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最新の「ワンポイント」
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ワンポイント為替市場 (81-)
「二十一世紀に生き残る会」HPに寄稿の同名コラムを転載)


                      第81回 

                  アイスランド危機とは何か


                      
2006年4月16日
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1.市場の動向:(4月14日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   118.64円(0.88円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  143.62円(1.01円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.2104ドル(0.0005ドル ユーロ安ドル高)    


2.今週のポイント

先週は為替市場よりも、それを取り巻く環境がずいぶんにぎわいました。米国長期金利
(10年もの国債金利)の5%台乗せ、1バレル70ドル台に迫った原油価格(WTI)を
はじめ、史上最高値を更新した銅・亜鉛といった国際商品市場の高騰、さらに小幅なが
ら着実に上昇した人民元相場などです。

4月日銀短観、米国のFOMCや欧州中銀のコメントを見ても、各国の景気はしっかりし
ています。14日から欧州がイースター休暇ということもあり、為替市場は比較的静かな
動きでした(欧州の多くの国は17日も休日。米国ではイースターは休日ではありません
が、証券市場は14日のグッドフライデーを休場としています)。休み明けに気になるの
はやはり原油価格が特に米国経済に与える影響です。3年ほど前に、米国世帯の家計に
占めるガソリン代の比率は16%と聞いたことがあります。さすがに車社会ですね。この
まま原油価格が高騰を続けると、米国の消費行動はずいぶん変化するはずです。

アイスランドの「静かな通貨危機」

前回、日本の量的金融緩和解除とキャリートレードの動向について書きましたが、その
後の新聞記事で、「アイスランドクローナ」という聞きなれない通貨の下落が話題にな
りました。世界最大のアルミニウム生産企業である米国のアルコアが同国に精練プラン
ト建設を開始して以来、株式市場・為替市場ともに昨年まで西欧で最高の上昇率を記録
してきましたが、2月以降通貨が暴落しているというものです。

その重要な背景とされているのが、円キャリートレードの解消です。同じように低金利
のスイスフランも借入れ通貨として利用されていましたが、やはり日本の金融緩和解除
観測がその引き金をひいたとされています。アルコア進出後の景気過熱に対応した金利
上昇がキャリートレードによる資金流入を呼び、発生した不動産バブルが崩壊した点は
97年のアジア通貨危機にもなぞらえられ、ニュージーランドやハンガリーといった高金
利通貨も下落していることから、アイスランドはキャリートレードの「静かなメルトダ
ウン」の始まりとして、国際通貨危機の再来を危ぶむ声もあります。

「逃げ出す」以上の売りは起こりにくい

97年のアジア通貨危機を招いた背景として重要だったのは、
 多くの国が固定的な為替相場制度を採用していた
 経常収支が赤字基調で、巨額の外貨建て債務を抱えていた
 国内の旺盛な需要が海外からの短期資金によってまかなわれていた
といったことがあります。まず、アイスランドは変動相場制を採用していますが、もち
ろん過大評価と判断されれば通貨は下落します。しかし固定相場の場合と変動通貨の場
合とでは、通貨を下落させる力に(一時的ではあれ)違いがあります。

固定相場制度は、その通貨に目をつけた投機資金に明確な目標を与えます。巨大な力
で売りを浴びせ、通貨を切り下げさせることに成功すれば、投機資金は巨額の利益を上
げることができます。それを狙って仕掛けを始めれば、他の市場参加者の目もその水準
に集中するため、結果的に投機の狙いが支援されます。アイスランドクローナの場合は
その目標がありません。さらにアイスランドの場合、為替投機の対象になりにくい理由
がもう1つあります。市場規模が小さすぎるのです。30万人という人口は、日本で言え
ば函館市か大津市です。そして1日の為替取引高は1億7千万ドル。ドル/円ならば
大口注文1件でもあり得る金額で、瞬時に完了します。市場がそのくらいの規模では、
売り浴びせようとした時点で買い手が一斉に逃げてしまいます。買い戻す時も同様で、
全部買い終わる前に相場ははるか上に上がってしまう恐れがあります。従って、今持っ
いる人が逃げ出す以上の売りは、市場流動性に制約があるために起こりにくいのです。

貿易赤字は拡大傾向

アイスランドの貿易収支は2004、2005年と赤字で、しかも拡大しています。アジア
通貨危機では多くの国が深刻な影響を受けました。経常黒字が大きく純債権国であった
台湾やシンガポールは、海外の投資家や銀行から見ても不安が小さかったため影響は比
較的軽かったのに対し、赤字国のタイやフィリピンでは資金流出パニックが起こり、自
力対応が不可能でした。これを見るとアイスランドの貿易赤字の拡大は気になります。
アイスランド経済の輸出依存度が約30%と高い点も、通貨危機当時のアジア諸国と共
通します(通貨危機当時、タイ、フィリピン、韓国が20%台、台湾は30%台。マレー
シアとシンガポールは50%前後でした)。ただし経済全体の構造は若干違います。

アジア諸国では、輸出を上回る輸入が、輸出のための生産力への投資に向けられ、輸入
代金のファイナンスを海外からの資金流入に依存するという経済構造を持っていました。
この場合、海外からの資本流入が止まるということは、そうした経済のサイクルが止まっ
てしまうことを意味します。さらにアジア諸国は海外からの資金を銀行部門を仲介とした
短期借入れを原資として調達していたため、逃げ足の速い短期資金が枯渇するのは簡単で、
その結果輸出に支えられた経済も機能不全に陥ってしまいました。

アジア危機との違い

しかしアイスランドの貿易赤字拡大は、国内の好景気を背景とした消費拡大と不動産・
株式のバブル要因が大きく、主たる産業(輸出においても主力です)が水産業であること
から見ても、海外資金の流出による影響も、通貨危機を起こしたアジア諸国とは異なりま
す。最近アイスランド中央銀行のオッドソン総裁は、「インフレ抑制のために政策金利を
(現在の11.5%から)16%まで引き上げる必要がある」と語りました。こうしたことに
より当然国内経済は冷え込み、その規模は縮小しますが、輸入も減少し、対外バランスは
改善に向かいます。

結局アイスランド通貨危機とは、これまで投資をしていた人にとっての「閉じた」世界
での危機ととらえた方がよさそうです。今後アイスランド経済は減速するため、通貨が近
い将来再び上昇する見通しは非常に薄くなっています。彼らにとって売る以外に選択肢が
ない状況であるとしても、その市場規模のゆえに「静かに」キャリートレードを解消する
しかなくなっています。ファンダメンタルズを無視したキャリートレードがいかに危険か
ということを、もう一度思い出すべきだと思います。


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