フリーマンの随想

その61. ハワイ島・マウイ島の旅


* 見たり聞いたり考えたり(2) *

(5. 30. 2004)


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 書き出しの茶色の文字の部分は、近況の2004年5月度のところに書いた文章の一部です。  いわば事情の説明ですから、すでにお読みになった方は、どうか飛ばしてその先からお読み下さい。 

 米国在住時代の1989年に、 アトランタの寿司屋のカウンターで私ども夫婦と隣同士に座ったのが縁で偶然知り合いになり、 以降親しい友人として付き合い続けているS子さん ( 5?歳 ) は、5年ほど前からハワイ島に住んで独りで働いていたのですが、 今度、地元の造園業社長の、何と40歳!の米人に見染められ、ラスヴェガスでめでたく結婚式を挙げました。

 私達は、早速お祝いの品を持って、5月の9日から9日間、彼らを訪ねてきました。  前回 ( 2001年 )の旅 同様、宿は、日本人観光客がどっと押しかける豪華リゾートホテルは避け、 手ごろな値段で清潔なB&B ( ベッド・アンド・ブレクファスト ) を、S子さんに探して貰いました。 カホルは空路長時間の海外旅行については、健康上の懸念があったのですが、幸い、両名とも無事に帰って来ました。

 ハワイ島だけではなく、途中、私たちだけで隣のマウイ島まで足を伸ばしましたが、 旅行中遭遇したり考えたりしたことなどを、 このあとに幾つか書いて見ました。


 狭い国日本、格差の島ハワイ

 ハワイ諸島なんて、広い太平洋の真ん中に在るせいもあって、ケシ粒のように小さな島々だと、3年前まで私は錯覚していました。  どの島も伊豆の大島より5倍か10倍大きい程度だろうと思っていました。  でも、3年前、自分でレンタカーを借りてドライブしてみて、その認識が誤っていることに、すぐに気づきました。  山だって富士山より高い山が幾つもあるのです。

 ハワイ島は、The Big Island の別名もあるほどで、中でも一番大きく、他のすべての島を併せたよりも大きな島です。  米国の州の中では小さい部類のコネチカット州とほぼ同じ面積だと現地の観光案内に書いてありました。  それではピンと来ないというのであれば、約1万平方kmです。  長野県の4分の3、群馬県や栃木県の1.5倍ほどもあります。 伊豆大島の、何と100倍以上もあるのです。  なお、ハワイ諸島の20あまりの島全部を合せたら、四国全体に近い面積です。 意外でしょう?

 そんな広いハワイ島に、たった10万人くらいしか住んでいないのですから、この島の上質な住宅では、 1軒の敷地は何エーカー ( 1エーカーは1226坪 ) という単位です*。  眺望絶佳の高台の高級住宅地の地価は、このところ年々急上昇しているそうです。  ですから、それでもまだ土地の単価は日本に比べればだいぶ安いのに、 広い土地つきのちょっとした住宅は1億円以上もすることになります。

 こういう邸宅には裕福な白人層と、日本から最近移住したリッチな日本人などが住んでいます。  しかし、貧しいハワイ人や、戦前日本から移住した豊かではない日系米人たちは、 敷地だけは広いとは言え、不便な地域にある、日本の普通の住宅よりも小さく質素な家に住んでいます。  一方では、後の方に書いてあるような途方もなく豪華な別荘地・・・日本では到底考えられない大きな貧富の格差です。  それに、これらのリゾート開発は、いくら華麗に見えても、やはり一種の自然破壊だという感じは否めません。

 これらのリゾートも、にぎやかに人々に使われ雇用拡大に貢献している所は、まだマシかも知れません。  しかし、JALを中心にバブルの頃開発されたとか聞く、海岸沿いのある広大なリゾート用区域などは、誰にも買われず、家も建たず、 雑草の生い茂るままに森閑と廃墟のように眠っています。 S子さんお気に入りの散策と瞑想の場所にはなっているようですが、 本当に考えさせられたことでした。

*: S子さんの家の門を入ると、玄関の前の斜面には、手入れは行き届いていないが、幅50ヤード、 長さは延べ300ヤードほどの2ホールの練習用ゴルフコースがありました!

   飲酒運転も止むを得ない?

 これほど人口密度が低いので、ちょっと旨い夕飯を食おうと思えば、 時速80kmから100kmで飛ばして、時には片道30分以上も運転しなくてはなりません。  都心から茅ヶ崎くらいの距離を、車でちょっと夕飯を食いに・・・ということです。 道路は広く、交通量は極めて少なく、 交差点も信号も少なく、時間的にも精神的にも楽な運転だからこそ可能な話です。  でも、両側に人家はほとんどないし、街路灯も全くないから、夜間は真っ暗闇の中を路側の白線だけを頼りに運転することになります。  たまに対向車が来ると、整備が悪いのかヘッドランプが上向き加減で、まぶしくて一瞬前が見えなくなります。  怖くて、とても酒など飲んだら運転できません。 カホルは飲みませんが暗闇の中の運転はマッピラだと尻込みするので、 私達夫婦だけのときは、私の夕食はアルコール抜きということにならざるを得ませんでした。

 こういう暗闇の道も、住み慣れ通い慣れれば、怖くなくなるとは思います。 実際、8年前まで、在米中は1月に1回、 私ども夫婦は100km以上離れたオーガスタの町の寿司屋に夕食に行くことにきめていましたが、日本酒を4合ほど飲んでも、 真っ暗闇の牧場や森の中の道を運転して、私は帰ってきました。 一切の公共交通機関がないのだから、仕方ない?のです。  今度の旅でも、20分くらいのドライブの距離にあるレストランで夕食の後、 S子さんの夫は1本のワインを私と二人で半分づつ飲んだばかりなのに、私たちを自分の車で宿まで送ってくれました。

 日本は小さくていいですね。 夜も電車が走っているし、タクシーだってあります。 歩いて行ける距離の美味い店だって少なくありません。  日本で飲酒運転取締りをあれだけ厳格に実行できるのも、市街自体が狭く、住宅地と近接している上に、 自分で運転せずに帰宅できる交通手段が深夜でも存在するからに他ならないと思うのです。  米国だったら、そんな厳しいことを言っていたら、レストランや醸造業者は皆倒産してしまうし、 結婚式等のパーティやもろもろの宴席は、全員泊りがけでもなければ一切やれないことになってしまいます。

 ついでながら、以前私の住んでいた州の交通法規には、ビール小瓶1本 ( あるいはワインをグラス1杯かウイスキーシングル1杯 ) を、 30分間隔で ( 何回でも ) 飲んだ後、最後の1本を飲んでからに2時間経てば、運転してよいと記載されていました ( 細部に多少誤りがあるかも知れませんが、ほぼこの通りだったと思います )。

 小さなベッドに寝たがる巨体

 米国のB&B ( ベッド&ブレクファスト ) を予約するとき、我々日本人が注意しなくてはならないのが、ベッドのサイズです。  たいていのB&Bでは、ベッドはクイーンサイズです。 幅を測ったら、約170cmしか有りません。  この狭い幅の中に、平均で男性が優に100kg以上、女性でも100kg近くはあると思われる、 あの長身肥満体の米人が二人並んで寝るのです。

 笑ってしまうのは、枕元にはたいてい耳栓が置いてあることです。 そんなに耳元でのいびきが邪魔なら、 日本と違い部屋は広いのだから、ツインベッドにして間隔をあければ、ずいぶんと安眠の助けになると思うのですが、 新婚さんでもないのに、米人夫婦は耳栓をしてでも、狭苦しいクイーンサイズのベッドで添い寝したいとこだわるのです。

 米人の家庭に案内されて広いマスターベッドルームを見せてもらうと、夫婦の寝台はたいていの場合クイーンサイズでした。  毎日、体がほとんど触れ合う状態で寝たいと、彼らはこだわるのです。 あれでは寝返りすら満足に出来ません。  欧州人たちはそれほどでもないらしいので、 クイーンサイズベッドこそ米国特有の文化のひとつと言えるのではないでしょうか。  他人が口出しすべきことでも有りませんが、本当にご苦労さんな事だと思います。

 私たちは、今度の旅でも、クイーンサイズの場合は、費用はかさむが2室続きの部屋を取ってもらい別室に寝ました。  ダブルベッドの場合は1ベッドでよいのです。 寝相の悪い私が寝返りを打っても妻を蹴飛ばすことはまず有りません。  でも、私が暑いと毛布を1枚剥ごうとすると妻が反対することもありました。  こういうこともあるから、ホテルのようにツインベッド形式であるほうが睡眠の 「 自主・独立・安全 」 が保障されて良いと思うのですが・・・。

 超豪華なリゾートでの美味しくない食事

 ハワイ島の北西部の海岸沿いには、日本人観光客も多く訪れる豪華で高価なリゾートがたくさん続いています。  そのうちのひとつ、FOUR SEASONS RESORT HUALALAI AT HISTORIC KA'UPULEHU に、 S子さんご夫婦に夕食を招待されました。 ハワイで最高級* のリゾートだといわれているこの広大なこの敷地内には、 美しいプライベートのゴルフコースや豪華な邸宅、高級なコンドミニアムなどが、思わず息を呑むような景観の中に点在していますが、 中でも話題なのが、あのビル・ゲイツ氏が$6千万 ( 約66億円 ) をかけて最近作ったという豪邸だそうです。  この地域は、今、米国でもっともホットな別荘地だとか・・・。  そのリゾート内のレストラン ( 料理長は中国系の米人WANG氏 ) でご馳走になった夕食の味は、 日本の上質のレストランには及ばないけれど、さすがに米国離れした良い味でした。

*: アメリカの旅行評論家協会による全米ベストリゾートホテルの評価順位で、2001,2002年、2年連続で全米1位でした。

 最後の日には、今度は私たちがお二人の結婚を祝って、更に15kmほど北にある HILTON WAIKOLOA VILLAGE での夕食にご招待しました。  このホテルは、1988年にオープンした時には 「 世界でもっとも建設費の高いホテル 」 と言われただけあって、 まことに贅を尽くしたとしか言いようのない建物でした。 東京ドーム5個分の敷地内に2千人が働く巨大な夢空間です。  日本人の若い新婚さんのような人たちもチラホラ来ていました。  しかし、ここの夕食は日本並みに高価な割には、あまり感心できないものでした。  今まで何度も述べてきたことですが、魚介類を中心にあれだけ新鮮な素材を安く得られるのに、 米人たちはどうして美味い料理を作ることが出来ないのか、実に不思議としか言いようが有りません。

 S子さんいわく 「 夫は何を出しても 『 美味しい、美味しい 』 と喜んで食べてくれるの 」。 こういうときだけは、 米人の味覚の質に感謝すべきでしょう。( それは失礼じゃないかって? まあいいじゃないですか )

 安全な住民と不安全な旅行者

 マウイ島の海抜500m?ほどの小高い斜面にある、サトウキビ畑に囲まれた小さな町マカワオにある小さなB&B*。  町に入ってから車を停めて商店で尋ねても、どこにあるのか誰も知りません。  このB&Bに限らず、日本のような広告兼案内用の標識のようなものは全くありません。  仕方なく車を転がしていたら幸運にもこのB&Bの住所と同じストリート名が書かれた小さな道路標識が目に入り、 ようやく探し当てることが出来ました。 ところが、チェックインしようとノックしても誰も出てきません。  ふと見ると 「 AKIRAへ 」 と書いた青い紙の小さなメモが玄関のドアに挟まっています。 開けてみると、 女主人の手書きで 「 4時半から7時まで、映画を観に行っているから、部屋に入ってもらって構いません 」 と書いてあります。

 3組の宿泊客を泊められるだけの小さなアンティーク調の建物には、玄関にも部屋にも、どこも鍵などかかっておらず、 私たちは図面に示された部屋に入り、荷物を置いてから、キッチンで自分でコーヒーを入れ、一休みしてから、 鍵も掛けずにまた車で夕食に出かけました。

 8時過ぎに戻ってくると、向いの家に住む女主人が、灯りのついたのを見て歩いてきて、そこで正式のチェックインが始まりました。  何とものどかな話です。どこかで一度だけ似たような体験をしたと思って記憶をたどったら、5年ほど前、 八重山諸島の小浜島の民宿に泊ったとき、同じことがあったのを思い出しました。 ハワイと八重山・・・そういえば似ています。  女主人に聞くと 「 この辺には泥棒なんていない。 どこの家も部屋に鍵なんて掛けなくても大丈夫 」 と言います。  ところが、翌日車で島の反対側の景勝地に行こうとすると彼女は 「 駐車した車の中にカメラや貴重品を入れておいたら、 必ずガラス窓を叩き割って盗まれるから、トランクにすら何も入れておくな 」 と、日本でも考えられないような恐ろしいことを言うのです。  「 景勝地に停めた観光客のレンタカーだけは必ず目を付けられているのに、 地元の人の車は鍵を掛けずにどこに駐車したって問題ない 」 のだそうです。  泥棒よ、差別をするな! 観光客にも、この天国のような安全を味わわせろ!

 このことは、隣のハワイ島でも同様。  S子さんの家も、昼間は誰もいないのに、鍵を掛けて出ることなど、一度もないようでした。   安全な所は誰にとっても安全、怖い区域は誰にとっても怖いなどという普通の常識は、このハワイでは当てはまらないと知りました。

*: こんな浮世離れした僻地?のB&Bですが、ニコニコしながら女主人が自慢げに持ってきた日本のあるインテリア雑誌の最新号に、 4ページにわたり、たくさんの写真入りで詳しく紹介されているではありませんか。 日本の情報力って凄い!!  私たちが 「 何だこのガタガタのオンボロ家具! 」 と思っていたのが、この雑誌 ( プラスワンリビング6月号 ) によると、 ポルトガル製やスウェーデン製の貴重なアンティークなのだそうです。

 

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