蝸牛月刊 第24号 1997年10月18日発行


1997年 第二回 ロシア幻想作家会議「ストラーニク」見聞記

大野典宏

 ストラーニクは、1997年9月25日〜28日の期間、サンクトペテルブルグのホテル「ルーシ」において開催された。昨年に続き、今年は二回目の開催である。
 ストラーニクは作家、編集者、翻訳家、エージェントといったプロ向けの会議であり、ファンの参加者はいない。主な参加者は、ボリス・ストルガツキイ、アンドレイ・ストリャロフ、ビャチェスラフ・ルィバコフ、アンドレイ・ラザルチュクといったロシアを代表するSF作家達と、海外からはアメリカからロバート・シェクリイ、ブルース・スターリング、チャールズ・ブラウンが、日本から二名が参加した。
 ロシアで人気の高いアメリカ人SF作家は,ロバート・シェクリイとレイ・ブラッドベリである.今回の会議には,シェクリイが参加するということで,関心も高かったようだ.聞いた話だが,シェクリイが到着したとき,空港からホテルへ向かう間に警察の検問に止められたのだが,「こちらはミスターシェクリイだ」と言ったら,「あのシェクリイか!」と驚いて通してくれたそうである.
 以下、順に紹介する。


24日

 到着。深夜だというのにヤナ・アシマリナさんが出迎えてくれる。道中、二年前のストラーニク賞受賞を憶えていることとか、今年のインタープレスコン賞についておめでとうと言うと、「今年も取れそうだ」とのこと。なかなかやり手である。
 ホテルに着き、さて寝ようかという時にノックの音。開けてみるとアンドレイ・ストリャーロフの姿。飲み会をやっているので来ないかという。モスクワの空港で、待ち時間に散々ビールを飲んだ後なのでキツイのだが、主義としてここは断らない。懐かしい面々とともに乾杯。だが、疲れているためウォッカ三杯でダウン。

25日

 開会式は地元のSF出版社テラファンタスティカ社の社長、SF作家にしてストラーニクの主催者であるニコライ・ユータノフの司会で始まり、ストルガツキイ、ブラウン、大野、スターリング、シェクリイの順で挨拶が行われた。引き続き各出版社によるプレゼンテーションと続き、夜にはシャンパンとウォッカによるミニパーティが開かれた。
 ここで永らく謎の作家であったアレクサンドル・チューリンと話すことができた。紹介された時、名前が聞き取れなくて???だったのだが、後であれはチューリンだと気が付き、慌てて話を聞きに行ったのだ(失礼な話で申し訳ないです)。ロシアサイバーパンクに対する疑問をいろいとと聞くことができた。
 ちなみにロシアの会議は、アメリカや日本のコンベンションとは違い、複数の企画が同時進行するようなことはない。しかもタイムテーブルは余裕を持って組まれている。したがって、企画の間には多くの待ち時間ができてしまう。開催期間中にはその隙間を縫って、または全企画の終了後に多くの酒盛りが行われる。普段、広い国土に散らばってしまっている作家たちが一同に会する機会は少ない。ここぞとばかりに話に花が咲くようだ。私見になるが、本当の会議は、こういった細かい集まりのほうなのかもしれないとも思う。
 その中の一つとして聞いた話だが,ロシアではいま,SFが不調なのだという.今のロシアでは大衆的・娯楽性の強い本が歓迎されているのだそうだ.ロシアのSFは大衆性ではなく,文学性の追求に主眼を置いているため,このような風潮になると、SFの立場は厳しいものになるのだ.

26日

 講演が続く一日。
 午前はストルガツキイ、セルゲイ・ペレスレーギン、アンドレイ・チェルトコフによる講演、午後はシェクリイによる講演と、シェクリイ、ブラウン、スターリングによるプレスコンファレンスが行われたのだが、ここではストルガツキイの講演以外の企画はブッチしてルィバコフ、チャドビッチ、ロマネツキイ達と酒盛りへ。昼食の最中に寝てしまうという情けないことになった。
 夜は昨年行われた第一回ストラーニクのビデオ上映に続きいて試写会。"宇宙の戦士"の予告に続き、ロシア語吹き替えによる"MIB"が上映された。その後は再び酒盛り(^^;;

27日

 全員、バスに乗り、市内で行われているブックフェア会場へ移動。その企画として「ロシアSFの輝きと赤貧」と題した作家によるサイン即売会が開かれるのである。その企画の前には、関係者とプレスのみによるストラーニク賞のジャンル部門が発表された。着飾った女の人がノミネートを読み上げ、作家がプレゼンテータとなって各賞を発表した。受賞作は次の通りである。

ジャンル賞

 授賞式が終るとサイン会の開始。人の波が押し寄せてくる。それぞれ好みの作家の前に並ぶのだが、ストルガツキイ、シェクリイ、スターリングの人気が高く、長い行列ができた。
 さて,それぞれの作家が用意した本を売りきってしまうまでに、それほど時間はかからなかった。一時間の予定だったのだが、作家によっては二十分程度で終ってしまっていた。その余った時間は,例によってビールを飲みながらの歓談になった.
 会場からバスでホテルに戻り、昼食後、再びバスで市の室内楽コンサートホールへ移動。今度は最大のイベントであるストラーニク賞の授賞式が行われるのだ。会場内のテレビや新聞の取材陣の数も増えた。
 ストラーニク賞の選考委員が少し増えているので紹介しておく。ユーリ・ブライデル。ミハイル・ウェレル、エドゥアルド・ゲボルキャン、アンドレイ・ラザルチュク、エヴゲニイ・ルーキン、セルゲイ・ルキヤネンコ、ウラジミル・ミハイロフ、ヴャチェスラフ・ルィバコフ、アンドレイ・ストリャロフ、ボリス・ストルガツキイ、ミハイル・ウスペンスキイ、ニコライ・チャドビッチ。

ストラーニク賞

 授賞式修了後、会場の上階で乾杯。その後、ホテルに帰ってさらに晩餐会が行われた。呑み、笑い、喋り、歌った。祝辞と乾杯が何度となく繰り返され,受け身の披露合戦などをはさみながら深夜まで騒ぎが続いた。

27日

 企画はストラーニク賞受賞者によるコンファレンスのみ。各自の簡単な挨拶だけで済んでしまう。その後は流れ解散に近かった。

 話はここまででは終らない。帰りの飛行機の中、どこかで見た憶えのあるロシア人が近くに座っていたのだ。確信が持てなかったので、「この人、ソクーロフだろうか?」と悩みながら十時間を過ごすはめになった。飛行機から降りたところ、ビデオカメラと三脚をもっていたので、ますます可能性が高くなったのだが、やはり自信が無い。一瞬の接触もあったので、その時に聞けばよかったのだが、こんなところで声をかけるのも変だろうと思って止めた。あとで確認したら、やはりソクーロフだった!私は現在、非常に悔しい思いをしている。ずうずうしく席に押しかけ、ゆっくり語り合う絶好の機会だったのだ!


イベント

 本年10月23日,24日の2日間,大阪梅田の阪神百貨店AVソフトコーナー「ブリーズ」において「ロシアン・ミュージック・フェア」が開催される予定.CD,ビデオ,本,画集などが並ぶようなので,近郊の方は行ってみてはどうだろうか.(大野典宏)


とっくに出た本

  1. Кил Булычев(キール・ブリチョフ)
    ГАЛАКИЧЕСКАЯ ПОЛИЦИЯ:ЗЕРКАЛО ЗЛА(銀河警察:悪の鏡)
    Локид(ローキド)
  2. Андрей Лазарчук(アンドレイ・ラザルチュク)
    Михаил Успенский(ミハイル・ウスペンスキイ)
    ПОСМОТРИ В ГЛАЗА ЧУДОВИЩ(怪物の目を見ろ)
    АСТ-Terra Fantastica(アーエステー・テラファンタスティカ)
  3. Александр Громов(アレクサンドル・グロモフ)
    ВЛАСТЕЛИН ПУСТОТЫ(虚無の支配者)
    ЭКСМО(エクスモ)
  4. Елена Хаецкая(エレナ・ハエツカヤ)
    МРАКОБЕС(反啓蒙主義者)
    Азбука-Терра(アズブーカ・テラ)
  5. Олег Дивов(オレグ・ヂヴォフ)
    МАСТЕР СОБАК(The Master of Dogs)
    ЭКСМО(エクスモ)
  6. Евгений Лукин(エヴゲニイ・ルキン)
    РАЗБОЙНИЧЬЯ ЗЛАЯ ЛУНА(強奪の凶月)
    АСТ-Terra Fantastica(アーエステー・テラファンタスティカ)
  7. Марина и Сергей Дяченко(マリナ&セルゲイ・ヂャチェンコ)
    СКРУТ(スクルト)
    Азбука-Терра(アズブーカ・テラ)

(大野典宏)