変身


スティーブン・バーコフ『変身』☆☆☆☆

 宮本亜門の演じる「虫」の動きを見ているだけで緊張感のある時間を過ごす事ができました。僕にとってはとても幸福なひとときでした。芝居が良かったかどうかは、観終わった後の観客の拍手で判断をつけるのですが、とても暖かい拍手だったと思いました。亜門ちゃんも、最初のカーテンコールは表情が固かったけど二度目の登場では、にっこり笑っていました。

 原作を読んだ事が無かったので、今回が全くの初「変身」体験でした。会場はかなり見やすい劇場だと思います。全体に木で出来ていて音響とか考えてつくられているんだろうな、と思いました。

 「変身」してしまったザムザは、かなり自己中心的で、セールスマンとしての能力も中の上程度という俗物。「変身」した後でも、自分が置かれている事態の深刻さにいささかも気付かず、ただ、今をどうしたら切り抜けて行けるか、にしか興味がない。それは、彼の家族も同じ。「虫」の存在を隠して、その場凌ぎの生活を続けて行こうとする。彼が「虫」になったのもそれが原因なのかも知れない。これは多分、経済優先の生き方に対するカフカの強烈な皮肉なんだろうと思います。ドラマを見ながら、ウルトラマンのカネゴンとの類似について考えてしまいました。

 舞台で目についたのは、そのあまりにシンプルな美術。それゆえに、役者の演技に余計目が釘付けになったんだと思います。世界の演劇の趨勢は、このようなシンプルな美術と、オペラのような、凝りに凝った美術の二極分解しているんでしょうか? 根拠の無い疑問(^_^;

 バーコフの演出は、役者に大袈裟な身振りと人形のような動きを要求し、この物語の戯画的な側面を強調していたように思いました。

 今回、2階席からの観劇だったのですが、上から見ていると、「虫」がごそごそと移動する様がゴキブリのようで、「虫」がいるときの何ともいえないいや〜な感じをつぶさに堪能(^^;) することが出来ました。亜門ちゃんはとってもよかったです。

 高泉さんは良かったですが、「みんな私が悪いんです〜っ」の時は、完全に山田少年になってましたね(^_^) 好きですけど‥‥。


スティーブン・バーコフ演出『変身』☆☆☆☆
劇場:天王州アイル アートスフィア(モノレールで行くと結構便利)
観劇日:11/28  当日券(2階最後列右寄りにて)〜公演は既に終了〜

PS. 皆さんの評判がかなり悪いので、迷ったけど、こんな人もいるんだ、って事で、UPします。どーも僕は、「カラマーゾフの兄弟」といい、少数派になってしまうなぁ(^^;) 。自分では普通のつもりなんだが‥‥(苦笑)

時かけ



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