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ハヤカワ文庫SFの歴史 History of Hayakawa Bunko SF


Ⅱ期(七五年八月~八〇年七月)168番~400番まで



 「青背」とは文字通り青い背表紙で刊行され、口絵・挿絵のない本文庫作品を指すSFファンの間での呼称である(従来の白い背表紙は「白背」と呼ばれた)。青背をこのような方針で出しますよという編集側の明確な宣言はなかったと思うが、ここには明らかに、イラストに頼ることなくHSFSを継ぐ形で本格SFを刊行していこうという意図がうかがえる。青背の刊行は、七五年十月、172番のヴォネガット『プレイヤー・ピアノ』から始まる。当初は月に一冊程度の刊行であり、あくまでもメインは白背という雰囲気であった。ネヴィル『槍作りのラン』、ゼラズニイ『わが名はコンラッド』★(もともとHSFSの近刊予告に入っていたもの)と新刊が三冊続いた後、ハインライン『メトセラの子ら』は、HSFS『地球脱出』の改題再刊となる。これを機に、徐々にHSFSや世界SF全集からの再刊が増えていき、七七年・七八年の怒濤のような再刊ラッシュにつながっていく。表1に五年ごとの本文庫の出版点数と再刊率を示したので見てほしい(ターザン・ブックスは便宜上白背に含めた)。Ⅰ期がすべて白背なのは当然として、Ⅱ期になると青背と白背の割合はほぼ半分、しかも青背の再刊率は60%を超えている。この時期、いかに青背による過去の名作傑作の再刊が多かったかがわかると思う。折しも時は七八年二月『未知との遭遇』同七月『スター・ウォーズ』の公開を機としたSFブーム真っ盛り。早川・創元の二大独占市場に第三勢力としてサンリオSF文庫が参入してきたこともあり(七八年七月)、ハヤカワ文庫SFが刊行点数を増やすべく再刊に力を入れたという戦略的な事情もあったのかもしれない。Ⅱ期の刊行点数は、Ⅰ期に比べて一挙に八十点ほど増える結果となった。七八年二月から早川は本格SFをハードカバーで刊行する《海外SFノヴェルズ》を始めており、話題の新作は《海外SFノヴェルズ》から、クラシックの再刊は本文庫からという棲み分けができたこともⅡ期に再刊が増えた理由の一つであろう。
 私事に渡って恐縮だが、筆者が大人向きSFを読み始めた七六年、既に本屋にHSFSはなく(図書館にはわずかにあった)、創元から出ている諸作は購入できたものの、早川だけが出していた高名なSFは全く手に入らず、随分悔しい思いをしたものである。従って、初めて手にした〈SFM〉(七七年二月号)で『地球の長い午後』や『発狂した宇宙』の近刊予告を見つけたときの喜びはひとしおであった。筆者と同世代の方なら、毎月のように再刊される傑作名作の数々に夢中で読みふけったという経験を、おそらくお持ちではないだろうか。冷静に振り返れば、HSFS十七年の歴史全三百十八冊の中からそれなりの基準で選ばれたものが毎月刊行されていくのだから面白くないわけがない。また、決して古い作品ばかりではなく、新しい作家(といってもせいぜい六〇年代どまりではあるが)も同時に再刊されるので、SFの歴史をわずか一・二年で一気に辿る濃密な読書体験が可能だったのである。ブラウンを読んだ翌日にオールディス、ディレイニーのすぐ後にクラークとかそんな無茶苦茶な読み方ができたわけで、この時期の本文庫の特色として、SFの歴史が良い形で凝縮されていたことが挙げられるだろう。
 さて、肝心の作品を刊行点数の多い作家順に見ていこう(シリーズものは除き、上下は一点とカウントした)。一位は九点のハインライン。『メトセラの子ら』『月は無慈悲な夜の女王』『人形つかい』『宇宙の戦士』と再刊が続いた後に新刊として『悪徳なんかこわくない』★が出ている。『宇宙の孤児』の再刊後、七九年五月に待望久しい『夏への扉』がようやく再刊された。他は『栄光の道』『スターマン・ジョーンズ』が新刊として出ている。
 二位は八点のクラーク。新刊は短篇集『太陽からの風』のみで、残りは再刊である。『海底牧場』『渇きの海』から始まり、SF映画ブームに合わせた『2001年宇宙の旅』(映画『2001年』は七八年にリバイバル公開された)、『都市と星』『火星の砂』『地球光』と続く。ハインライン同様、本命の『幼年期の終り』は随分と待たされ、七九年四月にようやく再刊された。
 三位は意外にも六点のレムである。『宇宙創世記ロボットの旅』を皮切りに、映画『惑星ソラリス』の公開(七七年)に合わせる形で、『ソラリスの陽のもとに』が再刊され、『星からの帰還』『砂漠の惑星』と続く。後は新刊として、『捜査』と増補新訳版『泰平ヨンの航星日記』が刊行された。
 四位は五点のローマー。すべて新刊で『突撃! かぶと虫部隊』『優しい侵略者』など肩の凝らない娯楽作が刊行された。
 四点の作家は以下のとおり。再刊三冊(『宇宙気流』『永遠の終り』『鋼鉄都市』)に新刊の短篇集『停滞空間』を加えたアシモフ。『タイム・パトロール』『脳波』など代表作が再刊されたアンダースン。『モロー博士の島』『タイム・マシン』などの古典が四冊の傑作集としてまとめられたウエルズ。前述の『プレイヤー・ピアノ』に加え『タイタンの妖女』★『スローターハウス5』『猫のゆりかご』と代表作が再刊されたヴォネガット。『夜の翼』★などの再刊に新刊『生と死の支配者』を加えたシルヴァーバーグ。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』『偶然世界』『火星のタイムスリップ』が再刊され、新刊として『ユービック』が刊行されたディック。『次元侵略者』『流れ星をつかまえろ』など娯楽作を中心にしたブラナー。
 以下点数は少ないが触れておくべき作家と作品を挙げておく。シマック『都市』、ヴォクト『スラン』『宇宙船ビーグル号』、ブラウン『火星人ゴー・ホーム』『発狂した宇宙』、キャンベル『月は地獄だ!』、スタージョン『人間以上』『夢みる宝石』、ウィンダム『さなぎ』、ベスター『虎よ、虎よ!』など四〇年代・五〇年代の古典的名作の再刊は、SF入門としての役割を良く果たした。Ⅰ期の要素を残した作家としては、新刊で『竜を駆る種族』★、再刊で『大いなる惑星』が刊行されたヴァンス、新刊で『テクニカラー・タイム・マシン』、再刊で『宇宙兵ブルース』『殺意の惑星』が刊行されたハリスンらがいる。新刊として出たゼラズニイの短篇集『伝道の書に捧げる薔薇』に、再刊のディッシュ『人類皆殺し』、ディレイニー『バベル‐17』、エリスン『世界の中心で愛を叫んだけもの』を加えた四冊は、六〇年代アメリカン・ニュー・ウェイヴの特色を良く伝えている。本家イギリスのニュー・ウェイヴ作家としては、バラードは七〇年代三部作の一冊『ハイ‐ライズ』が刊行され、オールディスは『地球の長い午後』『爆発星雲の伝説』が再刊された。Ⅰ期に比べると影が薄くなってしまったが、ボク『魔法つかいの船』スワン『薔薇の荘園』ライバー『闇の聖母』など幻想文学系の紹介も細々と続けられた。印象に残る短篇集が新刊として出たのもⅡ期の特色であり、ヤング『ジョナサンと宇宙クジラ』、ヘンダースン『果しなき旅路』、ヴァーリイ『残像』などが挙げられる。ル・グインの短篇集『風の十二方位』も、再刊された『闇の左手』と合わせて強い印象を残した。アンソロジーとしては、ウォルハイム&カーの年刊傑作選が四冊、《SFマガジン・ベスト1》として『冷たい方程式』が刊行された。
 シリーズとしては、《ローダン》《宇宙大作戦》《キャプテン・フューチャー》《銀河辺境》《ターザン》は順調に巻を重ね、カーン《キャプテン・ケネディ》、カーター《緑の太陽》、ヴルチェク《銀河の奇蹟》、《ドクター・フー》などが新たに刊行された。《デューン》はシリーズ三作目『砂丘の子供たち』を刊行。青背からのシリーズものとして、再刊のブリッシュ《宇宙都市》全四冊、ファーマーの《リバーワールド》二冊、ニーヴンの《ノウン・スペース》四冊がある。ニーヴンはシリーズ外の短篇集『無常の月』やパーネルとの合作『悪魔のハンマー』も評判となり、当時の人気はかなり高かった。
(文中の★印は星雲賞受賞作を示す)
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