フリーマンの随想

その79. 7回目のイタリア


*その5.アンティカ・マリーナでの夕食*

( June 25, 2008 )



 カターニャ市に滞在して魚料理を食べたいと言えば、まっさきに名前が出るのが、知る人ぞ知るこのオステリア。 魚のにおいと喧騒の渦巻く魚市場の一角にあります。 ここに行って 「 たらふく 」 新鮮な魚を食べることも、今回の旅行の多くの目的のうちの一つでした。 土曜日はどこのレストランも混むので、ホテルに昼過ぎに着くなり予約を頼み、幸い取れました。 分かりにくい場所だと聞いていたし、夜間路地に迷い込んだりすると物騒な地域らしいので、昼間のうちに一度、散歩がてら場所も確かめておきました。


 8時半に到着し、予約した席に案内されましたが、この店にはメニューは一切ありません。 「 前菜は食べるね 」 と聞かれたので、「 ウン 」 と言うと、「 パスタはどうだ 」 と聞くので 「 食べる 」 と答えます。 「 セコンドは? 」 と聞くので 「 前菜とパスタを食べた後、考える 」 と言うと、頷いてニヤリとします。 「 日本人は皆、胃袋が小さくて量に恐れをなしているな 」 と思っているのでしょうか。 闘志がわいてきます。

 「 水は? 」 「 ガスなし 」 「 ワインは? 」 「 辛口の白 」 それだけですべて終りです。 この店ではメニューを指さして 「 これ 」 という方式はダメですから、最小限の英語またはイタリア語のヒアリングとスピーキングが必要です。 と言っても、上記のように簡単な単語の羅列でほとんど済みます。 「 それは値段がお幾ら? 」 なんて野暮なことは誰も聞きません。 決して高級とは言えないこの店で、ウェイターたちが皆上手に英語を話し、イタリア語を覚悟していた私をまず最初に驚かせました。


 程なく、ドッとテーブルに並べられた前菜は全部で9品でした。冷たいのが8品 ( 写真左:小エビはもう半分以上たべてしまいました )、その後揚げたての小さなイカや小魚のフリット ( 写真右 ) が出てきました。 どれも日本人の舌にピッタリ合うというか、小魚の南蛮漬けなどは日本人の作った料理では?と思うほどでした。 小さいイワシは3枚におろしただけみたいなものなので、持参の練りワサビと醤油、割り箸で食べましたが、ついさっきまで生きていたらしく全く生臭くありません。 皮をむいた生の小エビにレモンをかけたらしきものが小皿に山盛りでしたが、まさに驚きの美味しさで、あっという間に平らげました。 ナスなど野菜系の煮物も2品ありました。 どれも美味しく、タコの煮たのと生の2品を半分づつ残したほかは殆ど全部食べました。 

   

 その後のパスタは気を遣って2種を半量ずつにして盛ってくれました。 一つは生ウニのスパゲッティ、もう一つはマグロの卵を和えたペンネ・リガーテでしたが、ともに程よいアルデンテ。 塩辛すぎず味は最高です。 所で白ワインですが、「 あてがいぶち 」 のワインにしては驚き ( これが何回目? ) の Benanti 社のBiancodicaselle D.O.C. です ( ぶどうはラベルに書いてないが、エトナ山の中腹1000m付近でだけ栽培されているカリカンテ100%と帰国後判明 )。 味も香りも私の好みで料理にもピッタリ。 「 いい加減な酒は出さないよ。 まあ飲んでみな 」 という感じでした。 店を出てから勘定書を見たら、このワインがなんと13ユーロ ( 約¥2100 )。 またまた驚きです。

   



 これだけ食べてもまだまだ胃に入りそうなので、いよいよ店の奥のショウケース ( 右上の写真には半分しか写っていません ) におもむき、前々から一度食べたいと思っていた伊勢海老とうちわ海老のあいのこみたいな不思議な奴( 計算書には Aragoste と書いてあったが、日本で見る伊勢海老とは違う ) を指さしてローストを注文しました。 ずいぶん大きかったけれど、伊勢海老と同じで食べられる部分は少ないので問題なく平らげました。 最後に香りのよい小さないちごの入ったグラニータとカプチーノを飲み込んで、おしまいですが、デザートもメニューがないので、今日のデザートは何かを聞き、頼むか頼まないかを決めて告げるという手続きが必要です。

   

 勘定書をもらって見たら、Aragosteが高価だった為?か、なんと総額から最後に10%値引き ( sconto = discount ) してくれていました。 またまた驚き! これではチップをしっかりと置かないわけにはゆきません。

 ともあれ、今回の旅の最終日を飾るにふさわしい夕食でした。 前菜、パスタ、セコンド、デザート、ワインのすべてにつき、素材、調理 ( 味つけ )、量の三拍子、文句のつけようがありませんでした。 値段も安く、店の雰囲気、環境がゴミゴミザワザワしている点を考慮しても100点満点をあげたいと思います。

シチリアの他の土地についても、順次掲載します

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