現代中国主要SF関係者リスト(96.7増訂版)
整理・林 久之
北 京
- 鄭 文光(てい ぶんこう)Zheng Wenguang
作家・天文学者.科学者としての研究活動が社会に及ぼす影響,科学者としての社会的責任など,科学とヒューマニズムの問題を扱った作品が多い.日本で紹介された作品は「鏡の中の地球」「8017計画」「イルカの神様」.日本の演劇界で話題になった話劇「白蟻と永久機関」も彼の原作である.あいにく83年に脳血栓で倒れ,その後遺症のため現在は半身不随.しかし強靱な意思力とボランティアのおかげで,91年成都市のWSFにも出席している.注目すべき長編に「戦神的後裔」「飛向人馬座」などがある.WSF会員.93年には4巻から成る全集が出た(科幻25参照).
- 金 涛(きん とう)Jin Tao
作家・「光明日報」記者.作品は「月光島」「沼地の小屋」「大晦日の夜」「人と獣」など.1985年には南極観測隊に参加している.
- 韓 健青(かん けんせい)Han Jianqing
「科学日報」記者・翻訳家.日本の推理小説などを多数訳している.かつて鄭文光の中編「ナイトクラブ運命」を日本語に訳し日本での出版(同人誌)を望むも,日本へ送った原稿が行方不明となり果たさず.だれか原稿の行方を知っていたら教えて下さい.
- 呉 岩(ご がん)WU YAN
心理学者・北京師範大学講師.16歳で「科幻海洋」にデビュー.北京師範大学卒業後アメリカへ留学,米作家とも交流がある.帰国後は母校に勤務するかたわら北京を中心とする地域のSF愛好者や作家のまとめ役として活動しており,上京した編集関係者もよく訪問している模様.91年の銀河賞コンテストでは「生死第六天」で3等を獲得.
上 海
- 葉 永烈(よう えいれつ)Yeh Yonglie
中国では珍しい専業作家.文化大革命以前から学生作家として科学知識普及のための作品を書いていたが,文革後「小霊通未来へ行く」がベストセラーとなり内外の注目を集める.その後も矢継ぎ早に山中峯太郎ばりのSFっぽいスパイ・ミステリや科学知識の普及をはかった童話等を発表,一時は科幻小説作家の団体を作って内部資料の編集をつとめていた.83年にSFが低迷期に入ってからは,もっぱら報告文学や人物の伝記に筆力を注いでいる.しかし科学知識の普及に努め科学への関心を高めた功績はたいへん大きなものがある.彼のスパイ・ミステリやSFはフランス,西ドイツなどで翻訳紹介されている.最近の作品では「四人組」それぞれの評伝が大いに注目を集め,香港でも出版された.いちはやくWSF会員に名をつらねたおかげで,中国SF界の顔役的存在になっている模様.
- 姜 雲生(きょう うんせい)Jiang Yunsheng
作家・アメリカSF通.「終生遺恨」をはじめ,ここ数年注目すべき作品を発表しつつあるが,多忙のため寡作.台湾に父君が在住している関係から,台湾作家に関する情報網を持っている.「科学文芸」にときどき香港・台湾の作品が出るのは,おおむね彼によっている.1992年,台湾唯一のSF専門誌「幻象」のSFコンテストに,短編「長平血」を応募し,みごと2等賞を獲得している.1933年には力作「台湾科幻小説大全」を上梓(科幻25参照).
『中国SF資料之六』に翻訳紹介した「‘E’の物語」も注目に値する意欲作である.
- 姜 亦辛(きょう えきしん)Jiang Yixin
学生作家.姜雲生の子.16歳で「空塚」(邦訳「墓標」)を発表,注目を集める.「空塚」は台湾でも紹介され注目を集めている.中国SF資料之四に「太空郵便」が訳載され,中国SF資料之六には「ウィルス」が載っている.父君の姜雲生とともに親子で活躍しているというのは珍しい.希少価値である.近く父との共著による短編集も出る予定.現在日本へ留学中で,静岡県に住んでいる.
- 李 有寛(り ゆうかん)Li Youguang
翻訳家.本業は高校教師だが,アルバイトとして日本からの観光ツァーの通訳をしている.星新一の作品を中心に,日本の小説ならば何でも訳す.深見弾氏を頼って日本へ強引に留学したもののアルバイトに精を出すうち病気になって帰国,以後の消息は不明.
- 彭 懿(ほう い)Peng Yi
青年作家.児童文学者として注目されている.88年1月より児童文学研究および日本SF研究をめざして日本の東京学芸大学の大学院へ留学中.88年11月に浜名湖畔で開催された「ハマナコン・セブン」や,「宇宙塵」91年6月例会に出席している.日本語の会話に不自由はない.第30回・第31回日本SF大会にも招かれたが,大学院の講義や論文審査などがあり,参加を断念.東京近辺で何かまじめなイベントがあったら招待してあげて下さい.
……ということを叫び続けたにもかかわらず,SF関係者からはほとんど声がかけられることなく,7月中旬に帰国した.どうも日本のSFファンは英米以外のSF関係者に冷たい,と言われてもしかたがない.児童文学の河野さんという方のおかげで「ゴジラ」を見ることができたのは,わずかな収穫であったというべきか.
- 呉 定伯(ご ていはく)Wu Dingbo
アメリカSFファン.研究家.日本SF界とのファーストコンタクトは彼がきっかけであった.アメリカSFについて啓蒙的な紹介を何度もおこなっている.葉永烈をはじめ各地のSF作家と親交あり,中国SF研究会が向こうの作家と直接接触を保っているのは彼のおかげである.中国・日本・アメリカを結ぶ交流の要所に立つ重要人物.ニューオールリンズのSF大会では柴野氏夫妻にも会っている.最近アメリカ留学から,博士号をみやげに帰国した.
なんとか日本へ呼んで話を聞きたいと思っていたところ,1995年のSF大会「はまなこん」でようやく来日が実現,分科会でちょっとしたレポートを行った.英文による著書が2冊ある.
‘SCIENCE FICTION from CHINA’(Patrick D.Murphyと共著) PRAEGER
‘Handbook of Chinese Popular Culture’(同) GREENWOOD
蘇 州
- 蕭 建亨(しょう けんこう)Xiao Jianheng
作家.文革前から「プークのふしぎな冒険」などのSFっぽい童話を書いている.科学知識普及小説の影響をかなり引きずってはいるが,ときどきハッとするような新鮮な作品を書いている.「サローム教授のまちがい」「喬二病患記」(映画「黒砲事件2」の原作)などが印象に残る.WSF会員.
四川省・成都
- 童 恩正(どう おんせい)Dong Enzheng
作家・歴史考古学者.四川大学教授.文革前すでに「古峡迷霧」を発表しているが,時流に迎合した郭沫若が史実とフィクションを混同した非論理的な批判をおこなったため無視された.文革後,短編「珊瑚島的死光」でSFとしては初めての年間優秀短編に選ばれ,中国SFの存在を内外に広く知らしめた.「雪山魔笛」「追踪恐龍的人」など,フィールドワークの経験を生かしての力作があるが,一方「西遊新記」のようなハチャハチャも書いている.最近は本業のほうが忙しく,あまり作品を発表していない.アメリカ留学の経験あり.WSF会員.
- 劉 興詩(りゅう こうし)Liu Xingshi
作家.成都地質学院教授.1960年代から活躍している「早期科幻作家」のひとり.科学性よりも伝奇・神話に近い幻想的な作風に特徴がある.91年銀河賞では「霧中山伝奇」で2等を獲得.作品はほかに「北方の雲」「蛇宝石」「シンドバッドの冒険」など.WSF会員.中国SFの海外進出をめざし,英文による序文・目次をそなえたアンソロジー『死亡星球的復活』を著している.
- 王 暁達(おう ぎょうたつ)Wang Xiaoda
作家.成都大学機会系助教授.1978年に処女作「神秘の波」を「四川文学」に発表して以来,「莫名其妙」「氷下の夢」など,奇抜なアイデアによる作品を次々に発表している.
雑誌「科幻世界」SF WORLD (四川省成都市)
1982年をピークとして中国ではSF雑誌が雨後のタケノコのごとく刊行されていたのだが,白樺批判を契機にすっかり影をひそめ,現在生き残っているのはこれ一つだけとなった.中国におけるSF愛好者たちにとって,唯一の依りどころである.編集部の主要スタッフ4名(楊瀟・譚楷・向際純・莫樹清)が「中国SF研究会」の招きにより1987年の日本SF大会に参加するつもりで日本へ来たのだが,タッチの差で間に合わなかったことは,記憶に新しい.編集長の楊瀟女史は今年度サン・マリノで開かれたWSF会議に出席し,来日の際すれ違って会えなかった柴野拓美氏と行動を共にしている.極端な困難の中で,自分たちが作品を書く時間を返上してまで雑誌の刊行に尽力し,二回にわたるSFコンテストを主宰しているのは,並の努力でできることではない.91年にはついにWSFの年次大会を成都市へ招聘することに成功,一躍国際的に名を上げた.「科幻世界」も93年からは月刊ペースになり,ここを拠点にファングループ活動が盛んになるきっかけを作ったのは,中国SF史上大きな業績であった.外国のファン活動について知りたがっているのでよかったらファンジンなど送ってあげてください.連絡は林 久之まで.
香港・台湾
- 黄 海(こう かい)Huang Hai
1943年台中市に生まれる.原籍は江西省.病弱の身を推して粘りづよく創作活動を続け,1988年には亡父の遺志を継いで大陸へ里帰りを果たし,葉永烈・姜雲生ら上海の作家と会っている.1992年3月現在,河出文庫「中国怪談集」に,短編「行屍記」が翻訳されている.中国SF資料之五「再生縁」で小特集を組んでいるのでごらんいただきたい.
- 張 系国(ちょう けいこく)Zhang Xiguo
台湾SFの草分けのひとり.現在,バークレイ大学のコンピュータ学部主任教授としてアメリカに在住しているが,台北で出版されているSF専門誌「幻象」(季刊)の編集にも大きな影響力を持っている.スケールの大きな未来叙事詩からウィットのある小品まで広い作風を持つ.ラリー・ニーヴンよろしく自分の作品がすべて一つの未来史におさまるよう整合性を持たせている.詳しくはSFM90年7月号または中国SF研究会発行の「中国SF資料之三・傾城之恋」を見よ.
- 倪 匡(げい きょう)Ni Guang
香港作家協会会長.彼の「衛斯理シリーズ」をはじめとする冒険SFは東南アジアの中国語圏内で絶大な人気を得ている.翻訳には「ペンフレンド」(東海SFの会発行「ルーナティック14号」)があり,ストーリーテラーとしては抜群の腕前を持っている.一方で香港のTVトーク番組にもレギュラーとして出演,ちょうど香港へ旅行中でゲストとして出演した(させられた)小泉今日子をいちびっているシーンが「世界まるごと特捜班」によって発見され,日本でも放映されている.平成3年6月,徳間文庫から「猫
-NINE LIVES-」(ほんとは旧字体だけど,JISにない!)が出ている.押川雄孝訳.SFマガジン連載中の『亜州電影娯楽館』第5回によれば,ほかにも『妖獣大戦』(赤井英和主演)など数本がビデオ化されていて,日本でも見られるという.最近の《幻象》に載った情報によると,カリフォルニアへ移住したということで,張系国と肩をならべた写真が掲載されている.
- 呂応鐘(ろ おうしょう)Lu Yingzhong
台湾のSF専門誌《幻象》の編集長.大陸の『科幻世界』との交流が深く,数度にわたり訪れている.日本の第31回SF大会「HAMACON」にも,UFO研究家として招かれているので,ご存じの人も多いはず.雑誌『UFOと宇宙』にも寄稿していたことがある.《幻象》については,科幻情報25を参照.第8期まで出たのは確認したが以後の消息は波津博明氏がSFマガジンの「世界SF情報」で触れていた.
- 洪徳麟(こう とくりん)Hong Delin
台湾における日本マンガ・アニメ収集の第一人者.膨大なコレクションを誇る.1959年ごろからマンガのコレクションをはじめ,今では毎月数万元を日本マンガの購入に費やしているというから,筋金入りである.本人も風刺マンガを新聞に発表したりしているが,最近はマンガより評論のほうで活躍することが多い.台湾唯一のSF専門誌《幻象》などで日本マンガを論ずる一方,張系国による「科幻大奨」漫画部門の審査をしている.
1996.7.14現在