見沼の民話・伝説
【河童の妙薬】
大宮が中山道の宿駅だったころ、脇本陣の栗友の女中がある夜かわや厠に入ると、物蔭(ものかげ)から手をのばしていたずらをしようとするものがある。
その次の夜、折からこの宿にとまった若侍がそのことを聞き、短刀を懐(ふところ)にして厠にはいり、矢庭にその手をとらえてこれを切りはなした。行燈(あんどん)の下でよくみると、それはネバネバした黒い蛙(かえる)のようなひふ皮膚をした毛のモジャモジャしている手のようなものであった。
その翌日、栗友の奥庭の燈籠(とうろう)に火がはいるころになると、品のよい老女があらわれて、
「実は姿をかえていますが、わたしは見沼のカッパでございます。おはずかしいことながら、バカバカしいいたずらをしたばかりに、昨夜こちらでだいじな片腕を切られてしまいました。お返しいただくわけにはまいりませんか」
という。
この時、栗友の頭をかすめたのは、年をとったカッパは昔から恩をきるという話だった。
「困るとあればあげないこともないが、切られたものは役に立ちますまいが」
と栗友が静かな口調で老女の顔をのぞきこむと、
「わたしどもの世界には、ふしぎな妙薬がありますので、つぐくらいわけはありません」
「ではそのつぎ薬の秘法を伝授してくれれば返して進ぜましょう」
ということになって、その秘法を伝授したのが、栗友相伝の「カッパの膏薬(こうやく)」だという。
※ カッコ書きのふりがなは、見沼たんぼくらぶ事務局が入れました。
韮塚一三郎編著 埼玉県伝説集成(上巻・自然編)
(北辰図書株式会社発行)より抜粋