (c) 2次試験

 2次試験は、基本的に1次試験合格者のみ受験資格を有する試験です。時期的に夏の真っ盛りに行われることもあり、しかも1週間を費やして行われる試験ゆえ、弁理士試験の最大の山場ともいえる試験です。
 2次試験は、例年7月の下旬の1週間を割り当てて実施されます。大体は司法試験の2次試験の行われた次の週に行われるようです。会場は、受験生が1次試験を受けた地域(東京または大阪)であり、数年単位で会場が変更されています。以前は冷房が完備していない会場で2次試験が実施されていたため、過酷な状況を強いられていましたが、2年ほど前に冷房が完備した会場で2次試験が実施されるようになり、快適な環境で試験を受けることができるようになりました。
 合格者は、近年120名前後、合格率は多枝試験合格者に対して約15〜20%というところで一定しています。ここ数年前までは微増傾向にあり、やっと100名を突破したことを受験界で大喜びしたくらいです。この合格者の数は多分に政策的な見地から定められているようです。これに関連して、合格のボーダーラインも公表されておらず、外部からは知る術がありません。いろいろと情報は漏れ聞くのですが、今一つ信用がおけません。
 2次試験の内容は、いわゆる論文式試験です。論文式試験の科目は、

  イ.必須科目……工業所有権法(多枝選択式と同科目)、つまり5科目
  ロ.選択科目……41科目のうちから受験申込時に予め受験者が選択した
          3科目(変更不可)

に大別されます。
 必須科目は、各課目について論述式の問題が2問与えられ、この2問を2時間かけて筆記します。解答用紙は1問につき10枚の用紙が綴られたものが2組配布されます。解答形式は横書きです。受験産業(予備校)の中には本試験の解答用紙に類似した形式の解答用紙を販売しているところもありますので、参考にされると良いかもしれません。なお、必須科目については工業所有権法の条文集が貸与されますが、市販されている条文集とは形式が異なりますのでご注意を。
 選択科目は、この限られた紙面ではとても全部紹介しきれませんので、分野的にお答えすると、社会科学部門(憲法、民法などの法律学、経済学、その他)と自然科学部門とに大別され、自然科学部門は、さらに物理(半導体工学など)、化学(有機化学など)、機械(材料力学など)、電気(通信工学など)、その他(水産学など)と各種部門に分かれます。選択科目の出題様式はまちまちであり、論述、計算問題、あるいは用語の説明問題等多岐に亙ります。時間は、必須科目と同様に2時間です。解答用紙は、必須科目と同様の10枚綴りのものが1組だけ配布されます。
 どの論述式試験もそうなのでしょうが、論述式試験の場合、何を書いても決して不正解ということはない代わりに、何を書いたら正解であるか、ということについて定まった結論はありません。自分の経験や合格者の意見を総合すれば、いわゆる基本書(詳細は後ほどの回の連載で説明します)に書いてあることを自分なりにまとめることができれば合格レベルに達せるように思われます。但し、大体基本的と思われる問題でも200問を超えており、この各問題について人並に書けるようになるには並大抵でない努力が必要です。しかも、2次試験の実施時期が梅雨明け直後の1週間ということで、体力的な消耗も想像以上のものがあり、どちらかと言えば我慢比べの要素が大きいことも否めません。
 試験対策としては、過去問集が発明協会や受験機関から出版されていますので、それを参考にされると良いでしょう。基本問題についての解答集、あるいは基本書のサブノートは同じく受験産業から出版されています。
 なお、2次試験の成績は1年だけ持ち越すことができ、後述の3次試験に不合格でもその次の年だけは3次試験のみ受験すれば良いことになります。

 (d) 3次試験

 3次試験は、2次試験合格者のみ受験資格があります。3次試験は例年10月下旬(今年は現在のところ不明)に実施されます。会場は東京1カ所のみであり、例年、特許庁で実施されます。合格率は限りなく100%に近く、人物試験(つまり単なる面接)的要素が強いように思われます。
 3次試験は口述式試験、すなわち、工業所有権5科目について試験委員が設問を口頭で述べ、受験生はそれに口頭で解答する形式の試験です。試験委員は、総括質問(本人確認のための書誌的事項)および工業所有権5科目について1人ずつ、計6人おり、受験生は1人ずつ試験委員の待つ部屋に通されてそこで口述式試験が実施されます。具体的内容は毎年変化しているようですし、また、3次試験の再現集も公的に出版されているものがないため、ここでのコメントは避けます(具体的事項についてはメールでやりとししましょう)。
 受験した経験からすると、一生の中でこれほど緊張した時間はなかった、といえるくらい緊張の極に達しました。しかし、ある程度質問が進むにつれて平常心に戻り、そこそこの解答はできたように思われます。いろいろな人に聞いても、全く答に苦慮することなく解答できた人は皆無のように思われますので、緊張することを気にし過ぎる必要もないようです。

 以上で弁理士試験の概要を説明しましたが、このガイダンスがある程度公的なものであるためにつっこんだ話ができていない部分もあります。具体的な質問は個人的に行いたいと思います。


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