フリーマンの随想

その79. 7回目のイタリア


*その3.白ワイン*

( June 24, 2008 )



 シチリアでは魚料理ばかり毎晩食べていましたし、私は赤より白が好きですから、夕食時には白ワインを1本、毎晩飲んでいました。 ただ飲むばかりでは芸がないと考え、西海岸ではマルサラ ( Marsala ) のドンナフガータ ( Donnafugata ) ( 写真上 )、東部のエトナ山麓ではエトナ火山中腹のランダッツォ ( Randazzo ) にあるパトリア ( Patria ) ( 写真下 ) の2つのワイナリーを訪れ、各1時間ほど丁寧に施設を見学し、試飲させて貰いました。 施設内の醸造設備の写真は?とお考えの方もいらっしゃるかと思いますが、ただ大きなステンレスの醸造タンクや樫の熟成タンクが沢山並んでいるだけで面白くありません。 3m以上もある熟成用の樫の大樽は、現在は東欧のスロヴェニアあたりで作らせているようで、先進国にはもう大きな樫の材木はないような口ぶりでした。




 ぶどう畑の周囲にはバラの木がたくさん植えてあり、綺麗な花を咲かせていました。 それを褒めたら 「 なぜこれを植えているかご存知ですか? 」 と聞かれました。 分からないと答えたら、カビや虫の害はまずバラに発生するので、それが認められたらぶどうの病気が始まる前兆と考え、対策を取るのだという説明でした。 写真のギリシャ劇場風のひな段には、関係者が座り、いろいろと試飲しながら畑のぶどうの成長を眺めつつ、もろもろの経営計画を論じ合うのだそうです。

 いろいろのワインを所望し試飲して改めて認識したのは、原料のブドウの種類の違いがワインの味、風味に対して非常に重要であるという、ごく当たり前のことでした。 私は昨年まではイタリアのレストランで、片言の" Vino bianco ( 白ワイン )” と ” secco ( 辛口 ) ”という2語だけを口にして、あとはリスタを眺めながら値段とウェイター ( あるいはソムリエ ) の推奨とを参考に決めていただけでした。

 今年はそうではなく、世界中どこでも ( 機内でさえも ) 黙っていれば持ち出されてしまう ” Chardonnay ” 種のぶどうを原料とした白ワインは断固避けることにし、” ma non Chardonnay ” ( だけど、シャルドネは嫌だよ ) という言葉を加えました。これを口にしたとたん、彼らとの話は急にややこしくなるのですが、その話は割愛します。

 シチリアのワインは、赤も白も、以前は知名度も品質も低かったので、イタリア本土の大手醸造家に樽ごと安く買いたたかれ、ブレンド用のワインとして使われていたといいます ( 日本酒の世界でも行われていることです )。 所が、近年、品質の向上、国内外のコンテストでの入賞その他により、シチリア独自のブランドのラベルの瓶詰めでちゃんとした値段で世界中に売れるようになってきたのです。*1

 もう一つのポイントはシチリア固有種の原料ぶどうです。 昨年、イタリア半島南部の 「 かかと 」 の部分にあるプーリァ州で飲んだグレコ・ディ・トゥーフォ ( Greco di Tufo ) 種のぶどうで作った地元の白ワインの旨さに感心した記憶から、今年は毎晩、シチリア固有種のブドウから造ったワインを探して飲むことにしました。

 グレカニコ ( Grecanico )、アンソニカ ( Ansonica ) ( 別名インツォリア ( Inzolia ) 或いはインソリア ( Insolia ) )、カタラット ( Catarratto )、フィアーノ ( Fiano )、ヅィビッボ ( Zibibbo )、カリカンテ ( Carricante ) などの種類のぶどうから作られたワインを順に選んで毎晩飲みました。 これらを100%使った物、2種を半々に用いたものなどがあります。 もちろん、メーカーもいろいろ試しました。 残念ながら、私の舌のレベルでは、1本15Euro程度以上のものなら、どれも美味しく結構で、僅かずつ異なる事はわかるとは言え、細かい比較などできるわけがありません。 昨日のワインの味や香りを覚えてなどいられないし、料理を食べているうちに味や香りに対する感覚がどんどん変わって行く ( これがワインの面白い点だと思うのですが ) ことも事実です。

 でも、私の感じは、アンソニカやカタラットは良い意味での 「 素っ気なさ 」、フィアーノやカリカンテは 「 親しみやすい芳香 」 とでも申して置きましょうか。 私は勿論、レストランで1本12〜30ユーロ程度の中級品しか飲みませんでしたが、今回飲んだ内でどれか1本と言われたら、プラネタ ( Planeta ) 社のフィアーノ100%で作った COMETA I.G.T. ( 写真 *2 ) を挙げたいと思います。 シラクーサの地酒 Fania のインソリア/フィアーノ半々のワインも美味でした。 とにかくシチリアのワインは今や一流だと確信しました。

 なお、食事の場所にも、おおまかに言って3段階あって、最上の所はワインリストに白だけでも百種あるいはそれ以上のストックがあり、しかも、メーカー、品名、醸造年、値段だけでなく、原料ぶどうの種類がしっかり書いてあります。 大きな町の有名なリストランテがこれです。

 次のクラスが数的には一番多いのですが、ストックが赤白各20〜50種程度であり、値段は勿論書いてありますが、他の項目がたいてい一、二欠落しています。 特にぶどうの種類が書いてない場合があります。  一番下のクラスは数銘柄或いはハウスワインしか置いてない所です。 観光客などめったに来ない僻地のリストランテなどにこういう所がありました。

*1: パスタについては、状況は今も変わりません。 すなわち、シチリアでとれた良質の小麦はイタリア本土に安く買い取られ、そこで製粉、製麺されてシチリアに売られるということのようで、パスタに関しては依然として途上国的状況が続いています。

*2: これはシラクーサのこのレストランの品揃えのうちでもやはり高い方で、28ユーロ ( 約¥4,600 ) でしたが、日本に帰ってオークションの値段を見たら¥7,500ほどはしていました。

シチリアの他の土地についても、順次掲載します

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