フリーマンの随想

その21. 松田警察署長に言いたかった事


* 市民の声を黙しないで欲しい *

(9. 12. 1999)


***

* 最近神奈川県警のいくつもの不祥事が連日大きく報道されているが、私はここでその尻馬に乗って、 これらの事件について批判するつもりはない。

* それに、この私の意見が警察の関係者の目に触れることも多分ないだろうと思う。 私は今日ここで、私自身の最近の体験にもとづき、事件とは全く別の事柄について、 二つほど考えを述べてみたいと思うだけである。

[その1]

* 一つは、警察には市民からの要望や批判を聴こうとする気持が少しでも有るのだろうか? という疑問である。 最近はどこの自治体でも「広報課」という部署を「広報広聴課」 と改め、自治体が市民に言いたいことを伝えるだけではなく、 市民が自治体に言いたいことにも耳を傾けますという 「 双方向 」 の姿勢を示している。 事実、私が昨年当地の市長に書面で ある意見を投げかけたときも、 書面で丁寧な返事が送られてきた。 ひところは無愛想の典型ともいわれた「お役所」だって、このように変ってきている。

* しかし、警察にはこのような考えや姿勢は いまだにないように思える。 今回の一連の事件が問題化する以前の 8月26日、 私は 地元の松田警察署長殿に宛てて、封書で質問書を送った( 内容の要点は[ その2 ] に記す ) が、2週間たった今も何も返事がない。 私の認識不足があるなら教えて欲しいし、 どうしてなのだろうと思っているうちに、余り気が進まないが このページを書いてみる気になった。

* 忙しいなら書面でなくても担当者が電話1本私に掛けて、数分間も答えれば済むことだから、 おそらく、警察署が、このような要望や質問の処理を担当する人を置いていないということであろう。 これは、置きたいのだが 人手が足らないとか、予算がどうとか言う話ではないらしい。 「 警察は自分の意志を市民に伝え、守らせるのが仕事であり、 市民から教えられたり意見を聞いたり、また質問にいちいち答えたりする必要はない 」 のだから、 広聴の担当など置く必要はないと考えているのではなかろうか。

* 私は以前、消費者側としても会社側としても経験があるが、 顧客からの苦情処理への 民間会社の対応は、それはもう迅速で 「 至れり尽くせり 」 のものであった。 文句を言ってきた人が最後には恐縮してしまい、 すっかりその会社のファンになってしまう事すら珍しくないほどであった。

* 民間会社の場合は、対応が気に入らなければ他の会社の商品に替えるという選択肢が誰にも有るから、 会社はこのように誠意を尽くすのだという面もある。 だが、残念ながら 「 この警察署は気に入らないから私は他の警察署に替える 」 などということは我々には出来ないのだ。 しかも、民間会社と違い警察の給与も活動もすべてが我々市民の税金で賄われているのだから、 警察には、もっと 「 広聴 」 に心がけて欲しいと思うのだがどうだろう。

* 警察は市民の意見に対してばかりでなく、市民の協力に対しても対応の仕方をわきまえていない。 2カ月ほど前、私が市のボランティア活動で街路のゴミ拾いをしていたとき、 ある交差点の車道に4cmくらいの新品の釘が、たくさん散乱しているのを見つけた。 誰かが積荷からこぼしたのか、それともイタズラで撒いたのかは分からないが、 パンクや事故の恐れが有るので丁寧に拾った。

* しかし一部は夏の気温で柔らかくなったアスファルトに半分食い込んでいて、手では除けない。 あまり一生懸命やっていると、こちらの身が危険なので、 近くの常時ほとんど無人の交番から、松田署に電話して状況を報告し、善処を依頼した ( この種のことが、警察の管轄事項なのかどうかは分からなかったが )。 所が、出てきた警官が ねぎらいの言葉らしいことを何も言わないのは ともかくとしても 「 釘の長さは ? 本数は ? 」 とか状況を詳しく説明させた後 「 ではそちらの住所、氏名、 電話番号を言って下さい 」 「 ハイ分かりました 」 で終わりである。

* 察するに、彼には上司に提出する日報か何かに記載する内容に不足があってはいけないという ような観念しか念頭に無かったのであろう。 もちろんその後 「 あの後、あの釘は除去しておきました 」 というような連絡も無かった。 まさか いたずら電話だと思ったのではあるまいが、 彼は一体何のために私の電話番号を訊ねたのだろうか。

[ その2 ]

* 最近、警察は 「 ウッカリの違反 」 ばかりを厳しく取り締り、 「 故意の違反 」 を軽視あるいは放置しているのではないかと思えてならない。 同じ(程度の)犯罪なら、故意の方が過失より 「 罪も罰も重い 」 というのは法律のイロハではないだろうか。

* 道路脇や山林へのゴミ投棄 ( 申すまでもなく故意 ) については、 自治体と警察署の連名で何万円の罰金とかいう立て札が あちこちに出ているが、 投棄常習地域に夜間に警官が張り込んで不心得者を逮捕したとか、 車からのゴミ投げ捨てを捕まえてお灸を据えたとか言う報道は、ついぞ目にしない。 もし一人でも捕まえているのだったら、大きく批判的に報道させて下されば、 きっと評判になって、悪質な常習者たちが自粛すると思う。

* 駅前の広場などで高校生が白昼堂々と喫煙しているが、警官は何も行動しないようだ。 大体、警官が盛り場を徒歩で巡邏している姿など、最近ちっとも見かけない。 高校生の飲酒喫煙など、昔から珍しくもないから、その事自体をとやかくは言わないが、 繁華街の人前で白昼堂々とやるのは良くないと思う。 こういう状況を放置すると、中小学生たちを 「 法律なんて有名無実なんだ 」 と失望させる結果になり、そのことが将来の社会にとって怖いと私は思う。 1日だけで良いから抜打ちで全員捕まえてお灸を据えたら、 当分の間は街の光景が随分変ることだろう。 それとも 「 タバコなんかに もう構ってなんかいられない。 覚醒剤の摘発で手一杯だ 」 とでもいうのだろうか。

* 週末の夜の暴走族は、お陰でこの地域では最近減ってきた様だが、週日の昼間でも、 違法に改造したバイクや車が住宅地をしばしば猛烈な爆音を響かせて走る。 その一部は地域の住民だ。 この小さな地方都市でも、繁華街に行けば、 交差点や駐車場の出口付近にまで常時多くの車が停っていて、イライラや渋滞をひき起こしている。 交番の向いの商店の前に車を停めて買い物をしたって何も言われない。 前も横も後ろも濃い色のシートを窓に貼って、 運転者の表情や車の向こう側が全く見えない車は違反だし危険だから、 止めさせるべきだと、先日ある新聞の記事に書いてあったが、こういう車も最近多い。

* これらはみな 「 故意の違反、故意の犯罪 」 である。 ところが、これらを取り締っている警官の姿を、最近は ほとんど見かけなくなった。 取り締まられたという人の話も聞かない。 「 警官は一体どこに消えてしまったのか 」 「 彼等は一体どこで何をしているのだろう 」 と不思議に思っていたら、実はいる所にはいたのだ ! ある朝、つい気付かずに進入禁止の時間帯にある道に入ってしまったら、 何人かでヒッソリと待ち構えていて、ピッタリと捕まってしまった。

* 勿論、これも立派な違反なのだが、この種のものは 「 ウッカリの過失の違反 」 である。 「 ウッカリの違反を取り締まるのも結構ですが、むしろ実害の起きている故意の違反を、 より厳しく頻繁に取り締まるべきではないでしょうか 」 というのが 私の提言だった。 「 素人は余計な口出しをするな 」 ということなのだろうか、何もお返事を貰えなかったが、 今の警察の取り締りの優先順位の実態は 確かにおかしいと私は思うがどうだろうか。

* 何もかも全部一斉に完璧に取り締まることなど出来ないのだから、 「 現在と将来の社会で、市民がより快適でより平和な生活を送れるためには 今何を取り締まるのが一番大切か 」 という優先順位づけをして欲しいと私は思ったのだ。

* 警察が上からの指示命令で動くのは当然だが、それだけでなく、 市民の声にも少しは耳を傾けるようにしたら いかがであろうか。 それとも、どこかの国のように、 警察署長は 「 公選 」 にしなくてはならないのだろうか。
**************************************

この文章は、上記の日付からもお分かりのように、神奈川県警の一連の不祥事のうちの、 まだ 「 ホンの一部 」 しか報道されていなかった頃に掲載したものです。 その後次々に明るみに出た不祥事の中でも最大の問題となった、 例の元神奈川県警警部補の覚醒剤使用事件では、 当時県警本部外事課長代理として犯人隠匿に加担したとの理由で、 この松田警察署長 F氏は11月14日に書類送検され、同署長職も更迭されました。 あの丁重な体裁と内容の市民からの質問と提言を、 完全に黙殺してしまう体質と、この、警察の体面保持のためなら、 あのような事をやってしまうという体質とは、 実は表裏一体なのではないでしょうか ( 11月19日追記 )

ご感想、ご意見、ご質問などがあれば まで。