科幻情報 Vol.19


第30回日本SF大会i−con報告

 転勤のためWSFには行けなくなりましたが、第30回日本SF大会には、しっかり行ってきました。
 今年の企画も他力本願で、柴野さんと山岡さんによるWSF報告に、私の解説めいたものをちょっと付け加えただけでした。あとはほとんどディーラーズ・ギャラリー(?)から離れず、売り子に専念していた次第。例年ながら東海SFの会とイスカーチェリとは隣組で、ついでにCATも同居して、なごやかに過ごしました。もひとつ隣は神林同盟で、なんと神林長平氏じきじきに売り子をしておられました。その向かいは「宇宙塵」で、ここでも柴野さんがしばらく座っておられたようです。最近の流行ですかね。
 買い集めたファン刊行物の中で面白かったのは、スターベース神戸による宇宙大作戦シリーズの翻訳「エントロピー効果」「永遠の淵に立つ都市」。ハヤカワ銀背シリーズの装丁を模したりして、外観中身ともに丁寧な作り。商業出版としては出る見込がないとかで、同人誌ならではの企画です。もう一つは「神風隊長/恐怖の火星鉄仮面」なる古典SFのパロデイで、序文や巻末広告まで偽造し、旧かな・旧漢字版をフロッピーで別売りするという凝りようでした(でもフロッピーにはミスが多かったなあ……)。
 猛暑の中をオットーとグラッグのぬいぐるみで香林坊を闊歩した方、御苦労様!
 なお、カメラを持って行かなかったので、今回は写真の掲載はありません。


《科幻世界》誌のWSF関係記事

 科幻世界91年第1期号−4期号が到着した。いつもながら送ってくれる編集スタッフに対し恐縮を禁じえない。というのは、雑誌自体は1.6元なのに郵送費が優に一桁は上回っているからである。なんとかならぬものかと思いつつ、どうにもならない。困ったものだ。せめて銀河賞授賞作のことなどを詳しく取り上げて、作者及び《科幻世界》の日本での知名度を上げるのに協力するとしよう。
 まずは第4期号に載ったWSF報告だが、これは表紙裏に写真9葉を掲載しているほか、特集コーナーを設けて、詳細なレポートと祝電とを載せている。(しまった、中国SF研究会の名で祝電打つんだった!)。また別のコーナーには第3回銀河奨(森林杯)受賞作の紹介が出ていて、ラインアップは次のとおり。  ごらんのように、おなじみの名前がずらりと並んでいる。一等の作者のひとり覃白は譚楷のペンネーム。余談ながら、漢字の偏や旁を削るのは本名を隠す場合によくあること。赤穂浪士の武林唯七が中国系三世でしかも孟子(孟母三遷のあの孟子である)の子孫であることが突き止められたのも、このことが手がかりになったという。二等の劉興詩、姜雲生の二人についても、説明は不要であろう。三等の呉岩は姜雲生の子息である姜亦辛と同様、十六歳で《科幻海洋》にデビューを飾った英才。北京師範大学を卒業する間際に、第一回銀河賞の授賞大会で顔をあわせたことがある。大学院で心理学をやることになっている、と言っていたが、名前を聞くのは久しぶりのことだ。晶静という人もたしか同じときに会っている。科学文藝の編集室で行われた受賞者の座談会に出席していたのを覚えている。
 さて、受賞作についてもすこし詳しく紹介しよう。


受賞作品の梗概】

《太空修道院》 譚力/覃白

 アステロイド・ベルトで一隻の宇宙船が遭難した。最寄りの小惑星は、男ぎらいを信条とする修道院。以前にも急患の受入れを拒否した前歴がある。ただひとり奇跡的に無傷だった乗組員の羅は、もうひとりの生存者で重傷を負っている丹をつれて、なかば脅迫によって修道院に入り、治療を受けさせることになる。お察しのとおり、あとはいかにして修道女たちの心を開かせるかということになるのだが……。従来の大陸系科幻小説に見られた露骨なプロパガンダや科学知識普及の教条主義は、さすがにこのコンテストには見られなくなった。作者も余裕を持って楽しみながら書いているのが感じられる。アステロイドベルトの描写など科学的に変なところはあるし、なくもがなの「新発見」が出てきたりするものの、これが一等になったことについては、内容よりも、その事実に注目すべきであろう。中国の小説は政治的状況と全く無縁ではありえないのだ。
 なお受賞作の載った1期号には譚楷氏の次男、胡暁鴎のショートショート「魔盒(ふしぎな箱)」も「科幻小説接龍」という形で採録されていたことを言い添えておこう。

《霧中山伝奇》 劉興詩

 曹という考古学者が、四川省西南部にある霧中山で消息を絶った。探しに出かけた友人が妙なものを発見する。二千年も昔の墓から出土した貝の貨幣に、消息を絶った考古学者の筆跡で数字とローマ字が書かれていたのだ。痕跡を追って西北へ進むと、雲南省の保山で、インドで出版された新資料と称する本を見つける。手に取ってみると、なんと曹がインド古代の王と問答しているではないか。いったいどうやつてタイムスリップしたのか……と、面白いのはこのあたりまで。結局、宇宙人が残して行ったタイムマシンを手に入れて時空をかけめぐっていたという、安易なタネ明かしになる。最後は、アメリカで開かれた学会に南回りのシルクロードに関する発表を行った後、祖国に貢献するためタイムマシンともども中国へ戻ってくる、という愛国物語で終わる。山中峯太郎先生著「世界無敵弾」の時代へ逆行したようなオチである。一等の作品とはまた別の意味で、政治的状況を反映していると見るべきであろう。前半の中国西南部の描写やシャカ入滅のころのインドの様子などが伝奇的ムード満点であるだけに、肩すかしを食らった感じがする。

《一個戊戌老人的故事》 姜雲生

 浙江省杭州市の郊外で、清朝末期のころの官服を着た初老の男が服毒自殺した。調べによるとこの人物は、戊戌維新に失敗して北京城外の菜市口で処刑された覃嗣同の師匠にあたる、徐致靖という人物。なんらかの超常現象によりタイムスリップしてきたものとしか考えざるを得ないのだが、どうも納得がいかない。史実によれば彼は、戊戌事変ののち死一等を減ぜられて浙江の郷里へ引っ込み、七十余歳の生涯を無為に送ったはずだが、この死体はまだ五十台なのだ。やがて徐々に謎が解けていくが……
 推理小説の技法で書かれたSF、といえばよいだろう。謎が解けた時点で話は終わる。しかしその解きかたはフェアとは言えない。ミステリのルールに反する。ただしこの作品の受賞も、愛国者の描きかたにやや屈折が見える所からして、やはり政治的状況と無縁ではなさそうである。

《女゙之恋》 晶静

 中国における文化英雄伝説は三皇五帝であるが、そのうちの「女゙補天」として知られているエピソードをSF的に説明してみせた、古代史ものである。女゙は外宇宙からやってきたE.Tで、石器時代の地球人である伏羲との間に愛が生まれる、……という物語。宇宙人との恋、というのは現代ではすでに古くなったテーマだが、ソツなくこなしていて読みやすい。

 ……と、ここまで読んでみたものの、もはや10月末。ハマナコンまでに発行するには、新しい作品を読んでいる余裕はない。3等や選外作品にも注目すべきものがあり、見えない宇宙の意志を描く姜亦辛「他們(かれら)」や、中国版・ミクロの決死圏というべき呉岩の「生死第六天」なども紹介したいのだが、サッと目を通しただけなので、詳しい紹介はまたの機会に譲りたい。
 そのほか主な記事としては映画「ロボコップ」の紹介とか次回銀河賞コンテストの募集要項とか、いろいろとあるけれども、残念ながらこの辺で。


その他の作品紹介

 WSFの記事に押されて、作品紹介をしばらく休んでしまった。受賞作の紹介はすでに書いたが、台湾の黄海の作品数篇を紹介しておこう。

《第四類接触》

 長編である。巻を開くと同時に、ラグランジュ点のスペースコロニーの男が地球上の女と、念力による力比べを始める。ディスプレイの中で双方の念力のせめぎあいがレスリングとなって展開される……というシーンがあって、一体「第四種接近遭遇」はいつ始るんだ?と思っていたら、この「第四種」というのは、念力による外星人との意志疎通と星間通信なのでした。しかし超能力によって光速の壁にとらわれない飛行を行なうというのは、ちょっと面白い。

《星城夢魘(スペースコロニーの悪夢)》・《通天楼(摩天楼)》《古董(骨董)》《機器人是誰?(ロボットは誰?)》

 いずれもショート・ストーリーなのであらすじを紹介するのはちょっとまずいが、往年のシェクリイやブラウンを思わせる懐かしい味わいの、気のきいた話。来年発行する予定の「中国SF資料之五」に収録したいと思っている。ついでに、銀河賞受賞作も含めて、誰か翻訳してみませんか?


会員の本その他雑多なニュース

◎武田雅哉氏の編訳による「西遊記」(第三文明社)が、小学校上級以上を対象としたものながら、原作の猥雑な要素をしっかり生かして、いかにも悪ガキ・バージョンの面白さにあふれている。ことに会話が秀逸。翻訳者の人柄であろう。きれいごとに訳された「西遊記」に飽きたらない人におすすめ。
◎沢田瑞穂「鬼趣談義」「地獄変」「中国の呪法」がそれぞれ装いを新たに、平河出版から出ている。ことに「鬼趣談義」は中国志怪の構造をあまねく語っていて興味ぶかい。
◎東海SFの会による「ルナティック」16号は例によって中国SFの翻訳を載せている(福田さん、ご配慮ありがとう!)今回は張系国「夜曲」と姜雲生「無辺的眷恋」の二短編。
◎近く出るはずの河出文庫の〇〇怪談集シリーズ「中国怪談集」は武田雅哉氏が大幅に関与、林久之も口を出して、「怪談」のイメージとはだいぶ違ったものになりそう。SFは許地山「鉄腮」黄海「行屍記」が入っている。林久之もSFではないが葉蔚林「五箇女子和一根縄子」で参加。ところが東京国際映画祭ヤングシネマ部門で銀賞を獲得した台中合作映画の題名が「Five girls and a rope」。絵になる作品だなあ、と思って訳したのだが、やっぱり目をつけた人がいたらしい。
◎イギリスのデイヴィッド・ウイングローヴによるとんでもないSF大河長編「チョンクオ風雲録その1 龍の帝国」が、野村芳夫氏の翻訳により文春文庫から出る予定。中国人が世界を分割統治しているという平行世界(?)もの。作者は中国史に詳しいので、かなりマニアックな凝りかたをしており、中国に興味のある人は思わず「おぬし、できるな」とつぶやきたくなる。乞御期待。
◎とうとうパソコン通信の世界に引き込まれてしまいました。以後、科幻情報はNIFTYのSFフォーラムでも掲示。通信やってる方はそちらでも読み出せます。林久之のIDはQFH02372です。感想など、お寄せいただければさいわいです。
◎ちょうど4頁に達しました。では今日はこの辺で失礼いたします。