蝸牛月刊 第4号 1996年1月27日発行

 みなさん、明けましておめでとうございます。


映画評「ミス・メンド」

大山博

 アメリカの富豪ストーン氏が殺害された! 犯人はボリシェビキで
あることが確実である!! だが、その事件の裏には、新生社会主義国
を崩壊させようとする悪の資本主義組織の陰謀が隠されていたのだ。
正義感あふれる新聞記者バーネットと仲間たちのちょっと間抜けな
大活躍が今、はじまる!!!

 ソビエト映画の革命と重厚さの象徴?が偉大なセルゲイ・エイゼン
シュテイン監督であるとするならば、娯楽映画(悪い意味ではない)
の旗手、『映画の貴公子』の異名をとるのがボリス・バルネットであ
る。レフ・クレショフの記念碑的風刺コメディ『ボリシェビキ国にお
けるミスター・ウェストの異常な冒険』でアメリカ人ウェスト氏の護
衛として革命ロシアにやってくるとぼけたカウボーイ・ジョージを演
じてもいたバルネットが共同監督をつとめた長編三部作冒険活劇は、
マリエッタ・シャギニャンの革命SF『メス・メンド』から革命的要
素を取り除き、娯楽の要素をめいっぱいに吹き込んだ翻案映画だ。主
人公バーネット記者を演じるのは、もちろん、バルネットご本人。相
棒の報道カメラマン・フォーゲルも映画カメラマンのフォーゲリ、三
人めの三枚目ホプキンスを演じるのは喜劇俳優として有名なイリイ
ンスキーだった。おまけに、題名が原作と違うのはほんの一文字だけ
れど、中身は大違い。『ミス・メンド』とはヒロイン『メンド嬢』に
ほかならないのであった。

 この三部作、それぞれ約一時間のサイレント・モノクロ作品だが、
なかなかテンポ良く、ギャグもとりまぜ、細菌兵器や毒ガスを駆使す
るチープな悪の組織(某宗教犯罪集団の手口の見本だ〜との声もある
なあ。七〇年も遅れたことやってどうするんだ?)と言い、実に楽し
い。今後の上映予定がどうなるのかわからないので、ぜひぜひこの機
会に観てほしい。ちなみに、ロシア・ソビエト映画祭二月三日の上映
時には、なんとピアノ伴奏がつく予定である(当時、どのような伴奏
がついたかの記録はないので、オリジナルではないが)。


後記

 今回は少ないページながらボリュームいっぱいで喜ばしいかぎり
です。この調子で毎月出せればいいですね。今年の目標は会誌かな?

 さて、小ネタを一つ。今年の正月に公開された「007ゴールデン・
アイ」の山場、タンクが走り回るシーンは本当にサンクト・ペテルブ
ルグで撮影されたそうである。おー、すげー。

 では、また来月。