フリーマンの随想
![]() この大塚国際美術館の凄さは、行った人でないと到底分からないと思います。 「 結局は模写じゃないか 」、「 それも、油絵ではなく陶板じゃないか 」 と、 誰しも思うでしょうが、現場に立てば、その原寸大の ( 時には一辺が10m以上もある ) 迫力、美しさ、精巧さには、ただただ圧倒されるばかりです。 美術全集の数十cm四方程度の小さな印刷など、比較にもなりません。 ( 額縁も、オリジナルと同じ材料で同じデザインで作られているとか ) ![]() そう、ときたま日本の大都市の美術館で開かれる泰西名画の展覧会では、物凄い雑踏と人いきれの中、人垣の背後から背伸びして、 ヘトヘトになって一回りしますね。 ところがここは、土地柄かいつも空いているので、誰も回りにいない中、 至近距離から、そして離れて、静寂の中、一作品につき何分間でも好きなだけ鑑賞出来るのです。 それも世界中の美術館所蔵の最高の傑作ばかりをです。 「 では、お前はどっちが好きなんだ 」 と聞かれても困るんですね。 メトロポリタンやルーブルは、いつもそこそこ空いていますから、 ゆっくり鑑賞できますので、それでしたら現物に勝るものはありません。 でも、誰でもいつでもそこに行けるというわけではありません。 「 モナリザ 」 の現物は防弾ガラス越しに見られるだけですが、ここでは指先でその微妙な突起に触れることすら出来るのです。 「 本物と大塚とを両方見られれば、それに越したことはない 」 とだけ申しておきましょう。 ![]() 技術的なことを言えば、基板の上に投影された等倍の写真画像の上に数万種もの微妙な色差を持つ釉薬を、おそらくミリ以下の精度で塗り分けて行き、 原画と寸分たがわぬ色彩と質感に焼き上げるまでの無数の試行錯誤といったら、気の遠くなるような職人芸と根気でしょう。 色調や光沢は勿論、原画の傷や絵具の凹凸まで完全に再現されており、 その迫力と美しさは誇張でなく本当に原画にまったく劣らないレベルです。 私が技術者だからかもしれませんが、作品の芸術性だけでなく、こういう超絶的に困難な技術と精緻な 「 技 」 に対して理解が出来るので、 なおさら非常な感動を覚えるのです。 『 ピカソの子息やミロの孫達および各国の美術館館長、館員の方々が来日されたおりには、この美術館や展示品に対して大きな賛同、 賛辞を頂いた 』 との説明には素直に納得します。 「 百聞は一見にしかず 」 ということわざは、この美術館のためにあると言えます。 |