科幻情報 Vol.24


中国児童文学研究会

 河野孝之さんという方からコンタクトがあり、「中国児童文学研究会」という団体の存在することを知りました。ときどき本紙でも触れていた児童文学作家の彭懿氏が来日当時からお世話になっていたとのことで、今回のコンタクトも彭懿氏がきっかけになったものです。
 考えてみれば、中国では(かつて日本でもそうであったように)科学幻想小説は児童文学の1種として位置付けられていたのであり、中国の科幻小説作家も児童向けの科普小説や科学解説や童話などをたくさん書いていたのですから、日本の児童文学界と早くから接触していることは、予想できて当然だったのです。遅きに失したというべきでしょう。  というわけで、さっそく双方の持っている資料や情報の交換をはじめています。折しも成都在住の劉興詩氏から、自分の作品が日本の児童文学界で紹介されているらしいと言ってきました。まだ作品そのものの翻訳・紹介までは行っていないようでしたが、河野氏はすでに劉興詩氏のことをご存じでした。河野氏から送っていただいた資料を見ても、児童文学界における両国の交流はSF界よりはるかに幅広く組織的に進んでいます。NHK教育TVで放映された「シリーズ:アジアからの発言」で来日中の児童文学作家曹文軒氏が登場した(3月29日)のも、中国児童文学研究会の協力あってのことと聞きました。中国SF研としては羨ましい限りです。うーむ、力不足……(^^;)。
 SFと他のジャンルとの境界があいまいになりつつある現在、私自身ももっと他のジャンルに目を向けなくてはと思ったことでした。それにしても、中国科幻小説のうち、どの作家のどの作品が日本の児童文学界で扱われ、どの作品がSF界で注目されることになるのでしょうか。
 なお、中国児童文学研究会に興味おありの方は、林までお問い合せ下さい。


第32回日本SF大会DAICON6

 中国SF研究会の存在をアピールするため、今年も懲りずに自主企画を行います。
 当初の計画では、この夏上海で行われることになっていたSF学界のレポートと、前述「中国児童文学研究会」の河野氏と彭懿氏を招いて児童文学の視点から見た中国SFの話など鼎談の形で……と思っていましたが、あいにくどちらも都合つかずにつぶれてしまいました。
 でも、自主企画はしぶとく生き残ります。まずは最近の中国SF事情の紹介。去年台湾の呂応鐘氏から寄贈いただいた《幻象》6期分と、最近成都から届いたばかりの《科幻世界》93年の6期分とを、一度に紹介してしまいます。今まで暗〜い部屋でスライド見ながらの語りでしたが、今度は資料をすべてホームビデオに収めて見せてしまういう新たな試みをやってみます。
 また、TOKON9で好評だったロシア・東欧のSF・FT映画の紹介も、亡き深見弾氏の遺鉢を継ぐ大山博氏と大野典宏氏の協力によって再現されることになりました。これに波津博明氏・中島康年氏が加われば「非英米SFの現在」となる所なんですが……。もし間に合えば顔を出してもらえるよう連絡してみます。
 会員のみならず、中国やロシア・東欧、はたまたスペインやラテンアメリカSFの現在に興味を覚えた方、どうかお誘いあわせの上ご来場下さい。お待ちしております。


新装《科幻世界》の盛況

 SFM誌9月号のWORLD SF REPORT欄で波津博明氏が紹介しておられましたが、北欧諸国では翻訳SFも国産SFもほとんど市場として成り立たない状況とか。なぜそうなるのかはSFM誌をごらんいただくとして、その北欧とは対照的に、日本と同様自国の作家によるSFに熱いまなざしを向けてくれるファンがひしめいているという有難い国の一つが中国であります。もちろんここでいう中国とは、すなわち漢民族社会というほうが正しい。漢人によって漢語で書かれたSFが中国SFなのです。
 で、その中国SF界の活況を伝える雑誌、四川省成都で発行されている《科幻世界》の93年前半期分が先日届きました。
 表紙は例によって天野嘉孝・加藤直之の画集など海外イラストをそのまま使っています。国産のイラストレーターはまだ不足しているのでしょう。しかし扉や裏表紙には全国の読者とおぼしい中学生(日本でいう高校生も含む)から投稿されたイラストが所狭しと踊っているので、この中から将来の中国SFイラスト界を背負って立つ俊才が現れるかも知れません。大いに期待したいと思います。もっと細かいことはSF大会のときに映像つきでお話ししましょう。
 ところでこの《科幻世界》は以前から読者からの反応を大事にしており、そのかいあって、すこし前からSFファンが集まってグループをつくろうとの動きが活発化していました。
 そしてついに、93年同誌第6期号のコラム「科幻迷倶楽部(SF fan)」に、次のような投稿が現れるに至ったのです。

湘潭市一中に科幻協会結成

 最近、湖南省湘潭市一中で「中学生科学幻想協会」が結成された。協会の第一回のメンバーはおよそ150名。みんなSFに対して強い関心を持つ積極的な連中である。
 協会の趣旨としては、広くSFファンに連絡を取るとともに、生徒諸君がSF作品を読み、SFの創作に従事し、その科学的素質を高めあい、課外活動を豊かなものにして、相互理解を進めるよう励まし導き、ひいては多くのSF愛好者のために情報を提供していこうというものである。
 協会では会誌《科幻愛好者》=SFファン=を創刊して会員ためにSF作品を通じた交流の場を提供し、また全国で唯一のSF刊行物である《科幻世界》の定期購読を推奨する。  協会では次なるステップとして、市内の各中学校でSF協会を設立するよう提唱するのはむろんのこと、できるだけ早いうちに市・省規模の中学生SF協会を成立させ、全国的規模に及ぶ中学生のSF活動を新たなる発展段階にまで広げていきたいと考えている。
湖南省湘潭市1中  周 有達
 この呼びかけが掲載される前、たとえば第1期号にも、《科幻世界》の譚楷氏らが北京を訪れて、北京師範大学でSF講座を開いてファンの開拓に腐心していた呉岩やその一党と交流を深めたとか、重慶市の私設SF図書館の繁盛記が載ったりしていたのですが、こんなに急テンポで事が進むとは予想していませんでした。中国のSFファンたちの行動力および政治力には脱帽するほかありません。勢いがつきすぎて官憲の介入を招くことにならないよう祈るとしましょう。
 ところで、話題はきわめて散文的になります。 中国のインフレの進行は大いに気になるところ。《科幻協会》が全国の中学生に読んでもらいたいと呼びかけている《科幻世界》の販売価格を調べてみると、《科学文芸》時代81年第3期号が80ページで38銭、86年第1期号が64ページ50銭だったのが、93年第6期では毎月発行にはなったものの48ページに減って1元50銭。中学生のふところ具合を考えると、誰でも手に入れられるというものではないようです。
 それともう一つ、円高がこんなに進んでなければ、日本のファングループと顔を合わせるのも夢じゃないのですが…… 


《星雲賞》ノミネート作品を見て

 SF大会に参加される良い子の皆さん、星雲賞の投票は済みましたか?私は2日遅れでハガキを投函してしまいました(^^;)
 まわりにいる数人の方々に聞いてみると、ノミネート作品のリストを見て(うーむ読んでないなあ、こんな程度の読書量で評価を下すのは良心的とはいえないから、やっぱ棄権しよう……)、という人が多いようです。とにかく毎年発表される膨大な作品群に目を通し切れず、従って候補作品を絞り込むのも容易ではないというのが現状。
 そんな中で、今回はどうにか多少は読み散らす余裕があったので、SFM誌のバックナンバーを引っ張り出して海外短編部門の候補作に当たっているうちに、従来の(アメリカの)SFに行き詰まりを覚えているような視点を感じました。つい最近まで信じていたテクノロジーの発展性に疑問を覚え、本当にそれでよかったのかな、というようなことを短編の形でつぶやいている感じなのです。
 テクノロジーの発達が社会全体の幸福につながるものと無邪気に信じてここまでやってきたけれど、さてある程度の目標に到達してちょっと脚を止めてふりかえってみると、もっと別の考え方を、何か大切なものを切り捨ててきたことに気付く。別の考え方といっても、まるっきり科学性を無視するということ――たとえばサイエンスに対してファンタジイを対置してみるとかいうことではないようです。それがまだはっきりした形でとらえられていないために、短編の形でつぶやいているのではないかと思います。これは全般に見られる傾向なのでしょうか、それともたまたま今回のリストだけに見られる現象なのでしょうか。
 私はもっぱら中国SFばかり読んでいるので、アメリカSFの動向には明るくありません。こんなことはもうとうの昔に話題になり、論じ尽くされて誰も言わなくなっているのかもしれません。ただ、久しぶりに英米の短編を読んでみたら、こんなことに気付いたので、つい書いてしまったというだけのことです。
 これに対して中国SFにはそうしたシラケがまだ感じられないわけで、楽天的な未来像の多いのはうらやましい。ただ、アメリカSFが目指していた方向へ進んでいくかぎり、いつかはこうならざるを得ないのではないでしょうか。アメリカの模倣でない、中国独自の手法が確立されるまでは。
 中国のSF関係者もこのことは十分承知しているようです。「中国独自のSFを」という声は大陸でも台湾でも叫ばれています。今は掛け声ばかりで実作でそのことを示すには至っていないようですが、やがて中国人の歴史観や政治力学を反映した壮大なドラマが書かれることを期待しようと思います。


その他の情報