科幻情報 Vol.26,27


第34回日本SF大会

 夏恒例のSF大会「はまなこん」は,浜松市で開催されます.今年は分科会「非英語圏SFシンポジウム」に,中国からもロシアからもゲストを招くという一点豪華版.いまだにビザが来ないというトラブルもさることながら,滞在費用も悩みの種です.この前,山中温泉のときは拙宅に泊まっていただいたり野田大元帥のご好意に甘えたりしてなんとかなりましたが,今年もホームステイとやらで切り抜けようと考えています.
 中国側の参加予定者は次の通り.

 海外ゲストにはそれぞれ簡単な報告をお願いしてあります.原稿がとどいた分は翻訳して掲示板にアップしておきますので,大会に参加される方で興味ある方は,事前に目を通し,質問の準備などされてはいかが.


本の紹介

武田雅哉『桃源境の機械学』作品社

 中国の絵画や小説について漠然と感じている違和感――(われわれの感覚とどこかちがうな)を,みごとに解明してくれる快著.中国SFを読むに際して必読の書である.

『幻想文学』第44号――中国幻想文学必携:幻想文学企画室

 SFマガジンで2号連続のホラー特集を組んだ,東雅夫によるこれまた快著.題名通りに,中国の志怪や白話など「幻想文学」と言えそうな文献について懇切丁寧に紹介している.読書案内に最適.実は林久之も駄文を一つ載せていただきました.

 そのほか井上祐美子・狩野あざみ・藤水名子といった女性陣の中国ファンタジーも快進撃を続けている.田中芳樹もますます本腰入れて中国モノに取り組んでいるし,朝日新聞連載の伴野朗『霧の密約』も面白かった.今年は中国関係豊作の年かも.うーん,どこかでホンモノの中国武侠小説を出してくれないかな.香港で映画化されたほうはビデオ発売などされているのに…….


贋古龍事件の顛末

 阿部 敦子

 古龍の作品を一読された方なら誰もがきっと,ああ,これは山田風太郎だな,と思われるのではないかと思います.日本と中国,忍法と巧夫(カンフー)の差こそあれ,荒唐無稽な設定といい,アニメ的な派手なビジュアルといい,バラエティーに富んだキャラクターといい,現実離れした美女がわんさと登場することといい,共通する点はいくらでもあります.もっとも古龍の方がいささかエロティシズムの描写が控えめではありますが….
 けれど,かれの中国社会に於ける地位,というか受け入れられ方を考えるとき,手塚治虫に比定するのが最も近いのではないかと思うのです.老若男女誰もが知っていること,かたや漫画,かたや武侠小説という,子供の読み物と思われているジャンルの作家でありながら,「確かに子供の読み物だけどかれのはちょっと違う」,という共通の認識があること,従って大学教授などのインテリまでもがためらわず古龍は面白い,と口にできること,ともにそれぞれのジャンルに於けるエポック・メイカーであること,TVと密接な関係があり,社会に及ぼした影響の計り知れないこと…などを考えあわせると,やっぱり古龍って手塚治虫だなぁ,と思うのです.
 古龍が世を去ってすでに10年以上たちますが,今もなお,中国の少年少女の間でかれの作品は熱烈に歓迎され,読み継がれています.町の本屋などに行くと如実にわかるのですが,中学生とおぼしき少年が,「新しい古龍,入ってる?」と顔を期待に輝かせてやって来て,未だ読んだことのない古龍作品など見つけようものなら,大急ぎで胸に抱え込んで,一刻も早く読みたいとばかりに家へ飛んで帰るのです.古龍って幸せな作家だなぁ,などと思ってしまうのですが…しかし,「新しい古龍」? 死後10年もたっているのに?
 それらの多くはもちろん,再版本を意味しています.なにしろ本の消費大国,ベストセラーともなれば1億冊はセールスしてしまうお国柄ですから,再版再々版はあたりまえ,また,出せば確実に売れるとわかっている作家ですから,Aの出版社で出た本が同時にBの出版社からもどんどん出ます.版権等がまだあまり確立されていない上に,古龍がすでに故人であることも相まって,この辺りの状況はかなり混乱を究めているそうです.
 しかし,そうした「まっとうな」新しい本以外にも,信じがたいことではありますが,本当に「新しい」古龍の本が次々と世に出ていることもまた事実なのです.
 わたしは中国にいる間に,できれば古龍の本を全て集めたいという志をたて,毎週1度はリスト片手に大学のそばの本屋さんに通いました.古龍の本があれば全部買うから,見つけたらどんどん仕入れておいてね,と頼むと,最初店の人は怪訝な顔をして,普通の外国人はみんなこういうのを買っていくんだよ,と言って四書五経や唐詩宗詞の類を勧めてくれるのですが,こちらが執拗に,いや,わたしは古龍が欲しいのだ,と繰り返すものですから,しまいには古龍好きの日本人としてすっかり有名になってしまったのでした.しかしその甲斐あって,古龍の本はどんどん揃っていきます.毎回10冊20冊と買っていくうちに,ついには100冊近い古龍の本が留学生宿舎の床に小山をなして積み上げられたのです.
 さてここでティンディンという少女を紹介しなければなりません.輝く瞳の女子大生・ティンディンは,古今東西硬軟とりまぜた様々な本を読破してきた文学少女ですが,金庸や古龍など,面白い中国の小説家たちをわたしに紹介してくれたのがこの彼女なのです.他人から容姿についてほめられようものなら,外見で人間を判断するのは好ましくない,と反発するほどの硬派の美少女で,いつも社会の矛盾や中国の未来について頭を悩ましている,まじめな知識分子のひとりです.
 このティンディンは古龍の大ファンでもありました(もっとも金庸はもっと好き,ということでしたが….金庸と古龍はシャーロック・ホームズとアルセーヌ・ルパンのように,巷の人気を二分している存在なのです).毎日わたしの部屋にやって来ては床に山積みしてある古龍本の中から,今日は『陸小鳳』,明日は『楚留香』と次々と持ち帰っては片端から読破していきます.中学,高校の頃にすでに読んだものが大半なのですが,それでもニコニコと古龍を持ち帰るティンディンの姿を観ると,読書の喜びそのもの,といった感じです.
 ところがある夜,例によって1冊の古龍を抱えて帰ったティンディンが血相を変えてやって来たのです.これは古龍の本ではない,というではありませんか.
 しかし確かに表紙には古龍の名前が印刷してあるし,書店でも古龍の本として買ったものです.どうしてこれが古龍の本でないとわかるのでしょう?
 彼女の言うことによると,古龍の文章というのは一種独特の風格があるものなのだそうです.わたしなどはセンテンスが短くて訳しやすい,と思うくらいで,文章の風格などについてはろくにわかりはしないのですが,下手な物真似は中国人が見れば一発,ほんの一行読むだけでわかってしまうのだ,ということでした.
 確かに,巷間贋古龍が出回っている,という話は聞いてはいました.しかしまさかそれを,自分が買い込むハメになろうとは,少なくとも厳密な版権制度に守られた日本の出版事情に慣れた身には思いもつかないことです.正直いってかなりショックでした.
 1匹のゴキブリをみつけたら3000匹いると思え,という古人の智恵を借りるまでもなく,1冊偽物が混じっているのなら他にないとも限りません.わたしはさっそくその場でティンディンにチェックしてもらいました.
 積み上げた本から1冊ずつ拾い上げては素早く目を通していくティンディン,固唾を呑んで見守るわたし.これは本物,これも本物,でもこれは違う,これも違う,これも,これも,これも全然違う….
 結局,100冊近い本の,なんと6割が古龍の死後,別人の手によって書かれた偽物だったのでした.
 いかに本の安い中国とはいえこれだけ数が揃えば安い買い物とは言えません.偽物だからと言って気軽に捨ててしまえるものでもないのです.わたしはまさに切歯扼腕状態です.
 しかし,わたし以上に怒ったのが正義派美少女のティンディンでした.こんないい加減なことが罷り通っているのでは,同じ中国人として恥ずかしい,買った店に持って行って他の本と取り返させる,と彼女は主張しました.
 とはいっても,わたしはこれらの本を古龍のものと納得して買って帰ったのです.ましてやレシートのひとつもあるわけではありませんから,この店で買ったという証明もできないのです.返品なんてとても聞いてらえるとは思えませんでした.それでなくても己のミスは死んでも認めまいとする国民性です.店員が済みません,のひとことを言うのを聞いたことなどかつてないというお国柄なのですから,こちらが強硬に出れば喧嘩になるのは必至だと思いました.
 わたしの語学力で喧嘩はちょっと….わたしはかなりげんなりしてしまいました.しかしそこはティンディン,店とかけあうのは自分がやる,中国人としての自覚を促すのだ,とやる気満々です.そこでわたしたちは60冊もの贋古龍本を自転車の荷台に載せ,よっこらよっこら押しながら書店へと赴きました.
 案に相違して,とはまさにこの事.まずは冷静に穏やかに事情を説明すると,店の人は喧嘩を売ってくるどころか,全く困った状況だよ,確かに古龍の偽物は多いんだ,売る方だって油断も隙もないんだから,と完全にこちらに同調してくれるのです.やはり本を売ることを仕事にしているような人は,自身本が好きな人なのでしょう.そしてお客にも楽しんでもらいたいと,心から願っているのは日本の本屋さんと同じなのです.会談はむしろ肩すかしなほど平和里に終わり,わたしの贋古龍本は,すっかり金庸の本と交換してもらいました.金庸はまだ健在であるばかりか,出版関係の仕事をしている人らしく,かれの本の出版はしっかり管理されているため,安心して買うことができるのでした.
 本好きの人間として,同じ本好きの人の良心と出会えて,心洗われるような体験でしたが,しかしわたしの持ち込んだ大量の贋古龍本,どうやらそのまま店頭に置かれていたようでした.…中国の商売人はただでは起きない….(完)


《科幻世界》バックナンバー目録

(簡体字改打日本簡字)

《科幻世界》1993年第7期(93/7/15)

【93科幻文藝奬征文】復制品/張海青  雪陸星/牛小哲  冥王星監獄/裴暁慶  我的特異功能/正権
【科幻連環画】懸空太蒙面人/曽紹安改編 華均綏絵
太空小女神/万煥奎 譚楷 文  虞敏 楊検朴 絵
【科幻之窗】赫拉諾斯――虎口拯美記/(美)盧尹徳・比格尓 孫維梓 訳
【科幻名著欣賞】命運夜総会/鄭文光原著 楊鵬改編
【校園科幻】五楼/徐震霞
【環球郵箱】我看中国科幻小説/(保)米蘭娜
【科幻迷倶楽部】科幻迷妙語
【外国SF教程之六】真実情況怪如虚構

《科幻世界》1993年第8期(93/8/15)

【93科幻文藝奬征文】鳥巣里的笑声/緑楊  狼来了/黄毅  愛之霧/孔斌  珍郵(2篇)/黄偉宏
【SF之窗】陰差陽錯/(直布羅陀)伊基・奇普利納 官泳松訳
殺「妻」/(美)雷・布拉徳伯里 孫維梓訳
尼徳林教授的試題/(美)艾薩克・阿西莫夫 賽徳訳
【科幻倶楽部】科幻発焼友自測/艾耘
【星光点点】老牌明星(四則)/杜端敏等
【校園科幻】魔鬼計算機/楊陟峰
【大千世界】当代四大科学之謎(四則)/譚朔等
【神話与科幻】諾亜方舟出土/索幽
【神秘大探索】是天外来客 還是地波/王厳文
【外国SF教程之六】詞語的力量/冀臨
【科幻連環画】娯楽機/暁宛・改編 陳昌柱絵  特別警鈴/(日本)星新一文 劉暁鍾絵
【科幻名著欣賞】魔鬼三角与UFO/(西班牙)柯蒂斯・加蘭 李徳恩訳 何卓縮写
【純文學作家科幻系列】月球特派記者発自地球的首篇報告/(意太利)莫拉維亜 呂同六訳

《科幻世界》1993年第9期(93/9/15)

【93科幻文藝奬征文】影象/傅作梅  遺産/楊建国  星使/緑楊  死亡決闘/裴暁慶  超級絶殺/朱雲興
【科幻之窗】自控偵探/(蘇)斯巴達克・阿赫梅托夫 李志民訳  大鏖戦/(美)斯梯芬・金特 維梓訳  不朽的詩人莎士比亜/(美)艾・阿西莫夫 逮懌訳
【名著欣賞】太陽風帆/(英)阿瑟・克拉克 張明学+于永安訳
克拉克,祝生日快楽/呉岩
【校園SF】涅槃/丘興海  孤独的富翁/高颶
【SF連環画】還看明朝/舒明武文 虞敏絵
【環球郵箱】超越国界的SF精神/(美)諾曼・斯賓拉徳 楊瀟訳
【外国SF教程之六】科幻小説中的其他主要題材/冀臨文
【科幻影視精選】鉄甲威竜V/其其
【科幻画大展】無限地帯/(香港)馮志明  「刀剣笑」選頁/(香港)馮志明
【科幻迷的画】文達林等

《科幻世界》1993年第10期(93/10/15)

【93科幻文藝奬征文】北極的冬天/楊建国  古刹之光/緑楊 星星仔奇談/星星仔  咸味的吻/金浪  衆里尋女+他千百度/星河  誰来解釈L射線之謎/海子
【大千世界】撫摩星辰/厳奉煥  死亡在太空(美)愛薩尓・阿斯莫維 羅祥秉訳
【名著欣賞】戸外/(英)布莱恩・奥尓迪斯 星河改写
【校園SF】進退両難/章暁平  山+勞山小道士/呉征勇
【主流作家科幻系列】猫城記/老舎原著 楊鵬改写
【外国SF教程之六】如何写科幻小説/冀臨
【科幻影視精選】侏羅紀公園/(美)鮑勃・伍徳 官泳松訳
【科幻連環画】達尼与外星孩子/郭書竜文 華均綏絵
【科幻論壇】我的不満(三篇)/于国君等
【科幻画大展】無限地帯/(香港)馮志明
【科幻迷的画】張海青等

《科幻世界》1994年第9期(94/9/5)

(100期記念号……《科学文藝》時代からの通算である)
【94科幻文藝奬征文】魔鬼夢幻/王晋康 推銷愛情/楊鵬
【毎期一星】瞬間前後/韓建国
【科幻之窗】回春霊/(英)J.克拉姆 佩菁訳 因禍得福/(美)戴維・W・赫爾 倪僅仁訳
【校園科幻】假日遠足/王建
【科与幻】三維電脳画簡介/倪僅仁編訳
【環球郵箱】科幻先生/(美)弗里斯特・阿克曼 楊瀟訳
【科幻迷的画】巡夜人/ 等
【金虹連環画】返祖/阿恒
  封一,封二……《科幻世界》的歴史与瞬間
  封三……三維電脳画・愛因斯坦

《科幻世界》1994年第10期(94/10/5)

【祝賀科幻世界100期】遥遠的恬念/呂応鐘
【毎期一星】盤古/晶静
【94科幻文藝奬征文】丘比特的謬誤/袁英培 地球人的形象/孔斌
【校園科幻】病毒/姜亦辛
【名著欣掌】鋼窟/(美)艾薩克・阿西莫夫 倪僅仁訳 九死一生/(美)傑克・倫敦 井力訳
【SF之窗】生存危機/ 隠形外星人/
【科与幻】地球有心還無心
【外国科幻教程】結朿語・思想与行動(美)本・博瓦 (近−斤)+(録−金)懌訳
【SF倶楽部】
【科幻迷的画】
【金虹連環画】  返祖/阿恒