中世文献

中世文献おすすめコーナー」 優先順位をつけて紹介しようと思ったが、これがとても難しいので、やっぱり独断と偏見で決めてしまおう。そして「中世文献…」と一応うたってはいますが、中世がいつからいつまでか、と断言するのも難しいのでそれ以前のも以降のも折に触れて紹介すると思います。

書 名

著者名(翻訳者名)

出版社

発行年月日

解       説

ジャンヌ・ダルク、アンドレ・ボシュア著、新倉俊一訳、白水社、1969.9.5

ジャンヌ・ダルク、ジュール・ミシュレ著、森井真ほか訳、中公文庫、1987.3.10


ジャンヌ・ダルク、ジュゼフ・カルメット著、川俣 晃訳、岩波新書、1951.4.1


ジャンヌ・ダルク、フィリップ・セギ著、藤田真利子訳、ソニー・マガジンズ文庫、1999.12.11


戦場のジャンヌ・ダルク、大谷暢順著、社会思想社、1999.1.30


ジャンヌ・ダルク処刑裁判、高山一彦編・訳、白水社、1984.11.15


ジャンヌ・ダルク-超異端の聖女、竹下節子著、講談社現代新書、1997.1.20


傭兵ピエール、佐藤賢一著、集英社、1996.2.29


ジャンヌ・ダルク、誰? 三木宮彦著、フィルムアート社、1995.5.1


ジル・ド・レ論、ジョルジュ・バタイユ著、伊東守男訳、二見書房、1969.12.20


ドキュメンタリー・フランス史・オルレアンの解放、高山一彦編訳、白水社1986.4.15


フランスの歴史を作った女たち第1巻、ギー・ブルトン著、曽村保信訳、中央公論社、1993.11.25


百年戦争とリッシュモン大元帥、大谷暢順著、河出書房新社、1991.6.1


青髭ジル・ド・レー、レナード・ウルフ著、河村錠一郎訳、中央公論社、1984.1.20


ジャンヌ・ダルク リュック・ベッソンの世界、リュック・ベッソン著、檜垣嗣子訳、ソニーマガジンズ、2000.1.20


彼方より、篠田真由美、講談社、1999.10.1


ジャンヌ・ダルクの愛の秘儀、シャルル・ペギー著、岳野慶作訳、サンパウロ社、
1984.1.10


ジャンヌ・ダルク、プーテ・ド・モンヴェール著、矢川澄子訳、ほるぷ社、
1978.3.10


マーク・トウェインのジャンヌ・ダルク、マーク・トウェイン著、大久保博訳、角川書店、1996.8.31


ジャンヌ、ジャック・リヴェット原案、クリスティーヌ・ローラン他脚本、朝吹由紀子訳・著、ソニー・マガジンズ文庫、1995.4.25


ジャンヌ・ダルクと蓮如、大谷暢順著、岩波新書、1996.3.21


ジャンヌ・ダルク-愛国心と信仰、村松 剛著、中公新書、1967.8.25


パリ史の裏通り、堀井敏夫著、白水社、1999.7.25


ジャンヌ・ダルクの実像、レジーヌ・ペルヌー著、高山一彦訳、白水社、1995.5.31


ジャンヌ・ダルク、H・ギュイマン著、小林千恵子訳、木村尚三郎解説、社会思想社、1974.2.28


ジャンヌ・ダルク、レジーヌ・ペルヌー、マリ=ヴェロニック・クラン著、福本 直之訳、東京書籍、1992.9.12

ジャンヌ・ダルク関連文献の決定版ともいえる。主観をまじえずジャンヌ・ダルクをめぐる事実のみを網羅している。同時代人の解説、ジャンヌ・ダルクの出生や姓名に関する討論も興味深い。他に関連人物の系図や書簡、年表なども必見。


ジャンヌ・ダルクとその時代、清水正晴著、現代書館、1994.11.20

ジャンヌ・ダルクの生涯を軸として、百年戦争、英仏王家のお家事情など、正確な史料をもとに書かれている。かなり綿密な史料に基づいた信頼できる文献だと思う。


《青髯》ジル・ド・レの生涯、清水正晴著、現代書館、1996.4.10

ジル・ド・レの誕生、少年期の事情からジャンヌ・ダルクの戦友だった輝かしい時を経て処刑されるまでを綴っている。ジル・ド・レの少年虐殺は事実ではあるが、その人数、周囲の証言などには誇張がみられ、ブルターニュ公や国王による領地召し上げの企みが見え隠れするという説には吉田も少なからず共感を覚えます。


聖女ジャンヌと悪魔ジル、ミシェル・トゥルニエ著、榊原 晃三訳、白水社、
1997.10.1

ジャンヌ・ダルクと共に戦った青年貴族ジル・ド・レが、神の使いジャンヌ・ダルクの処刑に立ち合い、神への不信から報復を決意する。「ジル・ド・レ」が「青ひげ」「皆殺しの野獣」に至った根源をジャンヌの刑死と関連づける説が多いようである。これは事実をもとに創作された小説で、ジル・ド・レがジャンヌの処刑の現場にいたかどうかは史料に残っていない。


フランス文化と風景(上下)、ジャン・ロジャン=ロベール・ピット著、高橋 伸夫訳東洋書林、1998.7.25

上巻は先史時代から15世紀まで、下巻は16世紀以降のフランスについて解説。


↑これより上、ジャンヌ・ダルク関連の文献です

中世の四季 ダンテとその周辺、平川祐弘、河出書房新社、1981.12.18

1265年生まれの詩人ダンテと「神曲」の時代背景、構造、詩の技法などについて考察。
ダンテの中の科学者、政治人、詩人の顔など。中世の十二ヶ月を詠った暦詩も趣が深い。
(1998.9.5)

フランス中世史夜話、渡邊昌美、白水社

「騎士のおそれ」、「海底の都」、「僧院」、「ジェヴォーダンの魔獣」、「十二世紀の群像」、「亡霊」、「リュブロンの悲劇」……など、ホラーあり、ファンタジーあり、中世オタクの想像力をかきたてる。
(1998.9.5)

ハーメルンの笛吹き男-伝説とその世界-、阿部謹也、平凡社

童話でも有名であるが、実際に1284年6月26日(ヨハネとパウロの日)、ハーメルンの町で130人の子どもが失踪した。
著者は旧西ドイツ、ワルケン村の水車小屋にねずみ取り男が訪れたという伝説を知って、これと子どもの失踪事件のつながりを探っていく。
(1998.9.5)

中世の日常生活、ハンス・ヴェルナーゲッツ著、轡田収、川口洋、山口春樹、桑原ヒサ子訳、中央公論社、1989.9.20

中世初期の日常生活について詳細な記述が嬉しい。
主な内容は、中世の人々と自然の関わり、日常生活の諸条件、家と氏族、婚姻、修道院関連、荘園制、賦役の問題、騎士階級と宮廷生活、都市と市民階級について……。
(1998.9.5)

中世娼婦の社会史、ジャック・ロシオ著、阿部謹也、土浪博訳、筑摩書房、1992.10.10

中世娼婦は必要悪だったか……? 15世紀ローヌ河流域で発見された古文書の一級資料による研究、考察。
以下、娼館、その他裏社会関連の文献を並べてみる。


売春の社会学、J-G,マンシニ著、寿里茂訳、白水社、1964.2.15


賭博・暴力・社交-遊びからみる中世ヨーロッパ、池上俊一、講談社選書メチエ、1994.2.1


ルネサンスの高級娼婦、ポール・ラリヴァイユ著、森田義之、白崎容子、豊田雅子訳、人文書院、1993.8.25


中世の裏社会、アンドルー・マッコール著、鈴木利章、尾崎秀夫訳、人文書院、1993.9.25


売春の社会史、バーン&ボニー・ブーロー著、香川檀他訳、筑摩書房、1991.6.25


放浪の書、ハイナー・ベーンケ、ロルフ・ヨハンスマイアー編、永野藤夫訳、平凡社、1989.2.23


中世のアウトサイダーたち、F・イルジーグラ/A・ラゾッタ著、藤代幸一訳、白水社、1992.4.20


世界風俗史、パウル・フリッシャウアー著、関楠生訳、河出書房新社、1983.7.8

ロマンセ……レコンキスタの諸相、三村具子著、彩流社、1995.1.20

 
中世末期に民間で歌われた叙事的抒情詩をイギリスではバラードと言い、スペインではロマンセと言った。10〜12世紀にスペインで盛んに行われたレコンキスタ(イスラム教徒に占領されたイベリア半島をキリスト教徒が奪回しようとした戦い)を吟遊詩人たちが物語詩にしたロマンセは、8〜16世紀あたりのスペイン中世を知るために貴重な史料である。(1998.2.18)

アウグスティヌス講話、山田晶著、講談社学術文庫、1995.7.10

 354〜430年、初期キリスト教会の教父。アウグスティヌスはマニ教、新プラトン派などを経てキリスト教に回心し、後にヒッポの司教になる。アウグスティヌスの思想的な揺れやある女性に寄せた人間らしい苦悩がわかりやすく説明されている。(1998.2.18)

十字軍と黒死病、矢島鈞次著、同文館、1993.5.20

 12世紀と14世紀に黒死病(ペスト)はヨーロッパに蔓延し、人々を震撼させた。人口が半減した結果、隷属的だった農民の地位が向上したといわれているが、黒死病だけを中世封建制度の崩壊の誘因とする説に著者は一石を投じる。(1998.2.18)

北欧の神話、R・I・ペイジ著、井上健訳、丸善ブックス、1994.12.20

 アイスランドの裕福な農民でありノルウェーの王の側近でもあるスノリ・ストルルソンが1220年代に編集した北欧神話の集大成「散文のエッダ」など。神話を語りながらも中世の思想の影響が読みとれる……などということは脇へおいても、とにかくおもしろい北欧神話。美形の神あり、女装の神あり、まずはご一読をおすすめ。(1998.2.18) 

司祭アーミス 付・カーレンベルクの司祭、デア・シュトリッカー著、藤代幸一編訳 法政大学出版局、1987.10.1

 1230〜1240年にかけて、ドイツの詩人デア・シュトリッカーによって書かれた韻文小説。主人公の根拠地が架空の地名であるのが興味深い。司祭アーミスが、教会で友人知人、身分を問わずもてなし大盤振舞をするために旅先で詐欺師まがいの行動をして金を稼いだり、監視にきた(あるいは財産を没収にきた?)司教を見事煙にまいたりする。不謹慎といえば不謹慎な話である。後に全盛期を迎えた笑話のいくつかの源がここにある。(1997.10.24)

ルカノール伯爵(スペイン中世黄金世紀文学選集3)ドン・ファン・マヌエル著、牛島信明・上田博人訳、国書刊行会、1994.12.10

 ルカノール伯爵が身にふりかかった困難について問い、相談役のパトロニオがたとえ話をしながらそれに答えるという一定の形式をもつ51の説話集。うまい話に乗るなという教訓や、尊大になるなと戒める話、人間関係の機微を感じさせる説話もある。聖俗入り混じった教示は、作者の見識の広さによるのか頭の柔軟さによるものかわからないが。また、わが子を道からはずれないように育てるにはどうしたら良いか、などと伯爵が今に通じる苦悩を漏らしたりするのがなんとも人間らしい。
 作者ドン・ファン・マヌエル(1282-1348)はカスティーリヤとレオンの聖王フェルナンド三世の甥である。生後13カ月で王位を継承した甥の後見人になり権力抗争に巻き込まれたいきさつや、レコンキスタの背景も考えながら読むとスペイン中世がかいま見えるのでは。
(1997.10.24)

「中世大学都市への旅」、横尾壮英著、(朝日選書)、朝日新聞社、1992.6.25

 1958年にリクルート出版より発行の「ヨーロッパ大学都市への旅」の新版。
 タイトルの通り、中世の大学について克明に書き記された文献。アナール学派的、というのはこういうことかな、とつい思った。大学の経済、裏方の人々、学寮、教授の待遇などにも触れていて、中世の大学生たちの実態が目に浮かぶような鮮やかな語り口です。(実は吉田はこの著者、横尾先生にお会いした。図々しくも押しかけた、というか。とても親切にしていただいたので嬉しかったです)

「西洋中世像の革新」、樺山紘一編、刀水書房、1995.9.6

 東京大学大学院人文科学研究科および文学部関連の十七名の研究者の個別論文を集成したもので、時代は十一世紀から十六世紀にわたり、また地域としてはフランス、イギリス、ノルマン・シチリア、イタリア、ドイツ、ハンガリーなど多岐に渡っている。表題通り、中世に対する既成概念を一新する面白い論文集。著者のひとり、池上俊一氏はその著作「動物裁判」などでもとても興味深いテーマを扱っている。(次項で紹介しよう、と急に思いつく。しりとりのようですが)

「動物裁判…西欧中世・正義のコスモス」、池上俊一著、(講談社現代新書)、講談社、1990.9.20、

 あてつけか、やり場のない怒りのはけ口か……。人間をあやめた豚の裁判法、その他動物や虫たちをなぜ西欧中世の人々は裁いたのか? 読みながら「うーん…、なんて面白いんだ!」とうなってしまった目の覚めるような文献。これについてはエッセイ(3)…中世の裁判は怖くてアヤシイ…にも載せましたので読んでくださいね(吉田)。

「ペトラルカ カンツォニエーレ」、ペトラルカ著(池田廉 訳)、名古屋大学出版会、1992.8.31

 1304ー1374年、イタリアの詩人であり人文学者でもある、フランチェスコ・ペトラルカの歌唱集。ソネット(十四行詩)やカンツォーネ(呼びかけ)など、美しい詩が綴られている。池田廉の訳が美しいので、日本語の詩の勉強にもなるのではないかと…。ペトラルカは7才の時、文豪ダンテにたまたま会っている。14才にしてキケロとウェルギリウスの本を父親に隠れて読んでいるのがばれてその書物を燃やされそうになった(エロ本じゃあるまいに)、当時は古典に熱中することは好まれなかったらしい。55才の時、キケロの分厚い「書簡集」の写本を落として足を怪我した。69才の時、「デカメロン」の写本を手に入れ、(ボッカチオと親交があった)その中の最後の物語をいたく気に入って暗唱したらしい。残念ながら吉田は「デカメロン」の最後の物語はいちばん嫌いなのでこの点ではペトラルカと話が合わないであろう(もともと相手にされませんってば)。妙に長々とペトラルカについて書いてしまったが、(それも変なエピソードばかり)とても人間味あふれる詩人だと思うんです。