Psychic TV's Holophonics Recordings
(2002/11/3追記: スロッビング・グリッスルではバイノーラル録音が使われていた。今年発売になる24時間分テープのCDボックスのライブ日時リストhttp://www.mute.com/tg/に、その半分近くの10のライブがバイノーラル録音であると記載されている。立体音響に当時から関心があったことが伺える)
サイキックTVのファーストアルバムに初回限定でセットされていた、テンプル・オブ・サイキック・ユースの儀式用音楽を収録した『Psychic
TV Themes』では、脳神経学者ヒューゴ・ズッカレリが開発した録音方式であるホロフォニクスが採用されている。 同アルバムは、アコースティック楽器による演奏が主だが、その臨場感は通常録音をはるかに超える。
ホロフォニクスとは、立体音響収録フォーマットとして究極と言えるもので、音の上下移動も含め音場の完全再現を可能にしたもの。 ホロフォニクスは、その後、ピンク・フロイドの『ファイナル・カット』、マイケル・ジャクソン『BAD』でいくつかの効果音(バイクの通過音等)で使われており、さらにジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグが使用を願い出たというほどであるから、そのクォリティは推測がつこうというもの。
ところが、ヒューゴ・ズッカレリは、その使用権を第三者に許可しなかった。彼曰く、ホロフォニクスの秘密は、今の時代にとって極めて唐突なテクノロジーとして受け取られ、単に音の知覚を更新した技術に止まらず、様々なテクノロジーを改変してしまう可能性に発展するのだという。そして、それが一挙に進めば、あらゆるシステムが急速な変化の渦に巻き込まれてしまい、それがもたらず変化の構造はあらゆる側面においてマイナスの要素になってしまうと。(参考:CD『アルデバラン』ライナーノーツ)
ほんとうにそうなのか、単に変わり者なのか(その使用権を売るだけで巨額な利益を得るであろうに)わからないが、ホロフォニクスを体験してみれば、それが従来の音響テクノロジーと別次元のものであることは納得がいく。
録音は、リンゴと呼ばれるダミーヘッドの耳の部分にマイクを付けたものにより行う。オーディオに詳しい人なら、それはバイノーラル録音(*)と同じじゃないかと気付くと思うが、実際に録音され視聴される音はまったく違う。マイクとレコーダーの間に、ある機器を通すのだが、そこに先述の秘密があるのだという。
(*)バイノーラル録音:人間の頭部と同じ形(=ダミーヘッド)をしたものをつくり、鼓膜にあたる部分へマイクを付け、人間が実際に聞く音を録音して、ヘッドフォンによる再生で完全に再現しようとしたもの。ところが、実際には、音がうまく再現できないスィートスポットがあるなど問題がある。とくに音の上下移動の再現のクオリティは低いようだ。
その点、ホロフォニクスは音の上下移動を再現可能にしており、音の自然さなど、再現クオリティは歴然と言われている。また、スピーカーでの再生も問題がないのがバイノーラルと比較したときの大きな差異。ただし、バイノーラル方式も改善がされ、クオリティは上がっているという。
ピンク・フロイドのデイブ・ギルモアはインタビューの中で、「ホロフォニクスのもうひとつの特徴は、ダイナミックさだ。実際はそれほど大きい音でないのに、ずいぶん大きく聴こえるようにする効果がある。この秘密は、人間の脳をだますことにある。」「脳との相互作用が生まれているわけだ。説明するのは難しいけど、とにかく音の感じ方を変えてしまうということなんだ。」と言っている。(ロッキンF1986年6月号より)
人の精神の解放をスローガンとするサイキックTVがホロフォニクスと邂逅したのは運命であろう。ジェネシス・Pオリッジが、すぐにホロフォニクスの潜在的可能性を洞察したであろうことは想像にかたくない。
『Psychic TV Themes』に続き、サイキックTVのセカンドアルバム『Dreams
Less Sweet』においては、ホロフォニクスの効果を追求した使われ方がされている。頭の回りを回転するヴォーカルクラリネット(2005/2/06訂正)(実際はダミーヘッドを回転させて録音しているのだろう。しかも2つのヴォーカルラインクラリネットをミックスしている(2005/2/06訂正。M2「The
Orchids 」はヴォーカルが左右2つにミックスされているが定位している。回転するのは後半聴こえるクラリネットの音で、クラリネットが2本オーヴァーダブされている))、耳元で唸る犬の声、上下に移動するバグパイプチベットの人骨トランペット(2005/2/06訂正)の音、囲まれて聞こえるグレゴリオ(2005/2/06訂正
キリスト教系の教会歌なのはたしかだがグレゴリオ聖歌かどうかは不明)聖歌、そして極めつけは、棺桶にダミーヘッドを入れて収録した、生きながら埋葬される気分が味わえる音。
これらは、いずれも、シュールなあり得ない音で、現実に固定された私たちの意識を非日常的意識へ遊離させる。
『Dreams Less Sweet』は、視覚的サウンドコラージュ・アートとして特異な作品だ。
そして、一般にリリースされたアーティストのアルバムとして全面的にホロフォニクスが使用された最初で最後の作品でもある数少ない作品の一つである(2005/2/06訂正:1985年にSteve
Halpern『Rhythms of Vision』がリリースされている。同アルバムはピアノ演奏者の後頭部付近にダミーヘッドを設置して収録したピアノ作品)。
ピンク・フロイド『ファイナル・カット』、マイケル・ジャクソン『BAD』では、ほんの数箇所でいくつかの音源が使用されているだけだから。(前述のインタビューでデイブ・ギルモアは、『ファイナル・カット』では時間の都合でホロフォニクスの効果を十分に使えなかったとコメントしている)
ホロフォニクスは、
紹介用カセットやCD『アルデバラン』がリリースされており、また、ヒューゴ・ズッカレリ自身が一時期積極的にプロモートしていたようで、日本の深夜番組にも出演してホロフォニクスを紹介していた。
(ちなみに、そのとき、ホロフォニクスが最初に使われたのはピンク・フロイドやマイケル・ジャクソンのアルバムだ、とズッカレリ自身が言っていた。サイキックTVのほうが先なのを知っていた私は、マイナーだし誰も知らないバンドだから言ってもしょうがないよな、と納得した(笑))
『イヤな音博物館』という珍しい企画モノCDもリリースされていた。(黒板を爪で引掻く音、歯医者の音etc.)
そして、ディズニーランドの3Dアトラクションスピルバーグ・プロデュース(2005/2/6訂正)、ジョージ・ルーカスがエグゼクティヴ・プロデューサー、フランシス・フォード・コッポラ監督、マイケル・ジャクソン主演「キャプテンEO」でオファーが来たというあたりで、ホロフォニクスは姿を消すことになる。
経緯は不明だが、サイキックTVも『Dreams Less Sweet』以降ホロフォニクスを使用していない。
あらゆるシステムを変革してしまうというブラックボックスが開かれるのはいつのことだろうか。
(2005/2/06一部訂正 ※当ホームページは基本的に更新しません。リニューアルサイトは 23net.tv 。2005/2/03から 23net.tvにホロフォニクス関連情報 をアップロードしてます(現在まだ途中)。上記訂正はその過程で気がついたので訂正をいれました。)