科幻情報 Vol.25


 遅れに遅れていた科幻情報がやっとできました。内容はいつもの倍……2回分のページ数にしました。遅れた事情ないし言い訳は、あとの記事をごらん下さい。  さて情報が入った順序からいうと、第32回日本SF大会・DAICON6の報告をしなくてはならないのですが、昨年夏の話題を今更という気がしますので、ごく簡単に。


まずDAICON6では……

 すでにご存じのことと思いますが、95年度日本SF大会の開催地に浜松市が立候補しました。地元のファングループ、東海SFの会の策略……もとい、提唱によるものです。そして僕もこのサークルの一員である関係上、いろいろと策謀、いや協力した結果、95年度の開催地は浜松市と決まった次第です。
 何かと参考になるからというので、ホームビデオをかついでできる限り多くの自主企画を取材して回りました。中でも故・潮健二「地獄大使」氏の文字どおり最後の勇姿と、例年にもましてドラマ仕立の目立ったマスカレードがなかなかの見もの。マスター・テープがうちにありますので、ぜひ見たいという方はご連絡くださいますよう。
 中国SF研究会の名前で出した企画は、例によって中国SF界の話題とロシア・東欧映画の紹介でした(大野典宏さん、大山博さん、ありがとうございます!)。閑古鳥が鳴くようなこともなく、それなりの盛況であったことは、SFマガジン11月号の巻頭カラーページでごらんのとおり。
 とはいえ、取材のため盛況をきわめている自主企画をいくつも見て回るうちに、ある感慨が湧き起こって来ました。中国SFの企画する部屋がほかの企画と違うのは、話し手と聞き手とがはっきり分離してしまってるということ。話す側としてはちょっと寂しい。広く読まれている日本SF・英米SFだと、こういう現象はみられないような気がします。「アノ作品は……」「アノ作者は……」といった話題で盛り上がることができず、いつも「中国SFってこんなんです」という紹介ばかりで終始するのって、わびしいですよ。これがもう10年以上つづいてるんだもの。
 まあそれも中国SFの知名度と、紹介された作品のあまりに少ないのが原因なんですが、いつになったら「アノ作家の、アノ作品」で話の通じる人が増えるのでしょうか。


寄贈いただいた著書など

 しばらくの間に、各方面から寄贈いただいた本がたまってしまった。SF関連の本を紹介しておこう。

《鄭文光作品全集》4巻

 久しく沈黙を余儀なくさせられていた鄭文光の全集である。病気で倒れてからの新作はないが、序文は93年の執筆。約500ページ×全4巻のボリュームはすごい迫力である。各巻の最後は中編(全文収録)。1993年10月・湖南少年児童出版社。

姜雲生主編《台湾科学幻想小説大全》福建少年児童出版社

 このほうが先に届いたのだが、1巻本ながら内容は充実。小説と評論・対談の2部構成になっていて、巻末に簡単な年表がついている。

《科幻世界》1993年第1期〜第6期号

主辧:四川省科学技術協会
編集出版:科学文芸雑誌社(四川省成都市人民南路4段11号)

 1993年から月刊化に踏切った《科幻世界》が、前期・後期と2度に分けて送られてきている。主な収録作品の一覧をDAICONの資料から引用しておこう。ページ数の関係で、今回はまず前期分を紹介する。

台湾のSF専門誌《幻象》季刊・第1期〜第6期号

創刊者:張系国 発行者:張敏敏 総経理:葉歩栄 主編:幻象編集小組
編集顧問として上海在住の葉永烈が入っている。
出版者:幻象雑誌社(台北市厦門街113巷17之1號2樓)
 これは以前にも簡単に紹介したと思うが、DAICON6のときにやや詳しい内容リストを作って配布したので、DAICONで入手できなかった諸氏のためにここに再掲しておく。

蔡志忠のマンガ《三国演義》

 台湾の蔡志忠のほのぼのとした絵は、むかし文藝春秋の増刊として出ていた『漫画読本』のころを思い出させる(って、古いよネ(^^;)。この《三国演義》もそうした雰囲気を持つ三国志のパロディで、物語中の著名なエピソードを四コマのギャグで綴っている。三国演義を読んでいない人には解らないかもしれないが、送って下さった阿部敦子さん、どうもありがとう。

《九命人》阿推(台湾)

 DAICON6が縁となってお便りを下さるようになる方が多いのだが、『コサージュ』誌(先日つぶれた)で独特の雰囲気を持つファンタジーを連載しかけておられた早見裕司氏から、かねて噂に聞いていた台湾の阿推という人の漫画を送っていただいた。一目でサンバーパンクしてるとわかる絵なのだが、意外なことにサイバーパンクなる概念を全然知らずに描いたのだそうな(別巻『宝島』による)。以前この科幻情報で触れた鄭問以上に、日本のマンガ雑誌の中に置いて違和感のない作風。また、寄贈してくださった早見裕司氏も中国志怪などに造詣が深く、『水路の夢』をはじめ、徳間アニメージュ文庫を中心に活躍中のよし。書店で見掛けたら手に取ってみてください。

遅方氏の自選アンソロジー《外星人来犯》

 中国SF研究会の特別会員、遅叔昌氏の子息、遅方氏からも自選作品集が送られてきた。氏は環境問題の専門家としてスイスへたびたび行っている。作品にもそうした専門知識が反映している。ただし作品の出来は子供向けの科普小説やスパイ物語と大差なく、残念ながら我々の中国SFに対する認識を新たにさせられる所まではいかないようだ。面識もある人なので、できるだけ褒めておきたいのだが、やむをえないのである。


元祖・中国武侠小説のことなど

 北京語言学院留学中の阿部敦子さんから、中国のハーレクイン・ロマン(?)を見つけましたといって、まだ翻訳が出ていなかったら是非是非訳したいとの通信があり、書名も書き添えてあった。何だか聞いた覚えがあるなあと思って書評など調べてみたところ、すでに近藤直子さんが『寒玉楼』の題で訳出しておられたという、まことに残念な出来事があった。
 そういえばこっちも、ファン・グーリックのミステリ『狄仁傑断案選』の中国語訳を見つけ、これはスゴイと思って訳しかけたら三省堂に先を越されたことがある。森弥邦夫さんと話していて、創作に比べて翻訳のほうは多少コンディションのよくない時でも仕事を続けられる利点はあるものの、訳している途中でほかの人に先を越されたらすべてがパアになる恐れがある、などと言ったものだった。
 ところで阿部さんからの情報はもう一つあって、いま中華人民共和国では武侠小説小説がはやっているという。総計数十冊が見本として送られてきたので、目を通してみると、これがまことに面白い。中味は一時期日本でもモテたカンフー映画そのものなのだけれど、映画ではよく呑み込めなかった社会背景や人物の心理など細かに書き込まれていて、よく分かるのだ。通俗小説なのだから当然とはいえ、文体も明晰ですいすい読める。
 中国の時代物で、日本ではまだその実態が一般には知られていないアウトロー(江湖)の世界を描いたものなので、なじみの少ない読者にとっては、異世界のヒーロー(ヒロイン)が剣を取って大活躍するという点ではヒロイックファンタジーとさして変わりはないような気がする。ごく気楽に読むにはちょうどいいのではなかろうか。日本でも田中芳樹、井上祐美子、狩野あざみ、藤水名子etc.による古代中国ファンタジーないしチャンバラものがけっこう出回っていることだし。
 そういった武侠小説の面白さに、つい自分で訳してみたくなって、《科幻情報》や《中国SF資料6》の前に一つやってしまおうとばかり、比較的短いものを訳してみたが、いやその長かったこと。原書で130ページ足らずだが、訳してみると原稿用紙200枚をはるかに越える分量。おかげでごらんのとおり、《科幻情報》の発行ははすっかり遅れてしまいました。どうもすいません。
 訳した原稿は、何とか日本の読者に紹介したいものだと思ったが、そこでハタと行き詰まってしまった。いったいどこへ発表したらいいんだ? 内容はSFではないし、長さは同人誌の手に負えない分量だし、いきなり出版社へ持ち込むようなつてもない。パソコン通信のデータベースに登録して興味のある人に読んでもらおうとも思ったけれど、原作者の許諾なしにやると、著作権とやらに抵触するおそれもある。結局、パソコン通信の掲示板で内容のあらましを紹介するにとどめることにした。読んでくださった方々には感謝致します。
 それにしても、科幻小説より武侠小説のほうが(いまの時点では)面白いという現実を、どう考えたらいいのだろう? 設定上の破綻は皆無ではないがそれほど目立たないし、主人公の超人的能力やご都合主義的な部分にしても日本の剣豪小説にはよくある程度のことだし……といっても読んでいない人にはわかりにくいだろうな。なんとかして読んでもらう手段はないものだろうか。何かよい知恵があったら貸して下さい。お願いします。  ちなみに、僕が気に入って訳した一篇は、香港の金庸による『白馬嘯西風』。天津の百花文芸出版社刊。1993年4月初版だが入手した本は同年9月ですでに第5版とある。また、この2月に帰国された阿部敦子さんも自分の気に入った古龍という人の長篇を鋭意翻訳中ということなので、その概要が明らかになる日も近いと思われる。興味のある人はご期待下さい。


95年「はまなこん」では……

 前出のとおり95年の大会は僕の家からほど近い、ほとんど地元というべき浜松市で開かれます。深見さんの衣鉢を継ぐ大野典宏氏の発案により、非英米の関係者(ロシア、大陸、台湾、できれば韓国、モンゴル、マレーシア……うう、できそうにない)を呼んで、座談会のようなことをやろうという話が出ています。大野さんの話ではロシアからの参加はほぼ決まった模様。
 むろん中国からもゲストを招請する計画をたてております。事前に相談せずに事を進めてしまいましたが、日本のSF界とのファースト・コンタクトを果たしていながら、米国留学中のため今まで呼ぶ機会のなかった上海の呉定柏と、中国語圏最大の発行部数を誇る成都の科幻世界編集部へ内々で打診したところ、参加希望の表明がありました。台湾方面も、《幻象》の呂応鐘氏の推挙により、張系国、黄海の両氏に参加を要請すべく、これから意向を打診してみます。ただ、何分予算のない所からの招待ですので、呼べる人数には限りがありますが、だいぶ先の話ではあるし、個人的に物心両面で何等かの協力をしていきたいと思っております。会員の皆様にもご賛同いただければさいわいです。(林 久之)