科幻情報 Vol.18


成 都 W S F 特 集

 6月23日、はるばる『宇宙塵』の例会に顔を出してきました。数年前から会員にはなっていたのですが、例会への参加は初めてです。それというのも、柴野拓美ご夫妻および山岡謙氏による、中国初の国際的SF集会、WSFの報告が聞きたかったためなのであります。彭懿氏にも連絡して、会場で一緒になることができました。
 SF関係の集まりというと、ファンによるボランティアが普通なのですが、今年の成都WSFは一味違ったスタートで始まった模様。それというのも、SF→科学幻想小説→科学技術発展への寄与、といった発想がだれかさんの頭にあったらしく、またそのことを利用しようという、別のだれかさんもいたとみえて、ホテルから会場へ着いたとたん地元小学生によるラッパ鼓隊のファンファーレが鳴り響き、爆竹の音にのって獅子舞と龍戯珠つまり蛇踊りが繰り出し、玄関には四川省の省長が出迎えて世界各国からのゲストと握手をかわすという、もう完全なお祭り騒ぎ。政府機関の後押しがあると、例会もかくのごときものに変身してしまうのです。柴野さんも一瞬、うらやましいなあという思いを禁じえなかったとか。
 大会そのものは、以前の《銀河奨》授賞大会に似た地味なものであったようです。「学術会議みたいでした」とは山岡さんの感想。中国語と英語が飛び交う中、言葉がわからないので撮影に専念しておられた由。《科学文藝》雑誌社のスタッフが頑張ってくれたおかげで、全国から130人もの作家・編集者が集まって、中国では空前の盛会となったそうです。途中、パンダのいる臥竜自然保護区・都江堰(古代の治水工事の跡)・青城山(道教の寺院がある。漬物が名物)へのツアーがあり、参加者一同に加えて四川省内の一部SFファンも参加して230人あまりがバスをつらねて出かけるという、これまたスケールの大きな企画がありました。生きているパンダにさわってきました、と柴野さん。ところが崖崩れがあって成都へ帰れなくなり、外国からの来賓に何かあっては一大事とばかり人海戦術の突貫工事、無事に1日遅れで成都へ到着、最終日のプログラムは変更せざるを得なかったとか。
 さてWSFといえばカレル賞のゆくえが注目されるところです。
 今年度のカレル賞は、日本から参加の柴野拓美氏、杭州大学の郭建中教授、チェコのSF雑誌《IKARIE》、そしてもちろん科学文藝あらため《科幻世界》。またハリスン賞にクラーク、プレジデント賞に、以前北京で「科幻海洋」などにかかわり柴野さんとはワールドコンで面識のある、王逢振氏が、それぞれ受賞しました。
 このときの詳しいみやげ話やスライドによるレポートなどは、この夏金沢で行なわれるSF大会でうかがうことができるはずです。中国SF研究会は今年も懲りずに一部屋確保しました。大会に参加されるかた、そのときにまたお会いしましょう。


 《科幻世界》編のSF語録

 論語の昔より世説新語・貞観政要・宋名臣言行録等を経て近年の毛沢東語録に至るまで、中国は語録の好きなお国柄。当用日記やビジネス・ダイアリーの類には日本でも「○○曰く」といった有難い御言葉がページの隅に載っている。こんどのWSFで参加者に配布された赤いハードカバーのノートが、柴野氏を通じて届いたのだが、ここにも「SF語録」とでもいうべきものが載っている。「科幻・和平・友誼」と書かれた《科幻世界》提供のノートにどんな語録が出ているか、ちょっとのぞいてみよう。
 表紙をはじめ至る所に使われているシンボルマークはパンダの宇宙飛行士のVサイン。扉を開けると、「SFこそは未来の姿、手を取りあって明日を創ろう!」とのスローガンが2ヵ国語で大書された下にスポンサーらしき企業・団体名が6ページにわたって並んでいる。続いてのページは《科幻世界》の広告。「我等と我等の《科幻世界》は、SFファンの友」とスローガンが掲げられ、その下に詩が一篇。
来たれ若人よ!
若人よ来たれ!
われら科幻の世界へ――
たぐいなき不思議な筏へ。
われらが擁するは広大なる天地――
壮麗なる銀河よりあらゆる外宇宙の星系まで。
われらの擁するは洋洋たる時間――
混沌初めて開けしより実り多き未来まで。
空想こそ、重き双肩に翼を生じ、
探索の洞窟に松明を生じ、
不毛なる思索に慈雨を降らせ、
科学の古木に新芽を生ぜしめ……
古刹の必ず名山に拠り、
乙女の必ず賛美さるるがごとく、
空想を解する者よ、
最も美しき知恵の花を擁したる者よ!
科幻の世界へ来たれ、多くの友垣を結ばん、
ともに別世界へ旅立たん――いざ!
――と、まあ気恥かしくなるほどストレートなSF賛歌の載っているページに最初の語録が出ている。  以下、目についたものを拾ってみる。出典が挙げてないので確認できないものがほとんどだ。中国人の言葉ならば文責は訳者にあるが、西欧人の語録に誤訳があっても、それがぼくのせいなのか中国語に訳した人間のせいなのかはわからない(はずだよね)。  うんうん、なるほど、と読むうちに次のようなものに行き当り、げっ、と言った。  これはどこかに書いたという覚えはないので、《銀河奨》授賞大会で話した一節であろう。もちろん柴野氏のもあった。  先に書いたとおり出典は不明。誤訳でなければさいわいなのだが。  最後の張系国が台湾SF界の草分けの一人であることは、中国SF資料その他に書いた通り。台湾と大陸との交流はあれよあれよという間に進み、今年のWSFにも台湾からの代表が参加していたという(失礼ながら名前は聞き忘れた)。中国における語録は時に政治的意味あいをもって読まれることがある。ここに挙げた語録の内容および人名から、読者諸君は何を読み取られたことであろうか?