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ハヤカワ文庫SFの歴史 History of Hayakawa Bunko SF


Ⅳ期(八五年八月~九〇年七月)623番~880番まで



 現在に至るまで刊行点数が最も多かった時期である。青背率は初めて六割を超え、再刊、新刊ともに勢いがあった。Ⅱ期と並ぶ再刊ラッシュとなったが、その元はもはやHSFSではなく、《海外SFノヴェルズ》一期五十冊である。また、八七年六月には《サンリオSF文庫》が終刊したため、海外SF専門文庫は再び早川・創元の二つのみとなった。
 刊行点数順では、巨匠が後退し、新たな作家の台頭が見られる。まずは七点のベンフォード。『夜の大海の中で』『タイムスケープ』が再刊された他、前者の続編が次々と刊行された。他作家との合作も三点あり、ハードSFの中核として存在感を示す形となった。六点はポールとル・グィン。ポールは『ゲイトウェイ』『マン・プラス』が再刊され、前者の続編が刊行された。ル・グィンは『所有せざる人々』などの再刊と中編集『世界の合言葉は森』が出ている。五点はノートン、ブリン、アシモフ。Ⅰ期以来久々に登場し『ゼロ・ストーン』などが白背で刊行されたノートンは、本文庫の冒険SF紹介の系譜が途絶えていないことを示した。当時の新鋭ブリンは『スタータイド・ライジング』と続編『知性化戦争』★など全長編が一気に刊行され、好評を博した。アシモフは『神々自身』の再刊と短編集が刊行された。四点は大御所を含めて四人。クラーク(『宇宙のランデヴー』『楽園の泉』など)、ハインライン(《傑作集》の残りとジュヴナイル)、ヴォネガット(『チャンピオンたちの朝食』など)、ニーヴン(『インテグラル・ツリー』など)である。
 以上のように、宇宙を舞台にしたハードSFや初期路線通りの冒険SFを刊行しながら、本文庫はここで新たな流れを創り出す。言うまでもない、〈サイバーパンク〉である。コンピュータが個人のツールとして定着し人々の日常生活に深く浸透していくにつれ、現実空間とは異なるネットワーク空間の構築やハイテクによる社会や人類の変容を徹底して描くSFが現れるのは必然であった。八六年七月、ギブスン『ニューロマンサー』★(原著八四年)が刊行され、内容はもちろん、訳者黒丸尚によるルビを多用した独自の文体も話題を呼んだ。以後ベア『ブラッド・ミュージック』、スターリング『スキズマトリックス』、ラッカー『ソフトウェア』とサイバーパンクを代表する作品が続々と刊行された。このSFの新たな潮流は、バブル景気に浮かれる日本に瞬く間に浸透した。ホンダのCR-Xが「サイバー・スポーツ」と呼ばれていたり、PINKというバンドが「サイバー」というアルバムを出したり、音楽、演劇などの芸術界のみならず産業界にまでSF風の意匠が散りばめられていたことを気恥ずかしく思い出す人も多いのではないだろうか。  ギブスンはその後も短編集『クローム襲撃』、長編『カウント・ゼロ』『モナリザ・オーヴァドライヴ』が立て続けに刊行されてサイバーパンクの中核となり、スターリングは自ら編纂したアンソロジー『ミラーシェイド』、短編集『蝉の女王』で脇を固める。サイバーパンクの先駆的作品と言われる「接続された女」を含んだティプトリーの短編集『愛はさだめ、さだめは死』(原著七五年)や、やはり先駆的な要素を備えたディレイニーの長編『ノヴァ』(原著六八年)もこの時期に刊行され、歴史的な側面からサイバーパンクを支える結果となった。
 ティプトリーはこの短編集刊行直前の八七年五月に衝撃的な自殺を遂げている。同年に刊行された『たったひとつの冴えたやり方』は、印象的な日本語タイトル、少女漫画家川原由美子の可愛らしい表紙・挿絵とが合わさって評判となり、本文庫を代表する一冊となった。
 他の主要作品として、《海外SFノヴェルズ》からの再刊で、ゼラズニイ『光の王』、カルヴィーノ『レ・コスミコミケ』、ホールドマン『終わりなき戦い』、ヴァーリイ『へびつかい座ホットライン』、バラード『ヴァーミリオン・サンズ』、レム『エデン』、ラファティ『九百人のお祖母さん』など、新刊で、ワトスンの短編集『スロー・バード』、エフィンジャー『重力が衰えるとき』、カード『エンダーのゲーム』、ロビンスン『荒れた岸辺』、シェパード『緑の瞳』、シャイナー『うち捨てられし心の都』などがある。  アンソロジーは、先述の『ミラーシェード』の他は、イギリスSFを集めたエヴァンズ&ホールドストック編『アザー・エデン』のみ。
 シリーズは、チャンドラー《銀河辺境》が十五巻で完結、続けて《外伝》全八冊が刊行された。《デューン》も『砂丘の大聖堂』で完結。アンダースン&ディクスン《ホーカ》は十五年ぶりに復活し、二冊が刊行された。青背のシリーズとしては、ヴァンス《魔王子》、ウルフ《新しい太陽の書》が刊行され、ともに高い評価を得た。ハインライン《未来史》が三冊にまとめられたことも特筆すべきだろう。スミス《人類補完機構》唯一の長編『ノーストリリア』★が刊行され、これも話題を呼んだ。
 デザイン上では、八八年四月刊の764番『レムリア秘密工作』より、青字に白の作者別番号が背に入るようになり、従来のデザインは姿を消すこととなった。また、九〇年七月には本文庫二十周年を記念して入門書『SFハンドブック』が刊行されている。
(文中の★印は星雲賞受賞作を示す)
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