品質保全編
点の品質保全から線の品質保全に
品質保全の展開手順詳細については、プラントエンジニヤ誌1990年10月号に筆者寄稿による「品質保全展開プログラム」、および同誌1992年 5月号に「手作業工程に品質保全ステップ展開を適用」を参照して頂きたい。
 活動1年目は、個別改善の一環で不良ロス改善を進めてきたが、ここまではいわゆる品質改善の取組であり、工程の中で不良率の高い項目をテーマに改善を行う進め方であったが、活動2年目はいよいよ品質保全の取組みを展開することになる。
 品質保全の取組はその工程の全ての品質特性について設備条件と品質の関係の解析を行い、不良を作れない仕組みを構築する、すなわち要因系の管理条件を明らかにする取組である。
 最初は、製品の重要品質を加工する工程で取り組む。これは筆者名付けて 「点の品質保全」と言っている。TPM優秀賞の審査における品質保全の活動事例に多く見掛けられる。しかしこれだけでは製品の求められる全ての品質特性について要因管理を行うことが出来ない。初工程から最終工程まで全ての工程の品質保全を実施する、いわゆる「線の品質保全」を最初から取り組むことを筆者は勧めている。
 
PM分析が出来ないと品質保全の展開が出来ない
 TPMの活動がキックオフして2年目になると、自主保全活動も軌道にのりさらに個別改善で工程不良テーマの取組みが盛んになる。とくに慢性不良の要因解析にPM分析が必要になり、PM分析の研修が必須条件となる。
 PM分析は外部セミナーなど座学研修で学んでも実際のテーマに取り組むとなかなか出来ない。とくに現象の物理的解析で行き詰まり、さらに成立する条件で悩む、しかし加工の原理原則と不良の発生するメカニズムがきっちり理解するとPM分析は難しいという壁が破られる。そのためにはPM分析の取組み解決を3件以上実施することが必要である。
 設備型品質保全の展開ではこのPM分析が必要不可欠であり、品質保全の取組みメンバーはこのPM分析を十分マスターしておく必要がある。
モデルラインの選定に当たっては、自主保全の活動が3ステップに入っているラインで、さらに水平展開の代表になる工程のラインを設定する。なおこのモデルラインの取組みメンバーは品質保全分科会のメンバーとモデルラインの担当監督者で構成する。
オモチャのミシンで品質保全を学ぶ
 筆者は工場事務局当時に、オモチャのミシンでPM分析と同時に品質保全の展開を学べる研修カリキュラムを考案した。当時はPM分析の研修にロボットや旋盤、ボール盤などの実機を使って研修を行っていたが、一回の研修人員に限りがあり、機械の分解組み立てに多くの工数が必要だった。
 品質保全展開の研修を計画する段になって、もっと手軽に、大勢の研修が出来るようにとオモチャを使うことを考えた。当然品質に関わる不具合テーマにするには、ラジコンカーのようなただ動くだけのオモチャでなく、加工するオモチャでないと意味がない。さらにそこそこのメカニズムがないと意味がない。 オモチャ屋でいろいろなオモチャを買い込んで分解した結果たどりついたのが、下糸タイプのミシンであった。縫製加工という立派な加工機能を持ち、不具合テーマも縫製不良として、目飛び、糸調子不良、縫い目ピッチバラツキ、など設定出来た。
 さらに分解してびっくり本物のミシンに近いメカニズムがあり、機構図を書くのに格好のオモチャでもあった。カリキュラムには工程FMEAの取組みも挿入してこのミシン研修を展開した。一回の研修に26名(ミシン一台で4名として6グループ)、延べ300名の研修を実施した。その後JIPM(日本プラントメンテナンス協会)のセミナーに採用され、約1年半程セミナーを担当させて頂いた。この間に研修カリキュラムとマニュアルの内容をより良いものに改定出来た。
 現在も筆者が担当する会社には、このミシンを使ったPM分析と品質保全研修を実施してから、モデルラインの活動展開を行っている。
手作業組立て工程も品質保全の取組みで不良ゼロ
 設備による加工職場を主体に品質保全を展開してくると、手作業主体の組立て職場から「われわれの職場の不良要因がほとんど人の作業ミスから発生している。品質保全は設備職場だけの取組みではないのか」と言う声が出てきた。 確かに手作業組立ての職場は、作業の標準化とポカヨケ改善をせよと掛け声だけだった。品質保全展開のように活動手順(ステップ)が明確でなく、活動に用いる帳票類もなかった。
 そこで設備型品質保全の手順を参考に「手作業組立ての品質保全展開」として活動ステップを作成した。これを組立て職場の活動に展開し、各社で実践してもらったが、最近では自主保全の第4ステップの中で「品質総点検」として組み込み活動を展開している。
 詳細については、プラントエンジニヤ誌1992年 5月号に筆者寄稿による「手作業工程に品質保全ステップ展開を適用」を参照して頂きたい。      
一個取り、一個流し、一個保証
 手作業組立て工程の自主保全、個別改善、品質保全の活動全般キーワードとして、筆者は「一個取り、一個流し、一個保証」と説明している。「一個取り」とは作業ロス改善を代表した表現であり、いかに低付加価値作業を改善するかである。ここに一個取り、または多数個取りのカラクリ改善も生まれる。
すなわち生産性の向上コストである。「一個流し」とはジャストインタイムに同期し、中間に仕掛を持たずに生産することを代表した表現であり、すなわちデリバリーである。「一個保証」とはまさしく手作業品質保全であり、全数品質を保証する仕組みを作る事を表現している。ここでポカヨケ装置が生まれる。すなわちクオリティである。 生産の重要な指標であるQ・D・Cを分かりやすく表現した。本来はQ・D・Cの順番であるが、言いにくいので「一個取り、一個流し、一個保証」となった。 筆者の担当する会社ではこれを「1・1・1(ワンワンワン)ライン」と名付けて活動を行っている。

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