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日本酒ぶらり旅

*2016年1月起稿 毎月増補*


***

大変残念な事ではありますが、私の体調に問題が起き、当分、あるいは今後一生、酒類が殆ど
飲めない状態となりましたので、 この拙い文章を、2018年7月をもって終了とさせて頂きます。

  まえがき

 かれこれ20年近く前からのことですが、それ以降飲んだ日本酒の銘柄数はおそらく1,000を超えているでしょう。  細かな香味の差に次第に関心が深まり、旨そうな銘柄を積極的に自分で探して買い求め、飲んだ後に銘柄とラベル記載のデータ、 自分の感想等を記録するようになったのは3年ほど前からで、それ以降味わった日本酒だけでも200種ほどになります。

 2015年の5月、83歳で 「 きき酒師 」 の資格をとった後、益々日本酒の世界にのめりこんで行く中で、 色々と佳い酒、珍しい酒にめぐりあう機会も増えて来ました。 そこで、毎月少しずつでも、未熟者なりに、 特に印象深かった日本酒や、それにまつわる出来事を書き記してゆこうということに致しました。

 一番新しい記載が一番上にあります。 古いものから順に見てくださるのでしたら、一番下にスクロールして上にあがって来てください。

 
では・・・

  2018年7月

  KURA MASTER という催しをお聞きになった方もいらっしゃると思います。 フランス語で Le grand concours des sakes japonais と言います。

 2017年から開催され、今年の5月に第2回がパリで催されました。審査員は全員フランス人 ( ソムリエ、アルコール飲料のスペシャリスト、レストランやカーブの経営者、シェフ、料理学校など、 飲食業界で活躍中のプロフェッショナル ) です。 全ての出品酒はブラインドテイスティングにより、純米大吟醸酒&純米吟醸部門、純米酒部門、にごり酒部門 ( デザートに合う ) の3つの部門で評価されます。

 2018年5月28日、2年目となる 「 KURA MASTER 」 の審査会が実施され、その結果多くの日本酒が各部門ごとに審査されました。 賞の中には、金賞より上のプラチナ賞というのがあります。  その酒を探し、品薄でしたが、2本手に入れました。 いずれも、大分県の中野酒造の 「 ちえびじん 」 で、純米酒部門のプラチナ賞を受賞し、更にその中でもベスト5に選ばれ、 最高位プレジデント賞を受賞したというものを1本、および、純米大吟醸部門でプラチナ賞を得た同じ蔵の 「 純米大吟醸山田錦 」 を1本、手に入れました。 共に私にも買える程度のまずまずの値段でした。

 
ちえびじん 純米大吟醸山田錦 1800ml 税別¥6,000    ちえびじん 純米酒 720ml 税別¥2,200
〇〜◎             ◎
  ( 拡大率の関係で、1800ml瓶の方が小さく見えてしまい、申し訳ありません )

 日本酒がフランス料理と共にフランスの高級レストランで、ワインと並んで供されるようになったことは、よくご存知と思います。 私が興味を持ったのは、フランス人の食通が好み、選ぶ日本酒は、日本人が好み、 選ぶそれと同じなのか、違うのか。 また違うとしたらどこがどう違うのか、ということです。

 上記の二つの酒、どちらも美味しかったけれど、純米酒と純米大吟醸酒なのに、両者は驚くほどよく似ています。 吟醸香が大吟醸の方に多目に感じられる以外、外観も味もほとんど同じです。 これなら値段が安いだけ、純米酒の方がよい。  たまたま福井の 「 天たつ 」 から届いた日本酒のための種々の珍味を肴とすれば両者ともよく合い、 美味しく飲めましたましたが、仏蘭西料理のための食中酒として、他の優良日本酒よりも特に優れている特徴があるのか?と聞かれたら、私には分からないし、答えられません。  先日あるワインバーで飲んだニュージーランド、オーストラリア、南アフリカなどから届いた各種の優良白ワインの方が、仏蘭西料理にずっと合いそうな気もしました。  要するに、フランス人が選んだ日本酒も、当然ながら、典型的な日本酒でした

 2018年6月

 今月は、書くことがありません。 なじみの酒屋の戸棚の前でうろうろし、次々にいろいろな酒の720ML瓶を買い求め、とっかえひっかえ毎晩飲んではみましたが、どうしても、ここに書くほどの酒に巡り会えなかったのです。  ネットで以前購入したことがある全国の酒販店からは、毎日幾つものメールが届きます。 こういう所からも、初めて飲む酒を時々買いますが、でも、これは一種の冒険です。 平凡な酒をわざわざネットで買うこともないので、 どうしても、高い酒を高い梱包代と送料込みで買いますが、それが自分の好みとは合わなかったときは落胆も大きいからです。

 今月は、多くの店から、先月開催された SAKE COMPETITION 2018 での上位入賞銘柄が紹介されてきましたが、それらは当然のことながら非常に高価です。  720MLの瓶が、1万円前後はします。 しかし、そのような高価な品は、たとえどんなに旨かろうと、私ごときが毎晩飲む酒ではありません。 ということで、今月は結局、今年の3月のところで紹介した水芭蕉のスパ−クリングを 沢山買い込み、毎晩飲み続けていました。 これは720MLの瓶が1本、税込みで¥1,500程度で買えます。 暑い季節になってきたこともあり、冷蔵庫でしっかり冷やしたものを毎日2合飲み続けていました。  こういう酒で、趣きが少々変わったものが、他にはないものかなあ。 探せばきっとある筈なのですが・・・

  2018年5月

 今年の 「 水芭蕉純米吟醸辛口スパークリング 」 がやっと入荷したので、720ml瓶を 「 駆け付け3本 」 ほど飲みました。 でも、いくら好きでも毎晩では飽きるのは致し方ないところ。  そこで何か変わった酒はないかと探していたところ、ある酒販店からのメールで 「 作 」 のインプレッションシリーズというのを見つけ、type-M と type-G の2種類を買い込みました。  もう一つ純米大吟醸の type-N というのも買いたかったのでしたが、タッチの差で売り切れとなってしまいました。

 酒販店の宣伝文句によると、「 フレッシュで透明感のある酒を目指し、品質の変化が激しい生酒を一切出荷しないことを決めている蔵元が造った 『 生酒に近い火入れの酒 』。 その真骨頂となる槽場直汲み無濾過原酒シリーズ 「 落ち着いたバランスの良い酸が特徴の食中酒にピッタリな 『 作 』。 開栓直後はプチプチと弾ける極微炭酸が爽やかに旨みを演出。  時と共に炭酸感は薄れ、それと同時に濃厚な旨味が現れます。 一本で2度美味しいプロトタイプシリーズの後継酒 『 インプレッション 』 を是非!・・・ということなので、大いに興味を感じたわけです。

  A 作 IMPRESSION type-M 純米吟醸無濾過槽場直汲み瓶火入れ 720ml 【清水清三郎商店:三重県鈴鹿】  1,566円 ( 写真右 )
  B 作 IMPRESSION type-G 純米無濾過槽場直汲み瓶火入れ    720ml 【清水清三郎商店:三重県鈴鹿】  1,566円 ( 写真左 )

 飲んだ結果は次のようです。 まず純米酒のBですが、私には僅かに甘すぎると感じられるものの、プチプチ感はあるし、単なる純米酒なのにフルーティな吟醸香も多少感じられ、品の良い旨味もあるので、〇〜◎。  純米酒なので暑い季節ですが一応燗もしてみましたが、冷酒のときと全く変わらぬ印象です。 なお、燗をすると更に細かい泡が相当出てくるので、炭酸ガスがあることはよくわかります。

 次に純米吟醸の A。 これは、基本的には B と非常によく似た酒でした ( 吟醸なのに値段も同じ )。 ただ、違いは甘すぎること。 甘口の好きな妻でさえも 「 これは甘すぎる 」 と言うほどでした。  日本酒度の記載はありませんが、恐らくマイナスでしょう。 こんな甘ったるい酒を飲まされては、私の内山智広氏への積年の敬意も薄れてしまいそうです。 期待が大きかっただけに△が精いっぱいです。  なお、A も B も、上記の 「 一本で2度美味しい 」 という微妙なところは、私にはよくわかりませんでした。 もっと時間をかけて炭酸が完全に抜けてから飲むべきだったかも知れません。

   2018年4月

 先月書いた永井酒造の水芭蕉純米吟醸辛口スパークリングですが、首を長くして待っていても、今年はちっとも酒屋に入荷してきません。 酒屋の人は 「 なんだか、今年はうまく造れなかったとか聞いたよ 」 と言いますが、 真偽のほどはわかりません。 まあ、醸造業では、たまにはそういうこともあるのかも知れません。 ネット上にもあまり多くは出ていないから、あるいは本当なのかもしれません。 でも、仮に沢山出品されていたとしても、  最近は送料が高いので、なかなか買う気になれませんが。

 そこで似たものはないかと何種類か飲んで探し当てたのが、同じ酒蔵の純米大吟醸 「 谷川岳 」 でした。 純米大吟醸なのに400ml瓶で税込¥1,706、1,800ml瓶でも¥3,402と、 値が張らないのもありがたい。 最初720ml瓶で買って、良かったのでその後は1,800ml瓶で買い込みました。

 冷蔵庫で冷やし、そのままでも勿論よいのですが、冷やした炭酸水を2割ほど加えると、スパークリングっぽくなります。 やや甘すぎるが、とにかく癖のないスッキリした酒です。〇〜◎  今月はこれを主に嗜みました。

 原料米 美山錦、 精米歩合 50%、 アルコール15度、 日本酒度 +3

  2018年3月

 先月書いたように、1月末以降、ひと月ほど胃の調子を損ねて酒を控えていましたが、その後、治って以降は、酒に対する私の嗜好が多少変わってしまったような気がします。  そんな状態でしたので、3月後半は、もっぱらスパークリングの日本酒を冷蔵庫で冷やして10℃前後で飲んでいました。 このタイプの酒が、なぜか「 胃になじむ 」 のです。  いくつかの種類 *1 を試した中では、昨年も沢山愛飲した、群馬県永井酒造の 水芭蕉 のが一番、口に合いました。 どこがどうと聞かれても困るのですが、最も癖がなく、すっきりしていて、 滑らかに胃に入ってゆくという感じです。 この種のスパークリング酒だけは、辛口と称しながら私には多少甘口と思えるこの酒でも、甘いことが苦にならないどころか、長所と感じられるのが、不思議と言えば不思議です。◎

 純米吟醸辛口スパークリング 兵庫県三木市別所地区産山田錦、精米60%、日本酒度+8、アルコール15度

 開栓の際に吹きこぼれないようにするコツも身につき、ワイングラスでチビチビやっているうちに一日の制限 「 規定の2合 」 がすぐに来てしまいます。 この種のスパークリング酒だけは、割高でも4合瓶しか買えません。  何故なら一升瓶だと、5日かかって飲み終える前に、いくら栓を固く締めて冷蔵しておいても、どうしても炭酸ガスが抜けていってしまい、味が変わってしまうからです。  この系統のスパークリング酒が、他社品においても、1,800mlと720ml以外に300mlの小瓶でも売られているのは、開栓後は直ぐに飲み切ってもらいたいためだと思います。

*1: 秋田 浅舞酒造 シュワトロ発泡にごり酒、滋賀 天山酒造 七田純米おりがらみ など

  2018年2月

 夕食時に日本酒2合を飲むことは、もう10年以上も続く私の慣行で、夕食後に余程大切な用事が入っていない限り、破ったことがありません。 休肝日など無しで、一年に360日以上飲んでいるでしょう。  それでも隔月に測っている肝機能や腎機能の数値は、どれも 「 基準値 」 の中心よりちょっと下の所を、ずっとキープしていますから、私の体はアルコールとの親和性が非常に高いのでしょう。

 余談ですが、健康を害しない 「 酒の適量 」 という項目をネットで調べると、おおむね日本酒換算で一日に一合までという説と二合までという説とに別れ、両者はほぼ拮抗しています。  酒を飲まない、あるいはあまり好きでない ( と思われる ) 医師は 「 毎日一合まで 」、酒好きの ( と思われる ) 医師は 「 毎日二合以下 」 とおっしゃっているようだ・・・ というのは私の勝手な憶測ですが、私は 「 二合までが正しい ! 」 と確信しています。

 実は1月末あたりから、胃の丈夫な私には珍しいことですが胃の調子がおかしくなり、流動食に変えるとともに、自発的に約10日間連続で 「 断酒 」 をしたのですが、その際、まったく 「 飲みたい 」 と思わずにやめていられたので、 私は 「 アルコール依存症 」 とも縁がないと思われます。

 幸い胃の方は、その後、胃カメラの検査も終わって 「 何でもない 」 と言われたら、次第に調子も良くなってきたので、少しずつ飲み始めました。 不思議なことに、最初は洋酒が飲みたくなり、 カンパリソーダとかウィスキーのお湯割りから始まって、そのうちにまた毎晩2合の日本酒が復活することになりました。

 昨年暮れに自分専用の日本酒用の冷蔵庫が遂に満杯になってしまった時、自分はもういつ死んでもおかしくない年齢・・・冷蔵庫一杯の酒を残して死ぬ事になってもつまらない話だと気が付き、今月以降は、 買い置きの酒を順に片付ける事にしました。 今月は、燗酒は 「 寶劔の極辛純米 」( 2017年8月に記載 )、冷酒は「 羽根屋の純米大吟醸50翼 」( 2016年5月に記載・・・ これくらい写真に撮りにくく写真写りの悪いラベルも珍しい( 右 ) という、共にお気に入りの一升瓶を取り出して交互に飲みました。  したがって、今回は特に取り上げたい新顔の銘柄がありません。

  2018年1月

 NHKのテレビ小説 「 マッサン 」 で知って以来、ずっと気になっていたのが、ドラマの前半の舞台となった広島県竹原市の小笹屋竹鶴酒造です。  また、ここの酒は ( すべてではないようですが ) 「 木桶 」 で 「 きもと造り 」 と、昔ながらの装置、製法で造られているという話も、別のルートで聞いていました。

 ネットでこの酒蔵のことを更にいろいろと検索してみると、次のような情報が得られました。

 享保18年 ( 1733年 ) 創業。 広島県の西部竹原市の街並み保存地区にある。

 味の濃い辛口純米酒で知られ、燗をして旨い純米酒、どんな料理にも合う 「 ごはん 」 のような、料理を選ばない食中酒を目指している。

 全商品が炭濾過なしの純米酒。 中でも生もとづくりの酒は昔ながらの木桶仕込みである。

 完全発酵を目標にしている。 全般的に酸度が高い。

 いち早くアル添をやめ全量純米蔵になったことで知られる 「 神亀 」 で修業した杜氏が造っている・・・など。

 これを聞いたら、完全発酵された辛口純米酒の燗酒をこよなく愛する私としては、ここの酒を飲んでみないわけにはゆきません。 地元広島の酒屋のネット通販から、純米酒の米違いを1本ずつ買ってみました。

 ネットから得た情報、データ等は次のようなものでした。

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A 清酒竹鶴 雄町純米: 広島産雄町100%、精米歩合 70%、アルコール15.6度、日本酒度 +11.0、酸度2.8、アミノ酸度 2.6 協会6号系酵母

 酸味が最大の特徴で甘味、旨味、熟成感もある濃厚な辛口酒。 酒は濃い黄金色。 写真右側

B 清酒竹鶴 純米八反: 広島産八反*100%、精米歩合 65%、アルコール15.6度、日本酒度 +14.0、酸度2.8、アミノ酸度 2.8 協会6号系酵母

 上記の 「 雄町純米 」 と同じ酵母を使用しながら、口に含んだ時は、一見穏やかで、その後、口中で深い味わいと高い酸が調和する 「 雄町純米 」 と対照的な味わい。 写真左側

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 共に酸度2.8とはすごい値ですね。 私が今まで飲んできた千種以上の日本酒の酸度は概ね1.2〜1.6で、2.0以上は滅多にありませんでした。 それがなんと3に近い値とは!!

*:八反って八反錦のこと?と思いましたが、調べてみると別物で八反は広島を代表する酒造好適米で、有名な 「 八反錦 」 はこの広島八反から作られた改良品種だとのことです。

賞味結果

 データからみると、両者は原料の酒米と日本酒度以外は殆ど違わないのですが、私の感想は次のようでした。

A まず15度くらいの冬季暖房のない部屋に置いておいた酒・・・開栓してワイングラスに注ぐとその色はまさに薄茶色ないしは黄金色です。  BY2015 ( H27 ) で、瓶詰出荷が2017の9月ですから、 2年前後貯蔵熟成された酒です。 その上、精米度が70%で炭濾過なしですから、色が濃いのはわかるが、香りもまた特異としか言いようのない強烈な香りです。  江戸時代の日本酒はもしかしたらこんな香りだったのではと思えるほどの、何とも言えない濃厚な香りです。 一口含むと、これがまた 「 濃厚 」 としか表現のしようがない強烈な米の香りと旨味、酸味が口内一杯に広がります。

 生もとでもないし木桶仕込みでもないのに、いったいこれはどういうことなのか・・・ 私ごときには見当もつきません。 決してまずくはない・・・ただ、いつも飲んでいる日本酒とは、あまりに違いすぎます。 正直に言うと、最初は一瞬、「 ひねた 」 店晒しの酒でも 「 つかまされた 」 のかと思ったほどでした。  でも、ネット上の解説、評価を読み直すと、黄金色とか、酸味一体とか、日本酒初心者には飲ますなとか、上級者向けとか、癖が強いとか、いろいろ書いてあるし、やはり本来こういう酒なのでしょう。

 そこで今度はぬる燗と熱燗で1合ずつ味わい直しました。 飲んでいるうちに慣れてくると、「 変わった酒だけれども、確かにこれもありか・・・ウン、旨いのかな? 」 と次第に思えてきました。  でも、私としては3日続けて飲まされるのはご免です。 まあ、それほどに癖の強い個性的な酒でした。 評価不能と申しておきます。

B 簡単に書くと、上記のAと、色、香り、味ともほとんど同じです。 日本酒度はAより高いのに、やや甘みが強く感じられ、独特の味と香りはやや薄いという程度で、他社の日本酒とは全く違うその強烈な個性はAと全く同じです。  正直に書きますが、合計2升のこの酒を、捨てるのは勿体ないと10日ほどかけて飲み切るのに相当の克己心を必要としました。 いや、良い勉強になりました。 日本酒の世界は広い。

  2017年12月

 「 燗酒は安物の酒 」 だとか、「 安酒だから燗をして飲むとか・・・ いつの頃からか、このような迷信?が広く流布されてしまった一方、 「 上等の酒は冷酒で飲むべきだ。 お燗をしてはいけない 」 とか、「 日本酒は冷やして飲むのが上品な飲み方だ 」 とかいう別の誤解もまた広く信じられているように思います。

 しかし、江戸時代はもちろん、つい最近までは、日本酒と言えば、きき酒や 「 角打ち 」 の時など以外は お燗をして飲むものと相場は決まっていたように思うのです。   20世紀の末が近づく頃、吟醸酒がもてはやされるようになったあたりから、旅館でも料理屋でも家庭でも、 次第に日本酒を室温あるいはそれ以下の冷たい状態で飲ませる ( 飲む ) ようになってきていて、 とくに若い方々は日本酒はそう飲むものだと思い込んでいるようですね。

 私は純米吟醸だって一度は必ず燗をして味わってみて、冷酒のときとどう違うか記録し、もし美味しければ燗で飲みます *1。 純米大吟醸ですら、 一部をぬる燗にして飲んで見たことが数えきれないほどあります。  どの酒もそれぞれ、温度の違いで味が変わります。 時には思いもかけない大きな変わり方をし、驚いたり嬉しくなったりします。 

 それなのに、だいぶ上等な料理屋や旅館においてさえ、吟醸酒系を燗にしてみてくれと頼むと 「 このお酒は冷たくして飲んでいただきます 」 とはっきり断られることが珍しくありません。  「 自分が買った酒をどう飲もうが客の勝手だろう。 どういう人が何を根拠にそう教えているのだろうか 」 といぶかりながら、事を荒立てるのも・・・と、いつも泣き寝入りしています。

 もしかすると、昭和の30〜50年頃、粗悪な日本酒をお燗してごまかし、差しつ差されつ酔いつぶれるまでガブ飲みしていたあの 「 日本酒暗黒時代 」 に対する 反省がそうさせているのかも知れません。

 自宅での私はと言えば、真夏でも日本酒は燗をして飲むことが少なくなく、秋から春先までは100%燗酒です。 燗をする方法、道具やその手入れなどに注意を払えば、 簡単に最高の燗酒を味わうことができます。 上記のような誤解を解くために、この記事などをご一読くだされば幸いです。

 というわけで今月飲んだ燗酒のうちで旨かったのは菊姫の純米酒 「 先一杯 ( まずいっぱい ) 」 でした。 この酒蔵の酒は殆どがある期間貯蔵熟成されたもののようですが、 原料の酒米 *2 も良いものを使っているようです。 冷酒でも悪くありませんが熱燗気味のあたりで非常に美味しい。◎ 日本酒度が随分低いようですが決して甘ったるくありません。  日本酒度という指標だけでの甘辛の判定は当てにならないという良い見本です。

 菊姫 「 先一杯 」 石川県菊姫合資 兵庫三木市特A山田錦100%、 精米65% アルコール14〜15度 日本酒度±0 酸度1.3 製造2017.11

 そうだ。 そろそろ屠蘇散の良いのを探して買ってこないと・・・お屠蘇というのは非常によく考えられた美味しい日本酒ベースのリキュールですね。  大晦日の夜に純米酒と本味醂を漆塗りの銚子に注ぎ、屠蘇散を浸して暖房のない寒い部屋に放置したのを、元旦の朝、三段重ねの盃の一番大きいやつに注いで一気に飲み干す・・・ 私は大好きです。 ではまた来年。

*1:「 良い吟醸酒こそ燗にすべき 」 というのが本当だ。 特に純米吟醸酒は、燗にしてこそ本領を発揮するべきものである・・・これは 「 上原 浩著 純米酒を極める p75  光文社知恵の森文庫 」 にある上原氏の意見である。

*2:酒米と言えば、最近読んだ 副島 顕子著 「 酒米ハンドブック( 改訂版 )」は、ハンドブックとしては面白い本だと思いました。

  2017年11月

 今年の初め、行きつけの酒屋で、ふと見かけて買って飲んでみた 「 北島 」 の純米辛口・・・辛口の熱燗が好きな私にピッタリで、1升瓶を全部で4本ほど飲み続けました。  そのことはこの頁の今年の2月のところに書いてあります。

 早いものであれからもう9か月、「 北島が昨日入りましたよ 」 という酒屋の主人の声に、冷蔵の薄暗い戸棚を覗くと、見覚えのある 「 北島 」 の文字のラベルの一升瓶が3種類並んでいました。  「 全部飲んでみるおつもりなら、この順番でどうでしょう 」 と言われて最初に買い求めたのが・・・

 A 「 北島 純米吟醸 完全発酵辛口 」。 28BYで製造2017.10だから半年から1年ほど熟成した品でしょうか。 近江山田錦を精米55%、酵母7号系、アルコール15度、日本酒度+8、酸度1.7。

 ラベルの右端に書いてある 「 完全発酵辛口 」 の文字が気に入りました。 糖がまだ大分残っているのに、どんな理由か知らないが発酵を途中で止め、甘ったるい酒を売るなんて、私には許せません。

 まずは晩酌・・・冷酒でもまずまず良いが熱燗では私の好みにぴったりです。 日本酒度は一桁ですが、酸が利いているのか相当の辛口と感じます。 ある意味素っ気なく、濃厚な旨さはないけれど、スイスイと快く飲めます。  冷酒は〇で燗酒に◎としましょうか。

 毎日2合ずつ飲んで4日、比較対照用にと、あと2合残っているところで、今度は2種類目の濃い色のラベルの瓶を買ってきました。


A                           B                      C

 B 「 北島 生もと玉栄 ひやおろし 」 これも28BY ( 酉扁に元の漢字が拒否されるので、「 生もと 」 とひら仮名にしました )。  コメは近江玉栄で精米65% 酵母も6号と、Aとはだいぶ違います。 アルコール19度 日本酒度+18.5! 酸度2.6 と、 いずれも相当な値ですね。 この超辛口、しかも生もと仕込みの旨味は・・・と期待は膨らみ、買って帰る途中、今晩が楽しみでワクワクする感じでした。

 晩酌で冷酒と燗とで飲んでみたらまさに期待通りで、冷、燗ともに◎とは珍しいことでした。 主に燗で飲んだので、老体を労わろうと、少々割水してアルコールを16度くらいにしてから燗をしました。  難しいことはわかりませんが、生もと造りであることをはっきりと認識できる特有の旨味を楽しめました。

 燗の場合、冷酒の時には気づかなかったホンノリとした甘みを感じたのも面白い。 でもこの甘味は、私の嫌いな 「 甘っとろい 」 甘味ではなく、非常に上品な淡い甘みで、口の中でスッと消えてゆきます。  玉栄は滋賀県で最も多く栽培されている米ですが、キレのある辛口の酒ができると言われています。 まさにその通りですが、私には 「 どっしりとした辛口の酒 」 という印象です。  こんな手間のかかった旨い酒が税込み¥2,800で買えるとは嬉しいことでした。

 C 最後に買ったのが 「 北島 生もと純米渡船八十八% 無濾過生原酒 」 です。 米は滋賀県産渡船で精米はなんと88%! 酵母は6号でアルコール18度 日本酒度+11 酸度2.3です。  これもBY28の29/7瓶詰出荷です。

 低精白にとどめて貴重な酒米をフルに活用し、旨い酒ができるならこれに越したことはありませんが、低精白でしかも生もとで雑味をどこまで減らせるのかが勝負なのでしょう。  昨年、地元神奈川の海老名にある泉橋酒造に伺ったときにもこの種の意欲的な試みの酒を二、三試飲しましたが、今一つ感動できなかったことを覚えています。

 蔵元のホームページには、「 味わいは、透明感のある口当たりから、呑み進めると辛さが徐々に顔を出し綺麗に口中に流れ込んでくる魅惑的な1本 」 とあります。  さあ、この意欲的な酒はいったいどうなんだ・・・

 いつものように冷酒をきき酒用のワイングラスに注いで、香り、色、濁りなどを確かめます。 精米度からして当然なのでしょうが、色は黄色っぽいどころか、ごく薄いけれど褐色です。

 期待を込めてひと口すすりこみましたが、これはとにかく変わった酒です。 濃厚で複雑な旨味は期待通りですが、上記の 「 透明感のある口当たり 」 という表現は、私には感じられません。

 では、お燗をしてみましょう。 アルコールを15度くらいになるまで割水して、ぬる燗から熱燗まで色々変えて飲んでみます。 決してまずくはありませんが、とにかく普通の酒・・・例えば前記のAやBとはだいぶ違います。  私の舌に対しては個性が強すぎます。 肴を色々変えて2日続けて飲みましたが、3日目はもう飲む気が起きず、Bに戻り 「 ああ、これは旨い! 」 とホッとしたというのが、正直なところです。  評価不能と言うべきでしょうが、私の好みからすると△。 酒屋の主人が 「 これは最後に買いなさい 」 と言った意味も分かる気がします。

 せっかく買った酒を飲まずに捨てるわけにもゆかず、工夫してみました。 あっさりした、少々甘味のある酒、例えば今年の 「 石鎚 雄町純米槽しぼり 」 70%+この北島のCを 20%+割水10%のブレンドで熱燗気味にして飲むと、大変 濃醇 な辛口の酒となり、私には美味しく思えました。

 今度の冬は、Bを何本も買い込んで毎晩楽しむ事にしましょう。

  2017年10月

 10月1日は日本酒の日です。

 また秋は、「 ひやおろし 」 とか「 秋あがり 」 などと言って、なじみの酒屋の棚に、 例年のように色とりどりのラベルを付けた新入荷の瓶たち ( 無理に複数形にしました ) が並び始めます。

 ならば、今月はよい酒にめぐり会うべく努力せねばなりません。 というわけで、なじみの酒屋に入ると、 主人に 「 私も毎晩飲んでいる。 お客さんに合うと思う 」 と勧められたのが、最近とんと飲んでいない地元神奈川の酒でした。 残念だけれど、神奈川の酒の中には、 今まで私の好みにぴったり 「 これだ! 」 という物が一度もありませんでした。 この際、もう一度体験し直してみようか・・・4合瓶はないというので、高くもないし、ちょっと冒険でしたが1升瓶を1本購入しました。

 相模灘 特別純米無濾過瓶囲い [ PROTOTYPE ]  久保田酒造 製造2017.09 信州美山錦100% 精米60% 酵母6号 アルコール16〜17度 日本酒度 +3  酸度 2.0

 冷酒はやや甘いかなという程度でこれと言った特徴もなく、可もなく不可もなし。〇  熱燗にしたら今度は全く甘味が消えて極辛。 「 アルコールの辛味を意識させる 」 と言った感じが無きにしもあらず。 でもぐいぐい飲め、悪くはないので〇〜◎

 飲み終わって瓶を返しに行ったら、隣に 「 米違い 」 ( 山田錦100% ) で他の記載は全く同じ ( ラベルも色違いでデザインは全く同じ ) という酒があるのに気づき、「 これはどうか 」 と聞くと、 「 まだ飲んでないけれど、山田錦だから美山錦より旨味はある筈だ 」 と言います。 ¥300ほど高いが 「 米較べ 」 も面白いので1升瓶を買いました。

 これは最初の美山錦のより良い。 冷酒でも素直に美味しく飲めます。〇〜◎  熱燗では甘味は少なく辛味も感じさせないのに旨味が冴えてきます.◎

 最後に買ったのが、同じ酒店の冷蔵棚になんと1年も売れ残っていた去年の酒でした。 思い出のある山形の酒田市にある蔵元ですし、「 超辛口で完全発酵 」 というラベルの文句に惹かれてこれも1升瓶を購入。  ラベルには書いてないが、帰宅後ネットで調べたらコメは五百万石で日本酒度は+15もあります。

 上喜元 超辛 純米吟醸生酒 完全発酵 酒田酒造 五百万石 精米50% アルコール16度 日本酒度+15 酸度1.3 自社酵母 製造2016.11

 冷酒では甘味、旨味ともちょうど良く感じられ、私には珍しいことですが冷酒でスイスイと飲めます。◎  熱燗では甘味は少なく辛味も感じさせないのにコクが冴えてきます。◎   今月後半は、暑い日は冷酒、涼しい日は燗ということですからこの酒で過ごしましょう。 近いうち、同じラベルで今年製造の品も店に並ぶことでしょう。

  2017年9月

 「 寳劔 純米 極辛口 」 がよかったので、それよりやや辛さの少ない 「 寳劔 純米 超辛口 」 を買ってみました。 これなら定番品だから、いつでも買えるし、値段も少し安いのです。  日本酒度は前者が+20前後、後者は」+10前後で、原料米、精米度その他はすべて同じです。 私には、どの温度でも両者は良く似ていると思えました。 ただ前者の方が僅かずつですが旨味、 口当たりの柔らかさの点で一回り優ると感じました。 後者はやや「 ゴツゴツしている 」 とでも言ったらよいのでしょうか。 そこで極辛口をもう一本購入し、今度の冬に楽しむために冷蔵庫に保存しました。

 このページに今まで書いた 「 焼山の里 」 ( 12月 )、 「 石鎚 」 ( 1月 )、「 北島 」 ( 2月 )、「 天吹 」 ( 5月 )、「 十水 」 ( 6月 ) などは、北島と天吹以外は特に辛口とも謳っていないし、 日本酒度もそれほど高くありません。  それでも、決して甘ったるくなく、冷酒でも良いが燗をすれば何とも言えない快い旨い酒になります。 こういう酒が本当の日本酒なのではないかと、 ( 生意気とは思いますが )考えている今日この頃です。

 これらの酒は、それぞれ、新潟、愛媛、滋賀、佐賀、山形の酒です。  寳劔は広島です。 どの地方の酒というわけではなく、日本中あちこちで、そういう私の好みに合う酒がまだ造られているということです。  よし、これからも探すぞ!!

 ということで、出雲富士 純米吟醸超辛口とか、高砂 純米辛口とか、いろいろ買ってみました。 でも、なかなかこれはという品に出会えません。 ところがある日、この両者が一合ずつほど瓶の底に余ったので、 面倒だとばかり、混ぜて2合にしてお燗したら、何とも絶妙な辛口の旨い呑み口に仕上がりました。  まるでウィスキーのブレンディングのようです。 日本酒は奥が深いですね。

  2017年8月

 ( 先月分の最後から続く ) そういうわけで、「 なんとか甘ったるくない酒に出会いたいものだ 」 と朝晩心がけていたら、ありました、ありました!  ある酒販店から届いたメールに載っていた 「 寳劔 純米 極辛口 」 ・・・『 寳劔の定番酒 「 純米 超辛口 」 をさらに超える 「 純米 極辛口 」。   日本酒度は+20! 辛さアップはもちろんのこと、旨味があり少しの甘味があり、味わうことに耐えうる上品な辛口酒に設計しています 』 という謳い文句・・・

 また、他の店からのメールには 『 久々の期間限定新商品、土井鉄渾身の 「 極辛口 」。 15週年記念酒として、もっと旨く、もっと辛口な純米酒を極めようと考え醸したお酒。  旨口と辛口のバランスのとれたお酒はとても難しい。 そこを敢えて挑戦したのがこの 「 極 」。 旨味があり、少し甘味も感じ、そしてエレガントなキレのある味わい 』 ・・・

 こうまで言われたら、宣伝文句は3分の1くらいに割り引かねばならないとしても、土井鉄氏を信じて買わないわけにはゆきません。  他の旨そうに思えた酒 『 「 超 」 王禄 ☆☆☆☆☆ 中取り限定120本 』 と一緒に即発注購入。

  まずは寳劔 純米 極辛口 広島産八反錦100%、精米60%、アルコール16度。 15度くらいに冷やして、きき酒用ワイングラスで。 純米酒なのにごく僅かだが吟醸香があります。  一口含んで 「 なんだ、普通だ 」 というのが第一感です。 上記の解説にも 「 少し甘味も感じ・・・ 」 とありますが、その通りです。 でもこのくらいの甘味なら私にはちょうど良い。  しっかりした旨味、それに少々の辛味も感じます。 慣れてくるといくらでもスイスイ飲めるという感じでしょうか。 期待が大きすぎたせいもあり評価は〇〜◎  でも、この酒が1800mlが1本税抜き¥2,700は良心的な値段だと思います。

 次に熱めの50〜55度くらいの燗酒に。 一口飲んで感動しました。 冷酒のときの僅かな甘みと辛味は消え、旨味は倍増。 これほど味に過不足がなく、滑らかな口当たりの燗酒を飲んだ記憶はありません。  ◎どころか三重丸を進呈したいほどです。 「 燗映え 」 とはこういうことを指すのでしょう。 ある酒販店の頁にはお勧めの温度は冷酒から常温とありましたが、まあ、その辺は好みの個人差としておきましょう。  私は熱めの燗を勧めます。 こんな極辛口がちょうど良いと感じる私の味覚が偏っているのかもしれませんが・・・とにかく追加発注しました。

 さて,もう一つの超王禄はどうでしょう か。 これは1800mlが1本税抜き¥3,600ですから、ちょっとは感動させていただかないと困るのですが・・・10〜15℃くらいで飲むと、 旨味は実に濃厚ですが、やはり私には甘すぎます。○ 燗をすると甘みは減りますが、濃厚な旨味はしっかりと残ります。 というより、私には少々濃厚すぎます。○〜◎  この酒は熱めに燗をするとわずかだが細かい泡が湧いてきます。 生酒とは書いてありませんが、瓶詰め後も多少の発酵が進んでいるのでしょうか。

  2017年7月

 だいぶ暑くなってきたので、夕方早いうちから、冷えた缶ビールやBeefeaterで作ったジントニックなどを飲むことが多くなりましたが、日本酒についても、さすがに熱燗はやめて暫らくは冷やした上質の 大吟醸でも飲んでみようかと考え、ちょっと散財して以下の四合瓶4本を買い求めました。 このうち、紀土と二兎は、名前は目にしたことがありますが、過去20年の間に、 どんな種類の酒も一度も飲んだ記憶がなかったので、楽しみでした。

A.『 紀土 純米大吟醸 山田錦45 』 平和酒造 [和歌山県] 山田錦100%、アルコール15度 精米45% 悪くはないと思うが私にはやや甘すぎ。△〜〇

B.『 二兎 純米大吟醸 雄町48 生原酒 』 丸石醸造 [愛知県] 備前雄町100%、アルコール16度 精米48% 今までこれほど甘い日本酒を飲んだ記憶はありません。 甘口の白ワインよりもっと甘い。  甘口の好きな妻もビックリするほどでした。 残念でしたが一口でやめ、彼女にあげてしまいました。×

C.『 日高見 純米大吟醸 ブルーボトル 』 平孝酒造 [宮城県] 山田錦100% アルコール16−17度 精米40% 香りは少ないが旨みもあり甘みも適度でよいバランス。  やはり私には東北の酒が合うのでしょうか。〇〜◎

D.『 飛露喜 純米大吟醸 』 廣木酒造本店 [福島県] 山田錦100% アルコール16度 精米:麹40% 掛け50% アルコール度16度   手に入りにくいことでは有名な酒のひとつだけあって、スムーズな喉越しと良質の旨味がありました。 口に含んだ瞬間はやや甘過ぎますが、その甘さは口内ですぐに消えて、旨み、 コクがあと口に残ります。◎

 以上が終わった後は、再び毎晩ジントニックでスタートし、2杯目からはイチローズモルトのミズナラウッドリザーブ ( MWR ) を飲みました。 氷とウィスキーと炭酸を1:1:1くらいが私の鼻と舌には合いました。

 それにしても、なんでまた、最近の大吟醸はこんなに甘くなってきてしまったのでしょうか。 欧米に輸出して、欧米の料理を前にして白ワインと競おうとしているのでしょうか。  それとも、最近増えてきている若い女性の日本酒入門者たちを惹きつけようとしているのでしょうか。 私ごときには何故だか全くわかりませんが、なんらかの理由があって 「 以前のように糖を十分に発酵し尽くすことはしない 」 という方針があるとしか思えません。

 これらに比べたら、5月に書いた天吹の超辛口純米酒の冷酒の方が、私には、はるかに美味しいと思えます。 この酒はもう1升瓶を2本、4合瓶を5本くらい買い、友人たちにも飲ませ、 その半分くらいをまだ大事に冷蔵庫にとってあります。

 改めて思い出しました。 このページの今年の2月のところに書いた私の感想に対して、北島酒造のご当主が、「 ( 前略 ) 歳を重ねると共に、日本酒本来の食中酒としての姿に魅かれていき、 「 北島 」 ブランドとして試行錯誤の日々が続いておりました。 そして今、熊井様のページを拝読して、華やかで薫り高くインパクトの強い甘口の酒が好まれる昨今にあって、キレの良い、燗をしてこそ映える酒という、 自分の信念を貫いてきて本当に良かったと、非常に嬉しく思っております ( 後略 ) 」 というご感想を送ってきてくださったのです。

 ワインが赤と白とに大別されるように、同じ食中酒でも、日本酒の場合は、冷やして大きなグラスで飲む甘口の吟醸酒系と、燗して小さな器で飲む辛口の純米酒系とに今後、はっきり二分されて行くのではないかと、 ふと思ったりさえする今日この頃です。

  2017年6月

 山形県の酒田市に旅行してきました。 当地で開業医をしている高校時代の同級生M氏に会い、 市内の歴史的な施設を案内してもらうためでしたが、酒どころ山形県ならきっと良い日本酒にめぐり会えるだろうという魂胆も、もちろん十分にありました。

 酒蔵の見学は一カ所だけでしたが、お宅に伺った時には、奥様が山で自ら採ってきたという、天然自生のアスパラガスほか種々の珍しい山菜や、 取り寄せてくださった全国的に有名なあの寿司割烹 「 こい勢 」 のにぎり寿司などを肴に、 彼が並べてくれた地元の著名な銘柄の大吟醸級の酒を、片端から色々と飲ませてもらいました ( 写真上 )。

 このような素晴らしい環境で飲ませて頂きながらこう言うのも失礼とは思いますが、もちろんこれらの酒は皆、美味しかったけれど、「 これだけ高級・高価な酒なら、 このくらい旨くて当然 」 と思うだけでした。

 一晩泊まった、ある温泉旅館の夕食の時には、著名な山形の銘柄がずらりと並ぶリストを見ながら何を飲むかと迷いましたが、 彼が勧める 「 十水 ( とみず ) * 」 という、私が一度も聞いたことがない特別純米酒 ( 写真下 ) を熱めの燗にしてもらって飲んだところ、 そのコクのある濃醇な味わいが地元の料理とマッチして、これはまた何とも絶妙で、気持ちよく幾らでも飲めました。◎

 「 高い酒だけが旨いとは限らないんだよ。 ここでは安い酒にも、探すと良い旨いのが沢山あるんだ 」 という彼の言葉が、 この 「 酒どころ山形 」 では確かに真実味を持って響くのでした。

 ぜひもう一度飲みたいと考え、 帰途、特産品の売り場を幾つか歩き回りましたがこの酒は見当たらなかったので、 帰宅後さっそくネットで探し当てた酒田市の酒販店から1升瓶 ( 税抜き¥2,520 ) を2本取り寄せ、毎晩それを飲み続けています。

 よくあることですが、自宅で飲むと、旅行先で楽しい雰囲気の中、その土地の料理と一緒に飲んだ時より 「 旨い! 」 という感動が起きにくいという現象が、 この場合もありました。 しかしそれでも、この燗酒は非凡でした。

 あとで調べたら、この酒は5年ほど前のIWCの純米酒部門の他、国内外の幾つものコンテストで何度もメダルをとっているとのこと、私が知らなかっただけで、 決して無名の酒ではありませんでした。 参考までにデータを:原料米はなんと山形県産の食用米として有名な 「 はえぬき 」、精米歩合 60%、酵母は山形KA、 日本酒度 −5.5〜−6.5、酸度 1.7〜1.8、アルコール 15.0〜15.9%、 酒田市加藤嘉八郎酒造

*:十水 ( とみず ) とは日本酒の仕込み配合のうち仕込水の割合を示す言葉で、一つの醪 ( もろみ ) に仕込む白米10石 ( 1500kg ) に対して、10石 ( 1800L ) の水で仕込むことだそうです。 この割合は江戸時代後期から末期にかけ灘地方で確立されたもので、 昭和30年代まで酒造りの基本形とされていたそうですが、現代の仕込みよりも10〜20%水が少ない濃厚仕込みです。



    2017年5月

 冷蔵庫から出して間もない10℃ほどの冷酒から50℃以上の熱燗まで、その中間の幾つかの温度帯も含めて味わってみて、 初めてその酒の特徴が分かり、自分の好みに合っているかどうかも判断できるのではないかと、私は思っています。  更に開栓後半分残った酒を20℃くらいの部屋に何日も置いてから飲んだら風味が変わっていたという事も時々あるし、 アルコールが17度とか18度とかいう濃い酒は、割水して15度くらいにして飲むと良かったりもします。

 そういう過程でいろいろと試してみても、どうしても私の好みに合わない酒というのもありますが、そういう酒は駄目だなんて、そんな高慢無礼なことを、私はは申しません。  人の好みは千差万別です。 どんな酒にも 「 私はこれがいい 」 というファンが居るはずです。 私が甘ったるくて飲めないと放り出した酒を、 妻が美味しいと言ってチビチビ舐めていることもあります。

 私がどうしても好きになれない酒とは、極く単純に表現すれば、「 ねっとりと甘ったるい酒 」 と 「 旨味の感じられない酒 」 です。

 今月は気温の変動が大きかったせいもあり、冷酒と燗とが半々という感じでした。 甘ったるい酒を敬遠して、「 超辛口 」 などと謳っている酒や、 日本酒度の高そうな酒の4合瓶を次々に買ってきては試していました。

1. 出羽桜 雄町無濾過生原酒純米吟醸 雄町100% 精米50% アルコール17度
2. 上喜元 超辛 純米吟醸生酒 精米50%  アルコール16度
3. 臥龍梅 純米吟醸生原酒超辛口 五百万石100% アルコール16−17度 精米55% 日本酒度+9 酸度1.2
4. 黒帯悠々 特別純米 山田錦55%、金紋錦45%  アルコール15度 精米68% 日本酒度+6 酸度1.6
5. 八海山 純米原酒 SIN61 アルコール18度 精米60%
6. 天吹超辛口純米酒 アルコール15度 精米60% 山田錦100% 日本酒度+9.5 酸度1.6
7. 大七 純米生もと 爽快冷酒 アルコール14度 精米69%

   甘過ぎると思ったのが1.3.4.5. 逆に辛過ぎと感じたのが2.丁度良いと思ったのが6.7.でした。 中でも6.が冷酒から熱燗まで、どの温度でも控え目な甘味と、 旨味とが丁度良い加減のバランスでした。 ◎  早速1,800ml瓶を買ってきて本格的に毎晩飲みました。

 九州の酒を飲むのは本当に久しぶりです。 この佐賀の天吹酒造という蔵の酒については、この欄で2016年の3月に、赤い古代米を用い造った酒について一度書きましたが、 この蔵では、ほとんどの酒を、さまざまな種類の花から採った酵母を用いて作っています。  上記の7.は、蔵元に質問したら、米は佐賀産山田錦、酵母はなんと月下美人の花から採った酵母だとのことでした。 意欲的な挑戦の姿勢に私は興味を感じています。

  2017年4月

 いくら純米酒の熱燗が好きな私でも、お彼岸を過ぎれば、まして夕方の速足のウォーキングから家に戻り、風呂で温まった後などは、冷やした純米の吟醸か大吟醸あたりを、 スズの器に移し、スズのぐい飲みに注いでキューッとやるのが一番です。

 ところが、ひとくちに純米吟醸と言っても、酒の味はまことに千差万別です。  飲み手の要求も千差万別なのですから、それは勿論当然ですし良いことなのですけれど、 自分の好みに合った一本を酒屋の店の棚から選ぶのは至難のわざとなってしまいます。 「 超辛口 」 とか 「 完全発酵 」 とか書いてあると、つい手が伸びるのですが、 その殆どすべては口当たりがきつく、好きになれません。 と言って、以前このページに何度も書いたように、最近の酒の多くはなんとも甘ったるくて不愉快です。

 昨年飲んだ時の記録を参考にして良かった酒を選べば・・・と思いますが、日本酒の製造における品質のの再現性の不十分さはご承知の通りで、 昨年と全く同じラベルの酒の中身が、昨年のそれと全く同じ味と香りだという保証など、まずないと私は最近感じています。  現状の製造設備と技術のレベルではこれは致し方のないことでしょうし、仮に精密化学工業の製造におけるような完璧な防塵・空調や精緻なプログラム制御を採用し実施したとしても、 肝心の主原料の米が天然物では、年ごとの僅かな差は不可避でしょう ( それを何とかするのがまた、造る側にとっては面白い事でもあるらしいのですが )。  昨年飲んで旨かった銘柄を今年買ってみて 「 いや、去年のとどこか違う 」 と感じる事は決して珍しくないと思います。

 ですから、「 旨い! 」 と思った酒はもう一本買ってそれは飲まずに冷蔵庫にしまっておくということとなり、冷蔵庫内のスペースが足りなくなってもう一つ日本酒専用の小型冷蔵庫を 買うことになり、その内に新しい冷蔵庫を置く場所が見つからなくなり・・・という悪循環が我が家では起きかけています。 余生も短いというのに愚かな話です。

 そんな中で、今月いろいろと飲み比べた中では、栃木の松井酒造の「 松の寿 源水点 斗瓶採り大吟醸原酒 」( 精米40% アルコール17〜18度 日本酒度+5  酸度1.25  協会1811+901酵母 BY27 製造2016.03 ) が最高でした。 昨年暮れに泊まった或る宿で揃えていたいずれ劣らぬ銘酒の中に、 知らない銘柄の酒が一つだけあって、それがめっぽう美味しかったので、蔵元に電話して取り寄せたのがこれです。 フルーティな吟醸香の上品さも秀逸なら、 程良い控え目な甘味と旨味のバランスも何とも絶妙です。

 ほんのり僅か甘いだけなのに 「 アルコール 」 を全く感じさせないスッキリした柔かさがあります ( これだけアルコール度数の高い原酒ですと、 その強さに私の舌は抵抗を感じることが多いのですが、この酒にはそれが全くありません )。  おととしの暮ころ仕込み、昨年の春に出来あがって瓶の状態で一年ほど経った酒ですね。 2012年にはIWCでゴールドメダルを取ったというのもうなづけます。  文句なしの ◎ 余りの旨さに、馴染みの寿司屋に持ち込んで飲むという事までやってしまいました。

 唯一の欠点はお値段で、蔵元から1升瓶を取り寄せたら送料やら何やらがあって1万円以上でした。 私ごときが毎日飲み続けられる酒ではありません。

    2017年3月

 私が現在のような熱心な日本酒マニアになった 「 きっかけ 」 について記しておきます。 私と、大学の同期の友人たち20人ほどは、横浜にある ( 現在は取りこわされてもうない ) 某大手企業のクラブに毎月1回、15人ほどが集り、夕食を共にしながら歓談するということを、かれこれ15年以上も前から続けています。

 その仲間の中に日本酒に造詣の深い人がいたためもあり、そこでは、毎回種類を変えて、日本中から選んだ銘酒を2〜3種類、冷酒で1合ずつ食事中に味わう事になっていました。  でも当時の私は、日本酒の種類にも味の微妙な差にも余り関心も知識もなく、出された酒をただグビリグビリと毎回2〜3合飲み干しては帰るだけでした。

 所が、今から6〜7年ほど前の或る日、その席で何の前触れも説明もなく ( つまり私には何の先入観も知識もない状況で )、いつものように出されたある酒を一口飲んだ私は 「 これは何だ! これは違う! これは旨い! 」 と本当に驚いたのです。 早速その酒のラベルにある名前、醸造元、その住所などを割箸の袋に書きとり、家に持ち帰りました。

  そして翌朝、早速その醸造元に電話をかけ、その酒を買いたいと申し込みました。  すると 「 うちは直売は致しません 」 という返事です。  「 では私の家の近くに売っている酒屋が有りますか 」 と聞いたら、「 神奈川県には直売店が2軒有ります 」 とその名前を教えてくれました。

 そこで私はすぐにその一つの電話番号を調べ、電話すると 「 この酒はどなたにでもお売りするというような品ではありません 」 と言うのです。  「 ではどうすれば売って貰えるのですか 」 と聞いたら、「 貴方様が私どもの店でいつも酒やその他の品を買い続けてくださり、常連のお得意様になったら、 カードポイントの順番にお売りする機会が出来ると思います 」 と言うのです。

 その店は私の自宅から電車や車で2時間近くもかかる所です。 そんな店の常連客になれる筈はありません。 この時点で私は初めて、 そういう 「 誰でもが定価で簡単に入手出来るという訳にはゆかない特別な銘柄の日本酒 」 というものがこの世にはあるのだという事を知ったのでした。

 今から考えると、無知も甚だしい・・・何ともお恥かしい話でした。 「 その酒の名は何か 」 って? 「 秘伝玉返し 十四代 本丸生詰 」 という酒でした。

 とにかく、私は当時それほど無知だったのです。 十四代と名のつく酒がオイソレとそこらの酒屋で買えるはずなどありません ( 試しに今回 Amazon で調べたら、この酒の1.8L瓶が¥3万程で売られていました。 正価の十数倍のプレミアム価額ですね )。  現在ちょっとでも日本酒に関心がある人なら、それくらいは誰でも知っていることです。 でもそれすら知らないほど無知だった当時の私が 「 これは何だ! これは違う! これは旨い! 」 とあの日驚愕したのもまた、まぎれもない事実でした。  当時の私でも、既にそれ以前の十年ほどの期間に何百種と言う日本酒を飲む事だけはしていましたから、他の酒との大きな差くらいは瞬時に直感出来たのです。

 でも当時は現在よりはまだしもこの酒が入手しやすい時代でした。 その年の暮れ、近くのスーパーに年末に買い物に行った時、酒の売り場に、 忘れもしないこの酒瓶が10本ほど並んでいたのを偶然見つけたのです ( 現在はもうそんな奇跡があり得る筈はない )。  値段は1.8L瓶1本がたしか1万円くらいで、それでも正規の値段の約4倍でしたが、私は迷うことなくその場で1本買い求め、お正月に一人で大事に飲みほしました。

 私は買った ( 頂いた ) 酒は、写真だけ撮って整理保存し、空き瓶は全て近所の酒屋に回収に出します。 しかしこの酒の瓶だけは今も自室の片隅に保存してあります。  最近は高価で美味しい酒を時々は飲むようになりましたが、とにかく、何の説明も先入観もなく飲まされたあの時のあの衝撃が、今も忘れられないからです。

 その直後からです。 私は本気で日本酒について勉強しようと考えるようになりました。 次から次へと本を買って片端から読みました。  そしてついに、日本酒のきき酒師の試験を受けようと一念発起し、それを達成するほどまでの日本酒マニアなってしまいました。  そのきっかけを与えてくれたのが、この山形の酒 「 秘伝玉返し 十四代 本丸生詰 」 だったという事です。

  2017年2月

 私が過去にネット通販で買ったことのある日本各地の大きな日本酒通販店から、毎日、平均数通のメールが私あてに届きます。  しかし、そこで紹介されている日本酒は、ほとんどが高価な ( 純米 ) 吟醸酒や大吟醸酒ばかりです。  でも、今この季節に私が欲しいのは、冷やしてグラスで飲むこの種の高価な酒ではなく、やや熱めの燗にして 「 キレが良く、甘ったるくなく、 素直で飲み飽きしない 」 純米の食中酒なのです。

 そういう酒は、概して安価なので、造る蔵元や取り扱う販売店にとって利益が少ないからなのか、通販店のメールの中にはなかなか見当たりません。  たまにそれらしき酒があっても、私の嗜好に合わない甘ったるい酒だとガッカリするので、試飲もせずに買うのは冒険過ぎます。

 私が欲しい種類の酒は、地元の酒店で 「 何かこういう酒は置いてないのか 」 としつこく尋ねて、やっとのことで 「 これなど如何でしょうか 」 と出される中から、 ラベルの記載を頼りに選び出すしかありません。 でも、その選択が偶々当たると、それは愉快なものです。

 その一つが、最近見つけて、毎晩飲み続け、今日でもう1升瓶で3本目になる滋賀県の北島酒造の 「 純米辛口 北島 」 ( 玉栄100% 精米65% 酵母7号 アルコール17度 日本酒度+12.0 酸度2.2 ) でした。 27BYと書いてあるので、造り終わってからちょうど2年ほど熟成されています。  この酒は、割り水して15度くらいにし、52〜3℃ほどの熱めの燗をすると、本当に癖がなくスイスイと飲めます。◎   一度、間違えて62℃位にまで温めてしまった事がありましたが、これはこれでまた美味しかったのでした。 先月紹介した 「 石鎚 」 と、 とてもよく似ていますが、石鎚には女性的な穏やかさ、この北島には男性的な勁 ( つよ ) さが感じられるという僅かな違いがあり、しかしどちらも私の好みに大変よく合っています。

 数日前、この瓶のラベルを眺めながら飲んでいたら、蔵元の住所が滋賀県湖南市針と書いてあります。  これは琵琶湖の南の方だなと思ったとたん、ハッと頭に閃めいたのが、「 以前、この酒蔵の前を通った事があるらしいぞ! 」 というかすかな記憶でした。  そこで急遽アルバムを開いてみたら、矢張りそうでした。

 私は、72歳から77歳にかけて、ボチボチと計41日もかけて 「 旧東海道 」 を東京の日本橋から京都の三条大橋まで歩いた事があります。  2010年3月18日には滋賀県の水口 ( みなくち ) の宿場から石部 ( いしべ ) の宿場まで歩いていました。 途中小雨が降ってきて、傘をさしながら歩いていると、 街道の左側に立派な造り酒屋の建物があり、その店先の軒下で雨宿りをしていた小学生のたたずまいが可愛いかったので、写真に撮りました。  その記録はここの第38日にあります。

 その写真を見ると、のれんに 「 北島 」 の二文字が・・・「 ああ、そうだったんだ! この酒はあそこで造られた酒なんだ 」。 そういう楽しい思い出が重なり、 この酒が一層美味しく感じられたことでした。

  2017年1月

 さあ困った。 知人から頂戴したのがきっかけで偶然見つけたお気に入りの酒 「 加賀の井 焼山の里 」 ( 12月の記載ご参照 ) が、 先月の糸魚川大火災による蔵元の焼失で当分手に入らなくなりました。 そこで、行きつけの酒屋で、何か良さそうな似た酒がないかと、 あれこれ主人 ( 彼もきき酒師 ) に相談していると、その内に 「 それならこれはどうです? 」 と示されたのが備前雄町100%の 「 石鎚 雄町純米槽しぼり 」 という一升瓶。  燗酒でますます美味しいみたいな事がラベルに書いてあります。

 愛媛の代表的な酒 「 石鎚 」 は、何度も色々な場で紹介されているのを読んだことがあるけれど、確か、原料の水 ( 四国の、いや西日本の最高峰である石鎚山からの伏流水が西条市内のどこでも泉のように自噴してくる ) の性質に起因して甘口の酒になると、以前どこかで読んだように記憶していますが、この齢ですのでその信頼性には自信がありません。

 「 熱燗で飲むのよ。 トロリと甘いのは嫌だよ 」 「 大丈夫です 」 というやり取りを信じて買ってきました。 いつもならまず4合瓶で買って、 美味しければ1升瓶を買うという順序なのですが、4合瓶が置いてないので、今回に限っていきなり1升瓶です。 ちょっぴり心配。

 まず15℃くらいのを 「 きき酒 」 用のワイングラスに少量注いでみます。 27BYなのに2016年12月製造とあるから、 1年以上も貯蔵熟成された後で瓶詰め出荷された酒です。 ということで、西日本の酒でもあるし、当然薄黄色を帯びています。 純米酒なのにうっすらと果実の香りもあります。  口に含むと甘味、旨味、それに僅かな苦味が一斉にズンと強くアタックしてきますが、それらは急速にサッと消えて行きます。

 「 雄町純米の良さを最大限に引き出そうと思ったらやっぱりお燗です 」 とこの酒のネットの説明文には書いてありました。 よくわからないけどそういうものですかね。  まぁいいや。 お燗をしましょう。

 錫製のチロリに2合注いで上から見ると、底で反射して光が往復するためグラスの時とは比較にならないほど黄色は濃く見えます。  こんなに濃い色していて大丈夫かな・・・と考えながら熱湯に漬けて待つこと数分。 温度計を見ながら50℃くらいの熱めにして輪島塗のぐい飲みに注ぎ、 期待を込めて一口・・・「 旨い! 」

 甘味は少なめで私には丁度良く、しっかりしたふくよかな旨味がじんわりと口の中に広がります。 あと口はすっきり。 愛媛の酒だからということで、 肴はグチとイワシの2種類の揚げかま ( 但し宇和島製ではなく共に小田原製 ) を冷蔵庫から取り出して暖めてみましたが良く合います。  「 焼山の里 」 と同じレベルか・・・いや、私には更に旨い酒だとさえ思えました。 価額もリーズナブルですし、あと数本買っておきましょうか。  そうすれば、今年の冬場の晩酌は当分ひと安心です。 ◎

 石鎚は、2016年7月に行われた SAKE COMPETITION 2016 で、各部門でいくつも上位を獲得しており ( 2014年、2015年は全く顔を出していなかった )、 現在、良い酒を送りだす優良蔵元の一つとされているようです。

  2016年12月

 最近、近所の知人から旅行のお土産にと頂いた新潟の酒が、このところ気になり続けていた甘辛のバランスの点で、 私にはまさにぴったりでした。 最近数か月買い求めた酒は、9割ほどが私にとっては甘過ぎでしたし、逆にごく少数の 「 辛口 」 を謳った酒 ( 先月書いた昇龍蓬莱の他、天狗舞の超辛純米酒など ) は甘味が少な過ぎる一方、ピリピリとした刺激的な辛さがあります。  先月書いたように、両者を混ぜてようやく私の好みの微妙な甘さに加減してから燗をつけて飲むしかないという状況でした。

 ところが、この頂き物の加賀の井の 「 焼山の里 」 という新潟の糸魚川産の純米吟醸酒 ( 加賀という名だが石川県産ではない ) は、 甘味が丁度良いだけでなく、旨味も良いし、「 燗映え 」 もします。 もっと飲みたいと思いましたが、近所の酒屋には置いてありません。  仕方なくネットで探しましたが、全く同じブランド名でありながら原料の酒米が違う ( 高嶺錦ではなく五百万石 ) 物もあったりして*、なかなか見つからず、 それでもやっとのことで全く同じ酒の1升瓶を手に入れることができました。

 この1升瓶を飲んで、改めて 「 この酒は旨い! 」 と確認できたので、暮れから正月には、熱めの燗でじっくり飲もうと考え、値段もリーズナブルなので** 更に2本買いました。  冷酒での含み香は結構あり、冷でも燗でも旨味がしっかりしています。 最近の酒によく見られるネットリした甘味は全くなく、と言ってピリピリ辛いわけでもない ・・・程良いほのかで上品なな甘味です。 「 芳醇辛口 」 の酒とでも形容したらよいのでしょうか。◎

*: 本当にこんなことがあるのかどうか分かりません。 販売店の記述のミスかも知れません。 でも酒米が違ったら、例えラベルが同じでも、それはもう同じ酒ではなく、 味が全然違うことだって十分あり得るのです。

**: 最近、一部の有名銘柄の吟醸系、大吟醸系の高額化は、目に余るものがあると思っています。 4合瓶で5千円以上、 1升瓶で1万円以上で驚いていたら、更にその上を行く値段を付けて・・・それでも買う人が沢山いるという事自体、異常ではないかとさえ思いますが、 一部のメーカーがそれに甘えて高額化を競っているとしか思えない現状を悲しく思います。 1升瓶 3千円程度で、多くの人に 「 旨い! 」 と言わせるような酒を造り供給しなければ、 最近の日本酒ブームもまたすぐに衰退してしまうのではないかと思います。

 ふり返ってみると、この数年、私が飲んできた酒は7割以上が東北や北陸の酒であったのに、両者の中間に位置する新潟の酒はほとんど飲んでいませんでした。 言うまでもなく、 新潟県は酒蔵の数が日本一多い県です ( 約90 )。 新潟の日本酒の特徴は別の資料に譲るとして、 私が今まで半ば無意識に新潟の酒を避けていたらしい?のは、新潟には、灘や伏見ほどではないが、有名すぎ、大規模すぎる酒蔵が多いことと、25年ほど前、在米中、 友人が成田空港で買ってきて土産にくれた新潟の某有名銘柄の陶器の壺入りの高価な日本酒が、まっ黄色に変質していたのですが、 その後の不誠実なクレーム対応にすっかり腹を立てた事などが、もしかしたら原因と思われます。

 来年からは、この加賀の井を中心に、もっと新潟の酒にも手を広げて見ようと思いました。

 追記:暮も押し迫っての22日に、糸魚川は大火に見舞われました。 その晩、TVを見ていたら、 加賀の井酒造の若い幹部の人が出てきて、蔵元も被害に遭っているようだが、避難していてよく分からないというような事を話していました。  早速、ネットの記事で延焼区域を調べたら、蔵元の建物はそのド真ん中に在るのです。 本当にお気の毒でしたし、私にとっては残念至極なことでした。

 別の話題ですが、先日プーチン大統領が泊まった山口県の高級な宿で夕食時に食中酒として出されたのが、私がこの欄の5月の所に書いた 「 東洋美人 壱番纏 純米大吟醸 」 だったそうです。  私はこの酒に◎はつけたくないと書きましたが、プーチンはお世辞かもしれませんが大いに気に入ったそうです。 まあ、人それぞれですから、どうでもよいことですが。

  2016年11月

 夏でも冷酒より燗酒をどちらかと言うと好む私は、めっきり寒くなってきた11月ともなれば、当然のように燗酒、 それも50℃前後の熱めのを毎晩愛飲しています。 燗酒となれば当然、生もと純米、或いは山廃純米あたりを選んで買ってくることになりますが、ネット通販でこれぞと思う品を買っても、地元の酒屋で一生懸命探してきても、 最近はどの酒も皆同じような味に思えてなりません。 冷酒でも燗でも、どの酒も最初に 「 グン! 」 と強い甘味が感じられ、私は感心できないのです。

 これは私だけの感じ方なのかもしれませんが・・・ということで結局たどり着いた酒の一つが、地元神奈川の大矢酒造の 「 昇龍蓬莱 生もと純米吟醸辛口師匠ひやおろし 」 でした。  徳島産山田錦100% 精米60% アルコール15% 日本酒度はなんと+15! 酸度1.6という酒です。  でもこれですと、 一升瓶を追加購入して飲み続けている内に、さすがに時にはちょっと辛口すぎると思う日もあります ( たすき肩ラベルに 「 辛口師匠、勘弁して下さいよ 」 とある )。  そこで一計を案じ、余りに甘過ぎて少し飲んだだけで辟易して冷蔵庫に放置してあった、ある三重県産の純米酒を1割ほど加えて撹拌し燗をしたら、ちょうど良い感じになりました。

 ウィスキーのブレンディングにヒントを得たわけです。 そんなの邪道だと言われるかなと思っていましたら、12日のBS8の 「 酒旅 」 というTV番組を見ていたら、 東京都の田村酒造という蔵元が、2種類の酒をブレンドして望みの味の製品を作って売っているという話が紹介されていましたから 「 そんなのない 」 というわけでもないという事です。

 それにしても、この数年、日本酒は更に甘くなってきてはいないでしょうか。 女性の日本酒愛好家を更に増やそうとして、彼女らに迎合しているのかと疑いたくなるほどです。  そんな事が有るか無いかは別として、dancyu の2013年11月号の記事には、1976年から2011年にかけて全国新酒鑑評会に提出された酒の味の変化を詳細に調べると、 明らかに淡麗辛口から濃醇甘口へと移ってきていることが分かると書いてあります。 詳細はその記事をご覧ください。

 ご承知のように日本酒は酸味が多いほど、同じ甘さでも辛口と感じます。  この記事には「 日本酒造りの環境は年ごとに改善され、微生物による汚染が減ってきているので、酸の生成が減り、従って甘く感じる酒が増える 」 というような、もっともらしい解説も書いてあります。 そうであるなら、複雑な酸味や旨味も出てきやすい生もとや山廃で作った酒が、矢張り私には向いているのでしょうね。  コツコツ探してみましょう。

  2016年10月

 10月1日は 「 日本酒の日 」 だそうです。 なぜそうなったのかという話にご興味があれば こちらをご覧ださい。

 それはともかく、今年の5月26〜27日に開かれたG7伊勢志摩サミットで、2回のランチと1回のディナーの計3回の正式の食事の際に供された日本酒とは、 一体どこのどんな酒だったのだろうか・・・と調べてみました。 色々調べているうちに分かってきた事は:

 上記の3回の正式の食事の他に、首相夫人主催の食事会だの、首脳の配偶者たちの為の食事会だのがある上、 コーヒーブレークにも各種の酒が出たりしたので、採用銘柄の情報は錯綜しています。 ここでは、上記の3回の首脳食事会での酒に話をしぼりますが、そういうわけで、 多少の誤りはご勘弁ください。

A. あの高級で超高価*な伊勢志摩観光ホテルの総料理長が、 樋口宏江という、まだ40代の女性だという事にまず驚きましたが、 35軒の蔵元があるという地元三重県の数ある名酒の中から、あの豪華な料理に合うと考えて最終的に下記の4銘柄の日本酒を採用と決めたのは、彼女だったのかどうか・・・

*:2人で1泊2食付きで泊まったら普通の部屋でも福沢諭吉を10人連れて行かないと安心できないでしょう。

1.「 瀧自慢 辛口純米 滝清流 ( はやせ ) 」 名張市 ¥1,253 ディナー用食中酒

2.「 作 智 ( ざく さとり ) 」 純米大吟醸 滴取り 鈴鹿市 ¥16,200 ランチ用食中酒

3.「 酒屋八兵衛 山廃純米 伊勢錦 * 」 大台町 ¥1,440 ランチ用食中酒

4.「 半蔵 純米大吟醸 山田錦40%精米 」 伊賀市 ¥3,240 乾杯用酒

 値段はいずれも720ml瓶 ( 税込み )。( 2.のみ750ml瓶 )

*:伊勢錦は山田錦の母と言われる酒米で、昭和25年一旦姿を消しましたが、この元坂酒造と言う蔵元が一握りの種籾から復活させたという事です。

B. さて、この4銘柄の内2つが、吟醸系、大吟醸系ではなく、非常にリーズナブルな値段の、 地元の家庭で晩酌に飲まれているクラスの純米酒であったという事が、次の驚きです。 これらが10倍以上も高い酒と並んで採用されている事が面白いと思います。  酒の良さは値段だけでは決まらないという事でしょうか。

 勿論、これら4銘柄は、発表と同時に地元の酒店とそのネットショップに日本中から殺到した買い手たちにより、アッという間に売り切れ、 姿を消したという悲喜こもごものニュースも伝えられています。

C. 3回の食事は写真を見ると、和食と洋食の中間のような料理 ( 手前には箸が添えてある ) でした。  食中酒としては勿論、日本酒以外に、あの田崎ソムリエを含む7人の選考委員が選んだワイン ( 計12種 ) も提供されました。  今回が初めてと思いますが、それらのワインは、すべて国産のワインでした。 日本のワインも近年随分成長したということでしょう。  つい最近までこんなことはあり得ず、大半がフランスなどの高級ワインだったと思います。 例えば割と最近の2008年の洞爺湖サミットですら、 出されたワインの内1/3弱が国産品で、残りはすべて海外から輸入されたワインでした。

 今ではすっかり姿を消してしまった上記の日本酒の内、ある酒店のご好意で、運よくこの安価な方の2銘柄、1.瀧自慢と3.酒屋八兵衛の2つを正価で 買い求める事が出来ました。

 さて、これら2本がどんな味だったかです。

 まず、名誉あるディナーの食中酒に選ばれたという1.の 「 瀧自慢 」

 これは何とも難しい酒でした。 ラベルには 「 辛口一徹純米 」 とあり ( 日本酒度+9 )、冷酒でも甘さは殆ど感じられず、むしろ一瞬ホロ苦さを感じますが、 それもすぐに消えて行く。 こんな酒には滅多にお目にかかっていません。 多分、これが当日の豪華なディナーの料理の味とマッチする香味だったのでしょう。  これは純米酒なので50℃くらいに燗をしてみましたが、上記の特徴はそのまま残っています。 地元では晩酌にこの酒を愛飲している人も多いそうですが、 この一風変わった辛口の香味に惚れ込んだ人は、きっと止められなくなるのでしょう。 私には評価不能としておきます。

 次は3.の 「 酒屋八兵衛 」

 これは逆に、易しい ( と言うより ) 優しい酒でした。 山廃純米酒が冷酒でランチの食中酒に出されるというのは、常識的にはちょっと風変わりな選択かと思いますが、 この酒には山廃特有の複雑で重厚な旨味も無くはないものの、全体的には 「 さっぱり、すっきり 」 という感じも備えています。 甘味もちょうど良い加減です。  でも冷酒では、「 さすが素晴らしい 」 などという形容詞を口にしてよいかとなると少々疑問。○

 所が、山廃純米なら燗をしないわけにもゆくまいと、50℃程に温めて飲んだら、甘辛の加減も丁度良く、アタック、旨味、切れも絶妙で、 全く抵抗感なく幾らでもスイスイ飲める感じです。◎  サミットのディナーでもお燗をして華麗な漆塗りの 「 ぐいのみ 」 ででも供すればよかったのに・・・と思いますが、 まあ、それは出来ない相談というものでしょうね。

  2016年9月

 言うまでもなく夏は暑いから、酒もキンキンという程ではないが冷蔵庫で充分に冷やしてワイングラスで飲むという事を、ここ数か月、毎晩のようにやってきた。  冷やして飲むからには矢張り吟醸クラスの酒が多くなった。 しかし結局のところ、4月に書いた「 水芭蕉 純米辛口スパークリング 」 と 5月に書いた「 羽根屋 純米大吟醸50翼 」くらいしか、続けて毎晩でも飲みたいと思える酒には出会わなかった。

 9月の声を聞き、まだ残暑で暑苦しい夕暮れ時ではあるけれど、「 酒は純米、燗ならなお良し 」 という 上原浩氏の有名な名言を思い出しながら、再び燗酒に戻ってしまった。  上原氏の本は何冊も読んだが、裏の田んぼをわたって吹き込み、部屋を表へと通りぬけて行く涼しい夕風を全身に受けながら、良質の山廃純米酒の燗酒を飲んでいると、 本当に 「 難しい事は考えずにスイスイと酒が喉を通り過ぎて行く快感 」 を味わえ、彼の言う通りだと改めて実感する。

 4合瓶で何種類も買いこんでは試し・・・を繰り返した中で、気に入ったのは、秋上がりして9月早々に馴染みの酒屋に運び込まれたばかりの 「 雪の茅舎 山廃純米 ひやおろし 」 ( 写真左 ) だった。 冷やしたままで飲むと、どうと言うこともない並みの酒 △〜○ だが、アルコールが16°と高めなので、割水して15°くらいに下げて50〜53℃くらいの熱めに燗をしたら ◎。  他には、南部美人の純米吟醸 心白 山田錦に、同様の良さを感じた。

 物の本には必ずと言ってよいほど、 「 燗をすると甘味が増える 」 と書いてあるが、 私にはそうは思えない。 反対である。 冷えている時の糖を感じさせるあの甘味は燗と共に消え、酸味等は変わらず、旨味だけがグッと引き立ってくるように思う。  きっと私の味覚が変わっているのだろうが・・・

 そういう訳で、雪の茅舎の1升瓶を、同じ酒屋で買ってきた。 ところが、味わいは何度飲んでも4合瓶の時の記憶とは微妙に違うように思えるのだ。 一回り落ちるような気がしてならない。 蔵元では同じ銘柄の酒を幾つかの仕込槽で同時に作ったりするのだろうか? もしそうなら、桶ごとに最終的には微妙な香味の差が生じることが、当然予想される。  醸造業の製造における製品の性能の再現性は、精密化学工業のそれにはまだまだ及ばないと思われるからだ。 なんだか分からない微妙な要因が介入してくる為に、 全く同じ原料を使い、全く同じ条件で同時に作った別仕込の酒が、全く同じ品質に仕上がらないという事が、まだあるのではなかろうか。

 それとも、春から秋まで貯蔵している間の熟成が、複数のタンクに分けてで行われたりすると、タンクごとに微妙な熟成の違いが生じたりするのだろうか?  いや、酒は同じなのに自分の体調とか肴との相性とかが変わったせいなのか・・・そんな事をあれこれと考えながら5日かけてこの1升瓶を飲み終えた。

    2016年8月

 最近の日本酒蔵元たちは 「 日本酒ブーム 」 の波に乗り、競うように 「 変化・脱皮 」 に挑戦しているようです。  原料米、精米度、酵母、醸し方、設備の素材や方式、上槽や貯蔵の仕方、更にはネーミングや瓶、ラベルのデザインに至るまで・・・  今月買って飲んだ十数本の中にも、そういう意味で意欲的な品が多くありました。

 そのような挑戦が香りや味に革命的な卓越性をもたらしているなら大歓迎ですが、中にはそうでもないと感じた酒もありました。

 また、輸出を目指しているのかも知れませんが、やたらに外国語を使うのも、ちょっと考え物という気もします。 どうしても使いたいのでしたら、 その国のネイティヴの教養のある人に 「 真意が正しく伝わる単語とその配列 」 を選んでもらうのが良いと思うのですが・・・

 写真の4本:外観からは日本酒というより白ワインに見える物ばかりですが、私なりの評価は下記のようでした。 左から順に:

醸し人九平次 純米大吟醸 黒田庄に生まれて 愛知 萬乗醸造 720ml \ 2,494 ラベルに記載の 35.037,135.024 というコードを Google Map に入れると、 パソコン上に、原料米が採れた田んぼの地図上の位置 ( 兵庫県西脇市 ) が現れるという凝りかた。 私には少々甘過ぎましたが、香りと旨味は絶妙。  値段はやや高めですが、それだけのことはあるかと納得。 ◎

澤屋まつもと Tojyo 京都 松本酒造 720ml \ 2,052 兵庫県東条産山田錦100%だそうですが、私には可もなく不可もないという印象で ○  ( 余計なお節介ですが、東条 ( トウジョウ ) をどうローマ字で綴るべきか。 英語なら Tojo、気取ってイタリア語なら Togio でしょう。  いずれにしても Tojyo というスペルは不自然です。 「 j + y + 母音 」 という不自然な構成の音節を含む単語は主要な欧米語には存在しないと思います。  「 東条 」 という姓の日本人のパスポートでは、ローマ字表記は Tojo 以外は認められていません )

三井の寿 夏純活性にごり CICALA( これはイタリア語で蝉 ) 福岡 鰍ンいの寿 720ml \ 1,404 最初、透明な上澄み部分を飲んでしまい、 甘味も旨味も感じられず不満でしたが、翌日オリをよく混ぜて白濁状態で飲んだら満足できました。○〜◎

仙禽 ナチュール トロワ ( これはフランス語で、自然製法の第3弾というつもりのようです ) 栃木 鰍ケんきん 720ml \ 2,160。 精米度90%以上!  酵母無添加、木桶仕込・・・とすこぶる意欲的ですが、 蔵付酵母から来たものか、その独特の香りが私には好きになれません。 冷酒でも熱燗でも同じ。 この香りがたまらないと言う人もいるでしょうから、 個人的な好みの問題かとは思いますが △

  2016年7月

 5月のこの欄で私が絶賛した「 羽根屋 純米大吟醸50翼 」が、今年の IWCの日本酒部門 ( 5月16〜18日、於ロンドン ) の純米大吟醸部門で金賞を得たと報じられました。 私が断然気にいった酒が、 世界的にも認められたと知り、大変嬉しい気持ちです。 なお、4月に写真を載せた「 勝山 純米吟醸 献 」 も、純米吟醸の部で金賞をとったとのことです。

 私は純米酒を中心に燗にして飲む事がほとんどだと以前書きましたが、この暑い夏ともなれば、やはり冷蔵庫で冷やした冷酒をワイングラスで飲むという機会が多くなります。  その場合、爽快なスパークリング酒や香りの高い純米大吟醸酒が多くなってくるのも半ば必然です。

 スパークリングの濁り酒はその後7種ほど試しましたが、 気に入ったのは、やはり4月に書いた「 水芭蕉 純米辛口スパークリング 」 で、これはあれ以降、4合瓶を5本も飲みました。 次に旨かったのが泉橋酒造の「 とんぼスパークリング〜微発泡・純米にごり酒 」 250ml瓶です。 晩酌に1本で丁度良いサイズです。 この種の酒は栓を締めて冷蔵庫に入れても翌日には味が少し変わりますから、独酌ならこのサイズは妥当でしょう。

 なお、濃いめの16度くらいの大吟醸なら、冷やした炭酸水でちょっぴり ( 10%位 ) 割るのも面白いと思いました。 甘味が強すぎると思われた場合などには絶好でした。

 羽根屋の上記の大吟醸が旨かったので、もう一つ上のクラスならどうだろうと考え、「 羽根屋シリーズの殿 ( しんがり ) を務める 」 と勿体ぶった口上の説明も見られる 黒ラベルの箱入大吟醸 羽根屋という4合瓶を求めてみました ( 写真左 )。

 確かに雑味は純米大吟醸50翼より更に減って 「 ひたすら澄明 」 という形容を捧げたいほどですが、矢張り私には少し甘過ぎます。 北原康行氏が「 純米大吟醸や純米吟醸は、雑味がないぶん、甘味を強く感じる。  いわば甘味を楽しむ性格のお酒なのです。 ( 中略 ) むしろ日本酒は、さまざまな甘さを楽しむお酒だと考えてはどうでしょうか 」と仰っていると以前にも述べましたが、 それでも私はもう少し甘味を控えてほしいと思いました。 ○〜◎

 ・・・と書いたあとで、冷蔵庫に入れておいた残りの酒を数日後に飲んだら、随分と印象が異なり、驚きました。 そういう開栓後の変化があると聞いた事はありますが、体験したのは初めてです。  甘味は減り、すがすがしい旨味はしっかりと残っています。 迂闊なことでしたが、この酒は純米大吟醸ではなく、大吟醸だったと、ラベルを見直してこの時気づきました。  アル添なのに吟醸香は穏やかですが、舌触りのキメ細かさと上品なコクに感動です。 矢張り羽根屋は良い! ◎

     2016年6月

 今月は不作な月でした。 天狗舞、綿屋、賀茂金秀、王禄、梵、越乃寒梅、白瀑、赤武など、評判のよい銘柄の純米大吟醸や純米吟醸の4合瓶を次々に飲んでいったのですが、 どれもこれも決して悪くはないものの、「 ウーン 」 と私を唸らせてくれるものが有りません。 私の味覚や判断力が 「 たいしたものではない 」 から、 良さが分からないのかとも思います。 でも・・・でもなのです。  先々月、「 羽根屋 純米大吟醸50翼 」を飲んだ時のような衝撃が感じられないのです ( 羽根屋の純米大吟醸はあの後、一升瓶を2本買い込んで、先月新たに買いいれた日本酒専用の小型冷蔵庫にしまいこんであり、 当分手をつけたくありません )。 まずまず美味しかったのは、秋田の山本合名の 「 純米吟醸 山本 紅苺 」 だけでした。  AK−1酵母のさわやかさと、快い酸味が気に入りました。 ○〜◎

 そう言えば毎晩毎晩日本酒だけを飲み続けること既に5年以上。 たまには 「 浮気 」 をしてもよいかと、ウイスキーを2本買い込みました。  先月のこの欄に書いた酒の権威の旧友M氏が 「 これは旨いよ 」 と話してくれたのが、サントリーの山崎12年です。  どこのスーパーでも売っている白っぽいラベルに筆の黒字で 「 山崎 」 とだけ書いてある品 ( 通常税抜き¥4,200くらい ) ではありません。 12という文字が書いてある、金縁の暗黄色のラベルの瓶が箱入り ( 定価税抜き¥8,500 ) で、特定の酒店にたまに数本入荷するようです ( まだこの上に、18年、25年という、もっと高価な物もあるのですが )。


 希少価値があるので、ネット上ではプレミアムがついて¥11,000以上で売られています。  これがたまたま、行きつけの酒店に3本だけ入荷した直後だったので、早速700ml瓶1本を ( 勿論正価で ) 買い求めました。  ついでと言ったら申し訳有りませんが、テレビ東京の一昨年3月の放映で知って以来、 ずっと気になっていた秩父のウイスキー 「 イチローズ・モルト 」 ダブルディスティラリーズも当日偶然入荷していたので、正価で買い込みました。  正価は700ml瓶1本税抜きで¥5,400ですが、これこそ希少品なので、ネット上では銘柄により2倍から数十倍ものプレミアムがついています。  少量生産品である上に、国内外で極めて高い評価を得ているので、デパートで売り出される日には、早朝から長蛇の列ができ、アッと言う間に売り切れてしまうと聞きました。

 値段のこと、特にプレミアム価額の事などは、この欄には書きたくなかったのですが、両者の希少性と世界的な人気とを紹介したい為です。 ご勘弁を。  この2本を、交互に、ストレート、オンザロック、濃い目の炭酸水割りで飲み比べました。 近年はごくたまに安物のケンタッキーバーボンを飲む程度の私に、 ウイスキーの良否を語る資格など、全くないのですが、それでもこの2本はそれぞれ個性的で、さすがに美味しかったです。

 ウィスキーと言えば、私も7年前に訪れましたが、あのスコットランドの 「 荒涼 」 とした風景とピートのスモーキーな香りの無愛想さが凝り固まった酒です。  山崎は、まさにそれが、落ち着いた高級感のある姿で具現化されたもののように思えました。  一方、イチローズ・モルトには、それにプラスして何とも言えぬフルーティな甘い香りが入っています。 更にはウィスキーとは思えぬ優しいほのかな甘味すら感じられることに驚きます。   6月の後半は、毎晩のように両者を少しずつ飲み比べていました。

 「 お前はどちらが良いと思ったか 」 と聞かれると、難しいですね。 山崎は、例えてみればよく響くホールでのN響のクラシック定期演奏会みたいな感じですし、イチローのは、 マントヴァーニやポ−ル・モーリアの ( 例えが 古い? ) 快いイージー・リスニングを自宅のソファで寛いで聴いているような・・・とでも言えるでしょうか。  異論もあるかと思いますが、私にはそう思えました。 高齢の現在は、肩のこらない後者の方が、どちらかと言えば親しめます。  そういうわけで、今月後半は日本酒とはすっかりご無沙汰してしまいました。 来月からまた日本酒に戻るつもりです。

  2016年5月

 4月末に東京で開催された" JAPANESE SAKE EXPO SPRING2016 STYLE J. SAKE " という「 日本酒を賞味しながら蔵元との交流を楽しむ地酒まつり 」 に参加した事や、そこで日本酒のテイスティングの技量試しの余興的な催しにも参加したことについては、 別の所に書きました。

 今月、大学時代の親友だったM氏と、群馬県の伊香保温泉に一泊し、一夜楽しく語り合いました。 彼は、明治維新直後から埼玉県北部で造り酒屋を営んでいた旧家の跡取り息子で、 東京大学応用微生物研究所初代所長で文化勲章受章者でもあるあの世界的に高名な故 坂口謹一郎博士の研究室で酒の醸造について深く学び、 卒業後一旦は家業を継いだのでした。 当時はまだ先駆的だった低温醸造での吟醸酒造りなどに取り組み順調に営業していた昭和30年代後半、 伏流水を取水していた川の上流に群馬県の大きな下水処理施設が作られ、その排水が混って水質が悪化したために、いくら工夫しても良い酒が作れなくなって、 廃業の止むなきに至るのだそうです。

 そこで、ある機会をとらえ、一転、群馬県内に大病院やその系列施設を創設するや、 優れた経営面の才能を発揮して迅速に大きな発展・成功を収めました。 そして現在はその巨大な事業をご子息の医師に譲って悠々自適という境遇の方です。

 こういう旧友と温泉に浸かり、地元産の旨い大吟醸を酌み交わしながら・・・となれば、レベルの高い和洋の酒の話題はあとから後から湧くように出てきて、 深夜まで尽きることなどありませんでした。

 所で、今月飲んだ日本酒の中では、先月紹介した北原康行氏の本の中にも出ている2つの大吟醸酒が良かったですね。 著者は単に典型的な2つの酒を対照的な試料として採りあげただけではなく、 実際にそれぞれ共に良い酒だと判断した上で採用したのだろうという事がよく理解できます。

1.「 羽根屋 純米大吟醸50翼 」 富山県富山市 富美菊酒造 アルコール15度、精米50% 製造 2016.4

2.「 純米大吟醸 川亀 」 愛媛県八幡浜市 川亀酒造 アルコール16〜17度 山田錦100% 精米50% 日本酒度+2、酸度1.3 BY H26 製造 2016.3

 1.は私にはファーストアタックが少し甘すぎましたが、その甘さは決して不快には思えず、またすぐに消えて残りません。  とにかく、素敵なトロピカルフルーツ系の吟醸香が鮮烈でした。 12℃ほどでワイングラスで快適にスイスイと飲めます。 まさに 「 エレガント 」 のひとこと。 ◎

 飲みきった後、空き瓶を他の4、5本の空き瓶と一緒に地元の酒販店に回収に持って行きました。 1.は東京の大きな酒販店から通販で買った酒で、 他は皆この地元の店で以前買った酒の空き瓶でした。 すると若主人 ( 彼もきき酒師 ) が目ざとく1.の空き瓶を見つけて 「 これは旨かったでしょう!  以前この蔵元に行った時飲みました 」 と言うのです。 矢張り 「 旨い酒は誰にでも旨い 」 のですね。

 2.は裏ラベルに BY H26 とあるので、一昨年醸してから2年近く熟成した後、今年市場に出した酒です。 従って薄い黄色味を帯びています。 吟醸香は1.よりずっと弱いけれど、コクがあり、 後味にほのかな苦味が感じられます。 冷やして飲んだら1.には敵いませんが、アルコールが濃い分、10%ほど割水をして燗をすると実に快く飲め、最高でした。  大吟醸を燗するなどとんでもないという方が多いと思いますが、それは頭が固いのでは? 自分が旨いと思うならそれが良い飲み方だと思います。  この酒には温めて逃がしたら惜しいというほどの吟醸香はありません。 45℃位より、熱燗気味の50℃くらい ( 輪島塗のぐいのみ ) の方が更に良いように思いました。12℃ ○、50℃ ◎

 そうそう、先月、2015 年度純米大吟醸部門2位の 「 東洋美人 壱番纏 純米大吟醸 」 ( 左の写真 ) について報告すると書きました。  私の好きな東洋美人の中でも最高峰と称されているので大いに期待していました。 吟醸香は優雅とか華やかとか言うほどではありませんが、柔かな旨味の余韻が長く続きます。  もちろん10〜12℃でしか飲みませんでしたが、私にとっては上記の1.の羽根屋にはだいぶ及ばない感じです。 と言うか、北原流に言えば羽根屋は典型的なBエリアの純米大吟醸、 この東洋美人は典型的なEエリアの純米大吟醸なのでしょう。 私の個人的な好みでは、生意気と言われそうですが ◎はつけられません。   4合瓶でもちょっとした酒の一升瓶より高いし、もう一度買う気にはなりません。 今回限りです。

 今月はあたりが悪く、上記以外は △〜○ の評価或いはそれ以下でした。

    2016年4月

 この一年間に読んだ日本酒関係の本は、学術書、単行本、雑誌からマンガまで、30冊近くになりますが、最近読んだものの中で面白かったのは、 北原康行著 「 日本酒テイスティング 」 ( 日本経済新聞出版社 ) です。 著者はもともとは一流ホテル勤務のワインのソムリエでしたが、 仕事の関係で日本酒ほかの酒も扱う事になり、勉強した末、2014年9月の第4回世界きき酒師コンクールで優勝した人です。

 この本のどこが良かったかと言うと、今まで幾ら本を読んでももう一つピンと来なかった 日本酒のきき酒 ( 鑑評 ) のコツが、易しく素人分かりする斬新な書き方で説明されている事です。  「 なぜ日本酒の鑑評がワインのそれより難しいのか 」 などという説明は、今まで誰からも聞いたことがなかったし、 「 ブラインドテイスティングで使用米の種類を当てろと言われたら私も出来ません 」 などと謙虚に、しかし納得のゆく論理で書いてあると、 本当に嬉しくなります。 今まで読んだ多くの本には、「 原料酒米の種類による日本酒の香味の違い 」 について、 誰でもすぐ分かるみたいな調子で述べられていて、それがなかなか区別できない自分に自信喪失に陥りそうな状態でしたから。  この本の説明なら、私にもこれから分かりそうな気がしてきます。

 著者の採りあげた酒の4合瓶を酒屋で見つけてきては、本を読みながら味わっていると、本当にその通りだとよくわかり、自信が湧いてきます。  ワインという日本酒とは似て非なる世界から入ってきた人だからこそ、こういう分かりやすい斬新な説明ができるのでしょう。

 「 日本列島を東から西に行くにつれて、日本酒の色が無色から淡黄色へと濃くなって行く 」 なんて、今まで聞いたことも考えたこともありませんでしたが、 試しに手もとにあった4本の酒をワイングラスに注いで色の順に並べてみたら、地理的な順序と一致したのには驚きました。  まあ、何年も熟成された古酒や、仕上げに活性炭を多量に使った出来そこないの酒などだと、そうもゆかないでしょうが・・・

 今月は、SAKE COMPETITION 2014 と 同 2015 で上位入賞した酒2種を入手しました ( 1月度記載の 「 作 ( ざく )」 穂乃智も 2015 年度純米酒部門2位 )。 純米吟醸酒部門で 2014 年度5位、2015 年度1位の 「 勝山 純米吟醸 献 」 と、 2015 年度純米大吟醸部門2位の 「 東洋美人 壱番纏 純米大吟醸 」 です。  前者は10℃〜15℃くらいで3日に分けて飲みました。 吟醸香は大吟醸にも負けないほどだし、旨味も立派ですが、私にはやや甘すぎました *。  専門家たちが 「 非の打ちどころがない 」 と評している酒に対して私ごときが畏れ多いけれど、◎ではなく○〜◎。 後者については来月。

 気軽に飲んだ酒の中では、だいぶ暖かくなったのでこんな物でも飲んでみるかと買ってきた群馬県の永川酒造の 「 水芭蕉 純米辛口スパークリング 」 が面白かった。  ラベルに製造 2015.8 とあるので、半年以上も瓶の中で過ごしていたためか、開栓時の噴出にちょっと苦労しましたが、5℃前後で、 すっきりした甘味と炭酸の酸味が程良く調和し、気持ちよくスイスイと飲めました。◎。

* 上記の本で北原氏も、「 純米大吟醸や純米吟醸は、雑味がないぶん、甘味を強く感じる。  いわば甘味を楽しむ性格のお酒なのです。 ( 中略 ) むしろ日本酒は、さまざまな甘さを楽しむお酒だと考えてはどうでしょうか 」 と述べています。 その通りと思います。 でも、矢張りこれだけ甘いと 「 これは女の飲む酒だ! 」 などと私には思えてくるのです。

  2016年3月

 今月は日本各地の春らしい桜色の模様のラベルの酒を720ml瓶で6種類ほど買い、順に味わって行きました。 どれも可もなく不可もないという感じでしたが、 中に一つ、淡い赤紫色の酒がありました。 原料米の一部に赤い古代米を使ってこの色を出したとのことで、 昔から新潟で造られている紅麹を使って醸した赤い日本酒とは違います。 ( 左の写真 )

 この種の 「 変わり者 」 の酒は、得てして旨くないとしたものですが、この酒 ( 天吹 紅 ( あまぶき ピンクレディ ) 佐賀県 天吹酒造 ) は、 10℃くらいに冷やしてワイングラスで飲むと、ライスロゼワインという感じで、なかなか結構でした。 ○〜◎

 月半ばに、2泊3日で志摩に旅行に行くつもりでしたが、妻の体調不良で延期になりました。 三重県には、1月に書いた 「 作 」 の他にも、「 而今 ( じこん ) 」 など、 優れた酒を生み出す蔵元がいくつかあるので、楽しみにしていたのに残念なことでした。

 ほかに今月飲んだ酒の内で旨かったのは、信州の小布施にある小さな蔵元 「 高澤酒造 」 が造った 「 豊賀 」 の純米吟醸 中取り無濾過生 天女のしずく です。 冷たいとどうという事もない酒ですが、アルコールが17度と高めなので、10%ほど割水して50℃ほどに燗をすると、甘味、酸味、旨味など すべてのバランスが絶妙となり、幾らでも飲めてしまいます。 杜氏は日本ではまだ数少ない女性だそうですが、立派なものです。  吟醸酒系は冷たくして飲むものだなどと主張する人がまだ少なくないようですが、そんなことはないという証拠がこの酒です。

 ただ不思議なのは、毎晩飲んでいると、日によって 「 絶妙 」 だったり、「 なかなか結構 」 だったり、「 まあいいかな 」 だったりすることです。  私の体調が日ごとに変わるためなのか、日によって変わる肴との相性なのか、それとも開栓の後、微妙に品質が変わってゆくのか・・・○〜◎

   2016年2月

 中田英寿氏のプロモーションにより、六本木ヒルズのアリーナで、5日から14日まで 「 CRAFT SAKE WEEK @六本木ヒルズ屋台村 」 という催しが開かれました。  「 CRAFT SAKE WEEK 」 とは、酒造りの最盛期を迎えるこの 「 寒造り 」 の時期に、日本酒愛好家たちが全国の著名な日本酒蔵元たちと出会え、 その自慢の酒が飲めるというイベントです。

 厳選された100の蔵元の銘酒を楽しめるほか、ミシュランでの星を連続獲得した名店を含む和洋のレストラン5店舗が、 ここでしか味わえない特別メニューの 「 酒の肴 」 を提供してくれるという催しです。

 こう聞かされたら、この私のような日本酒フリークは、寒い冬のさなかですが老骨に鞭打ってでも参加しないわけにはゆきません。  初日の5日 ( 飛露喜ほか福島県の10蔵元 ) と、最終日前日の13日 ( 磯自慢や、1月に書いた 「 作 」 など10蔵元 ) とに2回出かけてきました。

 純米酒を普通のサイズのぐいのみに1杯買うと1枚¥250のコインが1枚、純米吟醸だと2枚!、純米大吟醸だと3枚!!  ちょっと高すぎるんじゃないの?と思いますが、まあ、いろいろ事情もあるのでしょう。 屋外の会場の真冬の寒さに震えながら、 ほとんど冷酒ばかりというのも、この年寄りには少々酷なことでした。

 今月も10種類ほどを味わいましたが、中では仙台の酒 「 戦勝政宗 」 の特別純米が良かったです。 10℃くらいの冷酒でも、 45〜50℃あたりのお燗でも大変美味しい。 最初の一口目も数杯目も美味しい。 なかなかこれらが両立する酒って少ないんですね。  スッキリ奇麗な旨さが際立ち、いろいろな肴と広くマッチします。 ◎です。 名前が戦時中の軍国主義時代の酒のように響くのですが、 伊達政宗の軍隊が愛用したというところから来ている歴史あるブランドだそうです。 よく見る 「 正宗 」 ではなく 「 政宗 」 なんですね。

  2016年1月

 昨年の12月に、たまたま三重の清水清三郎商店という蔵元の醸す 「 作 ( ざく )」 という銘柄の酒の一つ ( 下記1.) を買ったら久々に大変旨かったので、 さらに3本ほど種類を変えて買いいれて飲み続けています。  たまたま、今年買って読んだ 「 酒販店で買える究極の日本酒 」 という本に、これらの酒の内のいくつかが、 SAKE COMPETITION 2014 および2015 という大きなコンテストで上位の好成績を収めたと書かれていることを発見し、 自分が良いと思った酒が、多くの権威ある人たちによっても評価された酒なのだと知って、自分の舌にも少しばかり自信が湧いてきました。

 1.「 作 ( ざく )」 穂乃智 ( ほのとも ) 純米酒 購入2015.12および2016.01 アルコール15度、精米60% 1401号酵母 製造2015.9
 2.「 作 ( ざく )」 雅乃智 ( みやびのとも ) 純米吟醸 購入2016.1 アルコール15度、精米50% 自社酵母  製造2016.1
 3.「 作 ( ざく )」 玄乃智 ( げんのとも ) 純米酒 購入2016.1 アルコール15度、精米60% 701号酵母 製造2016.1

 ところが、1の空き瓶をいつものように近くの酒販店に回収のために持っていったら、ご主人が 「 これは昔当店でも扱っていました。  もうヒネているかも知れませんが、当時は無名だったので売れ残ったのがあります 」 と言って、桐の木箱に入った上物を1本タダでくれたのです。  なんと12年近くも木箱に入って倉庫の奥で眠っていた古酒です!。 蔵元名も昔の 「 清水醸造 」 です。


 4.「 作 ( ざく )」 雅乃智 滴取り無濾過 純米吟醸 仕込17号 アルコール16〜17度、精米50% 自社酵母 製造2004. 3

 私はどの酒でも、最初は必ず10℃ほどのいわゆる 「 花冷え 」 程度の冷酒をきき酒用のガラスのワイングラスで一杯だけ飲み、 あとはほとんどすべて、錫製のチロリで湯煎した45℃くらいの 「 上燗 」 を食中酒として飲みます。  最後の方は自然に冷えて40℃くらいのぬる燗になることもあります。 大吟醸系は貰いもの以外は飲まず、 夏でも燗をした純米酒ないしは純米吟醸酒が中心で、時に特別本醸造酒なども飲みます。

  私なりの評価:

1.10℃:甘味は中程度 酸味は低め 旨味は十分で吟醸酒でもないのに果実系の強い吟醸香が快い ◎ 45℃:同様で飲み飽きない ◎
2.10℃:私には甘味がやや強い。旨味もあり酸味も適度。快い果実系や花の香りが強い。○〜◎ 45℃:甘味がやや勝ちすぎるので ○
3.10℃:上記2.同様甘味が強い。酸味と旨味は普通。さらりと切れがありフルーティな香りもある ○〜◎ 45℃:左記特長が全般に減る ○
4.色は薄い黄褐色。上立香・含み香共全くヒネた感じなく、快い熟成香。 2と同様旨味は十分だがやや甘過ぎの感あり。
  10℃ ( ストレート )・45℃ ( 10%割水 ) とも美味しく飲めたが計1合が限度。それ以上は古酒は個性が強すぎて、わたし的には飽きる ○〜◎
1.と3.は同じ蔵の同じ純米酒なのに、1.は燗の方が、3.は冷酒の方が旨く感じられたのが面白い。  この蔵の酒のラベルには使用した酒米の品種を書かないのが主張らしい。 わかるのは酵母が違うという事だけ。  米の違いは自分で考えろという事でしょうか。 とにかく1.の穂乃智は凄い酒でした。 冷酒でも燗でも◎がつけられる旨い酒には本当に久しぶりにお目にかかりました。

 評価は 良くない=×<△<○<◎=素晴らしい の順で表し、○〜◎のようにそれぞれの中間もあります。 でも、△以下の酒は、 差し支えがあるのでこのページには載せません。 以前他のコラムで述べたように、○や×は、その意味する内容を明示した上で使うようにすべきですので、 ここにそれを書きました。 5点満点の数字で書く方が良いようにも思いましたが、それほど定量的な判断でもありませんので・・・
 

ご感想、ご意見、ご質問などがあれば まで。

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このコラムは、もともとはグリンウッドで働く友人たちとそのご家族向けに、私や家族の動静、 日本や特に足柄地域の出来事などをお知らせしようと、97年初めから「近況報告」 という名でEーMAILの形で毎月個人宛てに送っていたものです。 98年2月以降はホームページに切り替え、毎月下旬翌月分に更新してきました。 ところが最近、日本に住むグリンウッドをご存じない方々も多くご覧になるようになってきたので、 同年7月から焦点の当てかた、表現などをを少し変えました


この先です。