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2000年11月号

『影が行く』中村融編

『デモン・シード[完全版]』ディ−ン・クーンツ

『フリーダムズ・チャレンジ―挑戦―』アン・マキャフリイ


『影が行く』中村融編

(2000年8月25日発行/中村融編訳/創元SF文庫/920円)

 久しぶりに読み応えのあるアンソロジーが刊行された。中村融編訳の『影が行く』は、《遊星よりの物体X》というタイトルで二度映画化されたJ・W・キャンベルの古典的名作を表題作とし、全十三編(うち初訳五編)を収めたホラーSFアンソロジーである。

 SFが未知の世界を描くジャンルである以上、未知なるものの恐怖を描くホラーとの親和性が高いのは当然のこと。「SFが未知の領域に分け入るとき、そこにはかならず、恐怖があるのです」とグロフ・コンクリンも『宇宙恐怖物語』(五五)の序文で言っている。下水管で生まれた生物や火星に閉じ込められていた化け物が登場し人間を襲うT・L・トーマス「群体」やC・A・スミス「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」などストレートに怪物が登場する作品も怖いが、キャンベルの表題作やディック「探検隊帰る」のように、自分が異星人なのか人間なのか分からなくなる心理的な不安を描いた作品も怖い。ライバーやロバーツといった小説巧者になると、目に見えない存在の恐怖を丁寧かつ雰囲気のある描写でじわじわと盛り上げる。それにしても、特筆すべきはベスターとオールディスの斬新さであろう。前者による「ごきげん目盛り」は、殺人を繰り返す狂ったアンドロイドとその所有者の逃避行を描いた作品で、アンドロイドと持ち主の意識が渾然となった様を、読者に眩暈を起こさせる急速な視点の切替えで描き出している。歯切れの良い文体と合わせてベスターの傑作長編を彷彿とさせる鮮やかな出来映えの作品だ。また、後者による「唾の樹」は、一九世紀末のイギリスに飛来した宇宙生物の恐怖を描いた作品で、冒頭の四次元を巡る論議を初め至るところにH・G・ウエルズへのオマージュが捧げられている。ウエルズ本人が登場する趣向も興味深く、濃密な情景描写は霧にけぶるイギリスの田舎町を見事に描き出している。六五年度ネビュラ賞受賞も納得の傑作中編だ。

 五〇年代から六〇年代にかけての作品がほとんどを占めているのは、解説にある通り五〇年代がホラーSFの全盛期に当たるという認識ゆえであろう。新たな展開を示したはずの七〇年代八〇年代ホラーSFアンソロジーの続刊を希望したいところだ。ともあれ本書は、編者の主張がはっきりと伝わり、しかも収録作の粒が揃った好アンソロジーである。是非ご一読を!

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『デモン・シード[完全版]』ディ−ン・クーンツ

(2000年7月14日発行/公手成幸訳/創元SF文庫/620円)

 上記アンソロジーにも初期短編が収録されているホラーSFの大家クーンツの『デモン・シード[完全版]』は、七三年に刊行され映画化もされた作者の初期代表作品を、九七年に自らリメイクしたもの。人工知能が女性に恋をして子供を産ませようとする基本的なストーリイ展開は変わらないが、さすがに四半世紀を経ているため、コンピュータ・ネットワーク関連技術の発達に伴い設定がかなり改訂されている。感情を持ち子供(というよりは自らの肉体)を欲しがる人工知能の突拍子もない言動は、ネットワーク社会と遺伝子操作技術が急激な発達を遂げた現代になって、ようやくリアリティを獲得し始めたと言ってよい。落ちが単純過ぎる嫌いもあるが、ともすればゲテモノになりかねない題材をすっきりと処理した良質のサスペンス作品となっている。

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『フリーダムズ・チャレンジ―挑戦―』アン・マキャフリイ

(2000年8月31日発行/公手成幸訳/ハヤカワ文庫SF/900円)

 アン・マキャフリイ『フリーダムズ・チャレンジ―挑戦―』は、突如異星人の侵略を受け別の惑星に連れて来られた地球人が自由を求めて反乱を起こす三部作の完結編。今回は、主人公クリスを初めとする地球人たちが、余りにも異星人ザイナルの力に頼り過ぎで、もう少し自力で何とかしろよと言いたくなってしまった。愛する人の帰還をはらはらしながら家で待つだけのヒロインなんて、冒険SFとしては全然面白くないよね。マキャフリイってこんなに保守的な人だったっけ? 反乱は成功して一応のカタルシスは味わえるけれど、今一つ物足りなさが残るシリーズであった。

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