13監査第27号
                             平成13年9月18日
請求人 名古屋市千種区若水二丁目3番17号(サンマンション千種公園A−208)
    田口龍司様

                    愛知県監査委員 柳田昇二

                       同    兵藤俊一

                       同    小田悦雄

                       同    武藤辰男
 

    地方自治法第242条第1項の規定に基づく住民監査請求について
    (通知)
 平成13年7月24日付けで請求人から提出のありました地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)第242条第1項の規定に基づく住民監査請求(以下「本件住民監査請求」という。)に係る監査の結果は、別添のとおりです。

別添本件住民監査請求に係る監査の結果

1 本件住民監査請求の趣旨
 本件住民監査請求については、請求人から提出された平成13年7月24日付けの措置請求書及び事実証明書並びに同年8月10日に実施した証拠提出・陳述の期日において請求人が行った陳述等を総合して、次のとおりの主張と解した。

(1)愛知県立豊田西高等学校(以下「豊田西高校」という。)校長は、平成13年2月24日及び25日に13人の同校教員を、大学受験生徒の激励のため、試験会場である京都大学始め9大学へ出張させている。本来、大学入試に教員が試験会場まで出かけ、生徒を激励する行為自体がとうてい公務とは言い難く、全くの私事である。さらに、咋年度の豊田西高校3年生は、このほかにも多くの大学を受験しているが、特定の大学を受験する生徒の激励にのみ教員を出張させているのは、公務性がないことの証であり、本件出張命令は校長の裁量権を逸脱している。

(2)愛知県立一宮高等学校(以下「一宮高校」という。)校長は、平成13年2月25日に同校教員に対し、京都大学を受験する生徒の受験指導のために同大学への出張を命じている。この出張に関しても、前記の豊田西高校における出張と同様の理由から公務とは言い難い。咋年度の一宮高校3年生は、このほかに多くの大学を受験しているにもかかわらず、京都大学の受験生だけを現地で指導しなければならない理由がなく、本件出張命令は、校長の裁量権を逸脱している。
 また、同校校長は、同年3月22日に同校教員に対し、名古屋大学の後期日程試験の合否確認のために同大学への出張を命じている。愛知県個人情報保護条例(平成4年愛知県条例第1号。以下「条例」という。)第7条第3項は「個人情報を収集するときは、本人から収集しなければならない」と規定していることから、本件出張命令は条例違反であり、校長の裁量権の逸脱である。仮に条例に違反しないとしても、名古屋大学の後期日程試験の合格発表だけを出張してまで見に行く合理的な根拠がなく、校長の裁量権の濫用である。

(3)愛知県立西春高等学校(以下「西春高校」という。)校長は、平成13年3月7日から8日まで同校教員に対し、大学施設見学及び情報通信工学の学習を目的として、東京工科大学及び東京理科大学への出張を命じており、また、同月16日から17日まで同校英語科の教員に対し、佐賀大学及び地域に関する調査研究を目的として、佐賀大学及び佐賀県立博物館への出張を命じている。これらの出張は、年度未の旅費予算の消化を目的としたものであり、わざわざ出張しなくとも情報を得ることはできること、さらに、英語科の教員が佐賀県立博物館へ見学に行くことは職務との関連性が見られないことから、これらの出張には正当な理由がなく、校長の裁量権の濫用である。
 しかも、佐賀大学への見学依頼を怠り、目的である就職状況や入試状況を直接大学学生部から間くことができなかったことから、本件出張には重大な暇疵がある。
 また、同校校長は、同校教員延べ6人を、合否情報の収集等のため、同年2月20日に南山大学、3月8日に愛知県立大学、同月9日に愛知教育大学へ出張させている。本人の同意なしに、本人以外から個人情報を収集することは条例違反であり、校長の裁量権を逸脱した出張命令である。仮に条例に違反しないとしても、これら3校の合否情報だけを出張して収集しなければならなかったという必然性はなく、校長の裁量権の濫用である。

(4)よって、上記出張は不必要なものであり、不当な出張に当たることから、各校校長及び出張した教員に旅費の返還を求める。

2 監査の実施
 本件住民監査請求は、法第242条の要件に適合していると判断したので、次のとおり監査を実施した。
(1)監査対象事項
 別記1から別記3−3記載の放費支出行為
(2)監査対象機関
 豊田西高校
 一宮高校
 西春高校
3 認定した事実
 監査の結果、認定した事実は次のとおりである。

(1)大学の入試制度について
 現在、すべての国公立大学は、大学入試センターの行う大学入試センター試験(以下「センター試験」という。)及び各大学(学部・学科)が行う個別試験(以下「2次試験」という。)を併せて合格者判定を行っている。また、国立大学が行う入試方式は、分離分割方式に一本化され学部・学科の定員を前期日程試験及び後期日程試験の2つに分けて募集している。公立大学も原則として分離分割方式を採用しているが、一部の大学においては中期日程試験を実施している。平成13年度入学志願者を対象とした入試は、次表の日程で実施された(2次試験の日程については、大部分の大学において行われた日である。)。

 なお、合格発表日は各大学により違っているが、前期日程試験の合格発表は、後期日程試験までにすべて行われており、入学手続きを行った者は、中期日程試験、後期日程試験を受験しても、合格者名簿登載対象外となる。
 私立大学については、それぞれの学校・学部・学科で、独自の入試を行うもの、センター試験を利用するもの、併用するものと様々であり、試験日程も1月から3月まで様々である。

(2)県立学校職員へ旅行命令を行う権限について
 県立学校の職員へ旅行命令を行う権限は、愛知県立学校管理規則(昭和32年愛知県教育委員会規則第9号)第16条の規定により、当該県立学校の校長に委任されている(なお、校長、教頭を除く教員の県内旅行に関しては、「教頭及び事務長の専決事項について」(平成11年3月19日付け愛知県教育委員会教育長通知)により、教頭の専決事項とされている。)。

(3)豊田西高校における出張について
 ア出張の概要について
 同校では、2次試験受験生徒の激励のため、別記1記載のとおり9大学の2次試験会場に延べ13人の教員が出張し、受験生の出欠確認、直前における諸注意と激励等を行った。
イ 旅費の支出について
 出張の用務内容については、大学受験の生徒激励等として、別記1記載のとおり旅行命令がなされ、所定の手続きを経た上で旅費が支給されており、支出された旅費額は、13人分で合計102,828円であった。

(4)一宮高校における出張について
ア 別記2−1の出張の概要について
 同校では、2次試験受験指導のため、別記2−1のとおり京都大学の2次試験会場に1人の教員が出張し、受験生の出欠確認、直前における諸注意と激励、教科のワンポイントレッスン等を行った。
イ 別記2−2の出張の概要について
 同校では、後期日程試験の合否確認のため、別記2−2のとおり名古屋大学に1人の教員が出張し、合否結果の確認を行い、現場にて学校へ連絡を取り、帰校後、校長、進路指導主事及び各ホームルーム担任へ合否状況を報告した。
ウ 旅費の支出について
 出張の用務内容については、別記2−1の出張は大学2次試験受験指導、2−2の出張は進路指導用務として、それぞれ旅行命令がなされ、所定の手続きを経た上で旅費が支給されており、支出された旅費額は、2人分で合計15,340円であった。

(5)西春高校における出張について
ア 別記3−1の出張の概要について
 同校では、大学の施設見学及び情報通信工学の学習のため、別記3−1のとおり東京工科大学及び束京理科大学に1人の教員が出張し、東京工科大学においては、同大学講師から音声認識に関する研究内容の説明を受けるとともに、大学施設の視察を行い、東京理科大学においては、大学施設の視察及び大学周辺の下宿状況の調査等を行った。
イ 別記3−2の出張の概要について
 同校では、大学及び地域に関する調査・研究のため、別記3−2のとおり佐賀大学及び佐賀県立博物館に英語科の教員1人が出張し、佐賀大学において、図書館、学生会館等を視察するとともに、大学までの通学方法についての確認を行い、その後、佐賀県立博物館を視察した。
 なお、佐賀大学への訪間について、校長名の文書による訪間依頼は行われていなかった。
ウ 別記3−3の出張の概要について
 同校では、大学入試の合否状況の確認及び生徒指導のため、別記3−3のとおり南山大学に2人、愛知県立大学に2人、愛知教育大学に2人の教員が出張し、合否確認を行い、その場に居合わせた生徒のうち、合格者に対しては進路先の決定についての指導助言、不合格者に対しては、残された受験への励ましや進路先についての指導助言を行った。
 なお、発表当日指導助言を行い得なかった生徒に対しては、その後担任等から同様の指導助言を行った。
工 旅費の支出について
 出張の用務内容については、別記3−1の出張は大学施設見学及び情報通信の学習、3−2の出張は大学及び地域に関する調査研究、3−3の出張は生徒の進路指導として、それぞれ旅行命令がなされ、所定の手続きを経た上で旅費が支給されており、支出された旅費額は、延べ8人分で合計112,305円であった。

(6)合否状況の把握の手続きについて
 一宮高校及び西春高校における合否状況の把握の手続きは、両校とも概ね次のとおりであった。
 両校校長は、学年会において、個人情報保護に関して担任全員の理解を深めさせ、それを受け各担任が、担当クラスにおいて生徒に対し、進路指導の一環として合否状況の把握が必要であることを説明し、教員が合格発表会場で合否確認を行う場合もあることを周知した上で、各生徒の任意により受験番号を申告させた。
 合否確認は、一部の大学については、教員が合格発表会場に出張し確認を行い、その他の大学については、担任が生徒本人に電話等で確認を行った。

4 判断
 以上の認定事実に基づき、以下、請求人の主張を踏まえ判断する。

(l)別記1及び2−1の出張について
 請求人は、別記1及び2−1の出張について、生徒を激励する行為自体がとうてい公務とは言えず、さらに、特定の大学を受験する生徒の激励にのみ教員を出張させることは公務性がないことの証であると主張する。
 校長が旅行命令の権限を行使するに当たっては、学校運営上の諸般の事情を総合的に考慮して行使されるべきものであり、旅行命令の権限をどのように行使するかについては校長の裁量に委ねられていると認められる。
 豊田西高校、一宮高校両校の生徒・保護者の大学進学への希望は高く、こうした状況を踏まえ、両校校長は、大学受験に対する指導の一環として、受験会場での激励のために教員を出張させることが必要であると判断したものであり、この判断が校長に与えられた裁量を逸脱したものとは認められない。
 また、旅費予算の制約等から、すべての大学に教員を出張させることは不可能であるため、両校校長は、志願者数、同校生徒及び保護者の進学指向、現場で適切な援助を行うことによる効果、次年度以降の進路指導への効果、当該大学の2次試験の特性を総合的に勘案し、出張させる大学を決定したものであり、この決定についても校長の裁量の範囲内のものと認められる。

(2)別記2−2及び3−3の出張について
 請求人は、別記2−2及び3−3の出張について、生徒の合否確認のために出張することは条例違反であり、仮に条例に違反しないとしても、特定の大学の合否確認のために出張するのは校長の裁量権の濫用であると主張する。
 条例は、「個人情報を収集するときは、本人から収集しなければならない。ただし、」「本人の同意があるとき」は、この限りでない旨規定している(第7条第3項本文及び同項第2号)。
 一宮高校、西春高校の両校においては、前記3(6)で認定したとおり、教員が合格発表の会場で合否確認を行うことについて生徒本人に周知した上で、合否確認に必要な受験番号を、各生徒の任意により申告させていることから、個人情報の収集についての本人の同意を得ていると解するのが適当であり、条例に違反するとは認められない。
 また、両校校長は、合否結果を踏まえて速やかに事後指導を行うことが、進路指導において重要であるとの認識のもと、各大学ごとの志願者数、合格発表の時期、他大学との併願状況等を総合的に勘案し、教員が出張し合否確認を行うことが適切であると判断した大学について、出張を命じたものであり、この判断が校長に与えられた裁量権の濫用に当たるものとは認められない。

(3)別記3−1及び3−2の出張について
ア 請求人は、別記3−1及び3−2の出張について、年度末の旅費予算の消化を目的とした不必要なものであり、校長の裁量権の濫用であると主張する。
 西春高校校長は、適切な進路指導を進める上で、全国の大学の研究・講義内容や充実した大学生活を送るための環境の状況を調査し、生徒に情報提供することが重要であると考え、学校全体の管理運営上の必要性、予算上の制約等を総合的に勘案した上で、教員を東京工科大学等に出張させることにより、有益な情報が得られると判断したものであり、この判断が校長の裁量権の濫用に当たるものとは認められない。
 なお、請求人は、英語科の教員が佐賀県立博物館へ見学に行くことは職務との関連性が見られないとも主張しているが、同校校長は、当該教員が校内の事務分掌で進路指導部に属しており、進路指導用務の一環として、佐賀大学の視察と併せて、大学周辺の風土・歴史を知ることが適切であるとの判断から、同博物館への出張を命じたものであり、この判断についても、校長の裁量権を濫用したものとまでは認められない。
イ 請求人は、佐賀大学への出張に当たり、事前に校長名の文書による訪間依頼を怠っており、重大な蝦疵があると主張する。
 県外出張に関するガイドライン(平成10年3月2日付け愛知県教育委員会教育長通知)3−2(4)は、学校等への訪間に当たっては、原則として校長名の文書により訪間の受入を依頼する旨規定している。しかし、この規定は、「原則として」としているところからも明らかなように、出張の用務内容からして、訪間先へ事前に訪間依頼をしなければ出張の目的が十分に果たせない場合が多いことから設けられたものであり、すべての場合において、校長名の文書により訪間の受入を依頼するよう求めているものではない。
 西春高校校長は、佐賀大学への出張の主たる目的は大学施設の視察であり、大学職員から直接説明を受けなくとも出張の目的は達せられると判断したことにより、文書による訪間依頼を行わなかったものである。
 訪間依頼を行うことにより、大学施設を視察するとともに、併せて、大学職員から説明を受けることで、より高い成果を得られた可能性はあるが、出張した教員は、前記3(5)イで認定したとおり、大学施設の視察を行い、所期の出張目的は達せられていることから、文書による訪間依頼を行わなかったことをもって、直ちに重大な理疵があるとまでは認められない。

(5)結論
 以上述べたとおり、本件住民監査請求に係る請求人の主張は、いずれも理由がないと認められるので、本件住民監査請求を棄却する。


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