蝸牛月刊 第11号 1996年8月10日発行


幻想文学コンベンション"ストラーニク"開催決定

 本年春より開催が予告されていた幻想文学コンベンション"ストラーニク"の開催が本格的に決定した。
 本年の9月25日より10月3日まで,サンクトペテルブルグのどこか(?)でファンタスティカ作家達によるシリアスな議論が交わされる。
 既報のとおり,昨年までインタープレスコンで発表されていたSF賞,遍歴者賞は今年からストラニークで発表されることとなった。

「ストラーニク」が成立するに至るまでの経緯

 今年から「ストラーニク」という作家会議が開催されることになった。遍歴者賞の発表がインタープレスコンから別れ,その他に講演やパネルといったイベントで構成される。
 昨年,私(大野)がインタープレスコンで目撃したのは,ソ連時代のSF勢力とターボをはじめとしたファンタスティカ(現代ロシアSF)との衝突であった。私は自分が目撃したこの現象を,SF(旧ソ連時代のSF)とファンタスティカ(ロシアのSFやターボリアリズム)の戦いとかせめぎ合いと表現したが,その真相はジャンル内でのもめごとなどというレベルではなく,政治的スタンス,文学的スタンスの違う合い入れ得ぬ勢力同士のせめぎ合いなのである。
 この状況は「分裂」そのものなのだが,それも無理からぬことであるし,必然的に起こったものであるとも言える。

ストラーニクの真実

 ストラーニクの成立には,二つの要因がある。
 建前は,「インタープレスコン」はファンのコンベンションであり,作家には作家の興味があり,それは出版社と話し合ったり,純粋に文学的な問題を議論するといったことであるがゆえに作家独自のコンベンションを発足させたということになっている。
 だが,真相はもう少し込み入った話になる。
 コンベンションがファン主導になりすぎたのだ。
 インタープレスコン賞を除けば,ファン投票で決定されるほとんどの賞はアメリカSFの亜流的な作品にばかり与えられているのである。たとえば,最後のアエリータ賞はペレーヴィンの「青い火影」ではなく,ワシーリ・ズビャギンツェフの「オデッセイはイタカを置き去りにする」に与えられたのだが,その一方でペレーヴィンはブッカー賞を受賞し,全ロシアで最も有名な作家になっていた。
 そこでストルガツキー,ゲボルキャン,ラザルチュク,ルィバコフといった面々で文学のコンベンションを行う必要があると結論した。ファンだけでなく,作家にも興味を持てるものが必要なのだ。
 そもそも遍歴者賞は,自分たちの会議・文学賞を持ちたいという,ソ連時代からの作家たちの夢だったのである。遍歴者賞は作家が審査員となり,無記名投票で決められる。順調で,特に問題もなかった。
 だが,そんな矢先,インタープレスコンで遍歴者賞に対する強烈な批判が吹き出した(注:1995年。先にも書いた問題の会議だが,具体的には遍歴者賞受賞者の報告会)。
 その襲撃をしかけたのは,かつて「モロダヤ・グバルヂヤ」で活動していた作家とファンだった。この出版社はソビエト時代,SFおよびファンタスティカを牛耳っていた出版社で,今となっては物凄く評判が悪い。その批判は全くもって的外れで馬鹿げたもので,会議の席上,ボリス・ストルガツキーは2時間にわたり,そのつるし上げをなだめようとしたが,うまくはいかなかった。
 さらに悪いことに一部のファンジンがスキャンダルを煽りたてるようなマネをした。
 残された可能性は二つ。
 一つはそこに殴り込み,戦争をすること。これには多大な時間とパワーがいる。
 もう一つはインタープレスコンからストラーニクが別れ,仲間の作家たちによるコンベンションを組織することだ。
 当然のごとく後者が方法が取られ,今年からストラーニクはインタープレスコンとは別に開催することになり,1996年には,ほとんどの作家がインタープレスコンに参加しなかった。
 これが大雑把ではあるが,ストラーニクが開催されるまでにいたった経緯の真相である。
(大野)


ロシア・東欧映画ニュース

ソクーロフ映画のビデオ、2社より発売に

 ダゲレオ出版はアレクサンドル・ソクーロフ監督の映画のうち、『静かなる一頁』、『マリア』、『セカンド・サークル』及び『ストーン』の4本をビデオ化し、8月25日発売予定。書店ルートの他、WAVE、HMV、タワーレコード等でも販売される予定。価格は、『マリア』が \4,500-、他の3作品は \7,500-(いずれも税抜き)。
 ストルガツキイ兄弟の長編『世界終末十億年前』のモチーフに基づいた映画『日陽はしづかに醗酵し……』について、前号ではビデオ発売予定無しと書いたが、配給元の(株)パンドラからこの8月中旬、発売されることとなった。ただし、こちらは直販のみのため、購入希望者はパンドラに直接、現金書留か郵便振替にて申し込む必要がある。本体価格 \11,500-(税別)、送料 \390-。
 また、同監督のドキュメンタリー・フィルム『ロシアン・エレジー』も同社より、同時発売予定。本体価格 \7,500-(税別)。いずれの作品にも、プログラムが添付される予定。なお、8月中旬から9月6日の『精神の声』モーニングショー上映期間中には、ユーロスペースでも販売が行われるとのこと。

シュワンクマイエル新作上映

 チェコのシュールレアリスト、ヤン・シュワンクマイエルの長篇映画『ファウスト』(1h.37min., 1994)及び短篇を8月10日より、東京は渋谷南口のユーロスペース1で上映予定。各回 \1,700-、前売り \1,400-(2回券は\2,400-)。

プラハの『ミッション:インポッシブル』

 トム・クルーズ主演の『スパイ大作戦』であるが、前半の舞台はチェコのプラハである。ぜひ、観に行かなくては……。

(大山)