フリーマンの随想

その78. 自転車のベル

歩道を歩いていて怒鳴られた話

( Dec. 28, 2007 )


このホームページに載せようと書いては見たものの、まとまり具合が気に入らなかったり、話題的に他の方々に関心を持って頂けそうにないと
思えたりして、フォルダーの奥にしまいこんでしまっている随想が沢山あります。 これはその中の一つでしたが、たまたま今朝の新聞に自転車
の運転に関する交通法規が近く改正されるという記事が載り、そこにベルの話も出ていたので、フォルダーの奥から引きずり出して載せました。

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 東海道53次を歩き始めて6日目、私は藤沢から平塚までを歩いていました。 辻堂のあたりの国道1号線の右側の歩道を歩いていたら、自転車に乗って後ろから来た一人の老人に、私はいきなり怒鳴られてしまいました。

 「 ベルを鳴らしているじゃないか。何でどかないんだ! 」

 私はその時、グループの案内担当として 「 次の一里塚はどのあたりにあるのかな 」 などと、地図を片手に考え事をしながら歩いていたので、そのベルには気がつかなかったのでした。  彼は頭髪は見事に禿げてはいるが、老人と言ってもせいぜい70歳程度、私よりはむしろ若いように思われました。 私は笑顔で 「 そんなに怒りなさんなよ 」 と半ばなだめ、半ば諭しましたが、 彼はその後も悪口雑言の限りで私を罵った後、呆然とたたずむ私を残して右に曲がって行きました。

 「 道交法 」 の具体的な説明をして、彼の独善的な考えを正してあげようとしたって、あの剣幕では無理だったとは思いますし、成り行き上、その時はそのままで済んでしまいました。  「 いい年をして、何であんなにカッカとしてるんだろう。 家庭でよほど疎外されて不満が溜まっているのか、それとも身勝手な暴君として長年君臨してきた人なのだろうか・・・ 」 などと思いながら、私は我慢してまた歩き始めました。

 以前から私は、日本の道路における自転車が、歩行者にとっても自動車の運転者にとっても非常に危険な存在である一方、自転車の側から見れば、せっかくの無公害で健康的な乗り物なのに、 自動車からも歩行者からも時には迷惑がられ、自分のための道路が与えられずに不便を強いられている現状は何とかならないものかと考えていました。

 もう一つ、2日目に、品川区から大田区に入るあたりの広い第一京浜国道の脇の歩道を歩いていた時の恐い体験を、このホームページの別の所にこのように書きました。

 「 第一京浜国道の歩道は田舎の車道ほどもある広い道幅ですが、そこをビュンビュンと、前からも後ろからも自転車が通り過ぎるので、私たち歩行者全員が何度もヒヤリとしました。  とくになぜか肥満体の若い女性の運転者が多く、あの 「 重量物 」 に高速度でぶつけられたら、もうただでは済まないだろうという恐怖感がありました。 6月19日の新聞に、最近自転車による歩行者の負傷が急増したこと、 2年先には自転車の歩道通行が全面的に禁止されるだろうという予想などが書かれていましたが、さりとてこれらの自転車がすべて車道を通ったら、今度は自動車と自転車との接触事故が急増することでしょう。 難しい問題です 」

 こんな2度の体験から、自転車の走行に関連する道路交通法を改めて勉強してみましたが、それは実に複雑で、一度や二度読んだ程度では完全に正しく理解することは困難なほどです。  「 車道および歩道とは別に自転車専用のレーンが備えられている理想的な道路、歩道と車道からなる通常の道路、歩道すらない狭い道路、自転車の絵が描いてある専用の横断歩道、描いてない横断歩道・・・ 」  頭の中は混乱する一方です。

 話をもとに戻します。 上記の老人の罵声を例にとって、以下に、道交法の規定を考えてみましょう。 彼は 「 リンリンとベルを鳴らしているのになぜ道をあけないんだ! 」 と私を怒鳴りつけました。

 自動車などは非常に少なかった戦前から戦後にかけて、街ののどかな情景を描写した 「 お使いは自転車に乗って颯爽と、あの町この道 チリリリリンリン・・・ 」 という歌がよく歌われていたのをご存じの方も多いでしょう。

 しかし、現在の道交法では 「 ・・・警音器を鳴らさなければならないこととされている場合を除き、警音器を鳴らしてはならない。 ただし、危険を防止するためやむを得ないときは、この限りでない 」 とされています。  自動車のクラクションの場合と全く同じです。 ですから 「 どけどけ 」 と言わんばかりに ベルを 「 チリンチリン 」 と鳴らしながら走るのは、法律違反 なのです。  実際、歩行中にいきなり背後でチリンチリンとやられると 「 ドキッ 」 とびっくりし、転んだりしかねません。

 現在の規定では「 ベルを鳴らせば歩行者は道をあけるはず 」 とか 「 歩行者に道を開けてもらうためにベルを鳴らす 」 と考えてはならないのです。 この事を知らずに自転車に乗っている人は相当多いと思われます。  私も今まで知りませんでした。 私が子供のころは、得意げにベルを頻繁に鳴らしながら自転車を走らせていましたし、なかには小さいホーンをつけた自転車も珍しくありませんでした。  あの老人もそういう時代の常識から脱していなかったのでしょう。

 次に 自転車が歩道を走ってよいかどうか です。道交法では 「 ・・・普通自転車は道路標識等により通行することができることとされている歩道を通行することができる 」 とあります。  つまり標識等によって許可された歩道 「 自転車歩行者道 」( 左 )でだけは、自転車も歩行者も共に通行してよいということです。

 言いかえれば、そういう標識のない大多数の道路では、自転車は 「 車両 」 の一種の 「 軽車両 」 ですから、 歩道ではなく車道の左側を走らなければならない のです。  大部分の一般歩道は歩行者専用( 右 )で、自転車は歩道を走ってはいけないのです。

 とはいえ、自動車の多い車道を自転車で走ることは非常に危険なことです。 ですから、歩道に通行人が少ない時などに、歩道を自転車が通ることは、やむを得ず黙認されているのが現状かと思われます。  従って、歩行者に対し 「 どけ、どけ 」 とばかりに歩道をつっ走るなど、もってのほかなのです。 歩道はその名の通り、あくまで歩行者のための道路なのです。

 前述の 「 自転車専用道路 」( 左 ) というものは全国的にも極めて数が少ないようですが、これよりは、自転車及び歩行者の両者の通行の用に供するための 「 自転車歩行者道 」 の方が多いでしょう。  両者が危険を感じずに共用できるほどの幅の広い 「 共用道 」 です。 しかし全国の歩道の大部分はそれですらなく、狭い、歩行者だけのための道です。( なお、名称が類似の 「 自転車歩行者専用道路 」 というものも別にあります。  この辺になると、もう、私には複雑でわけがわからなくなってきます )

 では、あの老人はどうするべきだったのでしょうか。本来自転車が走行してはいけない狭い普通の 「 歩道 」 の前方に歩行者がいて、自分の走行に危険だと考えたなら、自転車を停め、降りて、 歩行者に声をかけて空間をあけてもらい、自転車を押して歩いて追い越して行くのが適切で安全だと思われます。

 もっとも、いちいちそれでは大変なので、グループで歩道を歩く歩行者も、できるだけ横に並んで歩かず、縦一列になって道幅全部を占有しないようにし、また自転車には早めに気付いて道をあけてあげれば、お互いに気持ち良く通行できると思います。

 交差点ではどうでしょうか。「 交差点に自転車横断帯 ( 左 ) があるときは、当該自転車横断帯を進行しなければならない 」 と道交法には書いてあります。 この自転車横断帯がない交差点では、自転車は一般の横断歩道を通りますが、 この場合は歩行者と見なされますので、 自転車を降りて引っ張って横断するのが正しい のです。 しかし、この規則も、ほとんど守られていないようですし、また、いちいち守ることも難しいように思えます。

 とにかく、現状では自転車で走る人たちは、非常に苦しい規制のもとに置かれていると言わざるを得ません。 東海道を歩きだして 「 日本の道路環境の貧しさ 」 を改めて感じた次第です。

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