科幻情報 Vol.20


白柳孝氏を悼む

 最初に、悲しいことをお知らせしなくてはなりません。中国SF研究会の古くからのメンバーの一人で、東海SFの会創設者のひとりであったBNF、白柳孝氏の訃報です。氏の名前をご存知の方は、中国SF研究会の中に必ずしも多くはないと思われます。表立って活躍されることが少なく、身体的にハンディを持っておられたにもかかわらず、実は「中国SF資料」も「科幻情報」も、白柳氏に負うところが大きかったのです。というのも氏は広告デザインなどを手掛けておられたからでした。最初の中国SF資料「海豚之神」を出したときから、編集・装丁や印刷所の紹介など、本当にこまごまとしたことまで何かとアドバイスをいただいていたのです。夜更けてから、浜松駅にほど近い裏通りにある「白柳デザイン室」まで何度足を運んだことでしょう。その度にいつもにこやかに迎えてくださり、私のほうが都合つかない折など、「ほんのついでですから」といいながら原稿を取りに来たり刷りあがった印刷物を届けに来て下さったこともあります。「海豚之神」のころはまだ小学生だった下のお嬢さんも、もう大学に学ぶまでになり、上のお嬢さんは「はまなこん」が開催されるごとにアシスタントとしてお父さんについてこられるようになり、さあこれからという時になって突然亡くなられたのですから、ご家族の方の嘆きは察するに余りあることでしょう。中国SF研究会としてはいろいろお世話になっていながら、これといって表立った賛辞を捧げることもなく今日に至ってしまいました。つくづく残念なことです。今はただ慎んでご冥福をお祈り申し上げるばかりです。本当に有難うございました。


はまなこん10

 去る11月8.9の両日、東海SFの会による地方イベント「はまなこん10」が開催されました。LAST HARMAGEDON などというサブタイトルがついていましたが、なに、設立以来中心となって動いてきたメンバーが高齢化(?)してきたので、第一線を退いて新たな世代の台頭を期待するという主旨なのです。
 さてこの「はまなこん」ですが、合宿・宴会型イベントの常として夜になって酒が入るとまじめなSFの話はどこか行方不明になりがち。そこで開会前にまじめな企画をやろうという声が起こり、当日開会に先立つこと四時間、浜松科学館において二つの座談会が開かれる運びとなったのです。
 さいわい20名ほどの出席があり、健康状態が心配されていた深見弾氏も久々に参加されて、社会主義圏SFの合宿をウラジボストークでやろうと、意気軒昂なところを見せて下さいました。
 最初は「社会主義SFのゆくえ」と題して、ソ連邦消滅による今後の動向などを語ろうということだったのですが、A・ストルガツキーの死がロッデンベリーの死と重なったためほとんど話題にならなかったという愚痴めいたところからはじまって、ほとんど深見弾氏の独壇場。合間にソ連のSFイベントに参加してきた(なんとソ連「8月革命」未遂事件の直後!)大野典宏氏のレポートが切れ切れに入り、司会ということになっていた私なんぞ圧倒されっぱなしでしたが、深見弾氏のエネルギッシュな歯切れのよいお話は実にタメになりました。大野氏が記録をとって下さったはずなので、そのうち紹介できるかも知れません。乞ご期待。
 そのあとはやはりゲストの柴野拓美・山高昭両氏に入っていただいてSFの翻訳についてのよもやま話となりました。これまた興味深い話題が一杯ということだったのですが(Asimovをどう読むか・ヘンな日本人の名前が出てきた時は・中国の人名はどうルビをうつ、などなど)、題材が多すぎて、固有名詞の翻訳に関する苦労話だけで時間一杯となってしまいました。
 かくて閑古鳥が鳴くこともなく、かなり充実した時間を過ごした末、参加者一同それぞれの車で会場となっている新居町の民宿「清風荘」へと移動したのでありました。  その後かの「清風荘」でいかなる騒動が演じられたかは、いずれアフターレポートなるものが出るらしいのでそちらを見ていただくこととして、ひとまず「はまなこん10」の事前研修会の報告を終わらせていただきましょう。またニフテイのフォーラムでごらんの方には、平行して行われたRT−LOGが掲示板に出るようなうわさもありますので(これはSigeさん次第)、そちらをお待ち下さいますよう。


呉定柏、留学先のアメリカより博士号をみやげに帰国

 中国のSFファンとしてはじめて名乗りをあげた、上海の呉定柏氏が、昨年秋無事に博士号を取得して帰って来られました。アメリカ滞在中に中国SFのアンソロジーを編集して自ら英訳・出版するなど、なかなかの活躍ぶりでしたが、帰国後さっそく大衆文学に関する研究書を執筆中とか。


衛斯理シリーズ日本上陸

 倪匡の衛斯理シリーズの翻訳が始まっていたのに、とんと気付かないでいました。昨年6月、徳間文庫から「猫」-NINE LIVES- (押川雄孝・訳)が出ていたのです。すでにごぞんじの方もいらっしゃるかも。また、この作品は映画化された模様なので、近く日本でも見られるかも知れません。新聞広告などにご注目を。詳細は、とにかく本をごらんになって下さい。解説の中では、今まで私も知らなかった作者のプロフィールの紹介が面白いですよ。


デビューとレビュー

☆会員の山本範子さんが雑誌「Cobalt」の読者大賞に選ばれ、92年2月号でデビューされました。立原透耶名義で発表の『夢売りのたまご』です。SFではなく純FTですが、ほのぼのとした後味がよかった。今後はもっとSFっぽいものも書いていきたいということで、目下の所、文庫のための書き下ろしを執筆中。皆さんどうか読んであげて下さい。
☆河出文庫『中国怪談集』が出ました。中野美代子/武田雅哉・編、とくれば中味は相当のへそまがりであることを覚悟して読むべきでしょう。とにかく従来の「中国怪談」のイメージはほぼ完全に裏切られるはずです。ぼくも翻訳で一枚加わっていながら、仕上りを見るまで、ここまで過激になるとは想像できなかったくらいです。


彭懿氏の評論、ワープロも使いこなして快調

 留学3年になんなんとする上海の児童文学者、彭懿氏は、すでにお知らせしたとおり東京学芸大学大学院で児童文学の比較研究を進めており、今やワープロを駆使して日本語で評論を書いています。今の所日中両国の少年向けSFの受容や創作に関する研究が中心で、アダルトSFには深入りしていないようですが、日本SFを系統的に読んでくれる貴重な人材です。遊びや宴会でなく研究・討論などを主体とする催しがあったら、ぜひとも声をかけてあげてください。私も、もっと彼と話したいと思いながら、なかなか東京まで出られないでいます。連絡先は、私をはじめ中国SF研究会のメンバーにたずねていただけば分かります。特に首都圏に住んでいらっしゃる方、よろしくお願いいたします。


游覧香港

真 由 美
 原稿が集まるかなと心配していたのに、19号を出したとたんにいろんな情報が(必ずしも鮮度がよいとは言えないながら)流れ込んできました。ここに紹介するのは、香港に情報網を持っていらっしゃる神真由美さんがお寄せ下さったものです。短いので1度に掲載するつもりが、分載ということになってしまいましたが、どうかあしからず。
 去年、(1991年1月)観光で香港へ行ってきました。その時のレポートを書いてまいります。
 香港はこれで2回目になります。友人ができたり、仕事場に香港の人がいることもあって、片言の広東語をひっさげて行きました。
 私がつとめている会社(現場ですが)中華料理のレストランです。本場、香港から料理人が来ています。また、うちの調理長は中華が専門で、社内の研修旅行で毎年、香港にでかけています。私たちが香港に行くことになったのは、仕事柄当然なわけです。しかし始めに言い出した人は、ギャンブルずきな所長の「マカオにいってみたいですね」の一言だったように思います。
 私たちの旅行の目的は食事(仕事柄当然ですが)。香港でも一流といわれ、ツィ・ハーク監督も、来客の際は利用するという福臨酒家。そのほか、3泊4日の間、食べるだけ食べるというツァーです。本当に好きな人だけですが、マカオまで足を伸ばし、ギャンブルに明け暮れた人もいます。今回、香港の友人たちが、案内を買って出てくれたこともあり、心強い思いで、行くことが、できました。

1月7日

 午前4時30分、山中湖発。成田まで、車で直行。10時の便なので、朝まだ暗いうちに出る。都心の渋滞に巻き込まれることなく通りぬけ、成田には7時到着。朝食を空港内で取ることにする。すぐうしろに高嶋(兄)がいた。その向こうに富士山が遠くかすんで見える。ずいぶん遠くまで来てしまったもんだ。
 10時30分。予定より30分遅れでTake off。飛行機が上昇していくときが一番楽しい。これからの旅行への期待とともに飛行機が上昇していくから。
 12時15分 昼食。
 13時50分 少し昼寝をして。すでに台湾は通り過ぎた。少し、霧の中を飛行。翼のすぐ下に雲がある。1万qの上空を飛んでいるんだな。TBSの秋山さんの400qには程遠いが、足元に地球があるのが実感できる。
 14時25分 いよいよ着陸体勢。少しずつ高度が低くなっていくのがわかる。しかし、雲が多いから何も見ることができない。九龍城を上空からみたかったが、無理。翼までもが、霧の中に消えてしまう。
 香港到着。雨。
 夕食は鯉魚門(レイユウムン)。せまいなかに立ち並ぶ市場で、生きた魚を買い求め、レストランに持ち込む。とても魚がおいしい。ここで食事をして、ようやく香港に来たんだって実感することができる。

1月8日

 友人(ジュリア)が、休日をとり、案内してくれる。すでに自分が何を買いたいのかを伝えてあるため、迷わず、旺角(モンコック)へとむかう。旺角まで行くと日本人の姿は見かけない。中国らしさを感じる。表通りをはずれる。案内をかってでてくれた柏(ハク)さんが「ここが女人街です」という。ガイドブックで見ていた女人街とはぜんぜんちがう。静かすぎる。すると、昼間は、だれもいないそうだ。私たちがおとずれたのは午前11時ごろだった。柏さんが、書店をさがしてくれる。台湾のSF作家、張系国の本が買いたかったためである。2軒目においてあるところが見つかったそうだ。柏さんとジュリアのあとに続いて小さな建物の2階に入る。自分だけではとても見つけられないようなわかりにくいところ。店内は神田のごく普通の古書店よりも一回り小さい。全体をよく見てはこなかったが、婦人向けの料理の本のすぐとなりに夫婦生活の本が置いてあるなど考えもつかないような、ならべかただった。日本の作家のも翻訳されている。めあての張系国ほか、中国のSF関係は17冊ほど。興味あるものを2冊、買う。2冊で48HK$が38HK$。2割引になる。香港は正月に向けてバーゲンの時期。本までがその対象になるとは思いもしなかった。
(つづく)