風のささやき

夢の中の砂の手触り

白い寺院の柱
赤く塗る職人の気怠さは
昼に寝られない物憂い悲しみ

狭い通りはターバンを巻いた
人で溢れているごった返しに
すれ違い様に蒸し返す熱気

露店商は蜘蛛の長い足のような
子供の玩具を見せびらかしている
白い糸で結ばれた足が開いた

それを買おうと思う
値切り交渉を楽しみ始めた
片手を隠して指先で始めた会話よ

僕は私になった女性の心で
居なくなったその人の面影を探す
焦りながら走る街角の

透明なガラスの引き戸の向こう
その人は砂の壁に凭れ掛かって
切れ切れに息を吐いている

さっきまでは自分の後ろに立っていた人の肩をゆすり
その人が何か話し出すことを
もう気にも止めずに砂の壁を掘り出している

腕の通る太さのトンネルを通そうと
けれど嘲笑うように崩れ落ちる
砂に塗れる繰り返す徒労

いつの間にか笑っていたあなたも砂になって
蟹の巣の様な穴を体中に開けた
あなたも砂の壁になる強い陽ざしに

私は砂を握り締める
鳴きながら手のひらに握りこまれ
丸めこまれていく砂はしっとりと濡れている

私の手の汗も握りこまれた
初めての感触が
私の脳髄に歓喜せよと伝える何かがある

私が握りこんだ砂を放すともう
渇ききった砂漠の砂がそこにはある
遠くをラクダが歩いていく砂丘

何処へと向かって運ぶ荷の重さ
乾いたばかりの砂は
また私の汗を吸いとろうと

私はそれを止められずに
また砂を握りこんだ
鳴きながら鳴きながら丸めこまれる砂の命よ

分かっているのに私が渇いて行くことも
その予感に満たされているのに
干からびて行くことへの恍惚を感じながら

私の体にも乾いた穴があく
それを埋める雨乞いも知らず
砂のー粒に帰るために鳴き砂を握る