科幻情報 Vol.15


第29回日本SF大会レポート

 すでに御存知の通り、今年のSF大会は東京・浅草で行われました。『SFマガジン』や『SFアドベンチャー』で御覧になったと思いますが、わりあい地味な大会になってしまいました。しばらく合宿宴会型の大会が続いたので、たまにはセミナー形式もいいかな、などと思っていたら、そのセミナーも案外少なく、なんだか物足りない印象になったことは否めないようです。
 例によって、筆者自身が参加した企画しか報告できないのですが、まずは中国SF研究会主催ということになっている『社会主義圏のSFはいま……』からいきましょうか。  この企画は、はじめ中国SF関係のスライドとトークで綴るつもりでした。しかし、今年は中国からこれといって新しいニュースも届いていないので、また去年の話をくりかえすだけというのも知恵のない話だと思っていたところ、深見弾氏から、ソ連・東欧と一緒に何かやってはどうかとの提案があり、昨年暮から今年にかけて起きた東欧の激変を連想させるような表題を考えた次第です。当初の計画では、深見弾氏のトークのほか、『SFマガジン』誌の四月号にソ連・東欧SF映画の紹介を書いた大山博氏に協力を要請し、氏のコレクションから数本のビデオソフトを試写しようということでした。ところが、いざ企画書を提出した段階になって、深見氏・大山氏とも都合悪く参加できないことになり、さあ大変と頭を抱えてしまいました。しかし、深見氏から大山氏へ連絡していただき、秘蔵のビデオソフトだけは拝借することができましたので企画そのものはつぶさずに済んだようなわけです。
 とはいえ、必ずしもソ連・東欧に詳しくはない筆者が、知ったかぶりの映画紹介、いかにしてボロを出さずに済ませるか、ちょっと頭をひねりました。確保した3時間という枠は、喋るには長すぎるし映画二本試写するにはちと足りない。結局、サワリのところだけ二十分くらいずつ試写して、解説のほうはもっぱら大山氏が書いて下さったメモを印刷・配布してすませたわけで……なんという手抜き!
 こんな状況にもかかわらず、8月19日(第2日目)の10時から始まった企画は意外に盛況となり、定員70名ほどの部屋は満席になって、ピーク時には立ち見する人も出たほど。東欧のSF映画という珍しさもあってのことでしょう、会場は終始笑いに包まれていました。まあ、賛嘆の笑いばかりとは言えませんでしたが……。一番ウケたのはチェコのオルドリッチ・リプスキー監督による『ニック・カーター、プラハの対決』で、あちらにもこんな思い切ったドタバタがあったかと、あっけにとられてしまいました。チェコの作品では、もう一つ人形アニメによる長編『チェコの古代伝説』が注目を集めました。ソ連の『不思議惑星キン・ザ・ザ』もなかなかの好評で、ぜひ全巻見たいとの声もあったのですが、時間の関係で割愛せざるを得ませんでした。
 ちなみに、このとき試写した作品は次のとおり。
宇宙刑事=ステラー・インスペクター……ソビエト
魔女伝説・ヴィー……ソビエト
不思議惑星キン・ザ・ザ……ソビエト
チェコの古代伝説……チェコ= スロヴァキア
アデラ/ニック・カーター、ブラハの対決……チェコ= スロヴァキア
 このあと引き続いて同じ会場で行われたのは、今回のゲストでもあるダン・オブライエン氏の司会による『海外SFファン、日本SFを語る』という座談会。大いに興味はあったのですが、何しろ中国SF研究会のファンジン売場には筆者ただ一人で、東海SFの会の方に留守番をお願いするといういつものパターン。ホントはディーラーズルームから動けない立場にあるわけです。で、いそいで売場へ舞い戻り、わずかに売れ残っていた『中国SF資料』を売り尽くしたのち、さいわいまだ時間があったので『海外SF……』へ顔を出しました。この企画、題名だけ見ると誤解されそうなのですが、要するに「外国人から見た日本SFとは」という意味なのです。外国と直接コンタクトをとっている中国SF研究会としては見逃せない内容です。行ってみると果たして大盛況で、こちらは人垣の後ろからのぞきこむ形で話を聞きました。途中から牧眞司氏夫妻も登場、大勢が議論に参加しているため話が方々へ飛躍し、記録もとれなかったため内容の紹介まではできませんが、アメリカ人のSFファンから見て日本SFのどういう点が奇妙に見えるかというあたりに議論が集中していたように思います。SFではなく劇画のことも話題になり、アメリカ人から見ると日本の劇画に見られるような「かわいらしく丸っこい」キャラクター(たとえばアトムとかちびまる子ちゃんとか早乙女乱馬とか)を使ってストーリーまんがを書いたり、ことに派手なアクションをやったりするのは違和感がある、との指摘があり、「でもアンディ・ウォーホルの書斎にもラムちゃんの絵がかかっていました」との反論(?)があったり、激論ながらも始終笑いに包まれたなごやかなものでした。話題の性質上、何らかの結論が出るというものではありませんが、最後に、この企画は来年の大会にも持越すということで衆議一決したことでした。
 もっとも、筆者は仕事の関係で来年の大会には参加できません。どなたか参加される方があったら、ぜひ顔を出し、中国SFの視点についても語っていただけるといいのですが……。
 こんなわけで、小規模とはいえ、個人的にはわりに充実した感じの大会でした。来年の大会は金沢に決まったようです。そのあとは横浜と大阪が続くとのこと。来年の大会に参加なさる方ありましたら、どうかご連絡ください。ディーラーズルームと大会レポートをお願いできればと思っております。


黄海氏よりコンタクト

 SF大会後まもなく、かねて音に聞こえていた台湾SFの草分けである黄海氏から書簡が届き、数日後著書が3冊送られて来ました。
 黄海氏は台湾SFの草分けとしてかなり前からその存在を知られており、かつて『イスカーチェリ』がユーラシアSFの特集を企画した際にも『科幻海洋』の記事などによって紹介されてはいたのですが、肝腎の作品を目にする機会がなかったため、全貌を知ることができずにいたものです。昨年夏に成都を訪問した際、上海で姜雲生氏から黄海氏の住所を教えてもらっていたのですが、作品をほとんど読んでいないのにコンタクトを求めるのも、失礼に当たると思い、いままで躊躇していたものです。さっそく返信をしたため……るべきだったのが、何かといろんなことがあって遅れてしまい、やっと10月初めになって返事を書いた次第。何ともバツの悪いことになってしまいました。
 送られてきた本は次のとおり。
  1. 銀河迷航記(短編集)……知識系統出版有限公司
    銀河迷航記 異星奇遇 人性保衛戦 試管春秋 再生縁 永遠的快楽 電視保姆 講演筆記「科幻小説的写作」
  2. 星星的項練(短編集)…皇冠出版社・皇冠叢書1143
     願望園 星際大文豪 行屍記 超級智星 拯救 愛情鎖 星城夢魘 媽瑤 通天樓 無声之城 古董 機器人是誰? 星星的項練
  3. 第四類接触(長編)……皇冠出版社・皇冠叢書
 ところで黄海氏の本業は『聨合報』という新聞の編集員。アメリカ在住の長い張系国氏に比べると、ずっと台湾に住んでおり、そのことが作品にも反映されているように思いました。つまり張系国よりも中国人らしさが色濃く見られるということです。執筆当時の政治的状況がすぐ作品世界に反映しているのはその一例です。まだ上記の3冊を全部読んだわけではないので、今はこれだけしか言えませんが、機会を見つけておいおい紹介していきます。翻訳して自分の所属するファンジンにのせようという人も、ご連絡ください。  そうそう、氏はこの夏、日本へ来られたとのことでした。事前に分かっていたらSF大会にも来ていただけたのに、残念なことです。もし今度来日される機会があったら、是非とも日本のファンと歓談の機会を作りたいものです。


WSF大会、成都で開催

 このニュースはすでに御存知と思いますが、浅草のSF大会で柴野さんからも話がありました。アジア競技大会もなんとか開催できたようだし、世界各国からの参加は十分可能であろうと思われます。日本から近いのですから、日本のSF界からも参加が望まれるところ。期日は5月を予定している模様ですので、特に中国語の話せる方、お仕事に差支えなかったらどうか奮って参加してください。今のところ、『宇宙塵』の山岡謙氏が“ Autumn Sword Fish”で参加を表明しておいでです。
 そういえば昨年、やはり成都の作家、劉興詩氏から日本のSF関係者の訪中を呼びかける書簡を紹介したのですが、今のところまだ「行きました」という来信はないようです。劉興詩氏からはその後も、小学生ながらSFを書いている天才少年が現れたので作品を読んでやってほしいという連絡もありました。その作品自体はまだ習作の域を出ていませんでしたが、こういう少年が出てきているところを見ると、中国SFの未来が楽しみになってきます。
 もっとも、これは姜亦辛の作品にも言えることなのですが、はたして海外のすぐれたSFを読む機会が十分であるかどうか、たいそう気になってきます。せっかくこれだけの素質を持っているのに、暗中模索の状態で創作活動を続けているとしたら、とても残念なことです(ということですよね、菅さん!)。WSF大会をきっかけに、SF関係の資料の出版が盛んになるよう願っています。


阿部敦子氏、中国へ

 中国SF資料之四で『β』を翻訳して下さった阿部敦子女史はこの10月、念願の中国への旅に出掛かけ、「星落秋風五丈原」まで行って来られたとのこと。案の定いろいろと失敗談をこしらえた模様です。分厚い旅行記を送っていただいたので、全文紹介したものかどうかと頭をかかえているところです。
 なお、阿部さんはSFM誌のリーダーズ・ストーリーでも注目されていますので、どうかご声援を。


新刊紹介

『中国科学幻想小説事始』池上正治・編訳 イザラ書房

 近所の書店には本が少ないし、注文を取りに来てくれる本屋は入荷が遅い。困ったものだ。何しろ、《科学文藝》雑誌社へ送ろうと思って7月始めに注文したはずの『SFマガジン』7月号がいまだに届かない有様。忘れられてるんじゃなかろうか。……というわけで、この本もずいぶんたってから届き、今回ようやく紹介できることになった。『SFマガジン』の書評にあったとおり、雑誌・同人誌レベルでなく、れっきとした単行本の形で中国SFが紹介されたことの意義は大きいと言えるだろう。
 しかしこの本、SF“内部”の人の著作ではないためか、奇妙な点がいくつか目についた。細かいところでは、SFファンならば周知のカタカナ固有名詞が奇妙な表記になっていたり、あらずもがなの注がついていたりする。作品の選び方もちょっと古い。収録作品は評論を除くと、童恩正「雪山魔笛」・葉永烈「飛向冥王星的人(シナリオ)」・鄭文光「太平洋人」の三編。いずれも雑誌・同人誌では翻訳紹介済みである。まだ「科普小説」の色彩を濃厚に残したものばかりで、現在の中国SFがこの程度のレベルにとどまっていると思われては困るな、という気がした。
 もうひとつ、大きな問題としては、この時期の中国SFがSFのホンネの部分をあまり表面に出さず(文革時代の後遺症であろうか)、「四つの近代化」への貢献というタテマエの部分を表に立てつつ中国SFの進む道を模索していたのだということに、著者が気付いていないのではないかと思われることが挙げられる。作品の選びかたもさることながら、こうしたタテマエの部分を真に受けて「中国SFを研究することによって現代中国のビジョンが見えてくる」などと「顕彰」されたのでは、原作者としてはニガ笑いするほかはあるまい。中国SF資料之四の解説で述べたように、SFとは批判精神抜きには成立たないものだというのが筆者の持論である。だから、たとえば鄭文光を選ぶならばなぜ「海豚之神」や「地球鏡像」を選ばなかったのかと、残念な思いがする。それとも、著者はこの本に収録された作品にSFなるものの本質を見出しているのだろうか。だとしたら、SFファンとしては黙っていられないところだが――まさかそんなことはないだろうと信じたい。
 いろいろ批判はしたものの、この本が出たことの意義はやはり大きいと言うべきである。収録されている評論については触れなかったが、中国の人々がSFなるものを(タテマエとして)どう受けとめようとしているかを知るには、絶好の資料である。ぜひとも手元に置きたい一冊として薦めておこう。
(この項、8月末記す)

[おたよりコーナー]も、と思いましたが、すでに6ページ。あと2ページを埋めるほどの来信もないので、次回にまわさせていただきます。あしからず。(11.1 林・記)