蝸牛月刊 第12号 1996年9月21日発行


"ストラーニク"ほか
今後のめぼしいSF大会について

 今年から始まるロシアのSF "ストラーニク" だが,一時期は日本からの参加者は誰も無しになるのではないかと懸念されたが,当会より一名参加することになった。インタープレスコンが大会としての機能を果たさなくなったとの報告もあるので,今後とも "ストラーニク" が存続してくれることを望むばかりである。
 さて,その "ストラーニク" だが,正式な開催日時と場所が決まった。本年9月27日より同29日までの三日間,サンクト・ペテルブルグのホテル「オクチャブリスカヤ」で行われる。先に告知されているとおり,"遍歴者賞"の授賞式もここで行われる。
 ところで,今年の日本SF大会では,開催当日に来年・再来年の開催地が決まっていなかったとのことで,開会式で立候補を呼びかけるという異常事態だった。ワールドコンの人気ぶりや,ロシアでは大会の意味と意義が非常に大きいことなどを考えると,大違いである。ただ,日本の大会がワールドコンのような熱気や,ロシアのような意味付けを持ち得なくなっている以上,これは仕方の無いことである。だからといって無くなってしまっていいようなものでもなく,ファンを自任する身としてはやはり一年に一度は欲しいのだが,参加する意味の無い大会というのも虚しい。今年の大会で感じたような熱気が今後とも味わえればいいのだが。
 大会が大会として意味を持つという意味で海外の大会は,やはりおいしい。ましてや当会はロシア・東欧,広げて非英語圏SF愛好者の集まりなので,そもそも外向きのベクトルを持っている。考えてみれば結果的に去年も今年もロシア,日本,ワールドコンとそれぞれに参加者がいたことになる。
 というわけで,これから来年にかけて行われるめぼしいコンベンションを思い付く限りリストアップしてみることにする。

 これらのうち,いくつに参加できるのかはわからないが,出来る限りは参加したいと思っている。
(大野)


新刊

ロシア民俗夜話
 忘れられた古き神々を求めて

栗原成郎著 丸善ライブラリー
ISBN4-621-05190-3 \680-(税抜き)

 『スラブ吸血鬼伝説考』(1980 年に河出書房新社より出版,その後'91 年に増補改訂版,'95 年には『吸血鬼伝説』として文庫化されている)の著者が北海道大学の教養過程での講義「ロシア民衆文学論」の一部をもとに書いた本書は,その題名のとおり,いわゆる異教時代のロシアの信仰がキリスト教の受容の後,変形して行った様子を時代の流れを追いつつ,わかりやすく解説している.
 古き神のうち,あるものは妖怪化し,またあるものはキリスト教の聖者のイメージと合体する.この流れは柳田國男の『妖怪談義』や『一つ目小僧,その他』をほうふつさせる.引用される文献も,『原初年代記』の名で知られるロシア古文典の基本中の基本,『過ぎし年月の物語』からスラヴの口承文芸,果てはゴーゴリの『ヴィイ』に至る豊富さ.ロシア史,民俗学,文学などの話題が織り合わさり,確かに「ロシア民衆文学論」入門のための好著となっている.
 続編として,ぜひ,ロシアの『妖怪談義』となるような,古き神々の妖怪化した部分(キキモラ,ルサールカ,ドモヴォイなどなど)や,今回は除外されたファンタジー色の少ない部分についてもまとめていただきたいと思ってしまうのだが,さてさて,如何なものか? ちなみに,本書,発売直後はかなりの書店で見かけたのだが,その後はあまり目につかない気がする.予想外の売れ行きで,品切れになったのなら,うれしいものである.
 なお,ロシアの遠野物語的資料については,ワークショップ80から良著,『ロシア民衆の口承文芸』シリーズが渡部節子編により出ている(た?).各地で収集されたものをテーマ毎にまとめたものだから,一地域の伝承をまとめた『遠野』とはもちろん異なるのだが,本書に関心を持った読者にとっては必見の副読本であろう.

(大山)

映画秘宝 底抜け超大作

洋泉社

 無茶苦茶な費用を投じ,出演する俳優陣も豪華きわまりない。巨額な宣伝費をつぎ込み,TVに雑誌に広告を出しまくる。そして観終ってみるとただならぬ脱力感のみが残る映画。
 映画をある程度の本数観たことがある人ならきっと誰もがそんな作品のいくつかはすぐに思い付くに違いない。たとえば,SFファンならば「宇宙からの***ー*」とか,「さよなら****ー」など,身に憶えがあるはずである。
 本書は,そんな映画を片っ端から紹介している。「メテオ」とか,「グリーンベレー」,「メガ・フォース」など,目次を見ただけで笑ってしまうのである。誰かに話したくてしかたがなかったけど,そんなクズ映画を観ている人など滅多にいないから話すこともできず,長い間胸の奥でプスプスとくすぶっていたものを完全燃焼させてくれる。書いてあることにいちいち肯くことができ,そのうえかなり笑える本である。
 さて,本書に出てくる映画のほとんどは世間をナメきったハリウッドものと腐れ邦画なのだが,ソ連映画が2ページだけ紹介されている。主にヤリ玉にあがっているのが,類をみないほど贅沢なわりに内容が及ばなかった愛国・防国の大祖国戦争モノ,「ヨーロッパの解放」と「スターリングラード大攻防戦」を除いた攻防戦モノである。当会の一部にとっては忘れられない「宇宙刑事ステラーインスペクター」という記述まである。
 ところで,このシリーズ,ファンのだれもが少しは抱くであろう映画に対する後ろ向きの感情を発散してくれる凄くいいシリーズだと思うのだが,いかがなものだろうか。。
(大野)


シュワンクマイエル新作上映

 渋谷はユーロスペースにおける上映は週末は初回から,立ち見の出る盛況.新作長編『ファウスト』は,前回の長編『アリス』同様に,外国の資金が入っていることもあるのか,はたまた国外上映が優先されているためか,チェコ語ではなく英語版なのが残念であったが,シュワンクマイエル作品に特徴的な「地下室」,「黒猫」,「夢(と言うよりもむしろ'悪夢')と現実の渾然一体化」,「肉片」そして「無限循環」のモチーフが多用されたものとなっている.『アリス』や『地下室の怪』に強い印象を受けた人はぜひ観てみてほしい.『アリス』が原作を大胆に再構築していたのと同様に,『ファウスト』もまた原作を離れたシュールな世界となっているのだ.
 Bプログラムの短篇もなかなかすさまじく,一部にあんまり面白くない作品も含まれているが,こちらもお薦め(特に,『フード』3部作が…(^_^;).最後のドキュメンタリ『プラハからのものがたり』は,評論家?がシュワンクマイエル作品を解説する部分はさておき(だって,つまらないのだもの),シュールレアリストとして政府から弾圧を受け続けてきたシュワンクマイエル自身による「スターリン主義はチェコに染みついてしまっている.本当の戦いはまだこれからだ…….」と言うせりふが印象に残る作品であった.
なお,シュワンクマイエル作品の一部は『シュワンクマイエルの不思議な世界』と題してビデオ及びLDが発売されている.
(大山)