“The Victory”定冠詞付きの勝利

文章:DORO(2000年6月12日)


本当は、この試合は見に行く予定ではなかった。
だが友達Sから、「燕三条までの新幹線の回数券が余ってるので、新潟に行くんだったら使ってくれ」との連絡があり、ありがたく頂戴することにした。

燕三条駅で降りて、待っていた友達Tのクルマに乗り込む。
Tが「俺のとこにも届いたよ」と、携帯電話につけた後援会モデルのストラップを見せる。「レプリカユニも買おうと思ってさ」こいつも、アルビに取り付かれたようだ。
新潟市役所の駐車場に入れる。明らかに浦和サポと思われる赤い人がいる。良く見ると、初老にさしかかったくらいのご夫婦だ。スポーツ文化の有るべき姿を見た。

グッズ売り場に寄ってから、いつも通りゴール裏ゲートへ向かうと、普段は使わないゲートまで空いている。階段を上りスタジアムに入ると、赤い軍団がびっしりと入っているのが目に入る。アウェイゴール裏だけでなく、火炎式土器からメインスタンド中心まで、スタジアムの半分が真っ赤だ。
対する新潟サイドは、ゴール裏にD.E.N.が、コーナーに翼の会が、そしてD.E.N.の両サイドは「XXX様」招待席ゾーンだ。ここがスカスカだったら、目も当てられないぞ、と思う。
俺は今シーズン、ホームに来た2試合はバックスタンドで見ていた。ホーム新潟のサポーターの動向を見定めたかったからだ。だが、今日は戦いに来た。応援に集中したいという気持ちと、観客が多いということから、中継用のノートPCは持ってきていない。 アウェイの試合で見慣れた顔や、アル関の知り合いもいるD.E.N.に混ぜてもらう。ゴール裏は初めてのTも一緒だ。

スタメン発表。アルビの注目点は、服部の1トップ、鳴尾が前節に続いてMFだ。これは、4−5−1じゃなくて、4−3−2・(1)だ。服部はダミーだ。前節で服部に見切りをつけた俺はそう思った。アルビの2トップは鳴尾と慎吾であるべきだ。
一方、レッズのスタメンには、このところずうっとサブの、「ミスターレッズ」福田が入っている。「これって、ちょっと福田にも練習させとこうかってこと?!」思わず口走る俺。

試合開始前に、翼の会からD.E.N.に伝令(?)が来た。出来る範囲で応援を合わせたいといった話だったようだ。
招待席ゾーンが埋まってきた。翼の会が、レッズへのエールに続き、D.E.N.と「スタオレ」へのコールをする。スタオレ隊は、見事に「橙・青・橙」のカラーボードとオレンジビニール袋でバックスタンドを染めている。いい感じだ。
だが、レッズサポの応援はそれら新潟サポ全部を集めてもはるかに上回っている。すぐ目の前にいるかのような声、それにあわせてゴール裏全体がうごめいている。前節仙台戦で突き放しの3点めを食らった時の、仙台サポの盛り上がりを思い出してぞっとする。今日もやられるのか?

正直、良くて0−0分けか1−0勝ち、悪ければ0−3で負けるだろうと思っていた。

試合開始。
ここから先は、正直よく憶えていない。サッカーには詳しくないし、視力も悪いので、ボールを追うので精いっぱいで、何がなんだかわからないからだ。
雑誌の記事などから、レッズの攻めはクビツァがポイントだというのは知っていた。そして直に見るクビツァは、でかい。しかし、高橋がマークし、切り返されてもほぼ完璧についていく。何度クビツァがボールを持っても、そこから他のレッズ選手にボールが出て行かない。

そうこうしているうちに、ボールは向こうのゴール前へ。そしていつもならゴールの長方形からすっ飛んでいくはずのボールが、枠の中で動きを止めている...えっ?
スタンドのハーフウェイラインに近いあたりから、1秒くらいかかって歓喜の叫びが広まってくる。先制したのだと気がつく。両拳を天につき上げて叫び、誰ともかまわず周りの人間とハイタッチで喜び合う。電光掲示板に、鳴尾のゴールが表示される。

試合再開。右サイド真ん中へんでもめている。カードが出され、まわりから「今日の日はさようなら、また会う日まで」が歌われる。永井だ。キープレイヤーが1人減った。

そして2点め。ボールがゴールの枠の中で止まっているのは見えても、電光掲示板に表示されるまで信じられない。得点は、なんと服部だ。ここいらへんから、もう現実とは思えなくなる。喜ぶよりも先に「何が起こっているのか理解不能」だ。
3点め鳴尾。レッズの選手に「やる気」が感じられなくなってきた。
4点め寺川。寺川は湘南戦以来、俺のお気に入り選手の1人だ。
「やりたい放題!」コール。「まさかレッズ戦でこのコールができるとは思わなかった!」との声が聞こえる。

ハーフタイム。
女性の「ここで終わりにしようよ、後半無しでいいよ」という正直な言葉。1位と10位の対戦だ。後半だけで5点取られてひっくり返されてもおかしくない。

後半開始。
レッズはクビツァを代えてこない。俺が考えても、クビツァ対高橋は、高橋が勝っている。5点差をひっくり返すためには、戦術を変えるためにタイプの違う快速FWを投入するのがスジじゃないのか?
「うーん、こうなったら慎吾のゴールも欲しいよね」
言ってるそばから5点め、慎吾のゴール。もう駄目押し。レッズ完全にやる気なし。
レッズサポーターが全く声を出さなくなっているのに気がつく。ナビスコ杯の川崎F戦の時もそうだったという記事を思い出し、意図的に出していないんだなと思う。
服部が左からのセンタリングにニアでダイビングヘッドで合わせて、横方向にボールを飛ばしてゴールを狙う。外れるが「服部は、いらん」という俺の評価がちょっと揺らぐ。

D.E.N.は時折、翼の会に合わせて従来の「アル〜ビレックス!」コールを使う。
翼の会もD.E.N.の「smoke on the water」に合わせていたようだ。

さすがに後半の半分過ぎ、クビツァを下げて大柴投入。
これで少し息を吹き返し、得点されて5−1。でもこれは前回の得点の裏返しだ。
時間が過ぎていく。5分過ぎるごとに1点取られる危険が減っていくような気がする。
柴が顔面を強打して倒れる。一旦は公平との交代が出されるが、取り消しで柴がそのままプレーする。
ゆっくりとボールを回すアルビ。回すボールを次の選手が持つだけで意図的に拍手と歓声をあげるゴール裏。
後半41分、レッズ、ピクン退場。
6点め鳴尾。なんとハットトリック達成。
ロスタイム表示は1分。しかし、従来のような「頼むあと1分持ちこたえてくれ、審判早く笛吹いてくれ」という切迫感はない。

試合終了。望外の大勝利。
この対戦カード、得失点差で1、アルビがリードした。
選手達は、次の試合を自信を持って闘うことだろう。

場内で発表されたMVPは鳴尾。
だが俺の心には高橋のディフェンスが刻み込まれた。
1つ勝つごとに、お気に入りの選手が増えていく。

この1勝は、ただの1勝では、ない。
まず、他のJ2チームは「10位のアルビが6−1で勝てるのなら、俺達もレッズに勝てないわけはない」と思っただろう。
さらに、入場者数、11,662人。この半分が新潟側として、うち2,500人が固定客とすれば、3,300人が、レッズを見に来た新潟県人だろう。だが、彼らは新潟が勝つ喜びを知った。そのうち何割かは、次のアルビのゲームも見に来る気になっただろう。
彼らが、アルビが1−0で勝つ試合を見る時が待ち遠しい。

今期が始まる前に俺が計算した昇格ラインは、28勝=勝点84、アルビは現在、勝点14なので、残り24試合で勝点70を挙げなければならない。これは、もう1つも負けられないことを意味する。
しかし俺には見える。最終44節、新潟市陸上競技場での対コンサドーレ札幌戦が、浦和、札幌、そして新潟の昇格がかかる大一番になることが。

勝つのは、俺達だ。

(了)


コラム 私設アルビレックス新潟関東広報室