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2000年1月号

『瞬きよりも速く』レイ・ブラッドベリ

『飛翔せよ、閃光の虚空へ!』キャサリン・アサロ


『瞬きよりも速く』レイ・ブラッドベリ

(1999年11月15日発行/伊藤典夫・村上博基・風間賢二訳/早川書房/2400円)

 近年復活して意欲的に短編を発表しているブラッドベリの復帰第一短編集『瞬きよりも速く』が刊行された(復帰第二短編集は昨年刊の『バビロン行きの夜行列車』)。ブラッドベリを読むと、いつも少年の日を懐かしく思い出す。宇宙で太陽エネルギーを入手する偉業を達成した宇宙飛行士も彼の手にかかってしまえば「一掴みのタンポポを持って学校から帰る小学生」と何ら変わらない。子供を描こうが老人を描こうが、登場人物の感受性が常に若々しいままであるのがブラッドベリの何よりの魅力である。本書で言えば、一七歳の誕生日の朝早くに女の子が男の子と散歩に出かける「石蹴り遊び」のみずみずしさはどうだろう。「ハイウェイの舗装が焼ける匂い、ほこりと空の匂い、そして、小川を流れるぶどう色の水の匂い」の中で「もぎたてのレモン色」の太陽が輝く。八〇歳近い高齢の作家が書いているとは思えない溌剌とした生気溢れる文章だ。

 ブラッドベリとは、多くの読者にとって、まずは、風の音に脅え戦争ごっこに興じた子供の心を再発見させてくれる作家として記憶されていると思うのだが、その点においてはデビュー以来まったく彼の作家的姿勢に変化はない。ひょっとしてブラッドベリは変節してしまったのではないかと心配されている方も安心して本書を手にとってほしい。さすがにかつてほどの冴えはないにせよ、往年の名短編集に比べて決してひけをとるものではないと思う。

 二十年ぶりに故郷に帰って図書館を訪れた男が司書の女性と当時の思い出を語り合う「交歓」はまさに子供時代の再発見を描いて秀逸だし、タイムマシンを発明した男たちが生前不遇であった作家の晩年に向かう「最後の秘蹟」は先達への優れたオマージュとして感動的だ。小鳥の歌声からシンフォニーを聞き取る男の物語「レガートでもう一度」の美しさ、愛らしさも特筆すべきだろう。以上に名を挙げた四篇がマイ・ベストになるけれど、他にも、墓の土から亡霊が甦る「無料の土」、巨大蜘蛛との戦いを描く「フィネガン」などのストレートな怪奇譚から、お得意のサーカスを舞台にした「電気椅子」「瞬きよりも速く」などの普通小説まで、幅広いジャンルの作品が収められているので、とにかくご一読あれ。

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『飛翔せよ、閃光の虚空へ!』キャサリン・アサロ

(1999年11月30日発行/中原尚哉訳/ハヤカワ文庫SF1292/880円)

 キャサリン・アサロ『飛翔せよ、閃光の虚空へ!』は、王圏の世継ぎであると同時にハイテク装置を体内に埋め込んだ強力な戦士でもある一人の女性を主人公にした波乱万丈の新感覚スペースオペラである。

 時は二三世紀、スコーリア王圏とユーブ協約圏の二大勢力が争う銀河。スコーリアの王位継承者ソズは、中立惑星でユーブ人の一団と出会うが、そのリーダーの男に通常のユーブ人とは異なる雰囲気を感じとる。それもそのはず、その男ジェイブリオルは、ソズと同じ強力なテレパスであるローン系サイオンだったのだ。強い絆で惹かれあう二人だが、実はジェイブリオルは宿敵ユーブの王位継承者でもあった。スコーリアとユーブの対立が深まる中で、二人の運命は……。

 脊椎に埋め込まれたコンピュータ・ノード、時空の外にあり思念の束波によって情報を伝える超感空間、量子力学を応用したテレパス理論などの最先端科学を軸とした設定と、家系や階級を重んじる王国という古典的な世界観とが組み合わさって独特の世界を作り上げている。展開も歯切れよく戦闘場面はスピーディだ。ユーブ人が、他人の苦痛を検知して快楽を得るという脳の構造上、エンパスを捕まえては自分の快楽の提供者とする恐ろしい人買い族であるという設定も面白い。ソズ自身もユーブ人に捕まって提供者にさせられたおぞましい過去を持つため、陰影に富む主人公となっている。しかし、肝心の物語が結局はソズのラヴ・ロマンスを中心としており、『ロミオとジュリエット』やハーレクィン・ロマンスの域を脱していない点には今一つ物足りなさを感じた。

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