風のささやき

とある日に

ほの暗いバーの片隅で
友人が一人の友達のことを語り出した
少し寂しそうな怒りを含んで
あいつは変わってしまったと

随分と会社の色に染まったらしい
人に辛くあたることにも慣れたらしい
自分がいないと駄目なのだと
威張り散らしてもいるらしい
話がもう通じないと嘆く

僕の知らない彼の
昔を知っているから残念に思うのだろう
大切な思い出も裏切られた気もして
きっと友人の嫌いな人になっている彼のこと
友人はまだ好きなことが良くわかる

僕は何も言わずにその言葉に耳を傾ける
変わらない物は何もない
何時の間にかグラスの中の
丸い氷も解けてしまった
普段は飲まない苦いスコッチを
二人の沈黙に飲み干して
口に広がったほろ苦さを
一人一人でぐっと噛みしめる
人はいつからこんな我慢を覚えるのだろう

いつも同じ自分ではいられない
明日の自分には自信が持てない時がある
僕も昔の僕から見たら
嘆かれるのかも知れない
変わり過ぎてしまったよと

どこに子供の素直さを
忘れてきたのだろう
いつから自分に都合の良いことばかりを
現実と名付けるようになったのだろう
意地になっていることさえ分からなくなって
自分からつまらなくなっている

グラス重ねる毎に
激しくなる友人の嘆き
そんな愚痴をこぼす時もあっても良い
自分が愚痴をこぼす時もある

僕はこれからどんな僕になれるのだろう
何を望みどんな思いに心満たすのだろう
少なくともこの友人から
嘆かれるような自分には
なりたくはないとは思っているけど