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多村栄輝の無責任情報局
いまや電子書籍古老となった多村栄輝が、電子書籍をとりまく話題やメッセージを手前勝手につづります(ほぼウィークリー更新。されど不定期)。
001207.木曜日
【最後の挨拶】
このたび、ポシブルブック倶楽部の主宰を退任することになりました。
今年に入ってから個人的な環境の変化などもあり、運営者としての活動が困難になっていました。ここまま続けることは却って参加していただいているみなさんへの迷惑となってしまうのはあきらかです。そこで、手前勝手ではありますが、活動から身を引くこととなった次第です。
足かけ三年、これといった努力もしない怠け者でしたが、それでも継続し、いくつかの成果を残すことができたのも、活動を支えてくださった運営スタッフのみなさんの努力と、電子出版に熱い想いを寄せ、メーリングリストに参加されてきたすべてのみなさんが支えてくださった賜です。
現在、ポシブル堂書店店長の田辺さんをはじめ、LUNA CATさん、皆森もなみさん、大山達人さんが中心になって運営活動にあたってくださっています。その他、刊行物のデザイン・制作を一手に引き受けてくださっている森しんじさんや、アドバイザーとして数名の方にもご協力いただいてきました。これまでも彼らがそうしてきたように、これからもポシブルブック倶楽部を牽引していってくだることと思います。
ながいあいだありがとうございました。
また機会がありましたら。
001206.水曜日
【T-Time
2.3 公開】
ドットブック用のプラグインもアップデートされました。さらに、Mac OS X PB に対応した Carbon版(Beta)も公開。Mac
OS X PB をつかっている方はぜひ試用して、ボイジャーにレポートを送ってください。
001205.火曜日
【ブレアウィッチ2・ニュースリリース】
シャープのサイトにニュースリリースがアップされました。やはり文庫ビューワ用のデータのようですね。
MobileNews
の記事によると(こちらのほうが詳しい)、3万部(!)のダウンロードを見込んでいるのだとか。シャープさん、強気です。
001204.月曜日
【本コ展公式ページオープン】
『本コ展』、今日からスタートです。ゲストブックを「御芳名帳」と呼んでいるのがなかなかオシャレですね。地方巡業してくれないかなぁ。
【『ブレアウィッチ2』のサブシナリオをザウルスで読む】
来年2月発売予定の『ブレアウィッチラスティン・バーの告白』という書籍の電子版だそうです。シャープスペースタウンで12月8日から発売されるのですが、ニュースによると「ウェブブラウザを搭載したザウルスでダウンロード可能」となっています。う〜ん、ザウルスでないと読めない何か特殊なフォーマットなのでしょうか。テキスト作品だろうから、ブンコビューワ対応データなのかな(それはエキスパンドブックと言うかも)。
【キングの余波】
キングのオンラインでの小説が中断されたことをネタに、さっそく電子ブック市場に知ったかぶったことをかましている人の記事。
もっともらしいことを書いているが「安くしろ」「タイトルを増やせ」「フォーマットを統一しろ」の三大お題目を並べただけ。正論だけ書いてもダメだって。そこだけしか見ていないのでは、世界は革命されないだろう。
今、本を読んでいる人は、おそらくほとんどは紙の本を読み続けるだろう。「俺は世界中のみんなが携帯電話を使うようになっても、絶対にケータイなんて持たない」と宣言していた友人もつい先日、iモードを手に入れてうれしはずかしがっていた。しかし、だからといって彼が紙の本よりも電子書籍を選ぶようになることを予言するわけにはいかない。彼らは残りの人生も紙の本を選択する人々だ。紙の本は彼らのために出し続ければそれでいい。
取り込むべき対象は、今、まだ紙の本に対する崇拝意識を刷り込まれていない若い世代だ。ゲームしかやったことのない連中に電子書籍を読ませろ。セックスのことで頭が一杯で、ケータイで無意味な会話を繰り返すことしかできない連中にオンスクリーンで何かを読ませろ。小学生に液晶画面に映ったひらがなを読ませろ。パソコン教育をやめてオンスクリーン読書をさせろ。ポケモンのゲームの中にブンガクを紛れ込ませろ。カードバトルの行間に新しい読書を潜り込ませろ。
大人は紙の本で育ってきたのだから、死ぬまで紙の本を読む。パソコンが苦手なおぢさんがリストラされない21世紀をつくってもいいじゃないか。ただし大人は未来を子供にあけわたす勇気を持つことだ。
【ナレッジプロセッサを名乗る新しい電子出版フォーマット】
「KacisWriter/KacisPublisher」に注目しています。発表当時、アイデアストームの後継ソフトと聞いて、だいたいの雰囲気が想像できたことと、なぜかマック版のみだろうと思い込んでいたため、ほったらかしにしていました。ところがこの
Kacis はWin/Mac両OSの対応バージョンがちゃんと用意されているのでした。あわてて KacisWriter Free を入手して試している次第です。
001201.金曜日
【じゃあ何か、オンスクリーン本には1ドルだって払えないっていうのか?】
ネット直販で話題になったS・キングの小説『ザ・プラント』が、第6部で掲載中止になるらしい。毎回1ドルで販売されていたこの小説は「代金支払い率がダウンロード数の75%を切ったら中止する」というスリリングな条件付けが提示されていたが、第5部でとうとう46%となり、打ち切りが決まった模様。
理由はなんでしょうか? これからさまざまな提言がなされるでしょうね。「もともと無料でも読めるように公開してあるんだから、代金支払いを期待するほうが甘いんだ」「キングがだめなんだから電子本なんてやっぱダメだ」「ネットで金をとろうなんていう考えがどうかしてる」「キングのファンは意外とロイヤリティが低かったのさ」…。
小説自体がつまらなかったのかもしれないが、それはここで云々できることではない。ぼくがキングに夢中になったのはもう10年以上前のことで、映画『スタンド・バイ・ミー』がヒットした頃にはすっかり読まなくなっていたっけ…。
いずれにせよ、キングのこの試みがアメリカの電子書籍の盛り上げの起爆剤となっていたことは間違いない。今回の掲載中止もまた、何らかの影響を及ぼすことになるだろう。
みなさん、したり顔で評論する前に読みましょう。払うべき対価は払いましょう。
【デジタル暴走族】
あんばいこう氏の『田んぼの隣りで本づくり』を読んだ。ここ数年間の身辺雑記をまとめたもので、あんばいさんのお人柄と地方出版の実態がよくわかる一冊だ。ほぼ最後の項で、昨年の「本の学校」こと「第五回大山緑陰シンポジウム」での顛末が綴られている。
その夜、ぼくはあんばいさんと同じ部屋にいた。ボイジャーの萩野さんを中心に盛り上がっていた若手たちのことを、彼はさりげなく「デジタル暴走族」と記している。あの場所で自ら電子出版を行い、気炎を吐き、あまつさえホテルのロビーで電子書籍の即売会を行っていた人間は二人しかいない。なるほど、デジタル暴走族とは俺と彼のことに違いない。
「大人」が若者を指して「暴走族」と呼ぶときは、決まって理解不能な相手に対するレッテルだと相場は決まっている。べつに腹は立たない。所詮そういう存在としか、受け止められていないのだなぁと思うだけ。あんばいさんとて悪気があってそう呼んだのではないだろう。ロビーで声高に「電子本だぜ。こういう本も読んでおいたほうがいいぜ」と叫んでいたわたしたちは、たしかにはた迷惑な暴走族まがいだった。
あと一ヶ月で2000年が終わる。今年は『ロスト・コンテンツ』一冊しか出せなかった。来年も家庭に埋没する日々が続くだろう。少なくとも半年はそうなる。後半には執筆と出版を再開したい。暴走族は暴走族らしく、無軌道にやっていきたい。